視聴者「ウィル、早くこっち来いよ、始まっちまうぞ!」
「わかってるよ、ちょっと待って」
急かすアキラに返事を返すと、俺はトレーに4人分のお茶を載せて、リビングのソファに戻った。
「これ、レンの分」
そう言ってレンの前にお茶を置くと、レンは頷いてはくれたものの、渋い顔を作ってため息をつく。
「何で俺まで……」
それに答えたのはアキラではなかった。
「いいだろ、折角の俺達のメンターの晴れ舞台なんだしさ、皆で観ようぜ」
アドラーが笑顔で座っている。一応お客様だからと俺も渋々この男の前にお茶を置くと、アドラーは一瞬驚いた表情を見せた後、笑顔でありがとな、と返してきた。別にお前は来なくても良かったんだけどと内心思うが、そもそもアキラとアドラーで一緒に観ようという話になって、結果レンも連れてきてくれたのだから文句は言えない。
テレビ画面の向こうでは、ブラッドさん達が既に入場を終えてコメントしていた。どちらが『一流品』かを当てる番組らしくて、俺達第13期のメンターである【メジャーヒーロー】4人も出ることになったんだ。
「お、二人一組みてぇだな」
「ジェイとキースか。まぁジェイなら楽勝だろ!」
アドラーとアキラがレンを挟んで盛り上がっている。俺も自分のお茶を持って座ろうとしたんだけど、ソファを見て少し固まった。
――アドラーの隣しか空いていない。
テレビを観るには、そこに座るしかない。ここで場所を変えてくれなんて言えないし、仕方無しに俺はアドラーの隣に座った。普段、側に寄らない人間の直ぐ側に座るのは、少し居心地が悪いというか。
でも、そう思っていたのは最初だけだった。直ぐに番組に集中してしまったからだ。集中というよりも。
「おいおい、ジェイ大丈夫か…?」
アドラーが心配そうに言う。確かに俺達の予想に反して、ジェイさんは不正解が続いていて。心配になってきてしまった。
「…だが、キースが意外と正解しているみたいだから、最下位は免れそうだな」
レンが冷静に言う。レンの言う通りではあるんだけど、ジェイさんは大丈夫かな。ブラッドさんとヴィクターさんの組は全問正解中で凄いと思う。
そのうちに、最終問題になった。子供のお菓子に関する問題。
「…これなら、ジェイ行けねぇかな。息子がいるだろ」
「そう、だな…」
これまでの展開でも、ジェイさんの親しみやすさがわかって悪くはなかったけど、やっぱり正解する姿も見たいよな、と手に汗を握ってしまう。
「お、でも今回全員同じ部屋だぞ、もしかして!」
アキラが興奮気味に言った後でぴたりと黙る。正解発表の瞬間、俺達は一言も話さないまま、その時を待った。
そして。
「いよっしゃあ!ジェイ正解!!」
アキラが飛び上がる。ブラッドさん達もジェイさんのお陰だって言っていて、見ている俺もすごく嬉しくなった。
「やったな!」
「あぁ!」
隣から嬉しそうな声で話かけられて、俺もより嬉しくなって、思わず二人でハイタッチを交わした。
――アドラーと。
ハイタッチを終えて互いの顔を見合わせて我に返る。嬉しさで我を忘れたとはいえ、何故この男と。
アドラーも同じだったようで、はっとした後、はは、と気まずそうに力無く笑ってきた。俺も気まずくなって、思わずテレビに向き直る。
脳裏に焼き付くのは、アドラーの嬉しそうな笑顔。
何故か、心臓が煩かった。