Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 50

    いなばリチウム

    ☆quiet follow

    なんとなくカンストと就任ネタだけどあんまり関係ないかも。審神者が飲み会に行った時の話。
    直接的な表現はないけど主へし前提。

    黒歴史笑うないつか来た道「――ですよね、そう思いませんか、先輩!」
    「んぁ、何、なんて?」

     いい塩梅に酒が入り、部屋の暖かさもあってうとうとしていた俺は肩を強めに揺すぶられ、強制的に覚醒させられた。馴れ馴れしく俺の肩を掴んでいる青年は首まで赤く、呂律は若干あやしいものの目は据わっている。何この酔っ払い。誰か面倒見てやれよ。あたりを見回すものの、俺とその青年の周辺にだけ見えない壁がある感じにやや遠巻きにされている。いつからこうなっていたんだろう。そもそも誰だこいつ。同じテーブルについているといことは近いエリア管轄の審神者だろうけど。俺を先輩、と呼ぶが、見た目はそう変わらなそうな年に見える。

    「だから、経験値とレベルの話ですって。あんなもんは、飾りっつうか、ただの数字に過ぎないんですよ。だってそうでしょう、ね、ね」

     うわー、めんどくさそう。
     だから飲み会って嫌なんだよなあ、と俺は近くにあるピッチャーを引き寄せてそいつのグラスコップに注ぎながらこっそりと溜息をついた。

     ここ数年、年に一度くらいの頻度で開かれるようになった審神者交流会だった。戦況が見えない中、審神者同士も連携が必要だとか、なんとか。はい馬鹿。飲み会で交流をはかれるなんて考え方は平成か令和序盤あたりで捨てておけっての。心の中では発案者を呪ったものの、年に一回ぽっちのタダ飯タダ酒なら、まあ、いいか、などとのんきに考えたのが運の尽きだった。酒が入って無礼講になるのはどの時代のやつも同じで。飲み会開始から数時間も経てばそのへんで潰れてるやつ、饒舌になって意識高めの演説を始めるやつ、護衛に連れてきたはずの刀といちゃつき始めるやつ等々で混沌としていた。座席表が意味をなさなくなったあたりで姿を消したやつも数人おり、俺ももう少し判断が早ければ、と悔やむもののもう遅い。

    「あんなんは、ね、審神者に都合よく、視覚化された数値に過ぎなくて、実際のところ、そりゃあ、出陣を重ねれば刀は強くなりますけど、じゃあレベルがカンストしたらそれ以上強くならないのか、ってえ話じゃないすか、ね、聞いてます?」
    「聞いてる聞いてる」

     すっかり冷めた唐揚げを小分けにしながら俺は頷いた。

    「刀はぁ、昨日より今日、今日より明日の方が強いでしょ、僕らだって、失敗から学んで、成功を活かして日々審神者をやってるわけじゃないですか、な、そうだよな長谷部」
    「はい、主のおっしゃる通りです!」

     青年の脇に控えているへし切長谷部もにこやかに頷く。審神者が本丸の外に出るとあれば当然護衛が必要だ。会議なんかの場合は部屋の外に控えてもらうことがほとんどなんだが、酒の席だと審神者同士のトラブルも多いので一振りに限り伴うことになったのだった。かわいそうに、向かいの席では蜻蛉切と日本号に挟まれる形になった審神者が圧縮されている。ますます、交流とは、って感じではあるよな。
     長谷部に元気よく肯定された青年は機嫌よく俺に向き直り、「長谷部もこう言っています!」と拳を握った。へし切長谷部による審神者の肯定は他者に対して何の説得力もないと分かっていないあたり、若いし酔っ払いだな、と思う。
     冷めた唐揚げの細切れを口に運ぶ。味が濃くて、冷めてても旨い。もう一つ摘まんで振り向いた。

    「食べる? あーん」
    「! あ、ありがとうございます……」

     後ろに控えている俺の長谷部の口元に唐揚げを運んでやると、青年は歯を剥いた。

    「イチャイチャしてるッッッ!!!!! 何甘やかしてんですかッッッ!!!!!!!!!」
    「うるさ……」

     そういうお前は長谷部に甘やかされているのが丸わかりなのに。
    「それで何だっけ? 経験値の話?」

     空になったグラスに再び水を注ぎ、促すと、青年は再び拳を握った。

    「そう!だから、経験値とか、レベルとか、数字の話なんて意味がないって話なんですよ」
    「へえ」
    「やれ何周年だの、レベルだの、カンストだのでいちいち祝う界隈に、俺はついていける気がしないんですよ。戦争中ですよ? 祝ってる場合かってんですよ。しかも、政府が勝手に決めた数字を、ね」
    「へえ」

     相槌を打ちながら、段々俺は口元がにやけていくのを感じる。

    「君、審神者いま何年目くらい?」
    「は? 一年……ちょっとかな? だよな長谷部」
    「はい、一年二か月と三週間です」
    「そう」

     若いなあ~~~ たまらんな~~~! 審神者業務ってやつに慣れてきて、周りを見る余裕が少し生まれて、政府のやり方ってやつに疑問が出てくる頃合いだ。こんなやり方はどうなんだ、情報伝達が遅いんじゃないか、俺達は本当に正しいことをしているのか、等々。そういう時代が、俺にもあった。多分。

    「とにかく、僕はそんな、記念だとかカンストだとかをいちいち祝うような、」
    「え、カンストうれしくない?」
    「うれしくないでしょ、別に。ただの、システム上の数字ですよ」
    「だとしても、節目というか、達成感あると思うけどなあ」
    「ないない。ありません」
    「カンストしたことあるんだ? 何振りくらい?」
    「……しては、ないですけど」

     青年の勢いは段々弱まっていた。水を飲ませ続けた甲斐があるというものだ。

    「別に、そんなことどうでもいいでしょう。な、長谷部」
    「はい、かんすと?していようがいまいが主はご立派なお方です」
    「ほらね!」

     二人してドヤ顔をするな。もっと水飲ませないとだめだこいつ。俺は追加でピッチャーを頼むと、懐から財布を取りだした。会費置いてさっさと帰ろ。

    「……まあ、今はそう言ってるけどね、なんだかんだ、カンストとか就任記念日とか、重ねていくと感慨深いもんだよ。っていうか、感慨深く感じるタイプだよ、君」
    「はあ~?」

     思いっきり怪訝な顔をされたけど、俺には分かる。そんな風に長谷部に何度も話しかけて甘やかされてるタイプは絶対にそうなる。俺みたいに。

    「……あれ、そういえば、先輩は何年目なんですか? 審神者。というかどこのエリアの方ですか?」
    「知らずに話しかけてたんだ……?」

     てっきり俺が忘れてるだけで知り合いかと思ったのに。おもしれー男すぎるなこいつ……酒が抜けた時に改めて話してみたいものだ。

    「俺は相模エリアで……えっと、何年だっけな、六十年?くらいやってるよ」
    「は……?」

     ぽかんとした顔に、そうだよなあ、と思う。交流会みたいなものに参加したところで、審神者システム開始初期から審神者をやっている古参の人間なんて、ジェネレーションギャップを感じるどころの話じゃない。俺に話しかけてきた時点でおかしいと思うべきだった。

    「主、主」

     立ち上がると、同じく後ろに立った長谷部が遠慮がちに俺の耳元でごにょごにょと囁いた。

    「……え、そうだっけ」
    「はい……一昨年、節目だということで盛大に本丸で宴をやったじゃないですか」
    「忘れてたわ……時が経つのは早いなあ」

     俺は青年に向き直り、訂正する。

    「ごめん、サバ読んだわ。審神者歴七十二年だった」
    「ななじゅ……?」
    「十年も二十年も、カンストもあっという間だよ~。祝えるうちに祝っておきなさいって」

     などと、先輩風を吹かせてみたものの、時既に遅しという感じがする。幽霊を見るような目で見ないで欲しい。新鮮な気持ちにはなるけど。俺も来年からは、同期と同じように金だけ置いてさっさと帰ることにしようかな。少し軽くなった財布を懐に戻し、俺は宴席を後にした。

    「……本丸で飲みなおそうかな。な、長谷部」

     振り向けば、長谷部は甘やかに笑い、「お付き合いしましょう」と俺の望む答えをくれるのだった。
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    ☺☺🙏🙏🙏❤❤❤👍💒💜💜💜💜💜💴💜💜㊗㊗💮☺💜💜💜💜💜🙏❤❤💘
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

    recommended works

    Lupinus

    DONE男審神者×五月雨江(主さみ)の12/24
    つきあってる設定の主さみ クリスマスに現世出張が入った話 なんということもない全年齢
    「冬の季語ですね」
    「あっ、知ってるんだね」
    「はい、歳時記に記載がありましたので。もっとも、実際にこの目で見たことはありませんが」
    「そうだよね、日本で広まったのは二十世紀になったころだし」
     さすがに刀剣男士にとってはなじみのない行事らしい。本丸でも特にその日を祝う習慣はないから、何をするかもよくは知らないだろう。
     これならば、あいにくの日取りを気にすることなくイレギュラーな仕事を頼めそうだ。
    「えぇとね、五月雨くん。実はその24日と25日なんだけど、ちょっと泊まりがけで政府に顔を出さないといけなくなってしまったんだ。近侍のあなたにも、いっしょに来てもらうことになるのだけど」
     なぜこんな日に本丸を離れる用事が入るのかとこんのすけに文句を言ってみたものの、12月も下旬となれば年越しも間近、月末と年末が重なって忙しくなるのはしょうがないと押し切られてしまった。
     この日程で出張が入って、しかも現地に同行してくれだなんて、人間の恋びとが相手なら申し訳なくてとても切り出せないところなのだが。
    「わかりました。お上の御用となると、宿もあちらで手配されているのでしょうね」
     現代のイベント 1136

    Norskskogkatta

    PAST主肥/さにひぜ(男審神者×肥前)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    おじさん審神者がうさぎのぬいぐるみに向かって好きっていってるのを目撃した肥前
    とうとう買ってしまった。刀剣男士をイメージして作られているといううさぎのぬいぐるみの、恋仲と同じ濃茶色に鮮やかな赤色が入った毛並みのものが手の中にある。
    「ううん、この年で買うにはいささか可愛すぎるが……」
    どうして手にしたかというと、恋仲になってからきちんと好意を伝えることが気恥ずかしくておろそかになっていやしないか不安になったのだ。親子ほども年が離れて見える彼に好きだというのがどうしてもためらわれてしまって、それではいけないとその練習のために買った。
    「いつまでもうだうだしてても仕方ない」
    意を決してうさぎに向かって好きだよという傍から見れば恥ずかしい練習をしていると、がたんと背後で音がした。振り返ると目を見開いた肥前くんがいた。
    「……邪魔したな」
    「ま、待っておくれ!」
    肥前くんに見られてしまった。くるっと回れ右して去って行こうとする赤いパーカーの腕をとっさに掴んで引き寄せようとした。けれども彼の脚はその場に根が張ったようにピクリとも動かない。
    「なんだよ。人斬りの刀には飽きたんだろ。その畜生とよろしくやってれば良い」
    「うっ……いや、でもこれはちがうんだよ」
    「何が違うってん 1061

    Norskskogkatta

    PAST主こりゅ/さにこりゅ
    リクエスト企画で書いたもの
    小竜が気になり出す主とそれに気づく小竜
    夏から始まる


    燦々と輝く太陽が真上に陣取っているせいで首に巻いたタオルがすでにびっしょりと濡れている。襟足から汗がしたたる感覚にため息が出た。
    今は本丸の広い畑を今日の畑当番と一緒にいじっている。燭台切ことみっちゃんはお昼ご飯の支度があるから先に本丸にもどっていって、今はもう一振りと片付けに精を出しながらぼんやり考えていたことが口をついた。
    「小竜って畑仕事嫌がらないんだね」
    長船派のジャージに戦装束のときのように大きなマントを纏った姿に畑仕事を嫌がらない小竜に意外だなと思う。大抵の刀には自分たちの仕事じゃないと不評な畑仕事だけど小竜からは馬当番ほど文句らしき物を言われた記憶が無い。
    「いやいや、これで実は農家にあったこともあるんだよ?」
    これなんかよくできてると思うよ、と野菜を差し出される。まっかなトマトだ。つやつやして太陽の光を反射するくらい身がぱんぱんにはっている。一口囓るとじゅわっとしたたる果汁は酸味と甘さと、ちょっとの青臭さがあって我こそはトマトである!と言っていそうだ。
    「おいしい!」
    「だろうっ!」
    手の中の赤い実と同じくらい弾けた笑顔にとすっと胸に何かが刺さった気が 3868

    Norskskogkatta

    PAST主くり
    リクエスト企画で書いたもの
    ちいさい主に気に入られてなんだかんだいいながら面倒を見てたら、成長後押せ押せでくる主にたじたじになる大倶利伽羅
    とたとたとた、と軽い足音に微睡んでいた意識が浮上する。これから来るであろう小さな嵐を思って知らずため息が出た。
    枕がわりにしていた座布団から頭を持ち上げたのと勢いよく部屋の障子が開け放たれたのはほぼ同時で逃げ遅れたと悟ったときには腹部に衝撃が加わっていた。
    「から! りゅうみせて!」
    腹に乗り上げながらまあるい瞳を輝かせる男の子どもがこの本丸の審神者だ。
    「まず降りろ」
    「はーい」
    咎めるように低い声を出しても軽く調子で返事が返ってきた。
    狛犬のように行儀よく座った審神者に耳と尻尾の幻覚を見ながら身体を起こす。
    「勉強は終わったのか」
    「おわった! くにがからのところ行っていいっていった!」
    くにと言うのは初期刀の山姥切で、主の教育もしている。午前中は勉強の時間で午後からが審神者の仕事をするというのがこの本丸のあり方だった。
    この本丸に顕現してから何故だか懐かれ、暇があれば雛のように後を追われ、馴れ合うつもりはないと突き離してもうん!と元気よく返事をするだけでどこまでもついて来る。
    最初は隠れたりもしてみたが短刀かと言いたくなるほどの偵察であっさり見つかるのでただの徒労だった。
    大人し 1811

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    おじさま審神者と猫耳尻尾が生えた大倶利伽羅のいちゃいちゃ
    猫の日にかいたもの
    大倶利伽羅が猫になった。
    完璧な猫ではなく、耳と尾だけを後付けしたような姿である。朝一番にその姿を見た審神者は不覚にも可愛らしいと思ってしまったのだった。

    一日も終わり、ようやっと二人の時間となった審神者の寝室。
    むっすりと感情をあらわにしているのが珍しい。苛立たしげにシーツをたたきつける濃い毛色の尾がさらに彼の不機嫌さを示しているが、どうにも異常事態だというのに微笑ましく思ってしまう。

    「……おい、いつまで笑ってる」
    「わらってないですよ」

    じろりと刺すような視線が飛んできて、あわてて体の前で手を振ってみるがどうだか、と吐き捨てられてそっぽを向かれてしまった。これは本格的に臍を曲げられてしまう前に対処をしなければならないな、と審神者は眉を下げた。
    といっても、不具合を報告した政府からは、毎年この日によくあるバグだからと真面目に取り合ってはもらえなかった。回答としては次の日になれば自然と治っているというなんとも根拠のないもので、不安になった審神者は手当たり次第に連絡の付く仲間達に聞いてみた。しかし彼ら、彼女らからの返事も政府からの回答と似たり寄ったりで心配するほどではないと言われ 2216

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり

    緑の下で昼寝する主くり
    極の彼は適度に甘やかしてくれそう
    新緑の昼寝


     今日は久々の非番だ。どこか静かに休めるところで思う存分昼寝でもするかと、赤い方の腰布を持って裏山の大桜に脚を伸ばす。
     とうに花の盛りは過ぎていて目にも鮮やかな新緑がほどよく日光を遮ってまどろむにはもってこいの場所だ。
     若草の生い茂るふかふかとした地面に寝転がり腰布を適当に身体の上に掛け、手を頭の後ろで組んでゆっくりと瞼を下ろす。
     山の中にいる鳥の鳴き声や風に吹かれてこすれる木の葉の音。自然の子守歌に本格的にうとうとしていると、その旋律に音が増えた。
    「おおくりからぁ~……」
     草葉の上を歩き慣れていない足音と情けない声にため息つき起き上がると背を丸めた主がこちらへと歩いてくる。
     のろのろと歩いてくるのを黙って見ていると、近くにしゃがみ込み頬を挟み込まれ唐突に口づけられた。かさついた唇が刺さって気分のいいものではない。
    「……おい」
    「ははは、ごめんて」
     ヘラヘラと笑いあっさりと離れていく。言動は普段と差して変わらないが覇気が無い。観察すれば顔色も悪い。目の下に隈まで作っている。
    「悪かったな、あとでずんだかなんか持って行くから」
     用は済んだとばかりに立ち上 780

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    花火景趣出たときにハイになってかいた。
    花火見ながら軽装姿の嫁といちゃつくだけ
    いつもの執務室とは違う、高い場所から夜空を見上げる。
    遠くでひゅるる、と音がしたあと心臓を叩かれたような衝撃とともに豪快な花が咲く。
    真っ暗だった部屋が花の明かりで色とりどりに輝く。それはとても一瞬でまた暗闇に戻るがまたひゅるる、と花の芽が音をなし、どんと花開く。
    「おお、綺麗だな」
    「悪くない」
    隣で一緒に胡座をかく大倶利伽羅は軽装だ。特に指定はしていなかったのだが、今夜一緒にどうだと言ったら渡したとき以来見ていなかったそれを着て来てくれた。
    普段の穏やかな表情がことさら緩んでいるようにも見える。
    横顔を眺めているとまたひゅる、どんと花の咲く音ときらきらと色があたりを染めては消える。
    大倶利伽羅の金色がそれを反射して瞳の中にも咲いたように見える。ああ。
    「綺麗だな」
    「そうだな、見事だ」
    夜空に視線を向けたままの大倶利伽羅がゆるりと口角を上げた。それもあるんだが、俺の心の中を占めたのは花火ではないんだけどな。
    「大倶利伽羅」
    「なんだ」
    呼び掛ければすっとこちらを見てくれる。
    ぶっきらぼうに聞こえる言葉よりも瞳のほうが雄弁だと気づいたのは付き合い始めてからだったかなと懐かしみながら、 843