あなたと記念日を今年もこの日がやってきてしまった。俺ははあ、と溜息を吐いて、ぼーっと店の外を眺める。どこを見てもカップルカップル、待ち合わせなのかそわそわしてる男、カップル、例外のナンパ野郎……とにかく甘い雰囲気が街を包み、人々は浮足立った様子で恋人へのプレゼントを買い求める。俺はそんな人たちを食い物にする店側の人間だ。もとより恋人などおらず、今日という日に誘いをかけてくれるような親しい人もいない。暇なら店を手伝えと親に駆り出され、よりにもよって恋人たちに人気の観光地、ここガルグ=マク大修道院で菓子を焼く羽目になっている。あーあ、人前でキスするような人種はみんな古の魔法か何かで吹っ飛んでしまえばいいのに。いや、ガルグ=マクでならむしろ大司教様の加護があって、恋人同士はうまく行ってしまうんだろうな。そのご利益が欲しくて、みんなここに来てるんだろうし。
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