寵とある村には噂があった。
秋頃に行われる祭りの最中、忽然と人がいなくなるという。
心当たりがあるとすれば、過去に起きた
あの悲惨な事件のせいだと、村の人たちは口々に答える。
それは昔、村に住んでいた一人の子供が、
両親に殺されてしまうという、悲惨な結末。
人がいなくなってしまうのは、その子が自分の恨みを晴らす為
生きている人間をあの世へ連れて行こうとする。
だから、気を付けて。
お祭りの日、村にある神社の石段を上がっている間は
後ろから呼び止められても、返事をしてはいけない。
振り返ったその瞬間に、魂を奪われてしまうから。
ーーー
映画のロケのため、東京から離れたとある村に訪れた赤井と蒼山。
村での撮影をすべて終え、集まっていたメンバーは都内へと帰ってしまう。
残った二人は、夜になると山の上にある神社でお祭りがあると聞いて
せっかくだからと参加することにする。
開催場所である神社近くに行くと、出店がいくつも並んで神輿も用意されていた。
期待を胸に本会場へと向かうおうと、遠くから聞こえる祭り囃子を聞きながら、
段数の多い石の階段を上っていたときだった。
『ねぇ、 “あかい”お兄ちゃん 』
「―――え」
赤井が名前を呼ばれハッと振り返ると、振り返った先にはこれまで上ってきたはずの石の階段はなく、いつのまにか見覚えのない古びた神社に立っていた。
「……ここは」
驚いて辺りを見渡すが、周囲に自分以外の人の姿はない。
鳥居から神社の外に出ようとするけれど、背後から再び声がした。
声のする方を向けば、目の前には小学生くらいの男の子が、無邪気に笑いかける。
「ぼくと遊ぼうよ、お兄ちゃん」