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    よるのなか

    二次創作文字書き。HRH🍣右、🍃右中心。

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    よるのなか

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    主坊。幻想水滸伝webオンリーイベント「星の祝祭Ⅵ」展示作品です。開催おめでとうございます!
    ロックアックス陥落後の主坊の会話です。CP色はそれほど強くありませんが主坊のつもりで書きました。
    ・ティントで逃亡していない2主です。
    ・坊ちゃん:アルト、2主:ミラン

    タイトルは某有名バンドの曲から。これ聴くたびに主坊だと思います。

    #主坊
    mainPlace

    硝子窓 小鳥のさえずりが聞こえる。その音に促されるように目を開けると、窓の外にすっかり昇りきった太陽が見えた。ミランはゆっくりと起き上がる。陽の光が入った、明るく広い自室。本拠地である城が大きくなるにつれ、広くなっていった自室だ。けれど今朝は、とりわけ広く、そして寒く感じるような気がして。何故だろうと考えて、すぐにその理由にたどり着く。
    (そうだ、声が聞こえないからだ)
     声が聞こえないから。姿が見えないから。
    『朝だよー!』
     今までだったら、元気な声と、昔からずっと見ていた笑顔が目の前にあったはずなのに。それが失われて数日。まだ慣れないなとミランは苦みを含んだ笑みを浮かべた。あの姿が見えないだけで、この場所がこんなにも広く、何もないように感じるなんて。
     ベッドから降りた。さて何をしようかなと、ミランは軽く体を動かしながら考える。先日城内で倒れ、それが心身の疲労のためと判断されたミランは、皇都侵攻の準備が整うまでは静養を言いつけられていた。やりたいこと、やるべきことは、今は何もない。以前倒れた時もしばらくベッドの住人であったため、今日も同様に、自室で寝たまま一日を過ごしても良いのだ。だが、今は。
     ミランは静かにドアを開けた。目的地は考えていないが、そのうち決まるだろうと歩き出す。
     階段を降りたところで、見知った顔に出会った。
    「ミラン」
    「アルトさん?」
     以前偶然出会ったことをきっかけに、力を貸してくれるようになったトランの英雄その人。かつて彼が置かれた境遇が今の自分に近いことから、ミランとしては先輩のように思えて慕うようになっていた。だが、基本はグレッグミンスターの自宅に滞在し、こちらからの要請を受けてこの城に来ることが多かったのだ。要請なしにこの場にいるのは、極めて珍しい。
    「どうしたんですか?」
     ミランが首を傾げながら問うと、アルトは君に会いに来たんだ、と言う。
    「僕に?」
    「そう」
     アルトは首を傾げたままのミランに、微笑みかけた。その表情からは、まだ目的が読めない。
    「君が今一人でいたいか、誰かといたいかにもよるのだが」
    「……それは……」
     それはつまり。ミランは自室を出た理由を思い返しながら再び問いかける。
    「……一緒にいてくれるってことですか?」
     その問いに、アルトは柔らかい表情を変えないまま、どこへ行きたい、と問い返した。

    ◇ ◇ ◇

    「本当は、もっと遠くに行きたかったのだが」
     外は、雲一つない快晴だった。程良い強さの風が吹いていて、爽やかだ。屋上から城内を見渡しながら、アルトが口を開く。
    「今の君の体調で連れ出すと、君の軍師殿に出禁を言い渡されそうで」
    「……そんなことは……」
     ない、と言いかけて留まった。通常であれば隣国の英雄にそんなことは言わないだろうが、シュウならやりかねない気もする。何よりもこの軍の、ミランのことを優先する男だ。
    「でも、ここでよかったです。今は、賑やかな方がいいかなって」
     シュウ云々はさておき、見下ろす地上で忙しなく動き回る人々を眺めながら、ミランはそう思っていた。今は、この場所がベストだと思う。その言葉を聞いたアルトは、そうだね、と頷いてみせた。
    「僕も、そうだった」
     肯定を受けて、景色を見ていたミランの視線がアルトに移る。
    「……やっぱり、そうですか?」
    「少なくとも僕は。こういうときは、一人でいたくないと思うことが多かったな」
    「はい」
     やはり同じなのか、とミランは思った。ミランは、誰かに会いたくて自室を出たのだ。何故なら。
    「一人だと、色々考え過ぎてしまいそうで」
     誰かと一緒にいて、話をしていれば、思考の海に沈むこともないと思った。沈み過ぎたら、戻ってこれなくなりそうで。
    『気持ちいいねー!』
     明るい声が、耳を打った気がした。ミランは声の主がよく立っていた場所へと、目を向ける。今は誰もいない、その場所へ。
    「……ナナミはこの場所が好きで、よくいたんです。風が気持ちいいって」
     あれから、ふとした時に考えてしまうのは、姉のことばかりだ。よくいた場所、元気な声、明るい笑顔。それから――自分とジョウイの今の状況に悲しむ顔――そして、最期の瞬間。
    「一人だと、どうしてもマイナスの方向に思考が行きそうで。もっと何か、できたのかもしれないって」
     例えば、逃げようと言われた時にその手を取っていたら。同行の申し出を、危ないからと断っていたら。そして、あの時、もう一歩前に出ていれば。それ以外にも、もっと、もっと何か。
    「今更そんな事を考えても、意味がないのに。どうしても一人だと、そんなことをぐるぐる考えてしまうんです」
     自分が、昔のように田舎町の隅で細々と暮らしている身なら、それでもよかった。だが、今の自分の立場を考えるとそれでは駄目だと思うのだ。
    「僕だけじゃない。他にも大切な人を喪った人は沢山いる。その人達の想いが集まったこの軍の、一応だけど上に立つ立場の僕が立ち止まっちゃいけないって」
     誰かと話していれば、余計な事を考えなくて済む。だから、誰かの側にいたかった。話をしたかった。
    「こんなに弱かったんだなって、思います。誰かに頼らないと、歩き出せない」
     アルトは、自嘲の笑みを浮かべるミランを静かに見つめる。クレオや旧知の者達が、口々に自分とミランがよく似ていると言っていたが、アルト自身は、これまではそこまで似ているところがあるようには思えなかった。だが、今の彼は、まるでかつての自分を見ているかのようで。鏡に映った自らの姿を見ているようで。
     あの頃の自分に言葉をかけるとしたら、何だろう。
    「……弱さも、悲しみも、捨て去る必要はないと思う」
     あくまで僕の意見だが、と話し始めると、ミランは僅かに目を瞠った。
    「そういったものを無理矢理抑え込むと、きっと体のどこかに綻びが出る。大切なのは、その弱さや悲しみを抱えながらでいいから、歩き出すことだと思う」
     たとえ足が動かなくても、なんとか一歩ずつでも動くことが大事なのではないかと、アルトは言う。
    「抱えた重さで動けないなら、先程君が言ったように、誰かに頼ればいい。君を支えたいと思っている者は、ここには沢山いるだろう」
    「……アルトさんも、そうでしたか?」
     アルトの言葉を噛み締めるように聞いた後、ミランはそう尋ねた。ミランも、アルトに似ていると言われていたことを思い出したのだ。そして、先の戦争で多くの喪失を経験したということも。
    「あの頃は必死に動いているだけだったから、果たして自分がそうだったのかは覚えていない。でも、今ならそう思う」
     アルトはそこで一度言葉を切り、空を見上げた。雲一つない空の向こうに、まるで誰かがいるかのように。
    「……毎朝、起きてすぐ聞こえる声が聞こえなくなったことは、とても寂しいと思ったし、それは今でも変わらない」
    「……そうですか……」
     同じだ、とミランは思った。英雄と呼ばれるこの人も、自分と同じような悲しみを、寂しさを今でも抱えている。そして、歩き続けている。
    「今のように、僕に話してくれてもいい」
    「……いいんですか?」
     アルトももう十分重いものを抱えているだろうに、自分が寄りかかってもいいものか。ミランは懸念したが、アルトはあっさりと勿論、と答えた。
     それを聞いた途端に、目の前のこの人に、体を預けたくなって。
    「……手、握ってもいいですか?」
     確認すると、構わない、と手が差し出された。それを、そっと握る。手袋越しではあるが、触れているところから温かい力が流れてくる気がして。足りない、もっと欲しいと思ってしまったミランは、すみませんと断ってから手を引いてアルトの身を引き寄せた。ゆっくり彼の背中に手を回し、腕の中に閉じ込める。
    「こうしてるたけで、体が軽くなる感じがします」
    「医者である知人が言っていた。触れ合うことは、心の薬になると」
    「そうかもしれません」
     ミランはそれきり黙ったまま、大きく深呼吸を繰り返す。負の感情を吸い込んで、身の内で昇華しているように見えた。こうして触れていることで、その昇華に力添えできているだろうかと、アルトは思う。
     悲しみの深さは、よく知っている。それでもミランが歩き続けなければいけないことも知っている。ならばその悲しみを、少しでもこちらで引き取れればいいのに。アルトの腕も、自然とミランの背に回っていた。
     どれだけの時間そうしていただろう。やがてミランがゆっくりと身を離した。
    「ありがとうございました」
    「これくらいなら、いつでも」
    「いつでもいいんですか?」
    「あぁ」
     太っ腹だなぁと、ミランが笑う。少し明るさを取り戻したように見えるそれに、アルトの身も少し軽くなったように感じた。
    「もう大丈夫です。悲しいのは変わらないけど」
     弱さも、悲しみは捨てないけれど、立ち止まろうとしてしまう自分だけは、この場に置いていく。
     立ち止まって振り返るのは、全てが終わってからでいい。
    「僕は――」
     一度言いかけて、言葉を切った。ミランは数秒目を閉じて、開けて、それから口を開く。
    「俺は、歩き続けます」
     だから、側にいてくれますか、とアルトをまっすぐ見据えてミランは言った。彼の目からは悲しみは去っていないものの、前へ進もうという強い光が戻っていて。その光に眩しさを感じながら、アルトは勿論だと、迷わず先程と同じ答えを返した。
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    よるのなか

    DONE幻想水滸伝webオンリーイベント「星の祝祭Ⅵ」のWEBアンソロ企画参加作品です。
    キャラ「2主人公とジョウイ」で、お題「緑」お借りしました(CPなし)
    ミューズ和議決裂後のどこか(設定はふわふわ適当)で、偶然二人だけで会うことになる2主とジョウイの話。
    ハーンとゲンカクも戦時中に酒を酌み交わしていたらしいし、二人にもそんな時があればいいのに、と想像した結果です。
    2主人公の名前→ミラン
     時折、一人になりたくなる時がある。城から出て、誰にも会わずに、ただ一人でぼうっと自然を眺める時間。勿論長時間そんなことをするわけにはいかないので、ごく短い間だけれど。そんな衝動に駆られた時は、ミランはこっそりビッキーを訪ねてどこかに飛ばしてもらい、一人の時間を過ごした後で鏡を使って戻っていた。
     今日も、そのつもりだったのだ。飛んだ先で、思わぬ人物に会うまでは。
    「やっばり、今の時期は緑が綺麗だと思ったんだよな。うん、ここにして良かった」
     そう呟いて、ミランは両の手を天に伸ばし一つ深呼吸をした。澄んだ空気と青々とした空の下で、鮮やかな緑が生い茂っている。乾いた風に揺られて緑が揺れる、その合間からきらきらと漏れる光が綺麗だ。人気のない山の中腹。少し歩けば、故郷が見えてくる。幼い頃冒険と称して、ナナミやジョウイと何度か訪れた場所だった。今日はどこで過ごそうか、そう考えていた時にふと頭の中に浮かんだのが、この場所だった。昔、ちょうどこの時期にも訪れたことがあり、その時に木々の緑がとても美しく感じたのを思い出したのだ。本来ならば今は訪れることは叶わない地であるが、こんな山奥に兵を置く程の余裕はハイランドにもないはずであり、ビッキーの転移魔法と鏡の力で、ほんの僅かな時間ならば滞在は可能だろうと判断して今に至る。勿論これが仲間に知られれば大目玉を食らうことは確実なため、こっそりと。
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    よるのなか

    MOURNINGキスブラ。酔っぱらって暴君極まりないブさんです。ブさんが大分いけいけどんどんおかしなことになってます、すみません…キさんを暴君振りで振り回すブさんが急に書きたくなりまして。
    書いててとても楽しかった。
    割増暴君『三十分後、お前の家』
     受信したメッセージには、それだけが表示されていた。理由も状況もさっぱりわからねぇが、とりあえず三十分後に家にいろ、ということだけはわかったから、ディノにそれを告げてオレは自宅へ足を向ける。ちょうどパトロールが終わったところだから三十分後に着けるけど、これタワーで受け取ってたら三十分後に着けるかなんてわからねぇぞ、とそこまで考えて、いや、パトロール中だとわかっていたんだな、と思い直した。あの男のことだ、それくらい把握済みで送った指示なんだろう。
     ぴったり時間通りに着くと、既にブラッドは玄関先に立っていた。
    「……来たか」
     そう言って、オレをじっと睨んでくる。来るなり睨まれても、とオレは思わず後退りしそうになって、それからよくブラッドを観察した。どうも、目が据わっているように見える。なのにどこか覇気がなくて、それから目元や首筋、頬など全体的に妙に赤いような。
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    DONE第8回キスブラワンドロライ
    お題は『年の瀬』でキースの家を大掃除する話。甘々キスブラ

    読み切りですが、続きっぽいものを1日と3日(R18)で書く予定。
    「今日こそはこの部屋を片付ける。貴様の家なのだからキリキリ働け」

    年の瀬が差し迫った12月のある晴れた日の朝。
    キースがまだベッドに懐いていると、部屋まで迎えに来たブラッドに首根っこを捕まえられ強引に引きずりだされた。
    ジュニアの「キースが暴君に攫われる~」という声をどこか遠くに聞きながら、車の後部座席に放り込まれる。車には既に掃除道具を積んであったようで、すべての積み込みが完了すると、ブラッドは急いで車を発進させたのだった。

    「まずはゴミを纏めるぞ」
    家に到着早々ブラッドは床に転がった酒瓶をダンボールに入れ宣言どおりに片付けを開始する。次に空き缶を袋に集めようとしたところで、のそのそとキースがキッチンに入ってきた。
    「やる気になったか」
    寝起きというよりもまだ寝ていたキースをそのまま連れ出したのだから、恰好は部屋着のスウェットのままだし、髪もあちこち跳ねてボサボサだ。
    「まずは顔でも洗ってシャキッとしてこい。その間に俺は……」
    ぼーと歩くキースは、無言のままブラッドの背後を通り越し冷蔵庫の扉を開ける。
    水と缶ビールばかりが詰め込まれた庫内が見え、ブラッドは呆れた溜息を尽く。
    「ま 3484

    ohoshiotsuki

    MAIKING死神ネタでなんか書きたい…と思ってたらだいぶ時間が経っていまして…途中で何を書いているんだ…?って100回くらいなった。何でも許せる方向け。モブ?がめちゃくちゃ喋る。話的に続かないと許されないけど続き書けなかったら許してください(前科あり)いやそっちもこれから頑張る(多分)カプ要素薄くない?いやこれからだからということでちゃんと続き書いてね未来の私…(キャプションだとめちゃくちゃ喋る)
    隙間から細いオレンジ色の空が見える。じんわりと背中が暖かいものに包まれるような感覚。地面に広がっていくオレの血。ははっ…と乾いた笑い声が小さく響いて消える。ここじゃそう簡単に助けは来ないし来たところで多分もう助からない。腹の激痛は熱さに変わりそれは徐々に冷めていく。それと同時にオレは死んでいく…。未練なんて無いと思ってたけどオレの本心はそうでも無いみたいだ。オレが死んだらどんな顔するんだろうな…ディノ、ジェイ、ルーキー共、そしてブラッド―アイツの、顔が、姿が鮮明に思い浮かぶ。今にもお小言が飛んできそうだ。
    …きっとオレはブラッドが好きだったんだ
    だから―
    ―嫌だ、死にたくない。

    こんな時にようやく自覚を持った淡い思いはここで儚い夢のように消えていく…と思われたのだが――
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