酒と月と用を終えて自宅に帰ろうとしていた日暮れ時、携帯の画面に一件の通知が入っていた。
送信者は銀時だった。
『夕方待ち合わせしろよ』
場所も書いていない不親切な一言。
だがそれだけでどこに行けばいいのかわかっちまう自分が笑えて表情が緩んだ。
『もうすぐ着くから待ってろ』
そう返信した後、目的の場所へ向かって歩き出した。
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「それでよー、その依頼主と来たら草むしりも追加でーとか言い出しやがってさ」
半分愚痴のような銀時の話を聞きながら目の前のおでんをつつく。
ここは屋台の居酒屋。
銀時と合流し、少し歩いたところで目に入った屋台だ。
「何でも屋やってんだろ。追加料金貰えるならいいじゃねェか」
「貰ったけど、終わった後追加料金の話したら嫌な顔しやがったんだぜ」
「草むしりの話された時に追加料金くれるならやるって伝えときゃ済む話だろ」
「あー、確かに」
「話術とそのタイミングってのも大事なモンだぜ」
そう言いながら猪口の酒を飲み干す。
「そうやって食い繋いでたテロリストだもんな、お前」
「もうテロはやってねェ」
話題が切れたところで銀時がおでんを食い終える。
俺の皿もちょうど平らになった。
「さて、そろそろ行くか」
「あァ」
「オヤジ、勘定置いとくぜ」
そう言って机に金を置くと、毎度!と言う声が聞こえた。
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その後。
このまま互いの居場所に帰るのかと思いきや、銀時からもうちょい付き合えよと言われ、川沿いを並んで歩く。
川の水面にゆらゆらと輝くものが映っている。空を見上げると真丸の月が浮かんでいた。
「今日は満月か」
「そういや今朝結野アナが言ってたな」
少し酔っているのか、ふらついた足取りで前を歩く銀時の背中を見る。
銀時と共にこんな景色見るのはいつぶりだったか。思い返せば戦争中か。あれから色んなものを背負ってきたであろう背中は少し大きく見える。
けど、こいつが何にでも堪えられる程強いわけじゃないってところは昔も今も変わらねェな。
そう思ったと同時に目の前でふらついて転びそうになった銀時を咄嗟に支えた。
「あぶねェ」
「わっ、と」
体が触れ合って一瞬目が合ったが、すぐにそらされる。
「何照れてんだ」
思った事を言ってやると、顔を赤くした銀時がはバッと音がしそうな勢いでこっちを見る。
「照れてねーよ!」
照れてますって顔に書いてあるような表情で否定されてもなァ……と思ったが、逆撫でしそうだからやめておいた。こんなところで言い合ったってしょうがねェ。
「なあ銀時」
「んー?」
「こうやって月眺めて歩くのもいいもんだな」
そう言いながら銀時に笑いかけると、一瞬目を見開いたがすぐに元の表情に戻る銀時。
「あー……お前、風情とか大事にするヤツだもんね」
ガシガシと頭をかく銀時の腕を掴む。
「違ェ」
「え?」
「月は二の次だ。お前と一緒に歩くのもいいもんだって言ってる」
そう言って反応を待つ。
「何なのお前……恥ずかしいヤツ」
「伝わらねェなら何度でも言ってやろうかァ?」
「いや、いい、伝わったからもういい」
慌てて断る銀時を見て笑う。
そしてしばらく無言で歩いていると、互いの家の分岐点に近づいてきた。
すると前を歩いていた銀時が体ごと振り返る。
「それで、お前はこっちに行くの?……それともあっち?」
こっちと言われた方は俺の家の方角。
あっちと言われた方は路地裏。抜けた先には繁華街がある。
「こっちだったら、テメェは着いてくんのか?」
「なわけねぇじゃん。あっちだったら考える」
全く、変な誘い方をしやがる……
けど誘ってくるって事は乗り気だって事だ。
そう思うと口角が上がる。
「なら、答えは一択だな」
そう言って銀時の腕を掴み、あっちの方へ進んだ。
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綺麗な満月を見て何か書きたいなと思って書き始めたのですが、終わりが浮かばず、なかなか終われなかったお話でした。。
あと雑に呼び出してその辺の屋台で飲んで語り合うような、普通の生活をしてる二人がたくさん見たいです。