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    いなばリチウム

    @inaba_hondego

    小説メイン
    刀:主へし、主刀、刀さに♂
    mhyk:フィガ晶♂
    文アル:はるだざ、菊芥、司♂秋
    文スト:織太

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    いなばリチウム

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    できてる主肥 雪が積もった日の本丸
    『主と刀のお題企画』参加させていただきます!大遅刻!

    冷たい指先(主肥) 真っ白になった庭で雪遊びに興じるもの達がいた。温かい室内から出てこないもの達もいたし、遊び疲れた面子をねぎらうために台所に立つもの達もいる。肥前忠広はそのどれでもなく、縁側で見慣れない風景をぼうっと眺めていた。もの珍しくはあり、しばらく空を眺めていたものの、薄着では耐えがたい寒さだった。さっさと部屋に戻るか、と思ったところで、廊下の曲がり角からそっとこちらを伺う影に気付いた。影は、笑いを噛み殺すような吐息を零しながら、抜き足、差し足と音を立てないように肥前の方に近付いてくる。

     ばかだな、と肥前は思う。刀剣男士の、それも気配を察知する能力に長けた脇差相手に、気付かれないわけがないだろうと。すぐに振り向いてしまうのは簡単だが、肥前はそうしない。

    『気付かないわけがないだろうと、僕らは思う。でも、主だって気付かれていないだなんて、本気で思っているわけがないんだよ』
     いつだったか、呆れたように笑いながら肥前にそう教えたのはこの本丸の初期刀だ。
    『じゃあ、なんでだよ。何にも……意味、ないだろ』
     まだ、本丸に来て間もない頃だった。審神者の不可解な行動に、肥前はよく頭を悩ませていた。
    『あれは甘え、みたいなものかな』
    『はあ……?』
     その時には、歌仙の答えも不可解だったが、今では何となく、少しだけ理解は出来る気がした。男士達を従える立場である審神者が、大の大人が見せる、子供のような振る舞いを、呆れながらも、まあ付き合ってやるかと甘やかすのは、存外悪い気分ではなかった。とは言え、声を掛けられるまで気付かないふりをするのも癪で、あと一歩、というところで肥前は審神者がいるであろう方を振り返った。審神者が声を出す前に、何か用かよ、と言ってやるつもりだった。大げさに驚いてやる刀もいる中で、肥前はそこまで極端に甘やかすつもりはなかった。寸前で気付かれたか、と悔しそうにする審神者の顔を見る方が、いくらか気分が晴れるからだ。しかし、予想に反して、審神者は肥前が振り向いても笑顔のままだった。笑顔のまま、手に持っていたものを緩く開いた肥前の襟元から中へ入れた。ひやり、なんて生やさしいもではないぞっとするような冷たさの塊が、肌にぶつかったのが分かる。
    「っっっ!!」
     肥前は声にならない悲鳴を上げて、飛び退いた。反射的にパーカーをぱたぱたと叩くと、肌と服の間に入れられた雪の塊が足下に落ちていった。ほとんど氷のようなそれが腹のあたりを滑っていって、思わず身震いする。
    「あはは! びっくりした?」
     睨み付けた先、してやったりという顔の審神者が仁王立ちしている。
    「絶対気付いてるとは思ったけど、さすがにこれは予想できなかっただろ。はあ~冷たいの持ってきた甲斐があったわ」
    「お、ま……」
     あまりの不意打ちと肌に直に感じた雪の冷たさで言葉も出なかったが、白い息を吐いた審神者の手が真っ赤なのが目に入り、ようやく喉元まで出かけた罵倒はそのまま溜息になった。
    「……ガキみてえなことすんな」
    「こんなに積もったら、童心に返りたくもなるよ」
    「それでばかみてえにはしゃいで、風邪引いたやつが去年いたなあ。ええ?」
    「いたねえ それで可愛い脇差が悪態つきながら看病してくれたなあ」
    「今年はしねえからな」
    「あ、可愛い脇差なのは否定しないんだ」
    「……!」
     もう言い返すのも面倒になって、肥前は審神者に背を向けた。その冷たい手を掴んで。
    「わ、なになに」
    「部屋、戻るぞ」
    「えっ、大胆だね……まだ昼間だよ」
    「ちがっ……部屋で大人しくしてろって意味だよ!」
    「ええ~」
     減らず口を叩きながら、それでも審神者は一応は引っ張られるままついてきて、肥前の手を握り返した。氷のように冷たい肌が重なって、肥前の熱をじわりじわりと奪っていく。
    「肥前が暖めてくれるなら、大人しくしてるけどな」
     軽口のようで、真剣な声色に肥前は返事をしなかった。ただ、繋いだ手に少しだけ、力をこめたのだった。



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    いなばリチウム

    TRAININGhttps://poipiku.com/594323/10668650.html
    これの続き。騙されやすい審神者と近侍の長谷部の話。
    だまされやすい審神者の話2 疎遠になっても連絡をとりやすい、というタイプの人間がいる。

     それがいいことなのか、はたまたその逆であるなのかはさておき、長谷部の主がそうだった。学校を卒業し、現世を離れてから長いが、それでも時折同窓会やちょっとした食事会の誘いがあるという。ほとんどは審神者業の方が忙しく、都合がつかないことが多いけれど。今回はどうにか参加できそうだ、と長谷部に嬉しそうに話した。
     もちろん審神者一人で外出する許可は下りないので、長谷部が護衛として同行することになる。道すがら、審神者は饒舌に昔話をした。学生の頃は内気であまり友人がいなかったこと、大人しい自分に声をかけてくれたクラスメイトが数人いて、なんとなく共に行動するようになったこと。卒業する時に連絡先を交換したものの、忙しさもありお互いにあまり連絡はしていなかったこと。それでも年に一度は同窓会や、軽く食事でもしないかという誘いがあること。世話になっている上司を紹介したいと何度か打診され、気恥ずかしさはあったものの、紹介したいと思ってもらえることは嬉しかったこと。今回やっと予定が合い、旧友とその上司に会えること。
    1820

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    PAST主般/さにはにゃ(男審神者×大般若)
    主刀でうさぎのぬいぐるみに嫉妬する刀

    主に可愛いと言わせたくてうさぎを買ってきたはんにゃさん
    「どうだいこれ、可愛らしいだろ?」
    主に見せたのは最近巷で話題になっている俺たち刀剣男士をモチーフにしたうさぎのぬいぐるみだ。といっても髪色と同じ毛皮に戦装束の一部を身につけているだけだが、これがなかなか審神者の間で人気らしい。
    「うさぎか?」
    「そうそう、俺のモチーフなんだぜ」
    うちの主は流行に疎い男だ。知らないものを見るときの癖で眉間にシワを寄せている。やめなって言ってるんだがどうにも治らないし、自分でも自覚してるらく指摘するとむっつりと不機嫌になる。そこがこの男の可愛いところでもあるがそれを口にすると似合わんと言ってさらにシワが深くなるからあまり言わないようにはしてる。厳しい顔も好きだがね。
    そんな主だから普段から睦言めいたものはなかなか頂けなくて少しばかりつまらない。そこでちょっとこのうさぎを使って可愛いとか言わせてみようと思ったわけさ。
    主に手渡すと胴を両手で持ちながらしげしげと眺めている。耳を触ったり目元の装飾をいじったり。予想よりだいぶ興味を示してるなぁと見ているときだった。
    「ああ、可愛いな」
    主が力を抜くように息を吐く。
    あ、これは思ったより面白くないかもしれない。そ 874

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    なんだかよくわからないけどうさぎのぬいぐるみが気に入らない無自覚むらまさ
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    「……huhuhu、さて、なんででしょうね?」
    近侍の村正がいつも通り隣に控えてるけどいつもより笑顔が怖い。
    手の中には村正と同じ髪色のうさぎのぬいぐるみがある。休憩中の今は最近販売されたそれを手慰みにいじっていたのだった。
    「尻尾ならワタシにもありマスよ」
    ふわふわの丸い尻尾をつついていると村正が身体を捻って自分の尻尾をちょいちょいと触る。普段からそうだけど思わせぶりな言動にため息が出る。
    「そういう無防備なことしないの」
    「可笑しなことを言いますね、妖刀のワタシに向かって」
    刀剣男士には縁遠い言葉に首を傾げつつも村正はいつもの妖しげな笑いのままだ。わかってないなぁとやり場のない思いをうさぎに構うことで消化していると隣が静かだ。
    ちらっと横目で見てみると赤い瞳がじっとうさぎのぬいぐるみを見つめている。その色が戦場にある時みたいに鋭い気がするのは気のせいだろうか。
    「なに、気になるの」
    「気になると言うよりは……胸のあたりがもやもやして落ち着きません」
    少しだけ意外だった。自分の感情だったり周りの評価だったりを客観的にみているから自分の感情がよくわかっていない村正 828

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    MOURNING主くり

    共寝した次の日の寒い朝のおじさま審神者と大倶利伽羅
    寒椿と紅の花
     
     ひゅるり、首元に吹き込んだ冷気にぶるりと肩が震えた。腕を伸ばすと隣にあるはずの高すぎない体温が近くにない。一気に覚醒し布団を跳ね上げると、主がすでに起き上がって障子を開けていた。
    「あぁ、起こしてしまったかな」
    「……寒い」
    「冬の景趣にしてみたのですよ」
     寝間着代わりの袖に手を隠しながら、庭を眺め始めた主の背に羽織をかける。ありがとうと言うその隣に並ぶといつの間にやら椿が庭を賑わせ、それに雪が積もっていた。
     ひやりとする空気になんとなしに息を吐くと白くなって消えていく。寒さが目に見えるようで、背中が丸くなる。
    「なぜ冬の景趣にしたんだ」
    「せっかく皆が頑張ってくれた成果ですし、やはり季節は大事にしないとと思いまして」
     でもやっぱりさむいですね、と笑いながらも腕を組んだままなのが気にくわない。遠征や内番の成果を尊重するのもいいが、それよりも気にかけるべきところはあるだろうに。
    「寒いなら変えればいいだろう」
    「寒椿、お気に召しませんでしたか?」
     なにもわかっていない主が首をかしげる。鼻も赤くなり始めているくせに自発的に変える気はないようだ。
     ひとつ大きく息 1374

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    重陽の節句に菊酒を作る大倶利伽羅と、それがうれしくて酔い潰れる主
    前半は主視点、後半は大倶利伽羅視点です
    『あなたの健康を願います』

    隣で動く気配がして意識が浮上する。布団の中で体温を探すも見つからない。眠い目蓋を持ち上げると腕の中にいたはずの大倶利伽羅がいなくなっていた。
    「……起こしたか」
    「どうした、厠か……」
    「違う、あんたは寝てろ。まだ夜半を過ぎたばかりだ」
    目を擦りながら起き上がると大倶利伽羅は立ち上がって部屋を出て行こうとする。
    なんだか置いていかれるようで咄嗟に追いかけてしまった。大倶利伽羅からは胡乱な目で見られてしまったが水が飲みたいと誤魔化しておいた。
    ひたひたと廊下を進むと着いた先は厨だった。
    「なんだ、水飲みに来たのか」
    「それも違う」
    なら腹でも空いたのだろうか。他と比べると細く見えても戦うための身体をしているのでわりと食べるしなとぼんやりしているとどこから取り出したのかざるの上に黄色い花が山をなしていた。
    「どうしたんだそれ」
    「菊の花だ」
    それはわかる。こんな夜更けに厨で菊の花を用意することに疑問符を浮かべていると透明なガラス瓶を取り出してそこに洗った菊の花を詰めはじめた。さらに首を捻っていると日本酒を取り出し注いでいく。透明な瓶の中に黄色い花が浮かんで綺麗 3117

    Norskskogkatta

    MOURNING主くり
    たまには大倶利伽羅と遊ぼうと思ったら返り討ちにあう主
    とりっくおあとりーと


    今日はハロウィンだ。いつのまにか現世の知識をつけた刀たちによって朝から賑やかで飾り付けやら甘い匂いやらが本丸中にちらばっていた。
    いつもよりちょっと豪華な夕飯も終えて、たまには大倶利伽羅と遊ぶのもいいかと思ってあいつの部屋に行くと文机に向かっている黒い背中があった。
    「と、トリックオアトリート!菓子くれなきゃいたずらするぞ」
    「……あんたもはしゃぐことがあるんだな」
    「真面目に返すのやめてくれよ……」
    振り返った大倶利伽羅はいつもの穏やかな顔だった。出鼻を挫かれがっくりと膝をついてしまう。
    「それで、菓子はいるのか」
    「え? ああ、あるならそれもらってもいいか」
    「……そうしたらあんたはどうするんだ」
    「うーん、部屋戻るかお前が許してくれるなら少し話していこうかと思ってるけど」
    ちょっとだけ不服そうな顔をした大倶利伽羅は文机に向き直るとがさがさと音を立てて包みを取り出した。
    「お、クッキーか。小豆とか燭台切とか大量に作ってたな」
    「そうだな」
    そう言いながらリボンを解いてオレンジ色の一枚を取り出す。俺がもらったやつと同じならジャックオランタンのクッキーだ。
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