アキラが好きだと、自覚はしていた。
いつからだろう。もう覚えてないくらい昔からだ。俺の人生を照らしてくれた眩しい存在。
出会えてよかった、と何度も運命に感謝したくらいには好きだった。
けれど、一生本人に伝えるつもりなんてなかった。片思いでもいいから幼馴染でいたかった。
そばにいれるなら、なんだっていいと思っていた。
だから、寝耳に水だったのだ。
アキラと、まさかレンがくっつくなんて。
照れているのだろう、報告してくれた時の二人のぶっきらぼうな顔。
幼馴染達を眺めながら受けるあの衝撃は生涯忘れることはできないだろう。
がらがらと周りのものが崩れていき真っ暗闇の奈落の底に落ちたと思った時、一緒に報告を受けていた人間の、死んだような視線がなぜか目についた。
俺だけがその意味に気づいた。
俺以外誰も気づき得なかった。
同じ穴の狢だったから。
アドラーも、レンが好きだったのか。
俺は歪んだ笑顔で祝福の言葉をなんとか紡ぐ。
今ちゃんと笑えているだろうか?
隣であいつも仮面のような笑顔で言祝いでいる。
俺たちは、共犯者だった。
本心から祝えてなぞいないくせに。
「アドラー」
俺は、いつものようにノースのルーキー部屋を訪ねる。
「知ってる、二人で出かけたんだろ。レンを起こしたのは俺だからな」
「...ああ」
「で?何の用だ?」
「わかってるだろ。...お前も待ってたくせに」
あの後同志を見つけた俺たちは、お互いの傷を舐め合っているうちに、そういう関係になってしまっていた。
心の隙間と寂しさを紛らわすための、微塵も恋愛感情のかけらもない、身体だけの爛れた関係。
「...どこでする?」
「別にここでいいだろ」
アドラーは自分のベッドを指さした。
「お前、声我慢できるのか?」
「ドクターもマリオンもレンも、帰ってくるのは夜って言ってたしな」
「ふうん」
アドラーを、乱暴に押し倒すと、どさりとベッドが大きく揺れた。手荒に服を剥ぎ取りながら引き締まった筋肉質の体を剥き出しにしていく。
「サカってんなぁ」
「黙れよ」
大きな口を開けてがぶりといい色に灼けた肩に噛みついてやった。
「いてぇな、跡つけんなよバレるだろうが」
「へえ、レンにバレたら困るもんな」
「誰にバレても困るだろお互い」
うるさいな、と苛立ち唇で余計なことを言う口を塞ぎながら乱暴にあいつの髪を握りしめる。
鳶色で柔らかくて細めのそれは、アキラの燃え盛る炎のような硬めの赤毛とは似ても似つかない。
俺は抱きながらいつも違う男のことを考えている。
「似てなくてわりぃな」
アキラの鮮やかな翠色とは違う、緑がかった蒼の双眸がこちらを向いた。
「別に、似てたからって代わりにはならないだろ」
「多少は埋めれるかもしれねぇし」
俺は呆れてため息をつく。
「なら、俺も全く似てないけど」
「そうだな、似ても似つかないよな」
「それでも勃つんだから別に問題はないだろ」
アドラーの股間を触ると、もう硬く怒張したものが主張していた。
「サカってんのはどっちだか」
俺が薄く笑うと、
「自分を棚に上げやがって」
と反対に膨張した俺のものをなぞりあげられた。
もう手順だとかそんなものが面倒になって、俺は自分の服を脱ぎ捨てるとアドラーの後ろの孔にあてがった。
「オイオイそんないきなり、はいらねぇよ」
「レンが出かけた時はいつも準備してるの知ってるんだからな」
ほら、こんなに期待してるくせに。
ローションを少しつけてほぐしただけで、簡単にぐぷぐぷと飲み込んでくれる。
「...っぅあっ...」
「...声、漏れてるぞ」
「いきなり、挿れるからだろ...っ」
俺は無視してグイグイ押し入って中の方まで辿り着くと、どちゅん、と奥に思い切り当てた。
もうアドラーのどこがいいポイントなのか知り尽くしていた。
そこを狙ってごちゅごちゅ当てていくと、前戯もしてないのにアドラーが背中を逸らせながら力強くシーツを握りしめる。
「...っはぁっぅんんっっ」
いつもの低い声が、甘い声に変化していく。
割とその声だけは気に入っていた。
きっとこの声を聴いたことは誰もいない。
もっと聴きたくなって中をぐりぐりかき混ぜながら、放置されていたのにいまだに天に向かって屹立しているアドラーの硬いものをローションをつけた手のひらで包んでしごくと、更に声が柔らかくなっていく。
アキラも、こんな声で啼くのだろうか。
いや、そもそもあの二人はどちらがどちらに挿れるのか。
生々しくて聞いたこともないし、今後も知りたいと思わないけど。
そんなことを考えて油断していたせいで、視界がぐるりと回る。挿れたままアドラーに体勢を反転させられて俺が組み敷かれていた。
「余裕だなぁおい」
アドラーが俺を見下ろしながら意地悪そうに笑うと、騎乗位で激しく動きだす。
重いんだよ、と思いながらその激しいピストン運動に俺も声が漏れてしまった。
「......っは、あっ...」
「ウィルも声漏れてんじゃねえか」
「誰の...せいだと...っ!!」
「はは、誰だろうな」
動くたびにあいつのものが揺れてぶつかる。
それが鬱陶しくてもう一度握ると、
「今は、触るんじゃねえ...っ」
アドラーが顔を歪めた。
根本が締まって中がうねっていく。
残らず搾り取ろうと淫乱な動きで俺を導いていく。
「...っぁあっ、イく...!!」
思わず声に出すと、アドラーが更にぱちゅぱちゅと腰の動きを早めるから、俺はもう耐えきれずに中に最後の一滴まで注ぎ込む。
同時にアドラーからも白いものがびゅるりと飛び散った。
「まさか、中でイッたのか?」
「うるせえな!」
アドラーが俺の顔に枕を押し付けた。
俺たちはやるせなさを押し潰すかのように一瞬だけ強く抱きしめあったあと、すぐ離れる。
これは、恋でも愛でもない。
ただの、情欲だ。
ここには愛情のひとかけらもない。
お互いにわかっていた。
ただすがりあって、薄氷の上でお互いにどこにも行けないまま二人で立ち尽くしているだけだった。