チョコなんて食べなきゃよかった「今日はパパもママも出かけてるから、気兼ねなく楽しんでー」
休日の午後、クラスメイトの家に集まったのは、男女あわせて10人ほど。広めのリビングで音楽を流しながら、ボードゲームやおしゃべりを楽しむカジュアルなホームパーティ。どこかアメリカの郊外らしい、自由で気取らない空気が流れていた。
スティーブは、少し離れた場所で女の子たちに囲まれていた。生徒会のメンバーで、学業優秀、まっすぐで誠実なスティーブは自然と注目の的になる。
一方、バッキーはソファに深く腰を下ろし、飲み物を手にしながらその様子を見つめていた。
(…アイツ、モテモテじゃねぇか)
口元を歪めて笑ってみせるけれど、心の奥がじんわりとざわついているのが分かった。プライベートな顔をほとんど見せないスティーブ。だけど、バッキーは知っている。寮での素のスティーブ、くだらないことで拗ねるときの顔、真面目すぎて冗談が通じないところ――
(何イラついてんだよ俺…いいことじゃねえか、みんなに好かれて)
モヤモヤを誤魔化すように、バッキーはテーブルの上にあったチョコレートをつまんだ。
「……うまっ」
気がつけば、手が止まらない。少し洋酒の香りがする、濃厚な大人の味。だが数十分後、顔が赤くなり始めた。
「……ちょっと、気分悪いかも…」
立ち上がろうとしたバッキーの視界が、ゆらりと揺れる。その場に座り込んだ彼のもとに、クラスメイトの女の子たちが駆け寄る。
「バッキー!?大丈夫?顔真っ赤だよ!」
「ちょっと、そのチョコ、洋酒入ってるやつだったかも…!」
スティーブが騒ぎに気づいたのはそのときだった。
「バッキー!?」
すぐに駆け寄り、しゃがみ込んでバッキーの肩を抱く。
「大丈夫か!?どこか痛むか?」
「うるせぇな…大丈夫だ。ちょっと酔っただけだ…」
「そのチョコ、私が持ってきたやつだったかもしれない…ごめん、バッキー……」
スティーブの眉が痛々しいほどに寄る。クラスメイトも心配して声をかけるが、バッキーは手を振ってそれを制した。
「気にすんなよ、俺は平気だ――」
「バッキー、寮に戻ろう。君を一人にはできない」
「…ったく、心配しすぎなんだよ。俺は大丈夫だっつーの」
そう言いながらも、立ち上がることすらおぼつかない。
結局、スティーブはバッキーを背中に担いで、パーティーを後にすることになった。
「おい、降ろせってば!恥ずかしいっつの!」
「歩けないんだから、仕方ないだろ」
「クソ…お前、ほんと真面目すぎ……」
頬を赤らめながら、ぶつぶつと文句を言うバッキー。その背中越しに感じるスティーブの体温と匂いに、少しだけ気持ちが落ち着いていくのを感じていた。
(……なんだよ、これ)
帰り道、夕暮れの風がふたりの間をそっと吹き抜けていく。
バッキーは自分でもよく分からない感情に戸惑いながら、スティーブの肩に額を預けた。