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    ゆうら

    @08yurayuratti22

    主に鯉鶴・うさかど・菊トニ・尾白が好きですが
    かなり雑食
    色々書けていけたらいいな~
    どうぞよろしくです!

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    ゆうら

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    うさかど※現パロ(記憶あり)学生×学芸員(1日目)博物館に勤めてる門倉さんと館長の鶴見さんが学生時代からの親友で、そこに博物館実習生として宇佐美君がやってくるというお話。絶対モメる!楽しそ!読みたい!よし自家発電だ!というノリで書いてます…取りあえず出来たとこまで…
    長編やってみたくて挑戦中/導入の為うさかど要素薄め
    ※博物館関連の設定は、結構曖昧なので予めご了承ください

    #うさかど
    houseFrontage

    博物館のひと(1)

    俺は関東のとある市立博物館で働く学芸員だ。
    俺には物心ついたときから、前世の記憶があった。
    前世で俺は、網走監獄の看守部長だった。
    そして土方さんの一派として金塊争奪戦の最中に身を置いた。
    前世の仲間には、会えてはいない。
    しかし、探すようなことはしていない。
    懐かしむ気持ちはどうしてもあって、博物館に勤めるきっかけも、そこにあるといっても過言じゃなかった。

    若い頃は会いたいと思っていた。
    土方さんには特に…。
    きっかけになればと新選組の事を調べ、学び、大学で研究する程、若い俺はこだわっていたのだと思う。

    彼の出身地でもなければ、活躍した京都でもない。
    はたまた、最後の地とされる北海道でもない。
    関東の東に位置するこの市立博物館で働いているのは、今の俺に残された小さな願望なのかもしれない。

    なお、ここで出会った縁というのは、中々皮肉めいている。
    昔の仲間には会えないのに、何故か元敵側の人間と仕事をしているのだから。

    「門倉さん。今年の博物館実習生のリストです」
    「ありがと。さすが軍曹、仕事が早いね」
    小さな市民博物館だが毎年6日間、学芸員資格取得時に必要な、博物館実習の学生を受け入れている。
    同僚の月島からそのリストを受け取った。
    「その呼び方、やめてください」
    僅かに寄った眉間に、あれ?と思う。
    この男は表情をあまり変えない男だ。
    その男が、何か気になるものを見つけたらしい。
    珍しい月島の姿に笑っていた俺も、3人目の名前に凍り付く。

    ・鯉登音之進
    ・尾形百之助
    ・宇佐美時重

    忘れられようもない。
    前世では部下で、敵で、殺されかけた相手。

    「今年の実習生は3人です。全員館長のゼミ生ですね」
    「あー、そうなんだ」
    この博物館館長の鶴見は、大学で教鞭も取っている歴史学者だ。
    もっと言うなら、俺と出身大学が一緒。
    俺とあの鶴見中尉が、先輩後輩の間柄だぞ?
    今世の俺と彼は腐れ縁と言ってもいいほど付き合いが長い。
    この博物館に勤めるきっかけも、館長の鶴見がきっかけだし…
    それにしても…

    「知りませんでしたか?」
    「うん。ほら、館長あまり大学の話しないし…」
    「そうですね。恐らく館長なりの気づかいだったのではないかと」
    そうかもなぁ、と後ろ頭を掻く。
    鶴見も月島も、前世の記憶がある。
    前世では面識があまり無かったが、宇佐美からの報告に上がってた事もあり、俺の事には直ぐ気づいたらしい。

    そして俺が非常に宇佐美を苦手としている事も。

    「まあ、今回ここを実習先に選んだのも館長目当てみたいですから、あまり気にしなくてもいいのでは?」
    「…そう、なんだけどね…」
    月島は首を傾げる。
    「…何か?」
    「いや…何でもないよ」
    最後に宇佐美と対面した際、俺はあいつに押さえ込まれ、刺青人皮を探していたとはいえ服を剥かれて…
    あの時、誰か人が来たから何とか逃げられたが、もし来なかったらどうなっていたか…。
    この事は流石に2人には言えなかった。
    「私は今回企画展の担当なので、門倉さんに実習生を担当して貰う事になりそうなんですが…」
    「あー…うん。なるほどね。分かったよ」
    実習は基本的に夏休み中だ。
    学生が1週間近く拘束される訳だし無理もない。
    また時期的に、企画展は夏休みの小中学生をターゲットにした物が多く、体験型のイベントも含め、大がかりになることが多い。
    その分、かかりきりになる職員も多いのだ。
    「まあ、企画展の方にも実習生を手伝いに回しますから」
    ため息をつきそうになって飲み込む。
    そもそも俺の事を覚えているとは限らないだろう。
    「ちなみに彼らは覚えてるの?」
    月島は腕を組む。
    「さぁ、私も今世は尾形と宇佐美に直接関わったことないので…。館長に聞いてみては?」
    忙しい館長を捕まえてまで聞くことでは無い。
    「ああ、少なくとも鯉登君は覚えているっぽいよね…」
    彼は鶴見目当てで、この博物館に通っていた事を思いだす。
    凄い崇拝ぶりだもんな。
    「そうですね…」
    月島の顔がどんよりしているのは気のせいでは無いだろう。

    (2)

    実習初日。
    夏の日差しが目を焼くようだ。
    博物館の入口に開館時間の看板を設置している所で、背後から声がかけられた。

    「門倉さん!おはようございます!」

    明るい声で呼びかけられれば、そこには褐色の肌をした青年が立っていた。
    「おはよう鯉登君。久しぶりだね」
    「はい!門倉さんもお元気そうで!」
    ソワソワと周りを窺う。
    「館長?後で皆の様子を見に来ると思うよ」
    「…キェ…ゴホン!そうなんですね!」
    キラキラした目で嬉しそうに頷く好青年の姿に、思わず笑顔になる。

    そんなやり取りの中、その背後から聞き覚えのある声がした。


    「門倉…さん…?」


    ぞくっ、と背筋に冷たい物が走る。
    聞き覚えのある声だった。
    落ち着け、と笑顔を顔に貼り付けたまま、声の方を見る。

    坊主頭に大きな目。
    両頬に配置された特徴的な黒子。
    宇佐美だった。

    「おはよう。宇佐美君かな?」
    「……おはようございます!」

    心なしか、顔が赤くないか?
    あー、夏だもんな。暑いんだろうな。

    鼻息荒いね?
    暑いもんね、うん。

    なんか名前呼ばれた気がするけど、深く考えないでおこう。
    「で、尾形君かな?」
    「はい。…おはようございます」
    ツーブロックでオールバックにした髪型。
    感情の読めない目。
    見事に多種多様な格好良い大学生3人が並ぶ。
    凄い迫力だよねぇ。

    彼らを会議室に案内し、挨拶する。

    「今回、君たちを担当する門倉です。6日間どうぞよろしく」

    目の前に3人の学生が並んで座っている。
    全員史学科の3年で専攻は日本史。
    「まずはこの博物館の概要とか歴史とか話そうと思います。ちなみにここに来たことあるって人は?」
    さっ、と勢いよく上がる浅黒い手。
    尾形と宇佐美は上げていない。
    「そっか、ありがとう。まあ以前に来たことあるかどうかは、評価に繋がったりしないから気にしなくてもいいよ」
    そう告げるように視線を双方に向けると、宇佐美は何故かこちらを穴が開きそうなほど見つめている。
    えぇ、なになに?
    ゴミでもついてる?
    「…あー、じゃあ、始めようかな」
    部屋の明かりを消し、プロジェクターを点けたが、スクリーンにスライドが映し出されない。
    「…あれぇ?」
    後ろに回って確認するが、コンセントは刺さってる。
    スイッチもONになっている。
    首を傾げていると、鯉登が立ち上がりプロジェクターの側面に手をかけた。
    どうやらカバーが着いたままだったらしく、直ぐにスライドが映し出される。
    「あ!ありがとう、鯉登君」
    「いえいえ。というか門倉さんは相変わらずですね」
    何がとはいわないのは、彼なりの優しさだろう。
    そのやり取りをどこか面白くなさそうに見る宇佐美の表情が覗えた。

    スライドと動画で概要を説明した後、館内見学に移る。
    まず常設展示。
    各時代の暮らしぶり、発掘された土器や石のナイフ、地域の特産品の古今…といった展示が続く。
    実習生達は大人しく俺の後をついてくる。
    大学生にはさぞつまらないだろうと思うが、割とそうでもないらしく、キョロキョロ見ていた。
    最後は市の歴史。
    俺が好きな展示だ。
    彼らも史学科の学生ゆえ、特に興味を惹くようだった。

    とある展示に差し掛かった時だった。

    ぴたり、と宇佐美が足を止める。
    そこには大きく引き延ばされた男性の写真があった。



    「土方歳三…」



    呟く声。
    それは確実に俺の耳に届いた。
    そしてこちらへ向けられる視線も。


    …ああ、これは間違いない。
    『覚えている方』だ。


    「日本史を専攻してる君たちには、釈迦に説法だろうけど、この市は甲陽鎮撫隊敗戦後の新選組が本陣を置いた土地なんだ」
    無理矢理宇佐美の視線を切るように、新選組の展示物へ目を向ける。
    「昔は会津入りするまでの中継地点として、駐留が行われたと思われてたんだけどね。貴重な文書が見つかって詳細が分かったのさ。ほら、それだよ」
    展示されている文書を示すと、鯉登と尾形が近づいていく。
    「近藤勇と土方歳三の別れの地というわけだ。実際には1日も一緒にいられなかった事が分かるよ」
    ふと宇佐美の姿が無い事に気づいた。
    展示された古い文書と横の説明文を読み解こうとする2人から離れ、宇佐美を確認しようと振り向く。
    宇佐美は何故か俺の背後に立っており、そのまま話しかけてきた。

    「門倉さんは、新選組がお好きなんですか?」

    それは、どういう意味で聞いているのだろう。
    どう答えたものかと、考えていると、後ろから助け船のように、柔らかく響く声がした。

    「門倉は研究テーマにしていたくらいだからね。好きなんだと思うよ」

    館長の鶴見だった。

    「鶴見さん!」
    鯉登君と宇佐美が駆け寄る。
    尾形はノロノロとその輪に加わる。

    ああ、これなら大丈夫かもしれない。
    ほっと胸をなで下ろす。
    宇佐美は俺に興味を持つはずがない。
    なんたってここには鶴見がいるからな。
    鶴見に対しては、勝手に盾にしてしまって、少し申し訳ない気持ちが生まれる。
    後で飯でも奢ろう。
    「鶴見先生!ここ良い博物館ですね!」
    宇佐美の言葉に鶴見は頷く。
    「そうだろう?市立とはいえ資料も豊富だし、歴史もあるし…」
    館長は話ながら移動し、俺の肩を抱いた。
    「優秀な学芸員もいるしな?」
    「いやいや、そんな……っ」

    実習生達の視線がヤバい。
    三者三様のにらみ方をしてくる。

    カラカラと笑いながらも、館長は肩から手を離そうとしなかった。
    やめてぇ…
    俺で遊ばないでぇ…

    鶴見は人当たりが良く、親切で、頭も良い。
    学生時代は…いや今もか…なまじ見目が良いから、周りから天然たらしとか言われている。
    本人は自覚があるのか無いのかしらないが、振り回される俺の身にもなって欲しい…

    「まだ館内案内中だろう?」
    「はっ、はい!館長はお忙しいでしょうから、後は私にお任せください!」
    盾にはなるが、こんな絡みかたされて針のむしろになるよりマシだ。
    「そうだな。頼むぞ、門倉」
    ぎゅっと肩を握られる。
    …仲よさげな感じにしないで欲しい。
    鶴見に傾倒している学生達から反感をもらうわけにはいかないのだ。
    鶴見の耳元で囁いた。
    「…からかうのはよしてやれよ。皆お前の事、大好きなんだろ?!」
    俺は気づかなかった。
    その様子は一層仲良く見えるだろう事を…
    無情にも、とある一言が爆弾のように落とされる。

    「私と門倉の仲だろう?何が問題なんだ?」

    美丈夫の首が、こてん、と傾げられる。
    ご丁寧に人差し指が顎に添えられて…

    鯉登の猿叫が響く。
    宇佐見の視線が俺に刺さる。
    ギロッと、音が聞こえそうだ。

    こ、殺される!

    尾形といえば、我関せずと展示物を見ていた。

    もう…この人、何とかして…

    (3)

    長い1日だった、ほんとに…。
    午後は博物館資料の受入と登録について講習を行い、収蔵庫の清掃や資料のクリーニングを行って、本日の実習は終了となった。
    始終、宇佐見の視線が刺さりまくってかなり疲れた。

    「あー、疲れたぁ」

    駐輪場で固まった身体を伸ばすように、腕を伸ばす。


    「門倉部長」


    腕を伸ばしたまま身体が固まる。
    暑さのせいではない汗が、背中を伝っていく。
    腕を下ろして、後ろを振り向いた。

    「う、宇佐見君。どうしたのかな?」

    背後にいたのは宇佐美だった。
    実習の終了時間はとっくに過ぎているし、3人共帰ったはずだ。
    しかし、宇佐美はそこにいる。

    「会いたかったです」

    宇佐美が近づく。
    夕暮れの僅かな光が、その輪郭を縁取る。
    宇佐美の手が俺の頬に触れ、そのまま顔が近づいたので、慌てて身を引いた。
    頭を壁にぶつけて思わず蹲る。
    痛む後頭部を押さえながら、宇佐美を見上げた。

    「その反応。やっぱり覚えてらっしゃるんですね、僕のこと」

    「お、覚えてるって…」
    何の事、と言おうとして口を噤む。
    視線を合わせるように宇佐美がしゃがんだ。
    「部長って言われてるのに、否定しないんですもん。相変わらずですね」
    「…あ…あー、うん。そうなるよね」
    ほんと、俺って抜けてるよなぁ…

    伸ばされた手を拒否できなかった。
    喉元を包むように右手が覆う。
    絞めるほどの強さではない。
    でも、逃げる事などできそうもなかった。

    「ねぇ、門倉さん。ちょっとお時間もらえますか?もらえますよね?」

    なにそれ、拒否権ないじゃん。

    「じゃあ門倉さんの家に行きましょう!」
    有無を言わさず俺の自転車のハンドルが奪われた。
    「ちょっとぉ!」
    「はいはい。行きましょうね!聞きたいこと沢山あるので!」
    なんか怒ってない?
    …というか、まてまて、家に上げるのマズくない?
    「っま、まって!ちょっと国道にでればファミレスあるから、そっち行こう!腹も減ったろ?…な?!」
    少し睨まれたが、ここは折れるわけにさいかない。
    「うーん。わかりました。今日はそれで」
    今日も何も、家に上げたくないんですけど…

    ファミレスに入ると、さっさと席につく。
    注文パネルをいつもの癖で「1名様」を押してしまい、慌てて店員さんを呼ぼうとしてしまった。
    「あーもう、大丈夫ですよ。ほら…」
    ちゃっちゃと画面を戻し、適当に注文する。
    ドリンクバーから飲み物取ってきた所で、宇佐美が口を開いた。
    「さてと、取りあえず料理来る前にいくつか聞いてもいいですか?」
    ストローを咥えながら、頬杖をついた。
    「…何が聞きたいんだよ」

    ヒヤリとした視線が向けられる。
    あ、なんか、1番に聞いておきたい重要事項なんだろうと直感した。


    「鶴見さんとは、どういうご関係なんですか?」


    なるほど…聞きたいことはそれか。

    「僕は物心ついた時から前世の記憶がありまして、1番に思ったのは鶴見さんの事です。絶対に見つけてみせると思って生きてきました」

    大学教授である事。
    市立博物館の館長をしている事。
    独身である事。
    その他諸々…調べて、彼のいる大学に入学した事。

    「鶴見さんのゼミ生になって、博物館館長だっていうから、取るつもり無かった学芸員の単位取って。さぁ実習だと思ったら、まさかの門倉部長でしょ?」

    にっこりと笑うが、目が笑ってない。

    「ちなみに門倉部長の事もついでに探してましたよ?心残りがあったので」
    「心残り?」
    「ああ、それはいいんです。会えましたから…これから詰めていけばいい話ですので」
    何のことだろ…怖いんだけど…
    「今思えば、鶴見さんが隠してたんですかね?おかしいですよね。僕、門倉部長に会いたいなって言ったんですよ?で…今日、お二人の親密さを見せつけられた訳です。さ、教えてください。どういうご関係なんですか?」
    一気に話して「はい、どうぞ」と言わんばかりにこちらを見つめる。

    俺は考えた。
    宇佐美の鶴見への感情については正直、恐ろしいほどの敬愛と、ある種の狂気を感じる。
    鶴見のために生き、鶴見のために死ぬような…。
    もっともまだ二十歳そこらの若者故に、前世の記憶や感情に、かなり同調しているのだろう。
    かつての俺のように。

    で、だ。
    ここで俺はどう答えるのが正解なのだろう。
    知人?
    間違ってないけど、それだと弱い…
    じゃあ友人…
    あってるけど、それもちょっと違う気がする。
    腐れ縁?
    『鶴見さんと腐った縁で結ばないでください!』とか言いそう。
    ここで適当な事を言うと後が怖いし、照れくさいけど、正直に言うなら…

    「あー、俺と鶴見…さんは、大学時代からの…20年来の親友だな。うん」

    だって今や立場が違うのに、未だに飲み行ったり、一緒に出かけたりするもんなぁ…
    なんか今世の俺と鶴見は気が合うんだよな。

    「親友…」

    その言葉を何度も繰り返す宇佐美。
    納得できたのだろうか。
    タイミング良く料理が来たので、それを食べながら様子を窺う。
    結局無言のまま食べ終わり、お互い食後のコーヒーを飲んでいると、宇佐美が口を開いた。
    「うちの大学で、鶴見さんについて噂があるんです」
    「噂?」
    まあ年食ってるとはいえ、いい男だし人気もあるんだろう。
    噂も沢山されてそうだ。
    「鶴見さんが独身なのは、大学時代からの親友を恋い慕っていて、今もその人が忘れられないから…とかいう、荒唐無稽な噂です」
    「ふーん」
    ジロッ、と大きな目がこちらを睨む。

    「ふーんじゃないですよ。状況からしてアナタの事でしょ?!」
    「ぶふぅ!!??」

    俺は思わずコーヒーを吹いた。
    汚いなと言いつつ、宇佐美がおしぼりで卓上を拭く。
    「ごめぇん…」
    「もー、真面目な話が台無しじゃないですか!」
    噂話が真面目な話なのか?と思ったが、黙っておいた。
    …宇佐美には真面目な話だよな、きっと。
    「ないない、俺と鶴見……さんだぞ?」
    つい癖で鶴見と呼びつけしそうになる。
    その度、宇佐美の殺意に満ちた視線が刺さるのだ。
    「それに…」
    言いかけて止まる。
    長い付き合いだから当然、鶴見が独身な理由を知っているが、プライベートな話だ。
    流石に本人の了承もなく喋る訳にはいかない。
    「それに……なんです?」
    「何でもないよ。とにかくそういった事は絶対に無い!」
    「……そう、ですか」
    少し冷たい雰囲気が薄まったような気がする。
    「ところで門倉さん、ご結婚は?」
    「今は1人だよ」
    「…今は?」
    バツがついてるという意味で、両の指を交差してみせる。
    「あー、なるほど。それなら遠慮無くいけるな…」

    …遠慮無く…何されるの?俺。

    「ほら、明日も実習だろ。とっとと帰れ」
    レシートを手にして立ち上がる。
    「あ、割り勘で」
    「いいよ、これくらい」
    「…駄目です。この程度で借りを作りたくありません」
    なんだかな~。
    思わず笑う。
    「なんですか?」
    ムッとしてこちらを睨む。
    「いや、何でも」
    その考え方は若くて、かわいいなと思った。
    今日が俺の命日になるのは困るので、言わないけど。

    (4)

    懐かしい夢を見た。

    昔通っていた大学のキャンパス。
    古い図書館のキャビネット。
    幾つもの本と格闘しながら、ノートへ書き留めていく日々。
    「君、ちょっといいかな」
    良く響くテノール。
    声の方を見れば、恐ろしく顔の整った男が立っていた。
    知り合いではない。
    「なに?」
    「もし問題がなければ、それ読ませて貰ってもいいかな?」
    何冊も積み重なった本を指さす。
    「ああ、ごめん。独占しちゃって」
    どうぞ、と立ち上がれば、男はにっこりと笑う。
    「ありがとう。助かるよ」
    上から3冊目の本を取る時に、ノートが目に入ったらしい。
    「これ…」
    「あ、ああ。ちょっと新選組に興味があって…」
    そう答えれば彼は少し考えて口を開く。
    「見てもいいかな?」
    「いいよ」
    白く長い指が俺のキャンパスノートを取る。
    人に自分の書いた文字を見られるのは少し気恥ずかしかった。
    「凄い情報量だね。卒論も新選組関係にするのかな?」
    「まぁ、そのつもりかな」
    「そうか。今から準備してるのか?」
    「そういったわけじゃなくて…えっと…単純に興味があるからかな」
    そうか、と彼は頷く。
    「ああ名乗りもしないで申し訳ない。鶴見といいます」
    「あ、俺は門倉です」
    つられて自己紹介していた。
    改めて鶴見を見る。
    艶のある髪を後ろに撫でつけている為、額が綺麗に見える。
    眼鏡をしているが、その奥に切れ長の目が見えた。
    近寄りがたい美形だな。
    俺とはタイプがかなり違う。
    だが気になる…

    遠い記憶の琴線に何かが触れるのを感じる。
    …いや、まさかな。

    チラッと、鶴見が持っている本に目が留まる。
    幕末から明治にかけての軍事関連に関する本ようだ。
    …何とも言えない既視感を覚える。
    「鶴見は軍事関連の歴史に興味があるのか?」
    「ああ、私も単純に興味があってね。大学に入学したのも、こういった歴史関連の蔵書数に惹かれたからなんだ」
    「そうなのか、俺も似たようなものだよ。鶴見は1年か?」
    「ああ、君は先輩だったかな?」
    「いちよう3年。だけどいいよ敬語とか使わなくて」
    鶴見は少し考えて、頷いた。
    「わかった。よろしく門倉」
    「ああ、よろしく」
    手元の俺のノートを裏返し、じっと見つめる。

    「門倉利運……」
    そして俺が集めた図書を見つめる。

    鶴見は、俺の名前を凝視している。
    「どうかしたか?」
    「君は…」
    こちらを観察するように見られて居心地が悪い。
    頭のどこかで、予感めいたものを感じる。
    胸がざわめく。
    今世もあまり運のいい方ではない。
    それ故ある種、感のような物が働く。

    だが、何故かこの男に関わらない方がいい…とは思わなかった。

    鶴見は少し考えてから口を開く。

    「不思議なんだが、何故が聞かねばならない気がする。違っていたら笑い飛ばしてくれていい…」

    肩に手を置かれ、秘密の話をするように耳元で囁かれた。


    「もしかして、君は網走監獄の門倉看守部長か?」


    ぞくりとした。
    ああ、そういう事か…

    「な…なんのことか…」

    思わず否定してしまったが、こんな動揺していたら意味が無いだろう。
    誰だか知らないが、前世の俺を知っている。
    …なら、今世の土方さん達を知っているかもしれない。

    でも、待て。
    …鶴見?

    明治時代の軍事関係に興味がある男。
    俺の知っている鶴見という人物は…


    「まさか…鶴見って…日本陸軍第7師団の鶴見中尉?」


    顎に人差し指を添えて、にやりと笑う。
    とても美しい所作なのに、何とも言えない恐ろしさがあった。
    「鶴見篤四郎だ。そんなに警戒しないでくれないか。今の私はただの学生ですよ、門倉先輩」

    初めて会えた前世からの関係者が、よりにもよって鶴見だなんて…

    しかし、その何とも畏まった言い方に、何故か気が抜ける。
    俺は肩をすくめて言った。
    「おいおい、敬語はなしにしようって言ったろ?お互い今は、ただの学生なんだから」
    ほら、と隣の席を勧める。
    鶴見は少し目を見開いて、俺を観察しているように感じた。
    そして小さく笑うと、大人しく座る。
    「で?何を調べてんの?」
    先程起きた出来事を俺は単純に、こんな偶然があるなんて凄いとは思った。
    だが、今の俺に関係あるか?とも思った。
    だって前世では敵側の指揮官とはいえ、今は大学の後輩だ。
    「…気にならないのか?」
    俺の様子に少し驚いているようだ。
    「んー、気にならないわけじゃないけど、昔は昔、今は今だろ?前世じゃそんなに面識ないし?こうして会ったのも何かの縁。まぁ仲良く…は無理だとしてもさ。同じ学び舎の大学生として付き合うのは、やぶさかじゃないから…」
    鶴見はふふ、と笑った。

    「…なるほど…」

    「んー?」
    鶴見は首を振る。
    「いいや…そうだな。俺も門倉とは仲良くなりたいと思うよ」
    「えぇ~?仲良くなるの決まってるのぉ?…まぁ、いいけどよ」

    それが鶴見との出会いだった。

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