ぽっかぽか ダンデが王冠を被り、真紅のマントを纏って過ごす2年目。雪がチラつくことも増え始めた時期に今年のジムチャレンジも無事終わり、ポケモンバトルのお祭り騒ぎが少しずつ、年を越すための騒ぎへと緩やかに変化していく中で、シュートスタジアムの一角では、来年度用のリーグカードの撮影が行われていた。
スタジアムの端の方に設置された簡易テントとテーブルで作られた休憩スペースには、大型のヒーターが設置され、ドリンクや菓子類も揃えられており、パイプ椅子には暖かそうなブランケットも掛けられていて、待ち時間を少しでも快適にというスタッフの心遣いが感じられる。その簡易テントの横で、ヒーターに両手を当てながら暖を取っているキバナへと、足音を忍ばせながらゆっくりと近寄ってきたダンデが、勢い良くフードと背中の隙間に両手を突っ込んでくる。
「隙ありだぜ!」
「うおっ!…びっくりするからやめろよそれ」
「嫌だぜ!キミのここ、凄いあったかいんだ」
「オレさまは、なんか背中がムズムズするから苦手なんだよな…」
苦手だと言いつつ、体を捻って離れたりはしないライバルの優しさに顔を綻ばせてダンデはそのまま背中へと懐いて頬擦りまでする。暫くはその温かさに静かに目を細めていたが、やがて思い付いたようにパッと顔を上げる。
「じゃあ、その代わりに後で一緒にオレのマントの中に入るか?これ夏は暑いけど、冬はまあまあ温かいんだぜ?」
「それこそやだ!そのマントは来年こそお前からひっぺがしてオレさまが羽織るんだからな!」
「ははっ!楽しみに待ってるぜ!」
「このやろう…ていうか、温まりたいならさ…よっと」
キバナは思いついたというようにくるり、と体を反転させてダンデと目を合わせる。急に動かれたダンデは両手を前に出した姿勢のまま、ポカンとキバナを見上げるばかりだ。
「…?手が寒いぜ?」
急に空に放り出された両手をそのままに、そんな風に顔面に疑問と寂しさを貼り付けたダンデの表情が、遊びを急に切り上げられたフライゴンに似ていて、キバナは内心笑いを堪えながら謝った。
「ごめんって。ほら、こっちに入れなよ」
キバナは、そのままダンデの両の手を掬い取るようにして、自分のパーカーのポケットへと突っ込む。ついでに自分の両手もダンデの手を握ったまま暖を取る。
「あったけー!お前の手、凄いあったかいな。オレさまがあっためる必要ある?」
「あるぜ!キミで暖を取ると、なんだか普通より体がポカポカするんだ。今もそうだぜ…あれ?キミ、手が冷たいんだな?」
「そうなんだよ。だから、実はあんまり寒いの苦手」
「じゃあ、これからは寒い時こうやってお互いに温まろうぜ」
「オレさま、手が冷たいからあんまり意味なく無い?」
「意味はあるぜ!…なぁキバナ!いいだろ?」
パチリっと若干下から見上げてくる琥珀色と目が合って、何故だかキバナは心の中がポカポカすると同時にザワザワするような、むず痒いような気持ちになる。気付けば、その琥珀色を勢いに負けて首をこっくりと縦に振っていた。
「へへっ約束だぜ!」
今まで感じた事がないその感情にキバナは首を傾げるが、目の前のダンデが嬉しそうに破顔するのを見て、まあいっかと横に流す。
「確かにこうすると、お前の顔も見えるし話しやすいな。それに、ポカポカするっていうのも分かる気がする…なんだろなこれ?」
「だろ?なんだろうな?」
「なー?後で、カブさんに聞きに行ってみようぜ!」
「それは良いな!カブさんは物知りだからきっと教えてくれるぜ!」
そんな話をポツポツしていると、スタッフからの呼び出しがかかる。
「よし、その前に撮影を終わらせちまおうぜ!」
「そうだな!」
何となく手を離すのが勿体無くて、二人で目を合わせて自然とお互いの手を握ったままスタッフのいる所まで駆け出した。重なり合う笑い声が、スニーカーの足音と一緒にスタジアムの芝生の上を弾んでは消えて、また弾む。
撮影後、スタジアムの端っこで子ども二人の無垢な瞳に見つめられ、腕組みの姿勢のまま固まるカブの姿が見られるまでもう少し。二人の中に芽吹いた新しい気持ちが育つのは、そのもう少し先のことになるのだった。