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    Orr_Ebi

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    Orr_Ebi

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    喧嘩する沢深。でも仲良し。
    なんだかんだ沢が深に惚れ直す話。
    とあるラブソングを元に書きました!

    大学生深津22歳、留学中沢北21歳くらいをイメージしてます。2月のお話。

    #沢深
    depthsOfAMountainStream
    #SD腐

    期間限定チョコ味 足先が冷たくなっていく。廊下のフローリングを見つめて、何度目か分からないため息をついた。
    「ちょっと頭冷やしてきます」
     深津さんにそう告げて部屋を出てから、15分は経っている。もうとっくに頭は冷えていた。爪先も指先も冷たくなっていて、暖かい部屋の中に入りたいと思うのに、凍りついたようにその場から動けなかった。
     なんて事ない一言がオレたちに火をつけて、すぐに終わる話だと思ったのに、想定よりずっと長くなって、結局喧嘩になった。オレが投げかけた小さな火種は、やがて深津さんの「俺のこと信用してないのか?」によって燃え広がり、結局最初の話からは全然違う言い合いへと発展し、止まらなくなった。
     いつにも増して深津さんが投げやりだったのは、連日の厳しい練習にオレの帰国が重なって疲れているから。そんな時に、トレーニング方法について何も知らないくせに、オレが一丁前に口出ししたから。それは分かってるけど、でも、オレがやりすぎなトレーニングは体を壊すって知ってるから、心配して言ったのに。
     「お前に関係ないだろ」って言うのは違うじゃん。
     オレにも関係あるよ、だって深津さん、オレの恋人でしょ。彼氏の心配もしちゃダメなの?
     そう言いたかったのに、「なにその言い方」とか、明らかに煽るような一言がオレの口から飛び出て、深津さんの眉間の皺が深くなって、最後にトドメの一言。
     「お前は俺のなんなんだ」
     彼氏だろ!って叫びたかった。そんな事言わなくても分かって欲しかった。けどダメだった。逆に怒りで全身の力が抜けて、「頭冷やしてきます」と言ってから、ずっと玄関に座り込んでいる。
    深津さんはリビングにいるままだ。物音がしないから多分じっとしている。気配はするのにお互いに近付き難くなっているこの感じが、もどかしてくて気まずかった。
     ここを離れた方がいい。
     15分ぐらい、ずっと黙り込んで床を眺めていたけれどモヤモヤは晴れなくて、すぐそこに深津さんがいるのにオレはどう声をかけるべきなのか考えても考えても分からなくて、結局立ち上がった。
     つっかけスリッパと、オレが履いてきたスニーカーが乱雑に脱ぎ捨てられている。どっちを履くか迷って、やっぱり行かない方がいいかな、と思って、でも結局オレは深津さんの家を出た。
     坂を降りて右に曲がって少しまっすぐいくと、この時間でも煌々と明るいコンビニエンスストアが見えてくる。いつも深津さんの家に泊まらせてもらう時、このコンビニで食材を買って部屋に行く。一度だけ、このコンビニでスキンを買った事もある。
     もう来れなくなるからやめろ、って深津さんに嗜められたけど、結局やることやって腹が減ったオレたちは、また何食わぬ顔でこのコンビニで夜食を買い込んだのだった。懐かしい。
     今日はそんな事にもならなそうだけど。
     と、心の中で毒付きながら、店内をぐるっと一周した。深津さんの好きなアイスコーヒー、オレがいつも食べるヨーグルト、2人で買ってすぐに食べきったポテトチップス。日本のお菓子は色とりどりで、すぐに新商品が出るから見ているだけで面白い。あっ、関西だし味だって。買って帰ったら深津さん、食べるかなぁ。
     そこまで考えて、いやいやさっき喧嘩したばっかりだろ、と冷静になる。オレは怒ってる。深津さんが自分の事なのに、あんまり無関心だから。体に負荷をかけすぎるとどうなるか、知らないからだ。やりすぎじゃない?って言っただけ。
     実際にトレーニングしている所を見たわけじゃないけど、聞いた感じいきなり量を増やしたようだったから、今の深津さんの大学での練習量でもそれなりなのに、過度になりすぎじゃない?って言った。そしたら、お前に関係ないだろって。関係あるよ、オレは彼氏なのに。
     また黒いモヤが心の中に広がって、胸の辺りに吐き気にも似た気持ち悪さが蘇る。喧嘩した場所を出てスッキリしに来たのに、結局考えるのは深津さんの事ばかりで泣きたくなる。
    本当は喧嘩したくなかった。短い帰国の期間を、触れ合って笑い合って過ごしたかった。謝りたいけど、でも、いつもオレばっかり。たまには深津さんから、ごめんって言って欲しい。
     ぐるぐると考えながら、オレはアイスのコーナーで立ち止まった。定番のソフトクリームから、チョコモナカ、シャーベット。なんとなくスッキリしたくて、何か買おうかな、と思って、オレは、あ。と声を上げて一つのアイスを手に取った。深津さんの好きなバニラアイス。期間限定でチョコ味が出ていた。
     そういえば深津さん、あの時もこのアイス食べてたなぁ。オレの思考は、2年前の夏の夜にトリップする。


     まだ、オレたちが先輩と後輩だった頃。
     山王バスケ部の飲み会の帰り。深津さんに告白しよう、と決めていたオレはガチガチに緊張して、酒も食事も全然喉を通らなかった。
     アメリカで頑張ってます、深津さんのおかげです。ずっと好きでした、オレで良ければ付き合ってください。
     行きの飛行機の中でも、居酒屋に向かう途中でも何度も口の中で練習した言葉を頭の中で復唱しながら、深津さんの家の方向まで一緒に歩いた。他に一緒に飲んでいた先輩方は、オレ達以外みんな二次会のカラオケに行ってしまって、その時は気付かなかったけれど多分オレの様子がおかしいのを見て、察してくれたんだと思う。
     深津さんが歩き出して、「コンビニ行くピョン」と言った。隣を歩くのすら緊張して、深津さんが話す言葉が全然頭に入ってきていないオレは、ただ頷いて深津さんに着いて行った。
     深津さんのおかげです、ずっと好きでした。ずっと、好きで…こんなオレで良ければ、付き合ってください。嫌じゃなければ彼氏にしてください。
    「ん」
     ひたすら頭の中で復唱を繰り返していたオレの目の前に、プラスチックのスプーンが差し出された。溶けかけのバニラがのっている。
     オレが悶々としている間に、深津さんはコンビニでアイスを買って出てきていたみたいだ。
    「オレの好きな味ピョン」
    「バニラが?」
    「王道には王道の良さがあるピョン」
     なんて事ない普通のバニラアイス。目の前に差し出されて、オレは大人しく口に含んだ。口の中でとろける甘い味。アイスの冷たさが、無駄に熱ったオレの頭も冷やしてくれそうだった。
    「お前、今日調子悪かったピョン?全然食べてなかったピョン。食欲ないなら、アイスでもいいかと思って」
    小首を傾げて、オレをじっと見つめて二口目を差し出す深津さんに、胸を打たれた。やっぱりオレ、深津さんのこと、
    「好きです…」
    「バニラアイス?良かったピョン」
    「違います。深津さんの事が、ずっと好きです。大好きです」
     滅多に動じない深津さんが、目をまんまるくして驚いていた。練習したセリフとは全然違う。タイミングもおかしくて、ちぐはぐな声と表情は全く予定通りじゃなかった。
    それでも、優しい深津さんが好きで、大好きで、溢れてしまったんだからしょうがない。
     「付き合ってください」
     あんなに練習した言葉は、一瞬で全て飛んでいった。でもするっと言葉にできたそれは、紛れもなくオレが伝えたいことだった。
     深津さんは一瞬固まった後、口元だけで笑った。それってどういう意味?と思っていると、両腕を広げて人目も憚らずオレをギュッと抱きしめてくれた。
    「ピョン」
     それだけだったけど、深津さんの行動が答えを示していた。けれど欲張りなオレは、ハッキリ言葉にして欲しくて、抱きつかれながら呟く。
    「それは、どっちのピョンですか」
     ほぼ確信していたけど、深津さんから言って欲しい。本心だって、安心したい。
    「…今のはイエスの"ピョン"」
     可愛いセリフが、オレの頭の中をピンク色に染めて、幸せでどこまでも飛んでいけそうだった。
    それが、オレたちの関係が先輩と後輩から、恋人同士に変わった日のことだった。2年前の夏の夜。今でもハッキリと覚えている。

     オレは、バニラ味と期間限定のチョコ味を持ってレジに向かう。すぐ帰ると思ったから履いてきたスリッパのせいで、冷えた爪先がさらに冷たい。
     レジのお兄さんは、面倒くさそうな顔で対応していた。冬の深夜に、部屋着のハーフパンツと爪先が出ているスリッパで出てきたオレを一瞥して、つまんなそうに「あざしたー」と言った。大方、喧嘩したとでも気付かれたかな?そんなわけないか。夜中にこんな格好で買い物来る奴なんて、きっと何度も見てるだろう。
     コンビニを出て、まっすぐ深津さんの家に戻る。
     ごめんなさい、オレが悪かったです。だから機嫌なおして。オレの事嫌いにならないで。
     告白した夜のように、またオレは口の中で練習しながら家路を行く。
     早く謝って、2人でアイスを食べて、抱きしめあって眠りたかった。
     深津さんが決めて、深津さんが実際にやっているトレーニングだ。やっぱり、オレが口出しする事じゃなかった。彼氏だからって、何でもかんでもお互いの言う通りになるわけがない。馬鹿なオレはそれすら分からなくて、いつもカッとなって、下手くそな言葉で深津さんを傷つける。大人になりたい、もっとずっと優しい人になりたかった。
     家に着いて、ドアを開けてももちろんいつもの「おかえり」は無い。それはそうだけど、少し寂しい。深津さん、まだ怒ってるかな。さっきまでずっと見つめていたフローリングの床が目に入る。リビングに続く扉の前で、立ち止まった。
     なんて言おう。ごめんなさい、から入った方がいい?多分、リビングを出て30分は経っている。深津さんが許してくれなかったらどうしよう。
     オレが悪かったです。ごめんなさい。深津さんの事が心配だっただけなんです。
     そんな単純な言葉を言うだけなのに、あの日の告白よりも緊張している気がする。コンビニのビニール袋を握る指先に汗が滲む。もし、もう別れようって言われたらどうしよう。こんなオレに愛想が尽きたって言われたら、もう嫌いになったって言われたら。多分立ち直れない。泣き縋って嫌だ!って言いたいけど、それすら出来なくて立ち尽くしてしまうかも。もう、「すぐ泣くピョン」すら言ってくれないかも。
     ぐるぐると思考が巡る。深津さんの事になると、大胆になれない自分がいる。いつからこんなに臆病になったんだろう。
     このままドアの前で固まっていたら、せっかく仲直りのために買ってきたアイスが溶けてしまう。それじゃ意味がない。分かってるけど、なかなか勇気が出ない。
     と、目の前のドアノブがガチャっと回った。え、と思っていると、深津さんが扉を開けてこちらを見上げていた。
    「おかえり」
    「た、ただいま…」
     不意打ちだったから、オレは情けない声で返すしかない。促されるままリビングに入った。
    「遅かったピョン」
     背を向けた深津さんは、そのまま定位置のソファに座り直す。オレはまだ、ごめんなさいが言えてない。
    「深津さん、あの…」
    「帰ってこないかと思ったピョン」
     後ろを向いたまま、深津さんが呟いた。その声の響きが少し寂しそうで、仲直りしたかったのはオレだけじゃなかったんだ、と胸がきゅっと締め付けられる。いつまでも意地を張り続けてる場合じゃない。
     コンビニ袋を放り投げて、深津さんの背中に擦り寄った。
    「深津さん、ごめんなさい」
    「……うん」
    「何も知らないのに、勝手な事言って」
    「………」
     深津さんは、無言でオレの腕を取って、自分の腹の上に回した。もっと抱きしめろ、の合図。遠慮なく、力を込めて抱きついた。
    「…ちゃんと、トレーナー付けてやってるピョン。無理なトレーニングじゃない」
    「うん」
    「目標決めて、その為にやってるピョン」
    「うん、そうだよね」
     深津さんはいつもそうだ。目標に最短で辿り着ける方法を模索して、1番早くその場所に行けるように、いつだって努力していた。
    「ただ心配なんだよ、体壊してバスケできなくなった人を見た事あるから」
    「分かってる。…でも、どうしてもメンバー入りしたいピョン」
    「メンバー?」
     深津さんが、振り返ってオレの目を見た。今日、初めてちゃんと顔を見る気がする。オリーブがかった黒い瞳が、オレをしっかりと見据えている。

    「U-24。沢北は招集されるだろうから、俺も絶対代表入りしたいピョン」

     初めて聞く話だった。同時に、深津さんらしいとも思った。候補選手の発表は夏頃だったはず。まだ2月だが、それでも今からスタミナと筋力アップするには十分な期間だ。その為のトレーニング。先を見越した練習。
     去年は、深津さんは強化合宿入りはしたが選考で落ちた。オレは呼ばれたけれど、アメリカの大学に専念したいから辞退した。今年は呼ばれたら行くつもりだった。そういうことか。
     オレと一緒に代表入りしたいというその気持ちが嬉しくて、誇らしくて、オレはまた泣きそうになる。いつまでも泣き虫が治らないけど、しょうがない。深津さんがかっこよすぎるから。
    「深津さんなら大丈夫でしょ」
    背中に顔を埋めて、緩んで仕方ない口角を誤魔化すために額を擦り付けた。深津さんが笑った気配がする。
    「そうでもないピョン、ライバルばっかりピョン」
     山王のキャプテンの時も、似たようなセリフを聞いたな、と思った。全員ライバル。全員強敵。どんな相手でも気を抜かないキャプテンに、何人もの部員たちが奮い立たされた。
    「負けたくないピョン」
     あぁ、オレの彼氏がこんなにもかっこいい。この人を好きになって良かったと、心の底から思った。意味のない喧嘩も、心配事も、この人とならずっと大事にしていける。
     後ろから深津さんの顎を持ち上げて、唇が触れ合うだけのキスをした。かさついた唇の感触が、久しぶりな気がしてたまらなくなって、すぐにもう一度触れ合わせる。
    「仲直りのキスピョン?」
    「うん。ごめんなさい」
    「こちらこそ、ごめんなさい」
     額を合わせて笑い合った。よかった。ずっとこうしたかったんだ。深津さんから謝って欲しい、なんて思っていたけど、そんなのはもうどうでも良かった。
     胸のつっかえが取れた気がする。黒いモヤモヤは、いつの間にか俺の体から抜けていって、代わりにキラキラしたときめきが胸の奥に溜まっていく。
    「何買ってきたピョン?」
     深津さんがコンビニ袋を指差した。少し溶けて、汗をかいているアイスを取り出す。
    「これ、深津さんの好きなやつ」
     王道バニラと期間限定チョコ。あの日の事を思い出すかな、と目の前に掲げてみせる。
    「沢北の好きなやつピョン」
    「違うよ、深津さんの好きなやつでしょ」
    「でも好きですって言ってたピョン、あの時」
    「あは、あれは深津さんに好きって言ったんだよ」
     笑いかけたら、照れくさそうに深津さんが目を逸らす。そんなところも可愛いなと思った。
    「これ買いながら、深津さんが許してくれなかったらどうしようってずっと考えてたよ」
    素直にそう言うと、深津さんがフッと笑った。
    「心配性の沢北に、いいこと教えてやるピョン」
    「ん?」
    アイスの蓋を取り、プラスチックのスプーンを取り出して、深津さんが人差し指を上に向ける。
    「心配事の9割は起こらないんだピョン」
    得意げなその顔に、思わず吹き出した。
    よく笑うよ、そんな呑気に。こっちは気が気じゃなかったんだから。
    「何笑ってるピョン?本当のことピョン」
    「はい、胸に刻みます。ありがとうございます」
    「ふざけてるピョン?また分からせてやるピョン?」
    「やです、オレ本当に深津さんに嫌われたら生きていけないんだから。はい、いいから口開けてください」
     スプーンですくったバニラアイスを深津さんの口元に運ぶと、少し迷ってから大人しく口を開けた。
    「ん、うまいピョン」
    「よかった。こっちは?チョコ味。食べますか?」
    「食べるピョン」
     別のスプーンですくって、また口元に運ぶと今度は目を閉じて食べる。その顔が可愛くて、オレの頬は緩んでしまう。かっこよくてかわいくて、いつまでも最高な人。
    「味見させて」
    オレの言葉に、スプーンを取ろうとした深津さんに不意打ちでキスを仕掛けた。ぺろ、と舐めた唇はほんのり冷たくてチョコの味がする。
    「ありがとう」
     眉をひそめる深津さんににっこり笑う。
    「沢北くんは気障ったらしくていけないピョン」
    「そこが好きなくせに」
    キスした唇をさらにムッと尖らせて、深津さんは小さく「ピョン」とだけ言った。
    「はは、どっちのピョン?」
     口の中に残るチョコの味。キスでとろけたオレの頭と、深津さんの照れた顔が、空気をさらに甘く煮詰めた。
    そのピョンがイエスかノーかなんて、もう分かってるけど、それでも聞きたい。深津さんの言葉で。

     「好きって意味ピョン」
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    Orr_Ebi

    DOODLE3/1のうちにあげておきたかった沢深。
    沢への感情を自覚する深の話。※沢はほぼ出てきません
    ・深津の誕生日
    ・深津の名前の由来
    ・寮母、深津の母など
    以上全て捏造です!
    私の幻覚について来れる方のみ読ましょう。振り落とされるなよ。

    ※沢深ワンドロライのお題と被っていますがそれとは別で個人的に書いたお話です
    シオンの花束 同じ朝は二度と来ない。
     頭では分かっていても、慣れた体はいつもの時間に目覚め、慣れ親しんだ寮の部屋でいつも通りに動き出す。
     深津は体を起こして、いつものように大きく伸びをすると、カーテンを開け窓の外を見た。まだ少し寒い朝の光が、深津の目に沁みた。雪の残る風景は、昨日の朝見た時とほぼ同じ。
     同じ朝だ。けれど、確実に今日だけは違うのだと深津は分かっている。少し開けた窓から、鋭い冷たさの中にほんの少し春の甘さが混ざった風を吸い込む。
     3月1日。今日、深津は山王工業高校を卒業する。そして、奇しくもこの日は、深津の18歳の誕生日であった。

     一成、という名前は、長い人生の中で何か一つを成せるよう、という両親からの願いが込められている。深津自身、この名前を気に入っていた。苗字が珍しいので、どうしても下の名前で呼ばれる事は少なかったが、親しい友人の中には下の名前で呼び合う者も多く、その度に嬉しいようなむず痒いような気持ちになっていたのは、深津自身しか知らないことだ。
    6903

    Orr_Ebi

    TRAINING沢深ワンライお題「横顔」で書いたんですが、また両片思いさせてるしまた深は叶わない恋だと思っている。そして沢がバカっぽい。
    全然シリアスな話にならなくて、技量が足りないと思いました。いつもこんなんでごめんなさい。
    横顔横顔

     沢北栄治の顔は整っている。普段、真正面からじっくりと見ることがなくても、遠目からでもその端正な顔立ちは一目瞭然だった。綺麗なのは顔のパーツだけではなくて、骨格も。男らしく張った顎と、控えめだが綺麗なエラからスッと伸びる輪郭が美しい。
     彫刻みたいだ、と深津は、美術の授業を受けながら沢北の輪郭を思い出した。沢北の顔は、全て綺麗なラインで形作られている。まつ毛も瞼も美しく、まっすぐな鼻筋が作り出す陰影まで、沢北を彩って形作っている。
     もともと綺麗な顔立ちの人が好きだった。簡単に言えば面食いだ。それは、自分が自分の顔をあまり好きじゃないからだと思う。平行に伸びた眉、重たい二重瞼、眠そうな目と荒れた肌に、カサカサの主張の激しすぎる唇。両親に文句があるわけではないが、鏡を見るたびに変な顔だなと思うし、だからこそ自分とは真逆の、細い眉と切長の目、薄い唇の顔が好きだと思った。それは女性でも男性でも同じで、一度目を奪われるとじっと見つめてしまうのが悪い癖。だからなるべく、深津は本人に知られないように、そっと斜め後ろからその横顔を眺めるのが好きだった。松本の横顔も、河田男らしい顔も悪くないが、1番はやっぱり沢北の顔だった。
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    Orr_Ebi

    TRAINING喧嘩する沢深。でも仲良し。
    なんだかんだ沢が深に惚れ直す話。
    とあるラブソングを元に書きました!

    大学生深津22歳、留学中沢北21歳くらいをイメージしてます。2月のお話。
    期間限定チョコ味 足先が冷たくなっていく。廊下のフローリングを見つめて、何度目か分からないため息をついた。
    「ちょっと頭冷やしてきます」
     深津さんにそう告げて部屋を出てから、15分は経っている。もうとっくに頭は冷えていた。爪先も指先も冷たくなっていて、暖かい部屋の中に入りたいと思うのに、凍りついたようにその場から動けなかった。
     なんて事ない一言がオレたちに火をつけて、すぐに終わる話だと思ったのに、想定よりずっと長くなって、結局喧嘩になった。オレが投げかけた小さな火種は、やがて深津さんの「俺のこと信用してないのか?」によって燃え広がり、結局最初の話からは全然違う言い合いへと発展し、止まらなくなった。
     いつにも増して深津さんが投げやりだったのは、連日の厳しい練習にオレの帰国が重なって疲れているから。そんな時に、トレーニング方法について何も知らないくせに、オレが一丁前に口出ししたから。それは分かってるけど、でも、オレがやりすぎなトレーニングは体を壊すって知ってるから、心配して言ったのに。
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