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    Orr_Ebi

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    Orr_Ebi

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    大人🏀選手沢(29)と会社員深(30)の沢深が10年の時を経てやっと燃え上がる話。
    ・沢が自分勝手
    ・完全な両思いではない
    ・NTRを匂わせる表現あり(直接は無し)
    ・深に♀がいる
    ・深の♀が不憫
    ・深が流されやすい
    そこまで過激に表現してませんが、ふんわり上記要素入ってます。逆にこういうの好きな方はどうぞ!

    #SD腐
    #沢深
    depthsOfAMountainStream

    連れてって 「いつ別れるの?」
    明日の予定を聞くような軽さで、沢北はとんでもないことを言った。
    「……別れる?」
    「うん。深津さん、彼女ともう長いんでしょ」
    頬杖をついて、にっこり笑って言う男は今年もう29だ。深津は30になる。まるで高校生のような若さ、瑞々しさを持ち続けるこの男は、深津にとって厄介な男だ。


    「───深津さんが好きなんですけど」
    突然、深津の職場に現れて深津を呼び出し、沢北は開口一番にそう言った。
    「……は?」
    10年ぶりに会って、深津が沢北に返した言葉はそれだけだった。沢北は、あの頃と変わらない笑顔でニカッと笑って、「飲み行きましょうよ」と深津の手を握った。それが2ヶ月前のこと。
     沢北はアメリカにいると思ったのに、どうやら今は日本にいるらしい。高校を卒業してから、しばらく連絡は取っていたが、深津の就職や沢北のアメリカでのバスケ選手としてのキャリアがスタートした頃に、自然と連絡は途絶えてしまった。
     どこかで元気でやっていればいい。沢北が、沢北らしくいられればそれでいい、と思っていたから、特に深津から何かアクションを起こして連絡は取らなかった。沢北からも音沙汰がなかったから、そのままにしていた。同級生には時々連絡をしているらしい。山王の同窓会にも時々来ていたらしいが、深津の現在の仕事柄、どうしても顔を出せないまま、同窓会の便り自体こなくなった。
     そして、生活から沢北栄治という男が消え始め、テレビで時々報道されているスーパースター、沢北選手の方をよく見るようになった頃。深津に恋人ができた。朗らかな笑顔の、愛らしい人。きっと、こんな人と結婚するんだろうと、深津がぼんやりと明るい未来を思い描き始めた時、沢北は現れた。あの頃と変わらない笑顔で。


     ──それから、2ヶ月の間、沢北は深津に毎週のように会いに来た。
    「いつから付き合ってるんでしたっけ、その彼女」
     こんなことを聞いてくるなんて珍しい、と思いながら深津は温くなったカフェラテを飲み下した。10年ぶりに再会して2ヶ月、沢北は会うたびに深津にいろいろな質問をしてきたが、こと色恋に関しては全く聞いてこなかったから、てっきり興味がないんだと思っていた。
    「一年ちょっとくらい前ピョン」
    「へえ、長いですね。いいな、仲良いですか?」
    「まあ、悪くない」
    突然こんなことを聞くなんて、と思わないでもなかったが、沢北の行動に脈絡がないのは今更だ。そもそも2ヶ月前、教えてもいないのに突然深津の職場を訪ねて来た男だ。
    「で?」
    「ん?」
    「で、いつ別れるんですか」
     話が急に飛んで、深津は一瞬思考が停止してしまった。こいつ、本当に訳がわからない。沢北はニコニコと、深津の顔を見て反応を待っている。
    「いや、お前、なに言ってるピョン。ていうか、そもそも関係ないだろお前に」
    「え、関係ありますよ。付き合う前に、ちゃんと関係を清算してもらわないとできないんで、オレ」
    「関係?清算って…なんの話だピョン」
    「え?だから」
    沢北が、テーブルに無防備に置かれたままの深津の手を握った。しまった、と思った時にはもう遅い。がっしりと骨ばった手は、バスケ選手のそれで、深津が瞬間的にふり解こうとしても、びくともしない。
    「オレと深津さんが、恋人になるための」
     目がぎらついていた。この目は知っている。スイッチが入った時の、対象を捕捉しようと動き出す時の顔。蛇に睨まれた蛙のように、深津は動けなくなる。
    「な…んの話だ、俺とお前は全然そんな」
    「高校の時好きだったんですよ」
    「は?」
    「アメリカ行ってからも、深津さんが同窓会来なくなってからも好きだった。もうずっと好きだったし、深津さんもそうかなと思ってたんですけど、違う?」
     瞬間、深津の中に高校生の時の思い出が蘇る。
    沢北の横顔を見つめ、このまま時が止まってしまえばと願った数々の日々。それでも、自分には叶わないから封印しようと決めたのだ。もうずっと前に。
     それでやっと、沢北ではなく沢北選手を見ても平常心でこなせるくらいになったのに、どうしてこいつは。
    深津の頭の中は大混乱だった。握られた手を離せなくなり、高校の時の自分の醜い感情が相手にバレていたことをこんなふうに思い知らされるとは。
    「俺はお前をそんなふうには…」
    「ダメだよ深津さん、逃げないで」
    手を引っ張られた。
    真剣な眼差しの沢北が、深津を捉えて離さない。逃げたくてつい椅子から腰を浮かせた深津に、沢北が強い力で身を乗り出して止めようとするから、テーブルが動いてドンッと音を立てた。
    「もう逃さないって決めたから」
    「ッ…」
    その言葉は深津の心臓を突き刺すのに効果絶大だった。たったこれだけで、深津の過去の淡い熱が蘇ってくる。
    「…帰るピョン」
    聞きたいことはたくさんあった。
    いつから?なにを知ってる?なぜ現れた?
    それでも、とにかく今は頭を冷やして冷静になりたくて、絞り出すように言ったら、沢北はようやく手を離してくれる。
    「分かった、今日はね」
    不穏な言葉と共に、沢北が椅子に座り直したのを見て、深津は荷物を手に取った。
    「また連絡しますね」
    さっきの事などなかったかのように、沢北はまたにっこり笑って言った。深津はそれに頷きだけ返して、足早に喫茶店を出た。


     沢北選手、繁華街でお熱いデート。
    あの喫茶店の日から、数日。週刊誌に出たそんな記事は、深津の気持ちを動揺させるのにうってつけだった。相手は若いアナウンサー。沢北よりも年下だが、今1番勢いのある女子アナで、ニュースやバラエティで見ない日はない。沢北の服装は、ラフなパーカーにキャップを被り、およそ気合の入った服装とは言えない様子だが、腕に光るごつめの高級時計がその存在感を、沢北の生きる世界をアピールしている。
    ──人には彼女と別れろと言っておきながら。
    深津の頭の中は、そればかりだ。
    あの日から、沢北からの連絡は続いている。
    『驚かせました?』
    『次いつ会えますか』
    『迎えに行くからいつでも言ってくださいね』
    まるで恋人のように献身的なそのメッセージは、深津をさらに混乱させたが、沢北の方は楽しそうに、深津から返信がないことを気にしてすらいないようだった。
    『あんなの嘘ですよ。でも深津さんに言ったことは本当』
    朝イチで届いたそのメッセージは、何も書いていなくても熱愛記事についてだと分かる。
    何言ってるんだ、そもそもお前は俺のなんなんだ、とでも返してやりたい。
    そんなことを考えているうちに、また沢北からメッセージが来た。朝から元気なことだ。
    『今夜会えないですか?』
    沢北の根気強さには恐れ入る。
    深津がここまで何も返していないのに、よくこんなにも必死になれるものだ。
    もしかして、最初に沢北が言っていたことは本当なのか?
    好きなんです、高校の時からずっと。
    まさか本当に?こんな、30に突入した男に向かって本気なのか?
    「かずくん、今日何時ごろになりそう?」
    と、携帯を見つめて固まっていた深津に、たまたま家に来ていた彼女が声をかけてきた。まだパジャマ姿の彼女は、深津よりも出社時間が遅い。スーツに着替えて、もう出ようと言う時に携帯を見たままだった深津を不思議に思ったのか、声をかけてきたのだろう。
    「あぁ、うん、遅くなる」
    咄嗟に、そう返してしまった。沢北にはまだ返事をしていない。
    「そっか、飲み会?」
    「…高校の時の、後輩が」
    「また?最近多いね、日本帰ってきてるんだっけ」
    「うん、まあ」
    「じゃあしょうがないか」
    彼女には、沢北のことを詳しく話していない。ここ最近よく会う海外帰りの後輩というのが、まさか朝からメディアを賑わせている沢北選手だと彼女は知らない。
     うそは言っていない、うそではない。はずだ。
    深津は自分にそう言い聞かせて、自宅を出た。
    彼女には合鍵を持たせている。帰りが遅くなって、彼女が先に帰っても、そのまま深津の家で寝てしまってもいい。いつもそうだ。
    けれど、もし今日、沢北と会った後に自宅に帰って、その時にまだ彼女がいたら、どうしよう、と深津は暗い気持ちになる。
    まるで、浮気したような気持ちになるのではないか?


     沢北と会う時、基本的には酒の入らない食事ばかりだった。平日の夜に会えば、翌日に仕事のある深津はもちろん、沢北もそれを気遣って飲まない。時々、休日に会うことになれば、沢北が車を出すのでアルコールは避けられる。深津も飲む時は飲むが、どうしてもお酒が必要なわけではないから気にしたことはなかった。
    なかったが。
    「お前、飲み過ぎピョン」
    レストランに入って早々、沢北はドリンクメニューのアルコールの欄から、高そうなワインを注文した。雰囲気のいい肉バルに呼びつけられて、「腹減ったから適当に頼みますね!」と宣言され、任せた。すると、店で1番いいワインのボトルと、美味しそうな赤身肉のローストビーフ、ポテトサラダ、牡蠣とエビのアヒージョ、追加のピザ。
    頼みすぎだろ、と思ったが、現役スポーツ選手はすごい。深津なら胃もたれしそうな料理をぺろりと平らげて、沢北が勝手に追加のワインまで頼んだ時に気づいた。顔が赤い。
    「このワインうまい」
    さっきから、沢北は敬語が外れている。目がとろんとして、心なしか呂律が怪しい。高校時代なら考えられなかったが、お互いもう大人だから少しのタメ口ぐらいは許してやる。
     今日は金曜日で、深津も明日は仕事がないので少しお相伴していたが、そこまで飲んでいなかったのでまだ深津の方がシラフだ。
    「そこまでにしとけピョン」
    「えーやだあ、せっかく深津さんと飲んでるのにい」
    半分以下にまで減ったボトルをグラスに注ごうとするのを見て、深津はそれを制止した。
    「お前、なんだピョン。いつもそんな飲んでなかっただろ」
    「えへへ、なんでか分かる?」
    行儀悪くテーブルに伏せて頭を預け、上目遣いで深津を見る沢北の目元はほんのり赤く、口元がにやにやと緩んでいる。

    「深津さんが、オレのこと意識してるから」

    その言葉に、深津はぎくりとする。心臓が一瞬冷たくなった。
     今日会ってから、この間の喫茶店での話はしなかった。待ち合わせから、何事もなかったかのように、後輩然とした態度で深津に接する沢北に、この間の話は深津の思い違いか何かだったのだろうとホッとした。
    けれど、それと同時に、少し落胆したのも事実。それでも、そのことを悟られないよう、態度に出さないようにしていたのに。沢北には、やはり気付かれていた。
    「この間の話、嘘だと思ってるでしょ」
    また少し、こちらを見る沢北の目ぎらついた。沢北がこの目をするのが怖くて、深津は少し嫌だった。
    「オレはずっと好きだったよ、今でも好きだよ。深津さんのこと」
    酔っ払っているはずなのに、その言葉は力強い。また、深津は身動きが取れなくなったような感覚になる。
    「…なんでこんな、突然言うピョン」
    疑問系になったかどうか、深津には分からなかった。ほぼ独白のように、乾いて張り付いた喉をどうにか震わせる。
    「オレにとっては突然でもなんでもないんだけど。まあ、時間経ってるから分かんないよね。」
    沢北が体を起こす。一度も手をつけていない水のグラスを持ち上げて、一口だけ飲んだ。
    「好きってやつがやっと分かったから」
    また、にっこりと笑った。沢北のその背後に、高校生の時の西陽が差した気がした。
    「深津さん覚えてる?オレ、好きってなんだよ、ってずっとキレてたよね」
    「覚えてるピョン」
    もうあれは、10年以上前のこと。
     沢北が2年に上がる前頃から、校内で沢北に想いを寄せる女子生徒が増え、しまいには他校からも沢北に告白しようと殺到していた。
    放課後になれば、沢北を呼び出して一世一代の告白をする女の子がほぼ毎週のように現れる。最初は呼び出しにも応えていた沢北だが、あまりに数が多く部活にも支障が出るため、ある時から断っていたのだが。
    「好きってなに?よくそんな簡単に言えますよね、みんな」
     練習の間の休憩中。水分補給をしながら体育館の入り口に座って、ぬるい風にあたる。
    うんざりした様子でそう言った沢北に、その時の深津はここに河田がいなくてよかったと思った。
    同時に、それは無理な話だろう、とも思った。沢北は魅力的な人間だ。顔もよく、バスケもうまくて、喜怒哀楽がはっきりしていて、人間らしい。懐に入れば懐っこくて、何より一途。自分とは正反対の、太陽のような人間。その時の深津は確かにそう思って、こんな魅力的な人間、好きになるなと言う方がおかしいんだろうと思った。だからこそ、本人がそう言うのであれば、深津がもしこれから沢北にいらぬ恋情を抱いてしまう時には、絶対に言わないでおこう。そう決めた。
    ──そして、まんまと好きになった。
    2人とも、まだ坊主頭で、幼く、若い日のことだ。だから深津は、沢北への気持ちを自覚した時、あの時の沢北の、疲れたような呆れた顔を思い出した。そして、封印したのだった。
     「恋とかよくわかんなくて、押し付けられる感情にイライラしてたよ」
    テーブルの真向かいでは、大人になった沢北が、あの頃と同じ輝きの笑顔でそう言う。
    懐かしい。もう何年も前のことで、ずっと忘れていたのに、本人を目の前にするとこんなにも鮮明に蘇るのか。
    「だからずっと考えてたんです、好きってなにか。どんなものか。アメリカでの生活で、いろんな人に会ったけど、オレの中の好きって誰に向かってるのか」
    沢北の声は穏やかだ。
    それなのに、深津はなぜかこの先の話を聞いてはいけない様な気がしていた。それは、深津が何年もかけて封印した宝箱をこじ開けられるような、そんな感覚に似ている。
    「何年も会ってなくても、オレの中にずっと同じ人がいて、その人がどうして消えてってくれないのか、ずっと考えてた」
     深津はめまいを覚えた。今いる場所がわからなくなる。騒がしいレストランの喧騒は、もうずっと前に深津の耳に届いていない。
    「オレが深津さんのこと、忘れられないのは好きだからなんだ」
    「…それは、多分、間違ってるピョン」
    「間違ってる?」
    これまで静かに聞いていた深津が、強張った声でそう言ったからか、沢北が少し怖い顔をして深津を見た。
    「忘れられないのが恋じゃない。好きってのはもっと幸せで、気持ちが踊るような、幸せなものピョン。お前のそれは、ただの執着ピョン」
    「執着」
    初めて聞いた言葉みたいに、沢北が言葉を噛み締める。少し俯いて、まつ毛が伏せられた。
    「深津さんは、今の彼女にそう思ったの?」
    泣きそうな目でそう尋ねる沢北に、深津は頷く。本当にそう思ったかどうか、この際どうだっていい。いま、沢北にちゃんと理解させたい、と深津は思った。
    「オレのことは?」
    同じ顔で、同じトーンで、沢北は尋ねた。
    「オレのこと、どう思ってるの」
    深津のなかに、またあの日の熱が蘇る。好きってなにかわからない、と言った沢北の顔。それを見て、いつか自分が沢北を好きになっても、封印しようと決めたこと。
    「お前が、お前らしくいてくれれば、それでいい」
    心からの言葉だった。沢北と連絡を取らなくなって、近況をテレビで知る様になってからもずっと思っていたことだ。だから、ウソではない。
    「分かった」
    そう返した沢北は、見たこともない顔をしていた。大人びているのに、見捨てられた子犬のようなあどけない目。だけどその奥に、かすかにぎらついた炎が宿っている。

    「深津さんを連れて帰る」

     呆気にとられた深津をよそに、沢北が徐に店員を呼んだ。勝手に会計が進み、あっという間に荷物をまとめられる。
    「おい、待つピョン」
    「深津さんは今日、酔っ払って動けなくなった後輩をホテルまで送るんです。それで、送るだけですぐ帰ろうと思ったけど一緒に寝ちゃった。そういうことです」
    沢北が、深津の腕を引っ張って店の外に出る。お釣りも受け取らずに出て、大通りを走っていた空車のタクシーを停めた。
    「い、行かないピョン」
    「オレこんなに酔ってるのに?」
    「酔ってないだろ」
    「聞き分けのないこと言わない」
    どっちがだ、と思ったのに、腰に手を回されて変な悲鳴をあげてしまったから言えなかった。
    「深津さん」
    沢北の顔が迫る。こんなに近くで見たのは久しぶりで、しかも顔と顔が触れ合いそうで、深津の胸がキュッと絞られる。
    「冷静にならないで」
    こんな事で胸を高まらせてはいけない。分かってる、こいつの好きと自分の好きが違う事を理解している。それなのに、封印したはずの熱はこんなに簡単に蘇って、深津をおかしくする。
     押し込められて、無常にもタクシーの扉が閉まる。行き先は、沢北の滞在しているホテルまで。ここから10分もかからないだろう。深津は、腰を抱かれたまま、車窓を流れるネオンを見ていた。
    これは浮気になるのか。まだ何もしていない。まだ?これから何が起こるのか、深津には不思議と分かっている。高校の時、夢見たこと。けれど現実になるはずがないと何度も諦めた。
    そんなことをぐるぐると考えていたら、沢北が深津の頭を引き寄せてこめかみにキスをした。
    「怖い顔しないでよ、オレをホテルに送るだけでしょ」
    そう言いながら、沢北はさらに深津の右手を絡め取った。
    「それで、深津さんも眠くなって、一緒に寝ちゃうんだよ。朝まで」
    ね?と言い聞かせるような声に、深津はぼーっとしてくる。そうだったかもしれない。それだけかもしれない、とだんだん頭に霧がかかってくる。
    「早く別れて、オレだけにして」
    沢北の言葉はまるで魔法だった。またあの、身動きが取れない獲物のような気分。けれどどこか恍惚とした、気持ちいい感覚。
    「早くオレを好きのその先の、幸せまで連れて行って」
    タクシーが停車した。もう後戻りできないことを深津は理解して、沢北の手を取り車を降りた。

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    Orr_Ebi

    DOODLE3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です
    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
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    Orr_Ebi

    TRAINING沢深ワンライお題「横顔」で書いたんですが、また両片思いさせてるしまた深は叶わない恋だと思っている。そして沢がバカっぽい。
    全然シリアスな話にならなくて、技量が足りないと思いました。いつもこんなんでごめんなさい。
    横顔横顔

     沢北栄治の顔は整っている。普段、真正面からじっくりと見ることがなくても、遠目からでもその端正な顔立ちは一目瞭然だった。綺麗なのは顔のパーツだけではなくて、骨格も。男らしく張った顎と、控えめだが綺麗なエラからスッと伸びる輪郭が美しい。
     彫刻みたいだ、と深津は、美術の授業を受けながら沢北の輪郭を思い出した。沢北の顔は、全て綺麗なラインで形作られている。まつ毛も瞼も美しく、まっすぐな鼻筋が作り出す陰影まで、沢北を彩って形作っている。
     もともと綺麗な顔立ちの人が好きだった。簡単に言えば面食いだ。それは、自分が自分の顔をあまり好きじゃないからだと思う。平行に伸びた眉、重たい二重瞼、眠そうな目と荒れた肌に、カサカサの主張の激しすぎる唇。両親に文句があるわけではないが、鏡を見るたびに変な顔だなと思うし、だからこそ自分とは真逆の、細い眉と切長の目、薄い唇の顔が好きだと思った。それは女性でも男性でも同じで、一度目を奪われるとじっと見つめてしまうのが悪い癖。だからなるべく、深津は本人に知られないように、そっと斜め後ろからその横顔を眺めるのが好きだった。松本の横顔も、河田男らしい顔も悪くないが、1番はやっぱり沢北の顔だった。
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    Orr_Ebi

    TRAINING喧嘩する沢深。でも仲良し。
    なんだかんだ沢が深に惚れ直す話。
    とあるラブソングを元に書きました!

    大学生深津22歳、留学中沢北21歳くらいをイメージしてます。2月のお話。
    期間限定チョコ味 足先が冷たくなっていく。廊下のフローリングを見つめて、何度目か分からないため息をついた。
    「ちょっと頭冷やしてきます」
     深津さんにそう告げて部屋を出てから、15分は経っている。もうとっくに頭は冷えていた。爪先も指先も冷たくなっていて、暖かい部屋の中に入りたいと思うのに、凍りついたようにその場から動けなかった。
     なんて事ない一言がオレたちに火をつけて、すぐに終わる話だと思ったのに、想定よりずっと長くなって、結局喧嘩になった。オレが投げかけた小さな火種は、やがて深津さんの「俺のこと信用してないのか?」によって燃え広がり、結局最初の話からは全然違う言い合いへと発展し、止まらなくなった。
     いつにも増して深津さんが投げやりだったのは、連日の厳しい練習にオレの帰国が重なって疲れているから。そんな時に、トレーニング方法について何も知らないくせに、オレが一丁前に口出ししたから。それは分かってるけど、でも、オレがやりすぎなトレーニングは体を壊すって知ってるから、心配して言ったのに。
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