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    緑黒 12人の彼氏と黒子

    緑黒医師の場合 十四時

    「……何をしているのだよ」
     いつの間にか寝ていたらしい。モヤのかかった頭が覚醒に近づくにつれ、意識もはっきりとする。同時に、ゆっくりと目を開ければ、目の前には何を考えているのかわからない目がこちらを見ているのがぼんやりと見えた。
     そして、何度か瞬きをして、視界が少しクリアになるにつれて、その姿に一瞬これは夢なのかと思った。
    「あ、起こしてしまいましたか。すみません」
    「いや、ちょうど今目が覚めた。お前のせいではないのだよ。それより、オレのメガネで何をしている」
     今度ははっきりと指摘してやれば、二、三度瞬きをして、首を傾げる。そして、今更気がついたように、あぁ、と言ってメガネを押し上げた。
    「どんなものなのかかけて見たくなって。緑間君、本当に目が悪かったんですね。ボクが掛けるとクラクラします」
    「当たり前なのだよ。でなければ掛けないだろう。あまり掛けない方がいいのだよ」
    「どのくらい見えてるんですか? ボクの顔見えてますか?」
    「お前はオレを馬鹿にしているのか。このくらいの距離ならわかる」
    「なるほど。では、離れたら見えなくなるんですね」
    「おい、黒子。貴様良い加減に」
     馬乗りになっていた黒子は、メガネをかけたまま状態を起こし、その距離をとった。寝ているオレからは、顔はぼんやりとしてはっきりとした表情はそこに人がいる程度だ。部屋も薄暗く、それが余計に輪郭をぼやけさせる。そういった冗談にほんの少しだけ腹が立ったオレは、腹筋を使い起き上がって間合いを詰めると、思いの外詰め過ぎたのか、鼻先が触れるほどの距離まで近くなってしまい、黒子は大きな目をより一層見開いたまま後ろに倒れそうになった。
    「わっ、」
    「しっかりするのだよ」
     咄嗟に手を伸ばし、抱き止めてやると黒子の着ている服装にも違和感を感じた。どこかゆったりというよりはぶかぶかでサイズが合っていない。つまり――。
    「あ、気が付きましたか」
     オレの視線に気づいたのか、黒子は何重にもまくった袖を見せつけ、これもキミのですよ、と悪びれた様子もなく言ってのけた。
    「一体何がしたいのだよ」
    「えっと、ボクの服が見当たらなくて、緑間君のを借りてみました」
    「全くお前は……。自分で脱いだ場所もわからないのか」
    「いえ、キミが脱がせてくれたので」
    「……すまない。すっかり忘れていた」
     夜勤明けで家に帰ったのは午前中だった。そして、そのままなし崩しにそういう事をして、終わってベッドに突っ伏したのは二時間ほど前のこと。今更気がついたが、何も着ていなかった。
    「思い出してくれたのなら構いません。あの、ボクお腹が空いてしまって。それで、着る物がないのでこのままキミの服を借りようと思うのですが」
    「仕方がないのだよ。そのまま着ていけばいい」
    「ありがとうございます。裸エプロンにならずにすみます」
    「はだっ、裸エプロン……?」
     一瞬、その姿を想像してしまい、すぐに打ち消した。そんな破廉恥な姿、黒子にはさせられない。
    「緑間君、変な想像しないでください。めっ、ですよ?」
    「していないのだよ! さっさと行ってこい! お前の服はソファにでも転がってるはずだ」
    「わかりました。見てきます。あ、これ返しますね」
     そう言ってベッドを降りた黒子の手でメガネが装着されると、ようやく視界がクリアになる。
     今着ているオレの服も意外と似合っていて、思わずまじまじと見てしまう。少しはだけた胸元からは赤い跡が見え隠れするし、太ももまである丈が余計に想像力を掻き立てられる。だが、いくら室内とはいえ下着すら履かないのは身体を冷やすし良くないだろう。黒子のことだから、もし探して見つからなければ着なくても良いという選択肢を取るかもしれない。それはまずい。行って一緒に探してやらねば。
    「あの、緑間君?」
    「ん? どうした」
     後を追うべくベッドから降り、布団を整えていると服を探しに行った黒子がひょっこりと顔を出した。
     その手にはオレが脱がした黒子の服があり、自力で見つけられたことに安堵する。
     しかし、黒子はオレの顔をじっと見たまま、何か言いたげな表情でこちらを伺っていて、その意図を汲むことができず首を傾げた。
    「何か言いたいことがあるのか?」
     何事もはっきりさせたいオレは、ついいつもの調子で口を挟む。しかし、黒子は動ぜず、上目遣いでぽつりと。
    「その、もしキミさえよかったら一緒にお風呂入りませんか?」
     それは、いつにない黒子からの誘いで、つまりそういう事なのだと頭で瞬時に判断した。今日はこれから予定もなく、恋人とゆっくり肌を合わせるのも悪くはない。
    「良いだろう。今日のラッキーアイテムはバスボムなのだよ」






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