音の無い世界で。ある時代の、ある戦場に赴いていた我々は、遡行軍相手に必死に戦っていた。
戦況はあまり芳しくない。撤退も視野にいれていた矢先だった。
「—っ、水心子っ!!」
清磨の声に反応し放たれた弓矢の直撃こそ避けるが、耳を掠めたそこから焼けるような痛みが広がった。何とか歯を食いしばって体制を整えると、最後の一体を清磨が仕留めた様子が見えた。
さすが、清磨だ。
ホッと胸をなでおろす。終わった…。何とか勝てた…。
張りつめていた緊張が解けたところで、ある違和感に気が付いた。
「水心子、大丈夫? 歩けるかい?」
「…、きよ、まろ…」
「ん? どうしたの水心子?」
ハッキリと…ハッキリと見えるのだ。清磨が、僕に向かって”何か”を語りかけているのが。
なのに。
「声が…、いや、音が…聞こえ、ない……」
「え…」
青ざめる清磨が、こちらに駆け寄って来てくれた仲間たちが、何かを言っているのは見えるのに、何も聞き取れない。風の音も、木々の揺れる音も、川のせせらぎも何もかも聞こえない。全くの、無音。
「なん…で…」
今まで経験したことのないこの状況に混乱し、目の前が真っ暗になってしまった。
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目が覚めるとそこは見慣れた天井で、どうやら本丸の、自分の部屋の布団の中にいる事が認識出来た。
…もしかして、夢でもみていたのだろうか…?
そんな思いも、一瞬で消えて無くなった。部屋に入って来た清磨によって。
夢でもなんでもなく、やはり、襖を開ける音も、清磨の声も未だ聞こえないままだった。
落ち込む僕に、清磨は報告書のようなものを見せてくれた。
あの後、僕は倒れてしまって、清磨が抱き抱えて連れて帰ってくれた事。(嬉しいけどちょっと恥ずかしい…)
薬研によると、この耳の聞こえない状況は、あの時に掠めた毒矢の影響だという事。これについては、薬研と主が政府と連絡を取り合ってくれて、薬を作ってくれるらしい。それが出来るまで安静にしていろ、と綴られていた。
「みんなに迷惑を掛けてしまって…情けないな…」
ポロっと零れてしまったこの言葉に、清磨は僕の手をギュッと握って、顔を横に振った。そして、僕の手のひらに文字を書くように、人差し指を滑らせた。
「だ、い、じ、よ、う、ぶ…?」
『大丈夫、すぐに良くなるよ』
そう書き終わった後、また僕の手を握り、にこっと笑ってくれる清磨。
その笑顔に、心がじんわり暖かくなっていって…
「…ありがとう、清磨」
僕は何だか久し振りに笑えた気がした。
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それから二日が経過し、耳が聞こえない状況にも少し慣れて来ていた。みんな、身振り手振り大きなジェスチャーで伝えてくれたり、筆談をしてくれたり。変に腫れ物扱いを受ける事もなく、普段通り接してくれるので気が楽だった。それに…
「き、ょ、う、の、お、や、つ、は…どら焼き!? それは楽しみだなぁ♪」
清磨がいつも傍にいてくれて、手のひらに文字を書いてくれる。何処かに行くときは手を繋いでくれるし、誰かとぶつかりそうになる時は手を引いて抱き寄せてくれたり。
清磨と触れ合う機会が増えて、正直、嬉しかったりもする…。
でも…
(清磨の声…、聞きたいなぁ…)
チラリと清磨の顔を見ると、清磨はいつもの笑顔で返してくれた。
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「…ふぅ」
夜、水心子が眠ったのを見届けてから、一人夜風に当たりに来ていた。一度深呼吸をしてから、ぼぅっと空を見上げる。今日は星があんまり見えないや。
「お疲れかい? 清磨の旦那」
「薬研…。いや、疲れてるって程でもないんだけどね…」
そのまま縁側に腰を下ろし、薬研と薬の進捗状況について話した。もう2,3日で薬も出来上がるだろう、という事に安堵はするんだけど…。
「ちょっと、自己嫌悪してたんだ」
「自己嫌悪?」
「うん…。水心子が辛い状況に苦しんでいるのに、僕ときたら…」
水心子を独占出来る事。ずっと手を繋いで居られる事。水心子が常に僕を頼ってくれる事。普段はあまり見せてくれない不安げな表情や泣きそうになる表情、どれも愛おしくて。
勿論、早く良くなって欲しいと願う事に偽りは無いけれど。何処かで、もう少しこのままでも…と思う事もあって。
「最低、でしょ?」
「何というか…旦那も大概、だな」
隣で薬研は呆れたように苦笑した。
「でも、それくらい大切だって事なんだろ?」
「それは勿論」
「だったら、水心子の旦那が声聞こえるようになったら、自分の本心をちゃんと伝えてやりな」
そう言って、薬研はゆっくり立ち上がってから、手をヒラヒラ振りながら廊下を歩いて行った。
「難しい事、サラッと言うなぁ…」
水心子は大切な親友だ。だからこそ、言えない事だってあるというのに。
ふぅ、と一息吐いてから、僕は水心子の部屋へ戻る。普段は別部屋だが、今はこんな状況だし、一緒の部屋で寝ているのだ。
襖に手を掛けて、ススス…と開けると。
「あ…、清磨…」
「え、水心子、起きて…、っ!?」
勢いよく布団から出て、ギュッと抱き付いてくる水心子。
「すいし…」
「ごめん…、ちょっと、嫌な夢、見て…。ごめん…」
そう言う水心子は、小さく震えていて。
余程、怖い夢でも見たのだろう。
「水心子、大丈夫だよ」
声は聞こえなくても、気持ちが少しでも伝わるように。震える水心子の背中を何度も撫でた。すると少し落ち着いたようで、ゆっくり深呼吸をしてから”ありがとう”と顔を上げた。
安心しきった親友の顔を見て、胸が、ドクンと高鳴る。
(今なら、何を言っても、水心子には聞こえない…)
そんなズルい事が頭を過ってしまって。
言葉が零れてしまった。
「水心子…。好き…。愛してる…」
すると水心子は、ぼすっと僕の胸に顔を埋めた。
え…!? 聞こえてないハズだよね!? と動揺してしまっていると、くぐもった声で”清磨…”と名を呼ばれる。
「あの…、声、は、聞こえなくても…今の…何を言ったかは、分かる、から…///」
「えっ…!? う、嘘…ほんと、に…?」
「うん…/// あの、ね…」
音が聞こえない分、唇の動きを注視する習慣が付いてしまい、ゆっくりとした言葉なら、読唇術で何となく分かるようになったらしい。
さ…さすが水心子…。もう読唇術が出来るようになっていたなんて…。
「え…えっと…その、えぇと…」
何て言ったらいいのか全く分からない…!!
次の言葉を必死に探していると、今まで僕の胸に顔を埋めていた水心子が顔を上げて。
それから
ちゅっ、と柔らかい唇が重なった。
「す…水心、子…?」
「その…。僕も、好き、だから…、清磨の事…。だから、嬉し、くて…///」
「水心子…」
ずっと我慢して来た何かが吹っ切れたような気がして。
堪らず、水心子の唇に嚙みつくようなキスをした。
何度も、何度も。どんどん深くしながら。
「んっ…、ふ…、…んんっ…」
ちゅ…、ちゅっ…と響くリップ音と、漏れ出る水心子の甘い吐息が、どんどん僕の理性を壊していく。
「ごめ…水心子…、も、我慢出来そうにない…」
「…え? なに…?? ぅわっ…!?///」
恐らく聞き取れなかったであろう無防備な水心子を組み敷く。驚いた表情をしていたけど、この後何が起こるか察したようで、恥ずかしそうな表情へと変わった。
「…このまま…いい、かな…?」
水心子の目をしっかりと見て、ちゃんと読唇術で読み取れるように、ゆっくりと口を動かす。じっと口元を見つめていた水心子は、一瞬、緊張したような顔をしたけど、咳払いを一回してから、ふっと笑って、しっかりと頷いてくれた。
「ありがとう水心子。…愛してる」
もう一度水心子に口付けてから、寝間着の着物にゆっくり手を掛ける。普段、湯あみで見慣れているハズなのに、開けさせた着物から見える肌にドキッとする。
水心子の肌って、こんなに白かったっけ…?
つつ…っと水心子の肌に指を滑らせると、ビクッと身体が震えた。
「敏感なんだね、水心子…」
「…え…、何…?」
どうやら、この速度で話す分には、読唇術では聞き取れないらしい。今は部屋の明かりも消してあって、月明かりのみ、というのもあるだろうけど。
「お願いだから、他の人には触れさせないでね」
「え…? えと…、ごめん清磨、もう少しゆっくり喋って…、んあっ!?///」
「ふふ、いいの。水心子は何も聞こえなくて」
僕の醜い独占欲なんて、知らなくていい。きっと、引かれてしまうから。
乳首辺りを指で掠めると、ビクッと身体を震わせて、可愛い声を聞かせてくれた。
良かった…。気持ち良くなってくれてるんだね。
「あっ…、清磨っ…、そこ…だめっ///」
「ふふ、硬くなってきた…。たくさん感じてね、水心子」
硬く勃ち上がってきた乳首を指で弾きながら、片方に舌を這わせた。一際身体を震わせて喘ぐ姿がとても愛おしい。夢中になって吸い付いていると、ふいに水心子の腕が、きゅっと僕に巻き付いた。ふと、水心子の顔に目をやると彼は瞳からぽろぽろと大粒の涙を流していた。
「す…水心子!? えっと…」
「きよ、まろ…、、、ごめ、怖、い…。何も、聞こえない、のに…、身体、だけ、気持ちよく、なって…、、、声、聞きたい、のに…、何で、僕は…こんな時に…」
「あ…」
音が聞こえないこと、都合がいい時だけ利用して、僕は…。
「そうだよね、怖いよね…。水心子、ごめんね」
「きよ、まろ…」
ギュッと水心子を抱き締めて、水心子の呼吸が落ち着くのを待った。
暫くして、水心子の呼吸が落ち着いた事を確認して、水心子の顔を伺う。
「水心子、僕の言うこと、分かる?」
ゆっくりと口を動かすと、水心子は頷いた。それを確認してから、指先で軽く水心子の熱を持ったソレに触れる。ビクッと反応する水心子に、またゆっくりと口を動かした。
「触っても、いい?」
「う、うん…///」
答えを聞いてから、そっと握って、軽く上下させた。あっ、あっ…、と短く声を出しながら、小刻みに震える水心子。
「気持ちいい?」
「う、うん…、気持ち、いい…///」
「良かった。これなら、怖くない、かな…?」
「ん…、清磨の顔、見れて…声、分かる、から…安心、する…///」
「そっか、良かった…」
「ン、あっ…、まっ…、早く、した、ら…だめ…っ///」
「ふふ…、いいよ、我慢しないで…イって?」
「でもっ…、あ、ああぁ…、だ、め…、あ…、放し、て…、んあ…あぁぁぁ…~~っ///」
びゅくびゅくっ、と勢いよく水心子のソレから白濁が飛び出て、べっとりと水心子の肌にも掛かってしまう。勿論、僕にも。
「いっぱい出たね♪」
「う、うぅ…、ごめ、ん…///」
「謝らないで? たくさん気持ち良くなってくれて、嬉しいよ」
「う…/// き、清磨…、そ、その…」
「ん? なぁに水心子?」
水心子は恥ずかしがりながら、押し入れの中の小さな箱を取って来て欲しいと僕に頼んだ。
こんな時にどうしたのだろう?と不思議に思いながらも、言われた通りそれらしき箱を手に取り、水心子の前まで持って来た。そしてそれを、水心子は躊躇いがちに開けた。
「え…っと…。これって…」
箱の中には潤滑油やお香のような物が入っていた。水心子の顔を見やると、照れたような、気まずそうな顔で、ゆっくりと、口を開いた。
「その…。いつかは、清磨と…こういう事をするかも、と思って…、用意、してた…///」
「ほ…本当に…? いい、の…?」
「う、うむ…。僕ばっかり、気持ち良くなるのは、嫌、だ…。清磨にも、気持ち良く、なって欲し、くて…」
「水心子っ!!」
ギュッと抱き締めて、その勢いでまた水心子を押し倒した。
「ゆっくり、するから…、怖かったら、言ってね?」
「…うん、ありがとう…///」
水心子が用意してくれた潤滑油を手に取り、手に落とす。冷たいソレを手で少し温めながら馴染ませて、水心子の後孔へと持って行く。軽く触れると、ビクンッと身体が震えた。
「水心子、挿れるね?」
口元を確認した水心子はきゅっと目を瞑りながら頷いた。そんな様子も可愛いけど、水心子のおでこを軽くデコピンした。
「こぉら、力、抜いて?」
「う…、そ、そうか…、わかった…」
「ん、良い子…。いくよ…?」
つぷ…、と指を入れるが、やはり初めてだとそこはとても狭くて、水心子の顔は痛みに歪んだ。慌てて指を抜こうとしたけど…。
「だい、じょうぶ…、続、けて…?」
「水心子…無理、しちゃダメ、だよ…?」
「ン…、平気…、だから…」
そう言って、無理して笑いかけてくれる水心子に胸がキュッとしながらも、ゆっくり、入口付近で指を出し入れを繰り返した。
何度か繰り返すうちに、水心子も慣れてきたのか、段々と声が甘くなっていく。解れていくソコは、徐々に柔らかくなって、僕の指を奥へと導いていく。ついにはようやく、僕の指の深いところまで飲み込んだ。
「凄いよ水心子…、もうこんなに奥まで入るようになったね…」
「ん…/// も、もう…大丈夫、だから…来て、きよ、まろ…///」
「もう…、そんなの何処で覚えたの…?///」
指を引き抜いて、水心子の細い腰を少し上げて、もうはち切れんばかりの自身を宛がった。
早く、水心子のナカに入りたい…。逸る気持ちを何とか抑えながら、水心子と目を合わせた。
「いくよ?」
しっかりと頷いた水心子を見てから、ゆっくり、自身を進めた。指で慣らした程度なので、やっぱりすごくキツくて、気を抜いたらすぐに達してしまいそうでヤバイ。
きゅうきゅうと締め付けてくるのが凄く気持ちいい…。
ゆっくり、ゆっくり…、水心子の表情を見ながら押し進めていき…ようやく。
「水心子…、全部、挿った、よ…」
「ほんと…? 良かっ、た…」
へにゃん、と笑う水心子がとっても可愛くて。つい、口付けた。
一回だけだと思ったのに、水心子が照れて笑うから、もう一回、もう一回…と増えていって。
「んん…っ、も、もう、清磨!!///」
「ふふ、ごめん…♪ ねぇ、動いても、いい?」
「う、うん…だいじょうぶ…んっ///」
最初はゆっくり…、水心子の声色を聞きながら、徐々に打ち付けるスピードを速くしていって…
「あっ…、あっ…、きよ、まろ…っ、も、もう…っ///」
「うん…、僕も、もぅ…、一緒に…、イこう、ね…///」
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「ん…、んん~~~…」
朝。大きく伸びをして、ぼぅ…っと目を開けた。頭がふわふわする…。
あれ…? あの後、すぐに寝ちゃったんだっけ…?
働かない頭で何とか思い出そうとしていると。
「おはよう、清磨」
その言葉にガバっと布団から起き上がって、声のした方へ顔を向けた。
そんな僕をクスクスと、笑う水心子。
「水心子…、えっと…」
「身体なら、平気だよ」
「えっ!?」
「ふふ、分かるよ、清磨は優しいから、何を言うかくらい」
そう言ってまた、笑う。あまりにもスムーズに会話出来ているので、ふと気になって、声は聞こえているのか尋ねてみたけれど。
「ううん。残念ながらまだ聞こえないんだ。でも、昨日も言ったけど、今くらいの速さで喋ってくれたら、分かるよ。もう明るいから、余計に」
「そっか…。でも、ズルいよ水心子。読唇術、出来るようになったなら、教えてくれたっていいのに」
「えっ…、あ、いや…それは…///」
急にごにょごにょと口ごもる水心子。首を傾げると、水心子は顔を真っ赤にして、小さく、言った。
「だって…、出来る、って言ったら…、手に、文字…書いて、くれなくなる、だろ…?」
「へ…?」
思いがけない可愛らしい返答に、つい口元が緩んでしまう。
可愛い。凄く、可愛い。
「水心子が望むなら、いくらでもしてあげるのに♪」
「恥ずかしい、だろ…、頼むの…。あ…、でも…」
「ん?」
「声が聞こえるようになったら、その…。また、言って、欲しい…。愛してる、って…、清磨の声で、聞き、たい…///」
そんな、可愛いこというものだから。
ギュっと、抱き締めた。
「勿論、たっくさん、言ってあげるからね、水心子」
おわり。