Recent Search
    Create an account to bookmark works.
    Sign Up, Sign In

    ちまき

    @kinako_eg

    ☆quiet follow Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 18

    ちまき

    ☆quiet follow

    ステバキ。学パロ。14話
    片思いスティーブ×無自覚バッキー
    (途中からでも読めます。)

    【映画の前にカフェに立寄る二人】

    #stucky
    #ステバキ
    stevaki

    味のしないコーヒー映画の上映は夕方からだったけど、待ち合わせは少し早めに駅前。
    スティーブの提案だった。

    「上映前にどっかでコーヒーでも飲もう」って。

    別に断る理由もなかったし、正直、自分でもこの日をちょっと楽しみにしていた。

    冬休みが終わって、また寮に戻ってきて。
    毎日顔を合わせて話してるのに――
    なんだろうな、この気持ち。


    (ただ親友と、映画観に行くだけだろ)


    心の中で何度目かの自己ツッコミをしてから、集合場所へと足を運ぶ。


    すると――

    「あっ、バッキー!」

    駅前で手を振って待っていたスティーブは、優しげなキャラメル色をしたコートを着ていて、首にはあの日、自分が贈ったマフラーを巻いていた。


    (……気に入ってくれて本当によかった)

    胸の奥が、少しだけ、ほんの少しだけあったかくなる。


    「ごめん、待ったか?」
    「いや、今来たとこ」

    たわいもないやりとりのはずなのに、なんだかスティーブの顔をまともに見られなかった。
    マフラーの赤いラインが、やけに目に焼き付く。

    それから並んで歩いて、近くの小さなカフェに入る。





    ━━━━━━━━━━━━━━━

    カフェの奥、木目調の落ち着いたテーブル席。
    スティーブとバッキーは向かい合って座り、それぞれカップに口をつけた。立ち上る湯気と、店内に流れる静かなジャズ。外の寒さとは対照的な、あたたかな時間だった。


    「やっぱり美味いな、ここのコーヒー」

    スティーブがそう言って、にこっと笑う。その笑顔が、なんとなく眩しくて、バッキーは少し目を逸らした。

    「……ああ、そうだな」


    心なしかぎこちない返事になったのは、自覚している。けれど、それ以上何も言えなかった。ふたりきりでこんな洒落た店に入るなんて、なんだかいつもと違う気がして。しかも、周囲の席にはカップルらしき客がちらほらと見える。

    (スティーブ、こんなとこ来るなら、ペギーと来た方が良かったんじゃないか…?)

    不意に、そんな事を考えた。


    「なあ、スティーブ。……お前、ペギーと来た方がよかったんじゃねえのか? こういう店、あいつの方が似合うだろ」

    スティーブはきょとんと目を瞬かせてから、首を傾げた。

    「え? なんでペギーが出てくるんだ?」

    そしてすぐに、思い出したように言葉を継ぐ。

    「……ああ、まあ、たしかに彼女もこういう店好きそうだけど。でも今日は、バッキーと来たかったからさ」

    その言葉に、バッキーは返す言葉を一瞬失った。視線を落としたカップの中に、コーヒーの黒が深く広がっている。


    (まただ。……なんか、スティーブのこういうとこ、ズルい)

    そんな風に思ってしまうのが、少しだけ悔しかった。


    そのとき。

    カフェの扉が開いて、冷たい外気がふわりと入り込んだ。その向こうから、賑やかな笑い声とともに、数人の女子が入ってくる。
    ふわふわのマフラーにロングコート、ダウンジャケット。冬らしい私服に身を包んだ彼女たちの中の一人が、スティーブたちに気づいて、ぱっと手を振った。

    「あら、バッキー!スティーブも!こんなとこで会うなんて!」

    「やあ」
    スティーブが笑顔で手を振り返す。

    「ここ、人気だって聞いてたけど、君たちも来てたんだね。」

    「うん、ちょうど今から公園に行こうって話してて。良かったら一緒にどう? 公園から見る夕日が綺麗で雰囲気あるよ」

     その誘いに、スティーブはふっと笑って、軽く首を振った。

    「ごめん。いまから、バッキーと映画デートなんだ」

    さらりと。あまりにも自然に。

    「……っ」

    バッキーの手がわずかにテーブルの下で動いた。驚きと戸惑いが混じったその目は、思わずスティーブを見た。けれど当の本人はニコニコしたままで、悪びれた様子はない。

    「なっ……」
    喉の奥で声にならない言葉が引っかかる。

    女子たちはその冗談を笑って受け取った。

    「あら、それはお邪魔しちゃったわね。ごめんなさいね! デート、楽しんで」

    にこやかに手を振って去っていくクラスメイトたち。

    スティーブも笑顔で手を振る。
    バッキーも慌てて手を振り返したけど、その動きはどこかぎこちなかった。


    「そろそろ、僕たちも出ようか」
    立ち上がったスティーブの声に、バッキーは頷いた。


    胸の奥がざわついていた。

    “デート”って、冗談だ。わかってる。
    けど、そう呼ばれたことで、心のどこかが、確かに揺れた。





    ━━━━━━━━━━━━━━━
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    related works

    recommended works