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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    主へしリク③何らかの罪の共犯者になる話読みたいです!文字通りの罪でも、罪深い深夜飯とかでも!

    「共犯」が好きすぎて両方入れました。
    健全共犯だけ読みたい方は途中まで!(区切ってます)

    共犯主へし 審神者の、「どうしよう長谷部」には昔から弱かった。弱り切った様子でそう言われればなんでもしてあげたいという気持ちになったし、実際、なんでもしてきた。初期刀などは「甘やかしすぎだ」と眉を顰めて咎めてきたが、それは大体審神者の「どうしよう」を解決した後だったので、「次から気を付ける」という心にもない言葉で都度誤魔化した。

     審神者がまだ小学校に通うくらいの年の頃、朝食に嫌いな食べ物が入っていてどうしても食べられない時の「どうしよう」は周りの目を盗んで長谷部が自分の皿と取りかえてなんとかした。止められたのに怖い映画を見てしまって眠れなくなった時の「どうしよう」は審神者の布団に潜り込み、眠るまでずっとそばにいてなんとかした。学校の宿題が終わらない時の「どうしよう」は宿題そのものを燃やすか教員をどうにかするかで悩んだが、提案したところ「そこまでしなくていい」と青い顔で言われたのでなんともならなかった。何とかできなかったのが、悔しかった。審神者がうっかり初期刀が大事にしていた皿を割ってしまったと泣きべそをかいた時の「どうしよう」にも悩んだ。皿を隠してしまっても審神者は忘れないだろうし初期刀もいずれ気付くだろう。自分がやったことにする、と言ったところで、審神者はやはりそこまでしなくていい、と言うかもしれない。悩んだ末に、ほんの小さなヒビが入った程度の皿を、もう一度床に落とし、真っ二つに割った。「俺がうっかり落として割った」初期刀にそう告げたものの、後ろで震えている審神者と、憮然とした表情の長谷部を何度か見比べた初期刀は、深い深い溜息を零すのみだった。結局、審神者がことの流れをつっかえつっかえ全て説明してしまったので、やはり何とかしたとは、言い難かった。
     そんな風にして初期刀に何度か釘を刺され、やりすぎれば審神者が青ざめるのが分かったので、なんでもする、にも限度があることを、長谷部は学んだ。一方で、審神者のために無理を押して何とかすることへの高揚感もあった。

     何度か試行錯誤を繰り返し、審神者が中学生になった頃だった。
     ある夜、自分の部屋を抜け出して台所へ向かう審神者を追いかけたところ、食べ物を探して冷蔵庫や棚を探す背中を見つけた。

    「……主?」
    「うわわ」
     棚の上を覗こうと控えめに背伸びしていた審神者は飛び上がって驚いたものの、声の主を知ると安堵したようだった。同時に、ぐぅと腹が鳴り、みるみるうちに顔が赤くなったが。
    「お腹すいちゃって……棚の上にさ、カップ麺とかなかったっけ」
    「……ありますが、多分御手杵あたりの非常食だと思いますよ」
    「うーん、じゃあ、後で御手杵に謝るってことで、それ取って?」
    「はい、どうぞ」
     迷いなく言う通りに目的のものを手に取り、審神者に渡した長谷部に、頼んだ本人は苦笑いしながらも「まだここにいてね」と言い残して、カップ麺を片手に湯を沸かし、割り箸を二膳、取り出して調理台に置いた。長谷部が佇んでいる間に湯が沸き、カップ麺に注いで3分、食欲をそそる匂いが漂った。
    「はい、どうぞ」
     今度は審神者がそう言って、割り箸を長谷部に差し出す。
    「?」
     反射的に受け取ったものの、首を傾げる長谷部を前に、審神者はふうふうと湯気の立つカップ麺を冷ましながら、そうっと一口、麺を啜り上げた。そうしてから、長谷部を見上げてにやりと悪戯っぽい笑みを浮かべる。
    「全部は多いし、半分こ。それで共犯だからな」
    「共犯……」
     審神者と同じように、そっと麺を掬い取って、啜る。別段腹は減っていなかったが、程よい塩気と暖かい面は胃に染み入るようだった。
    「明日、一緒に御手杵に謝ろうな」
    「そう、ですね。共犯ですからね」
     共犯。
     どうしてか、その響きは甘く、それもまたじんわりと、長谷部の内部に染み入るようだった。翌日御手杵に謝るのは二人してすっかり忘れていた。









    (健全共犯ならここまで)





    ***



     さて、そんな思い出も、最早数年前のことだった。

     審神者は更に成長し、学校を卒業し、審神者業に専念するようになり、成人を迎え……「どうしよう」と長谷部や、他の刀を頼ることは少なくなった。初期刀などは「良いことだ」と目を細めたが、長谷部は成長を喜ばしいと思うと同時に、なんだか寂しいような、、物足りないような気持ちだった。

     だから―――

     「ぁ、あ、あぁ……っ」

     がちがちと歯が噛み合う音の隙間から、か細い震え声が漏れている。何度もせわしなく瞬きを繰り返しながら、視線は床に転がった男と、審神者自身が手にしていた重厚感のある壺と、それからただごとではない音を耳にして部屋に飛び込んできた長谷部を順繰りに見やった。泣きそうな声が、「どうしよう、長谷部」と呻く。床に転がった男の額と壺の側面には、べっとりと血がこびりついていた。もっと早く踏み込んでいれば、と長谷部は悔やんだ。審神者と政府間の重要な話だから、と、シッシッと犬を追い払うように長谷部を部屋から追い出したのは、視察にきたという政府の人間だ。傲慢な態度で、体中から煙草と汗の混ざった匂いがしてひどく不快だったが、審神者が目配せしたので逆らえず、ただなんとなく胸騒ぎがして部屋の前に控えていた。戸を一枚隔てていたので話し声は聞こえなかったが、数分もしない内に「いい加減にしてくれ!」という悲鳴混じりの声が漏れ聞こえ、すぐさま戸を開けたものの、それはガツン、という鈍い音と同時だった。
     結果として、長谷部の目の前にはぴくりとも動かない男の体と、立ち尽くす審神者、それから血塗れの壺、という、想像するに容易い経緯を経た結果の光景があった。
    「だ、だ、って」
     審神者の手と、血塗れの壺はくっついたように離れない。
    「ひどいんだよ、俺のこと、本丸育ちだから、常識がないとか、学校を卒業したのも、情けじゃないかとか、いつもみたいに、色々言ってきて」
    「主……」
     政府の人間にも、種類は色々だった。公平性を保つためだとかで数年ごとに入れ変わりはしたが、親元を離れ物心つかない頃から審神者となった少年に同情し、必要以上に優しく接する人間、壊れ物を扱うように当たり障りない会話しか交わさない人間、懐柔し自身の出世に利用しようとする人間、それから、
    「じ、自分の方が、うまく本丸を運営できるのに、って、刀剣男士が、可哀想だって」
     血縁者に審神者がいるものの、自身は審神者になるほどの霊力はなく、けれど境遇ゆえに知識だけは豊富で、だからこそ関わりながら、嫉妬の念を隠しもしない人間。氷菓子についているあたりくじくらいの確率で、そういったタイプの、長谷部から見れば審神者にとって害でしかない人間がこの本丸の担当になって、今回は既に数年が過ぎていた。
    「それで、また、歌仙の悪口言うんだよ……よその雅で気品のある歌仙と比べたら、全然違うのがよくわかるって、俺の、俺の歌仙に、」
     過去にいた失礼極まりない部類の人間でも、今や塵のように転がっている男よりマシだった。頻度はそれほど高くないものの、定期的に訪れる男は、その度に同じような言葉を審神者に浴びせていて、『また歌仙の悪口言われた』と憤る審神者から零れる愚痴を聞く度に、長谷部は男への苛立ちと共に、羨ましさを感じたものだった。それも、どうやら今日以降聞くことはなさそうだが。
     まだぶつぶつとぼやく審神者の前に転がっている男を見て、長谷部は少し考えて、抜きかけた刀を再び鞘に納めた。
    「主、少々、良いですか」
    「え、なに……え?」
     壺を掴んだままの手を包み込むように、長谷部も手を重ねる。しゃがむと、引っ張られるままによろよろと審神者も膝をついて、目の前にある血塗れの頭に「ひっ」と息を呑んだ。審神者の手ごと壺を掴み、こつ、こつ、と男の頭に宛てる。なるほど、華奢な腕とは言え、この重さと硬さで殴ったのなら、ひとたまりもなかっただろうなと思う。思いながら、長谷部は審神者の手と一緒に壺を振り上げた。
    「えっ」
     再び、呆けたような審神者の声がして、それから、ヒュッと風を切る音、長谷部には耳馴染みのある、グシャッという骨の砕ける音がした。血は存外飛び散って、長谷部と審神者の服を濡らした。



     自室に設置してある電話が鳴り、私物の手入れにいそしんでいた歌仙は手を止め、2コール程で受話器を取った。音からして内線だと分かっていたので前置きは省略し、「歌仙だが」と名乗る。
    「長谷部だ、ちょっと聞きたいんだが」
     電話の向こうの声も開口一番そう言うので、ちらりと時計を見上げる。
    「いいけど、急ぎかい?」
    「多分な」
    「多分?」
     長谷部にしては歯切れが悪いな、と思いながらも沈黙で先を促す。
    「聞きたいというか、これは確認だが。うちの担当がいるだろう。もう今年で四年くらいの、白髪交じりの男だ」
    「ああ、いたね」
     品のない、がさつな、と言いかけて、やめる。初期刀である歌仙は近侍を務めることも多く、本丸を訪れる来客の対応をすることも多い。件の男の対応も多くしていたが、顔を合わせる度にじろじろと不躾な視線を向けられるので正直なところ、うんざりしていた。審神者との面談に立ち会ったことはないものの、漏れ聞こえてくる会話を聞くに、若いからと審神者を必要以上に下に見ているような態度も気に食わなかった。ここ最近は同じく近侍を多くつとめる長谷部の方が対応することが多かったので少しほっとしていたところでもある。
    「彼が、どうか?」
    「あれを、殺したら確か刀剣男士は処分されるんだったな」
    「っ、は? 待て、いくら腹が立っても早まってはいけない」
    「例えばの話だ」
     長谷部の声は淡々と続けて、普段と変わりないからこそ冗談ごとには聞こえなかった。歌仙は溜息で相槌を打つ。
    「貴殿ならやりかねないから言っている。……そうだな、決まりでは、そうだ。任務以外で、歴史を守るという目的以外で人間を殺めてはいけない。殺めた場合は、政府が没収の上人為的な刀剣破壊という処分になるはずだ」
    「そうだな。では、主が殺したらどうなる?」
    「主が? ありえない。あの子は、少し気が弱くてずるいところはあるけれど、優しい子だ。僕としてはもう少ししっかりしてほしいけれど……人を殺めるような子じゃない」
    「例えばの話だ」
    「……人の法で、裁かれるんじゃないか。殺人は重罪だ。少なくとも、本丸は解体されるだろう。……本当に例えばの話なんだろうね」
    「もちろん。……大体俺の認識と相違ないな。では、俺と主が、ふたりで殺した場合はどうなる?」
    「……それは、もちろん、……あれ?」
    「前例がない、そうだな?」
    「……ふたりで、一人を殺した場合でも、罪の重さは変わらない……人の法では。けれど、片方が刀剣男士だった場合は……多分、状況次第、になると思う。政府は、審神者と刀剣男士の情には、どうしてか甘い傾向があるから……」
    「っはは!」
     何度も読んだ決まり事、政府の規律を懸命に思い出していたのに、耳元の声が急に笑い出すので思わず受話器を取り落としそうになる。
    「思った通りだが、お前に聞いて確信が持てた。礼を言う」
    「はあ……今の、本当に例え話なんだろうね」
    「見ればわかる。執務室に来てくれ。――主!何とかなりそうですよ」
     嬉しそうな長谷部の声の後ろで、「ほんとに……?」と掠れた声がする。胸騒ぎがした。
    「何かあったのか」
    「言っただろう。見ればわかる。あ、あと、執務室に飾っていた、赤い花が描いてある壺のことだが」
    「! ああ、殺風景だから僕が置いた、とっておきのひとつのことかな。一つくらい、主の傍にもああいうものがあっても、」
    「すまない。割った」
    「はあ!?!?」
    「厳密にいうと、俺と主が割った。共犯だな」
    「っ、それを早く言いたまえ!」
     壺の柄、店先に置かれていたそれと出会った時の衝撃、値札を見た時の更なる衝撃を思い出して眩暈を覚える。反射的に声を荒げたものの、既に通話は切れた後だった。
    「……はあ……例えば話って、そういう……」
     やけに前置きが長いと思ったが、壺の価値については審神者も長谷部も知らないわけではない。故意にやったわけではないだろうが、価値を知っているからこそだろう。やれやれと受話器を置き、説教は後片付けの後かな、と考えながら、歌仙は執務室へ向かったのだった。


    おしまい












     何とかなりそうですよ、と長谷部は笑った。
     顎のあたりに血がついていたけど、その笑顔を見て、俺は少し、ほっとした。大丈夫ですよ。何とかしますよ。俺におまかせくださいね……長谷部のそんな言葉に、俺は今まで何度も助けられてきた。初期刀で親代わりの歌仙とはまた別の意味で、長谷部は俺にとって大切で、なくてはならない存在だ。それなのに、あの人が、あんなことを言うから。

    『へし切長谷部、ねえ』
     今までも、今日も、歌仙にいやに執着する人だと思っていたけれど、今日は初めて長谷部の名前を口にした。
    『事務仕事が得意だとか?』
     そんな話聞いたことないけど。近侍を頼むと補佐がうまいタイプが多いからそう思われているのかな。演練でも長谷部を近侍にしている審神者はよく見かけるし。嫌味に相槌を打つのも飽きてしまって、ぼんやりそんなことを考えながら机に飾っている壺の模様を数えていた。
    『私のところにも貸して欲しいものだよ。役人というのはとにかく面倒な書類というのが多くて。ああ、レアな刀というわけでもないんだし、一振り貰うというのもありだな』
     ちら、と視線が襖にうつる長谷部の影に向いた。貸すってなんだ? もらうってなんだ? それって、下げ渡すってことなんじゃないのか。長谷部のことを知っていたら、そんな言葉が出るはずがないんじゃないか。いや、知っていて、わざと言っているのかもしれない。いつものネチネチした嫌味の一環かもしれない。だとしても、冗談でも、俺の長谷部を、こんな人間の手に そう思ったら、カッと頭に血が上って……気付いたら、なんか、こうなってた。何やってんだろ。欲しいって言われたところで、あげません、って言えば済むことなのに。いくら政府のちょっと偉いおじさんでも、そんな権利ないんだから。落ち着いて考えればすぐわかったはずなのに、俺ってどうしてこうなんだろう。長谷部は何とかなりそう、って言ってくれたけど、本当に大丈夫かな……。
     内線での話が終わったらしい長谷部は、転がっているおじさんの体を跨いでこっちへ戻ってきた。俺の前に跪いて、手を握ってくれる。白い手袋なので赤い染みが目立つなあ、と今更ながら思った。
    「大丈夫ですよ、主」
     長谷部は俺の不安を見越したように、また笑ってくれた。
    「俺が何とかしますからね」
     ああ、俺はこの笑顔に、昔から弱かった。



    おわり

    人物紹介
    ▼審神者
    本丸育ち。心身ともに若い。
    ▼歌仙
    初期刀。審神者の親代わり。
    ▼長谷部
    審神者のことがすき。
    ▼政府の人
    死んだ。最初に殴った時にはまだ生きてた。
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

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    PASTさにちょも

    審神者の疲労具合を察知して膝枕してくれるちょもさん
    飄々としてい人を食ったような言動をする。この本丸の審神者は言ってしまえば善人とは言えない性格だった。
    「小鳥、少しいいか」
    「なに」
     端末から目を離さず返事をする審神者に仕方が無いと肩をすくめ、山鳥毛は強硬手段に出ることにした。
    「うお!?」
     抱き寄せ、畳の上に投げ出した太股の上に審神者の頭をのせる。ポカリと口を開けて間抜け面をさらす様に珍しさを感じ、少しの優越感に浸る。
    「顔色が悪い。少し休んだ方がいいと思うぞ」
    「……今まで誰にも気づかれなかったんだが」
     そうだろうなと知らずうちにため息が出た。
     山鳥毛がこの本丸にやってくるまで近侍は持ち回りでこなし、新入りが来れば教育期間として一定期間近侍を務める。だからこそほとんどのものが端末の取り扱いなどに不自由はしていないのだが、そのかわりに審神者の体調の変化に気づけるものは少ない。
    「長く見ていれば小鳥の疲労具合なども見抜けるようにはなるさ」 
     サングラスを外しささやくと、観念したように長く息を吐き出した審神者がぐりぐりと後頭部を太股に押しつける。こそばゆい思いをしながらも動かずに観察すると、審神者の眉間に皺が寄っている。
    「や 1357

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    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

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    厨に行くと珍しい姿があった。
    主が桃を剥いていたのだ。力加減を間違えれば潰れてしまう柔い果実を包むように持って包丁で少しだけ歯を立て慣れた手付きで剥いている。
    あっという間に白くなった桃が切り分けられていく。
    「ほれ口開けろ」
    「あ、ああ頂こう」
    意外な手際の良さに見惚れていると、桃のひとつを差し出される。促されるまま口元に持ってこられた果肉を頬張ると軽く咀嚼しただけでじゅわりと果汁が溢れ出す。
    「んっ!」
    「美味いか」
    溺れそうなほどの果汁を飲み込んでからうなづいて残りの果肉を味わう。甘く香りの濃いそれはとても美味だった。
    「ならよかった。ほら」
    「ん、」
    主も桃を頬張りながらまたひとつ差し出され、そのまま口に迎え入れる。美味い。
    「これが最後だな」
    「もうないのか」
    「一個しか買わなかったからな」
    そう言う主に今更になって本丸の若鳥たちに申し訳なくなってきた。
    「まあ共犯だ」
    「君はまたそう言うものの言い方を……」
    「でもまあ、らしくないこともしてみるもんだな」
    片端だけ口を吊り上げて笑う主に嫌な予感がする。
    「雛鳥に餌やってるみたいで楽しかったぜ」
    「…………わすれてくれ」
    差し 588

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    小腹が空いて厨に行ったらひとり夏蜜柑を剥いていた大倶利伽羅に出くわす話
    夏蜜柑を齧る

     まだ日が傾いて西日にもならない頃、午後の休憩にと厨に行ったら大倶利伽羅がいた。
     手のひらに美味しそうな黄色を乗せて包丁を握っている。
    「お、美味そうだな」
    「買った」
     そういえば先程唐突に万屋へ行ってくると言い出して出かけて行ったのだったか。
     スラックスにシャツ、腰布だけの格好で手袋を外している。学ランによく似た上着は作業台の側の椅子に引っ掛けられていた。
     内番着の時はそもそもしていないから物珍しいというわけでもないのだが、褐色の肌に溌剌とした柑橘の黄色が、なんだか夏の到来を知らせているような気がした。
     大倶利伽羅は皮に切り込みを入れて厚みのある外皮をばりばりとはいでいく。真っ白なワタのような塊になったそれを一房むしって薄皮を剥き始めた。
     黙々と作業するのを横目で見ながら麦茶を注いだグラスからひと口飲む。冷たい液体が喉から腹へ落ちていく感覚に、小腹が空いたなと考える。
     その間も手に汁が滴っているのに嫌な顔ひとつせずばりばりと剥いていく。何かつまめるものでも探せばいいのになんとなく眺めてしまう。
     涼やかな硝子の器につやりとした剥き身がひとつふたつと増えて 1669