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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    なんとなくカンストと就任ネタだけどあんまり関係ないかも。審神者が飲み会に行った時の話。
    直接的な表現はないけど主へし前提。

    黒歴史笑うないつか来た道「――ですよね、そう思いませんか、先輩!」
    「んぁ、何、なんて?」

     いい塩梅に酒が入り、部屋の暖かさもあってうとうとしていた俺は肩を強めに揺すぶられ、強制的に覚醒させられた。馴れ馴れしく俺の肩を掴んでいる青年は首まで赤く、呂律は若干あやしいものの目は据わっている。何この酔っ払い。誰か面倒見てやれよ。あたりを見回すものの、俺とその青年の周辺にだけ見えない壁がある感じにやや遠巻きにされている。いつからこうなっていたんだろう。そもそも誰だこいつ。同じテーブルについているといことは近いエリア管轄の審神者だろうけど。俺を先輩、と呼ぶが、見た目はそう変わらなそうな年に見える。

    「だから、経験値とレベルの話ですって。あんなもんは、飾りっつうか、ただの数字に過ぎないんですよ。だってそうでしょう、ね、ね」

     うわー、めんどくさそう。
     だから飲み会って嫌なんだよなあ、と俺は近くにあるピッチャーを引き寄せてそいつのグラスコップに注ぎながらこっそりと溜息をついた。

     ここ数年、年に一度くらいの頻度で開かれるようになった審神者交流会だった。戦況が見えない中、審神者同士も連携が必要だとか、なんとか。はい馬鹿。飲み会で交流をはかれるなんて考え方は平成か令和序盤あたりで捨てておけっての。心の中では発案者を呪ったものの、年に一回ぽっちのタダ飯タダ酒なら、まあ、いいか、などとのんきに考えたのが運の尽きだった。酒が入って無礼講になるのはどの時代のやつも同じで。飲み会開始から数時間も経てばそのへんで潰れてるやつ、饒舌になって意識高めの演説を始めるやつ、護衛に連れてきたはずの刀といちゃつき始めるやつ等々で混沌としていた。座席表が意味をなさなくなったあたりで姿を消したやつも数人おり、俺ももう少し判断が早ければ、と悔やむもののもう遅い。

    「あんなんは、ね、審神者に都合よく、視覚化された数値に過ぎなくて、実際のところ、そりゃあ、出陣を重ねれば刀は強くなりますけど、じゃあレベルがカンストしたらそれ以上強くならないのか、ってえ話じゃないすか、ね、聞いてます?」
    「聞いてる聞いてる」

     すっかり冷めた唐揚げを小分けにしながら俺は頷いた。

    「刀はぁ、昨日より今日、今日より明日の方が強いでしょ、僕らだって、失敗から学んで、成功を活かして日々審神者をやってるわけじゃないですか、な、そうだよな長谷部」
    「はい、主のおっしゃる通りです!」

     青年の脇に控えているへし切長谷部もにこやかに頷く。審神者が本丸の外に出るとあれば当然護衛が必要だ。会議なんかの場合は部屋の外に控えてもらうことがほとんどなんだが、酒の席だと審神者同士のトラブルも多いので一振りに限り伴うことになったのだった。かわいそうに、向かいの席では蜻蛉切と日本号に挟まれる形になった審神者が圧縮されている。ますます、交流とは、って感じではあるよな。
     長谷部に元気よく肯定された青年は機嫌よく俺に向き直り、「長谷部もこう言っています!」と拳を握った。へし切長谷部による審神者の肯定は他者に対して何の説得力もないと分かっていないあたり、若いし酔っ払いだな、と思う。
     冷めた唐揚げの細切れを口に運ぶ。味が濃くて、冷めてても旨い。もう一つ摘まんで振り向いた。

    「食べる? あーん」
    「! あ、ありがとうございます……」

     後ろに控えている俺の長谷部の口元に唐揚げを運んでやると、青年は歯を剥いた。

    「イチャイチャしてるッッッ!!!!! 何甘やかしてんですかッッッ!!!!!!!!!」
    「うるさ……」

     そういうお前は長谷部に甘やかされているのが丸わかりなのに。
    「それで何だっけ? 経験値の話?」

     空になったグラスに再び水を注ぎ、促すと、青年は再び拳を握った。

    「そう!だから、経験値とか、レベルとか、数字の話なんて意味がないって話なんですよ」
    「へえ」
    「やれ何周年だの、レベルだの、カンストだのでいちいち祝う界隈に、俺はついていける気がしないんですよ。戦争中ですよ? 祝ってる場合かってんですよ。しかも、政府が勝手に決めた数字を、ね」
    「へえ」

     相槌を打ちながら、段々俺は口元がにやけていくのを感じる。

    「君、審神者いま何年目くらい?」
    「は? 一年……ちょっとかな? だよな長谷部」
    「はい、一年二か月と三週間です」
    「そう」

     若いなあ~~~ たまらんな~~~! 審神者業務ってやつに慣れてきて、周りを見る余裕が少し生まれて、政府のやり方ってやつに疑問が出てくる頃合いだ。こんなやり方はどうなんだ、情報伝達が遅いんじゃないか、俺達は本当に正しいことをしているのか、等々。そういう時代が、俺にもあった。多分。

    「とにかく、僕はそんな、記念だとかカンストだとかをいちいち祝うような、」
    「え、カンストうれしくない?」
    「うれしくないでしょ、別に。ただの、システム上の数字ですよ」
    「だとしても、節目というか、達成感あると思うけどなあ」
    「ないない。ありません」
    「カンストしたことあるんだ? 何振りくらい?」
    「……しては、ないですけど」

     青年の勢いは段々弱まっていた。水を飲ませ続けた甲斐があるというものだ。

    「別に、そんなことどうでもいいでしょう。な、長谷部」
    「はい、かんすと?していようがいまいが主はご立派なお方です」
    「ほらね!」

     二人してドヤ顔をするな。もっと水飲ませないとだめだこいつ。俺は追加でピッチャーを頼むと、懐から財布を取りだした。会費置いてさっさと帰ろ。

    「……まあ、今はそう言ってるけどね、なんだかんだ、カンストとか就任記念日とか、重ねていくと感慨深いもんだよ。っていうか、感慨深く感じるタイプだよ、君」
    「はあ~?」

     思いっきり怪訝な顔をされたけど、俺には分かる。そんな風に長谷部に何度も話しかけて甘やかされてるタイプは絶対にそうなる。俺みたいに。

    「……あれ、そういえば、先輩は何年目なんですか? 審神者。というかどこのエリアの方ですか?」
    「知らずに話しかけてたんだ……?」

     てっきり俺が忘れてるだけで知り合いかと思ったのに。おもしれー男すぎるなこいつ……酒が抜けた時に改めて話してみたいものだ。

    「俺は相模エリアで……えっと、何年だっけな、六十年?くらいやってるよ」
    「は……?」

     ぽかんとした顔に、そうだよなあ、と思う。交流会みたいなものに参加したところで、審神者システム開始初期から審神者をやっている古参の人間なんて、ジェネレーションギャップを感じるどころの話じゃない。俺に話しかけてきた時点でおかしいと思うべきだった。

    「主、主」

     立ち上がると、同じく後ろに立った長谷部が遠慮がちに俺の耳元でごにょごにょと囁いた。

    「……え、そうだっけ」
    「はい……一昨年、節目だということで盛大に本丸で宴をやったじゃないですか」
    「忘れてたわ……時が経つのは早いなあ」

     俺は青年に向き直り、訂正する。

    「ごめん、サバ読んだわ。審神者歴七十二年だった」
    「ななじゅ……?」
    「十年も二十年も、カンストもあっという間だよ~。祝えるうちに祝っておきなさいって」

     などと、先輩風を吹かせてみたものの、時既に遅しという感じがする。幽霊を見るような目で見ないで欲しい。新鮮な気持ちにはなるけど。俺も来年からは、同期と同じように金だけ置いてさっさと帰ることにしようかな。少し軽くなった財布を懐に戻し、俺は宴席を後にした。

    「……本丸で飲みなおそうかな。な、長谷部」

     振り向けば、長谷部は甘やかに笑い、「お付き合いしましょう」と俺の望む答えをくれるのだった。
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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    我ながら冷めきった声だった。
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    「小竜の代わりにしてたんだ」
    「そんなのより俺を呼びなよ」
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    不覚にも悪い気はしないけどやっぱり自分がそばにいたい。そのくらいにはこの主のことをいいなと感じているというのに本人はまだにこにことうさぎを構ってる。
    今は遠征から帰ってきて実物が目の前にいるってのに。ましてやうさぎに頬ずりを始めた。面白くない。
    「ねぇそれ浮気だよ」
    「へ、んっ、ンンッ?!」
    顎を掴んで口を塞いだ。主の手からうさぎが落ちたのを横目で見ながらちゅっと音をさせてはなれるとキスに固まってた主がハッとしてキラキラした目で見上げてくる。……ちょっとうさぎが気に入らないからって焦りすぎた。厄介な雰囲気かも。
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    「そうだっけ?」
    「そうだよ! うわーびっくりした! 619

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    PAST主くり
    鍛刀下手な審神者が戦力増強のために二振り目の大倶利伽羅を顕現してからはじまる主をめぐる極と特の大倶利伽羅サンド
    大倶利伽羅さんどいっち?!


     どうもこんにちは!しがないいっぱしの審神者です!といっても霊力はよく言って中の下くらいで諸先輩方に追いつけるようにひたすら地道に頑張る毎日だ。こんな頼りがいのない自分だが自慢できることがひとつだけある。
     それは大倶利伽羅が恋びとだと言うこと!めっちゃ可愛い!
     最初はなれ合うつもりはないとか命令には及ばないとか言ってて何だこいつとっつきにくい!と思っていったのにいつしか目で追うようになっていた。
     観察していれば目つきは鋭い割に本丸内では穏やかな顔つきだし、内番とかは文句を言いながらもしっかり終わらせる。なにより伊達組と呼ばれる顔見知りの刀たちに構われまくっていることから根がとてもいい奴だってことはすぐわかった。第一印象が悪いだけで大分損しているんじゃないかな。
     好きだなって自覚してからはひたすら押した。押しまくって避けられるなんて失敗をしながらなんとか晴れて恋仲になれた。
    それからずいぶんたつけど日に日に可愛いという感情があふれてとまらない。
     そんな日々のなかで大倶利伽羅は修行に出てさらに強く格好良くなって帰ってきた。何より審神者であるオレに信 4684

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    支部のシリーズに出てくるふたりのその後
    煙草じゃなくて


     昼食も終わり、午後の仕事を始める前の煙草休憩。再び癖となってしまったことに蜂須賀は顔を顰めたが、すまないとだけ言っている。
     まあ、目的は単に紫煙を揺らすだけではないのだが。
    「またここに居たのか」
    「タバコ休憩な」
     玉砂利を踏み締める音を立ててやってきたのは大倶利伽羅だ。指に挟んだ物をみせるとあからさまに機嫌が悪くなる。それがちょっと可愛く思えてどうにもやめられずにいる。
     隣に並んだ大倶利伽羅をみて刀剣男士に副流煙とか影響するのだろうかと頭の片隅で考えながらも携帯灰皿に捨ててしまう。そうするまでじっとこちらを見ているのだ。
     しっかりと見届けてふん、と鼻を鳴らすのが可愛く見える。さて今日はなにを話そうか、ぼんやりしているとがっしりと後頭部を掴まれる。覚えのある動作にひくりと頬が引きつった。
    「ちょっ、と待った」
    「なんだ」
     気づけば近距離で対面している大倶利伽羅に手のひらを翳して動きを止める。指の隙間から金色とかち合う。普段は滅多に視線を合わせやしないのに、こういうときだけまっすぐこちらを見てくる。
    「お前なにするつもりだ」
    「……嫌なのか」
     途端に子犬 910

    いなばリチウム

    DONE情けない攻めはかわいいね お題ガチャより
    https://odaibako.net/gacha/1462?share=tw
    >長谷部に告白している最中、好きすぎて感情が溢れて泣き出す審神者
    情けない攻めの審神者×長谷部シリーズ① 長谷部のことが、ずっと好きだった。顕現した瞬間に綺麗で頼りになりそうな人が来てくれて良かった、好き、って思ったし、出陣すれば、時には無茶することもあったけどいつだって部隊長として他のみんなを引っ張ってくれたし、戦う姿は凛々しくてかっこよくて好き、って思ったし、近侍になって細かな事務作業やサポートを丁寧にしてくれる上にいつも俺のことを気遣ってくれて優しい、好き、って思ったし、とにかく好きじゃない瞬間がなかった。最初は、単純に臣下への好意だと思っていたけれど、そうじゃないよこしまな気持ちが溢れてくるのを止められなくて、枕や下着を濡らすことも一度や二度じゃなくて、そんな自分が嫌で嫌で仕方なかった。俺は主で、長谷部は臣下なのに、いわば上司が部下によこしまな気持ちを抱いているなんて、それも抑えられている内はいいけれど、いつか勢い余って長谷部を押し倒してしまいそうでこわかった。こわいのは、そんな自分もだけど、超絶仕事が出来て優秀で気遣いの天才の長谷部のことだから、主の俺に対しても気遣って拒絶しないかもしれないことだ。そんなの、長谷部が可哀想だし、俺は世界一最低の主だ。だから、せめて勢い余らない内に長谷部に心の内を明かして、落ち着いて話が出来るうちに長谷部を遠ざけるしかないと思ったのだ。理由を言わずにそうすることも出来たけど、長いこと近侍を務めている彼を急に遠ざけたりすれば彼自身が自分の中に非を探して気落ちしてしまうと思った。長谷部は全然悪くないのだから、理由を言わないのはあまりにも自分勝手だ。嫌われてもいい。気持ち悪がられてもいい。俺の耳に入らない範囲なら、「上司に性的な目で見られてるらしくてまじさいあくきもい」みたいな陰口叩いててもいい。一方的な好意の吐露って時点で絶対きもいよなとは思うけど、俺が過ちを犯す前に手を打つしかない。
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    いなばリチウム

    DONE肥南と主へしとむつんば要素を含みます(混ぜすぎ)
    タイトル通りひぜなんにちょっかい出すというか巻き込まれた主へしとむつんばの話。
    肥南にちょっかい出す主へしの話「肥前くん、主が呼んでいたよ」
     振り返る。肥前はいつだって南海の顔を真っ直ぐに見るのに、ここのところ、そうするとほんの少しだが目を逸らされることが増えた気がした。なんだよ、と思う。思うだけだ。
    「おれを? なんだって?」
    「さあ。部屋に来て欲しいと言っていたから、直接聞いてみてはどうかな」
    「……分かったよ」
     つまみ食いに忍び込んだ厨を追い出され、時間を持て余していたところだった。ちょうどいいか、とそのまま審神者の部屋へ向かう。肥前がこの本丸に来たのは特命調査の折であった。その時点でも刀の数は多かったが、今や百に届く程の刀剣男士が生活している本丸だ。近侍を務める刀は数振りで、ひとりひとりと話す時間が取れないことを憂いた審神者はこうして時々自室に刀剣男士を呼び出すのだ。不満はないかとか、最近どうだとか、肥前にとってはどうでもいい話ばかりではあったが、何度か呼び出しを無視すると機動の早い近侍が文字通り首根っこを捕まえに来る上に最近では部屋に行くと茶菓子やちょっとしたつまみをふるまわれる。食べ物で釣られている自覚はあったが、適当に話をしていれば損はないのだ。久方ぶりに大人しく呼ばれてやるか、という気持ちだった。
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