「君はっ、僕を囲って一生離さなければいいんだ!ベッドがふたつ並んだこの部屋に閉じ込めとけばいい。すっごく傲慢な癖してなんで、なんでっ」
「英二」
「うっ、うぅ。なんでよ、なんで僕は日本にかえったんだよぉ」
ぽす、ぽす、とアッシュの胸を緩く握った拳で叩きながらどうしよもなく零れる涙を床に落とした。
「英二、顔を上げて」
「やだ、アッシュのばか、わからずや、」
叩くのをやめないその拳を、その身体をそのままにそっと抱き寄せられ身動きをアッシュに封じられた。困ってるだろうか、面倒くさがっているのだろうか。
「……俺にとって、お前は自分の命よりも大切で、自分の人生よりも遥かに思い通りにならないから」
「なに、いみわかんないよ」
「俺は英二の事がどうしようもない位に好きだってことさ。今も今までもな。だから幸せになって欲しかった。辛い思いはこれ以上させたくなかった。あわよくば俺が幸せにしてあげたかった、ずっと。英二、お前が自分で選んだ道を生きて欲しかった」
「僕は!僕はっ、ずっと前に遠の昔に、アッシュと生きてく覚悟は出来てたよ!銃弾を腹に浴びたって、人質になったって、殺されそうになったって、君の隣に居れるならなんの問題だってないさ!ずっとずっとアッシュといたいって思ってたよ!僕は、うぅっ」
「……すき?」
「好きだよ。大好きだよ。っアッシュ」
「ずっと一緒にいたいよ。えいじ」
「うん」
抱きしめられた腕にぎゅうと力が入って、同時に握った拳の力が抜けて行く。アッシュの匂いに包まれて、同じように彼を抱きしめた。
みっともなく濡れた顔をそのままに胸へと押し付ければ、ドクン、ドクン、と振動が伝わってくる。
「アッシュ……?」
「……」
「なんか喋ってくれよ」
「……」
「アッシュ、君、もしかして」
「…うるせ、」
見上げれば、頬にぽつり、と一滴の温かい雫が落ちてきた。綺麗な瞳が潤んで整った眉が歪められて、赤くなった頬が彼を少し幼くする。
「同じ気持ちだね」
アッシュの頬に手を当てて涙を拭き取ってしまう。どんな表情をしていても魅力的だけどやっぱり、笑っていて欲しい。
ぼす、とベッドに倒れ込めば窓から差し込むオレンジ色の光に埃が照らされて舞う。久しぶりに寝ころぶアッシュが使っていたベッド、そして隣にあるであろう英二が使っていたベッドは月日が経ちすぎている割には誰かが手入れしていたかのように綺麗だった。