一緒に年越しする(した)話 頭がガンガンするほど痛い。
痛みに呻きながら乙骨が目を開けば、目の前に石流の顔があって、思わずブッと噴き出しそうになった。
(…っ、は!?え、なんで、龍さんが…!?)
しかもスコーと寝ている。薄暗い室内に視線を巡らせれば、そこは石流の寝室だった。そのベッドの上で、石流に抱き締められた状態で横になっていたのだ。
(え……まって、龍さんの、家に、泊まったってこと…?えっと、確かに、大晦日の仕事が終わった後に、龍さんの家に、行く約束はしてた、けど…ぼく、いつ来たっけ…?)
真面目に何も記憶がない。でも徐々に仕事終わりに飲みに誘われたような気がしてきて、もうなんていうか、やらかしたとしか思えない。
(僕また飲み過ぎて記憶トンだ…?え、でも、どうやって龍さんの家に来たんだろ…)
もう頭痛も吹っ飛んでしまって、思考をぐるぐるとさせていれば、石流が「ん…」と呻きつつゆっくりと目を開けた。
「…っ、龍さん…!」
「んあー…ゆう……起きてたのか…」
言いながらもぞもぞと乙骨の身体に手を這わせながら、頬や額に口付けてくる。完全に寝ぼけていて、ああもうと思いながら乙骨が声を上げた。
「…ちょ、っと…まって、ください…!確認、したいことが…!」
「あー?」
邪魔されて少し不機嫌そうな声をあげる石流に内心キュンとなりながらも、乙骨は言葉を続けた。
「ぼぼぼ、ぼく…!どうやって龍さんの家に来たんですか…!?すみません、何も覚えていなくって…!」
「…どうやって?」
まだ寝ぼけているのかぼんやりとした目で乙骨の言葉を反復させた。でも少しずつ覚めて来たのか、「あ~~」と言いながら、視線を明後日の方向に向けた。
「伏黒ってやつから、家入経由で俺に連絡があったんだよ」
「ふ、ふしぐろくん…!?ってか、家入さん…!?え…!?」
いや確かに昨日飲みに行ったメンバーには伏黒がいた。だが、そこからどうして家入経由で石流に連絡がいくのか、突っ込みどころは多い。
「そんで俺がオマエを迎えに行って、ここまでお持ち帰りしたんだ」
「あーーー……つまり、龍さんが連れてきてくれたんですね……ほんと、すみません…」
頭を掻きながら乙骨がそう言えば、しかし石流は眉を寄せて乙骨を見てきた。
「すみません、じゃねぇよ」
「え?」
「オマエ、前に酒で失敗したのに、なんでまた酒飲んだんだ?」
その言葉にギクリと身体を震わせてしまう。
「……すみません、ちょっと断れなくて…一杯くらいなら大丈夫かなって、思ったんですけど…」
「なるほど、一杯でもダメだったってことか」
呆れたように息を吐く石流に、乙骨は身体を縮こませながら「すみません…」と言えば、やはり石流の顔はムッとしたままで。
「それならもうオマエは外で酒は飲むなよ。飲みたきゃうちで飲め」
「……えっと、酔った僕ってそんなにヤバかったんですか?」
恐る恐るそう問えば、石流は「ヤバかったというか…」と眉を捻りながら。
「めちゃくちゃ俺の名前を連呼してたらしいぞ」
「えっ」
「正直、その場にいたやつらに俺たちの関係がバレたかもなぁ」
石流がすらすらと言ってきた内容に、正直血の気が引いた。
「そん、な……」
絶句する乙骨を、石流はじっと見つめてきて、ひとつ息を吐いてから、ぎゅっと乙骨を抱き締めてきた。
「う、え…?」
「まぁ今回はいい牽制が出来たってことでいいけどよ、でもあんまり言いふらしたいワケでもねーから、外では飲むなよ」
「な、なんですか、牽制って…」
そう言って口をパクパクとさせたけれど、抱き締めてくる石流の腕は暖かくて、そのままぎゅっと抱きついた。
そんな感じでしばらくベッドの上で軽いキスをしたり触れ合った後、いい加減起きるかってことでもそもそとベッドから抜け出した。
「…というか、昨日が大晦日ってことは、今日は元旦…?でいいんですよね?」
「そうだな」
「…あけましておめでとうございます?」
「ああ、おめでとう」
そんな軽い感じで新年の挨拶を済ませ、お風呂に交代で入ってから、昨日食べ損ねた年越しソバを食べた。
「一応、今日のために寿司も取ってあるんだけどな、まぁ昼飯でいいか」
「そうですね」
時間は9時を少し回ったところ、テレビを付ければニューイヤー駅伝が始まろうとしていた。
最近は仕事で目まぐるしくて呑気にテレビを見ることもなかった。クッションを抱き締め、ソファーの上でぼんやりとしていれば「ゆう」と声を掛けられた。
「はい?」
「初詣行くか?」
「えー…そうですね、どうしようかな…」
本当は石流とふたりきりで部屋でぬくぬくする時間も過ごしたい。
(でも、龍さんと一緒に初詣行くのもいいなぁ……一緒に並んだり、お参りしたり、おみくじ引いて結果を見せ合ったりするのも、いいなぁ…)
そんな気持ちも生まれてきて、乙骨が「うーん」と唸っていれば、石流が隣に座ってきて、そっと肩を抱き寄せてくる。それから額にちゅっと口付けられて、うひっと声を漏らした。
「…ふたりきりの時間を減らしたくないなら、近所の神社にしとくか?10分くらい歩いたところにあるんだ」
「10分…」
「昼飯には間に合うくらいに帰って来れるぜ?」
どうだよ?と聞いてくる石流に、それならいいかなと思って、乙骨も「行きます」と頷いた。
一応乙骨は帽子、石流はサングラスをして近所の神社に向かったのだが、サングラスの石流が怪しさ全開で少し心配になった。
「龍さんも帽子とかが良かったんじゃないですか?」
「いーや、俺は割と髪型を変えて役になるから、頭を隠すと逆効果なんだよ」
確かに時代劇だとチョンマゲ、例の刑事ドラマだとリーゼントで役では髪型にインパクトがある。
「目元も特徴あるって言われるから、マスクよりその目元を隠すサングラスとかの方がいいんだよ」
「そういうもんですかねぇ」
そんな相槌を打っていたら神社に着いた。やはり元旦だけあって、参拝の列が出来ており、その列に並んだ。
その神社はそこまで大きくはない稲荷神社だったが、出店も少し出ていて、いい匂いがふんわりと鼻腔を擽った。
「あそこで甘酒売ってるぜ、帰りに買っていくか?」
「いやだから僕、酔ったらヤバいんですって…」
「帰ってから飲めばいいだろ?家だったらいくらでも酔っ払っていいぜ?」
石流がニシシと笑ってそう言ってきて、乙骨は「もう!」も頬を膨らませる。
「せっかく龍さんと一緒にいられるのに、記憶トバしたくないので嫌です!」
ハッキリとそう言ってやれば、石流の目がキョトンとなる。そしてその目を見てから、自分がとんでもなく恥ずかしいことを言っていることに気付いて、顔がカッと熱くなった。
「い、いや…今のは…!」
「はいはい悪かったよ、しっかりオマエの記憶に残る時間にしてやろうな」
そんな乙骨の顔に、石流はそう言って帽子の上から頭をポンポンと叩いてきて、恥ずかしさにああもうと熱くなった顔を俯かせて頭を抱えた。
そうこうしている参拝の順番が来て、お賽銭を投げてから拍手をして手を合わせた。そういえばお願い事をどうしようか考えてなくて、やっぱり仕事が上手く行きますようにかなと思って、それから。
ちらりと石流の方を伺いそれから改めて、神様にお願いした。
(龍さんともたくさん一緒にいられますように)
この好きがずっと、続きますように。
「なにお願いしたんだよ?」
参拝を終えて、おみくじでも引きましょうかって話していたら石流にそう聞かれて「ふへ!?」と声をあげた。
「な、なんでもいいでしょう?秘密です!」
自分が神様にお願いしたことを思い返して、いやいやこんなこと言えないよって思ったのでそう返した。すると石流は「ふぅん」と言った。
「俺はオマエと今年も一緒にいられますようにってお願いしたな」
「ふへ!?」
「そっか~~オマエは内緒か~~」
「ちょ、そんなのズルいですよ……」
これじゃあ白状しろって言っているようなもので、石流はどうにも、たまにこういうイジワルをしてくるなぁと思う。
でも、彼も自分と同じことを願ってくれたのは嬉しくて、だから。
「……僕も、同じこと、お願いしましたから…」
石流が着ているジャケットの裾をぎゅっと掴んでそう言えば、しばらく石流が無反応で、こんなの僕が恥ずかしいだけじゃん!と思って乙骨が顔をあげれば。
石流の目がサングラス越しに真っ直ぐこちらを見つめてきていた。そしてその目には強く鋭い熱が宿っているような気がして、ゾクリと乙骨の背筋が震えた。
「あ……」
「……早く帰るぞ、ゆう」
直後、その視線を逸らされたかと思えば、腕を掴まれてそのままその神社を後にした。
帰宅してすぐ、石流は乙骨を玄関先でぎゅっと抱き締めてきた。
そして「はぁ~~~~」と深く長く息を吐いた。
「あぶねぇ……マジ外で抱き締めたくなったわ…」
「ん、龍さん……」
急に抱き締められて、苦しさに乙骨が身動げば、抱き締める腕が緩められ、だがそのまま顔を上に向けさせられ、唇を塞がれた。
「ん、う……」
乙骨の被っていた帽子も、石流が掛けていたサングラスもその勢いで滑り落ちた。
全部唐突すぎるけれど、それくらい余裕なく感じる石流は珍しいので、ほんの少し胸の奥が擽られた。必死に求められるのは嬉しいとすら思う。
「……憂太」
唇が離れ、はぁはぁと息をする乙骨に石流がそっと囁いてきた。
「好きだ」
熱の籠もった視線でそんな風に言われて、乙骨の胸にもじわじわと熱いものが込み上げてきた。
ぎゅっと石流の首に腕を回し抱きつきながら、乙骨も言った。
「…僕も、大好きです」
少しでもこの気持ちがあなたに届きますように。
「好きです、龍さん」
気持ちを伝え合って見つめ合って、それから再び唇を合わせた。
お互いの気持ちを改めて、確かめ合うように。
※この後、お寿司の配達がくるまでソファで一発ヤったとかヤらないことはなかったとか……🤭