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    赤黒 12人の彼氏と黒子

    赤司 AM12棋士の場合 十二時

     外は相変わらずの大雨で、未だ止む気配を見せなかった。鬱陶しい湿気に嫌気が刺しながらも、雨自体は嫌いでは無かった。こうして休みの日にゆっくりとベッドでゴロゴロできるのも、昔を思えばずいぶんと時間の流れがゆったりしているし、それに、傍には愛おしい恋人がくっ付いている。なんとも贅沢な昼下がりなのだろう。
     腕に巻き付く黒子の頭を撫でてやると、くぐもった声でトイレですか、と思わぬ返事が返ってくる。
    「違うよ。ただ撫でたくなっただけだ」
    「そうですか……。いいですよ、撫でても。許可します」
    「お前を撫でるのに許可がいるのは知らなかったな」
    「今思い付きましたので。赤司君だけ、特別です」
     黒子はまだ眠たいのか、オレの腕に頭を押し付ける。絡まった腕はまだ離してくれそうにない。まるで猫のような仕草に、今度は顎を撫でてやると、小さな声で唸り始めた。
    「どうした、お気に召さなかったか?」
    「あ、聞こえましたか? ふふ、昔飼っていた猫になりきってみました」
    「……そう。オレはまた怒らせたかと思ったよ。というより、怒ってる?」
     顎から耳、それから首筋に指を滑らせる。今度は唸られずむしろ擦り寄られた。それはまるでご機嫌をとっているように見えて、ますます自分の言葉が真実味を増している気がした。
    「ボクはそんな短気に見えますか?」
    「短気というより、手が早いかな。少し心配だよ。お願いだから、オレの知らない所で怪我だけはするな」
    「それは……ボクだってもう大人ですから、昔みたいな事はしませんけど。でもキミも大概ですよね」
    「……そこは否定しておくよ。それより、何も食べなくて平気か?」
    「お腹空きましたか?」
    「質問を質問で返すんじゃない」
     指は胸を通りすぎ、臍に到達したところで黒子に変化はない。昔より筋肉も落ち、腹筋も薄い腹部を指で撫でながら、もっと下へいこうとして止められた。こういう時の反応は早いのだ。
    「お腹は空いてないです。でも、これ以上はダメです。めっ、ですよ赤司君」
    「理由は」
    「言わせるんですか?」
    「聞きたいな、どうしてダメなのか。オレは保育園に通うような子供ではないよ」
     正直、黒子に怒られるのが嬉しくてわざとしているところがある。けれど、本人はオレの思惑など気付いていない。本気で子供を叱るように頰を膨らませていた。
    「キミ、時々意地悪ですよね」
    「うん。好きな子には意地悪したくなるだろ?」
    「好きな子なら手加減してください。ボクお尻が痛いです」
     恨めしそうな顔で睨まれるけれど、可愛いとしか思えなかった。言ったら怒られそうだし、言わないけど。
     そもそも手加減など出来るはずがないのだ。時間を気にしなくても良いし、家人に気を使わなくても良い。学生の頃より遥かに自由になった社会人で、こうして黒子に制限なく触れられる。それは何より楽しくて幸せで、色んなことをしたくなってしまうのは、仕方がない事だと思うのだが、どうやら今回は本当にやり過ぎてしまったらしい。いつもよりご機嫌斜めな恋人は、あれだけオレを求めたというのに、起きたら全てオレのせいにして。そこもまぁ、可愛いのだけれど。
    「次からは手加減する。約束する」
    「赤司君。その言葉を聞いたのは両手じゃ足りません」
    「そうかな? ごめん、覚えてないな」
    「都合が悪くなると惚けますよね」
    「だって仕方がないじゃないか。可愛いお前が悪い」
    「ボクのせいですか?」
     黒子は驚いて目をカッ開く。
     昔より格段に表情が増えてくるくる変わり、意外と表情豊かなかつてのシックスマンは、影はどうしようもなく薄いけれど、オレだけが知ってあれさえすればいい。
    「黒子はかっこ良くて可愛くて、オレはお前を好きになってよかったって思うよ」
    「褒めても、無駄ですよ?」
    「そう? 顔が少し赤くなったみたいだけどか
    「気のせいです。もう、いい加減にしてください。罰としてお昼ご飯お願いします」
    「おや。お腹すいてないんじゃなかったのか?」
     絡んでいた腕が解けて、自由になる。少しだけ寂しくもあるが、これ以上本気で怒らせると少しだけ面倒だ。
     本音としてはもっとくっ付いて戯れ合いたかった。しかし、時計を見ればそろそろ昼を過ぎようとしていた。
    「キミと話してたらお腹が空いてきました。ボクが喜びそうなのを一つお願いします」
    「いいよ。ただ、オレが作るからには残すなよ」
    「えっ、あっ」
    「ここ最近あまり食べていなかっただろう? この機会にたくさん食べてもらおう。腕によりをかけるよ」
    「あの、やっぱりボクも一緒に……」
    「お前は身体が不調なのだろう? いいよ、寝ていて。できたら起こしてやる」
     ちゅ、っと合図のようにひたいに口付けると、オレはベッドからするりと抜け出して、後ろで騒ぐ黒子をよそにキッチンへ向かった。
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