俺がやるから逃げ惑う魔物の首を権能の力で引き千切る
びちゃびちゃと音を立て鉄の匂いが辺りに充満する
「E級なんだから無茶するな」
「…それ、嫌味?」
笑えないね
不甲斐なさと怒りが入り混じりる顔を見つめる
否定も言い訳もしない、だって嫌味を込めたのは本当の事だから
手を差し出しても跳ね除けられ、ひとりで立ち上がる
至る所がほつれ、大きなアザが主張する顔にふつふつと苛立つ…魔物か…人か
「お前がここに居るの迷惑だから2度と来るな」
「行くなら俺か、影を連れてく約束だったろ」
「そんな約束してないし、目障りだからはやく消えてくれ」
「…渡した短剣は」
「……さぁ?俺は知らない」
捨てたか、売ったか忘れたよ
会わない視線と素っ気ない態度に怒りよりも悲しみが襲う
身なりを整え隣を素通りしようとするのを立ちはだかり防ぐ
「なに?」
「かばうんだな」
「……なにを?」
問題無用で上着を捲れば内出血で変色しどす黒い跡が何か所も視界に入る…低ランクの魔物は知性なんて無い…やはり人だ
掴んでいた上着を離し、顔を狙って来た腕を掴む
悔しげな顔と、憎悪に満ちた瞳とぶち当たり嬉しくなる
ちゃんと目を…顔をみるのは何時ぶりだろうか
「だれがやった」
「誰ってお前が今さっき殺したやつだよ」
「…影に聞けば直ぐにわかるぞ」
「それがなに?お前には関係ないって何回も言ってるよね」
いい加減離せと抗議されるが、絶対に離さない
離したらどうせまた逃げて隠れるんだろ、俺の事が嫌いだから
空いている反対側の拳を軽く握り振り上げれば、ビクリと大きく震え顔を背け怯える姿に頭の中で何かが千切れる音がする
先程までの挑発的な態度はどこに行ったのか、腰が抜けヘタリ込み片手で頭を守る姿に、影が大きく揺らぎ小さく震える
震える影を俺の影が責めるかのように囲い込む
俺の指示で手出しも出来なかったんだからお前は対象外だ、やめろ
インベントリから毛布を取り出して包んで抱きかかえる…前より大分軽くなった気がする
「…葵も心配してるから帰ろう」
毛布越しに背中を撫でると小さく頷かれ、安堵する
ちゃんと食べて風呂で暖まったら、昔みたいに布団を繋いで葵と3人で雑魚寝するのもきっと楽しい筈だ
「イグリット」
視線を横に移すと、頭を垂れる姿に満足する
やはりコイツは1番の理解者だ
1人残らず生かしておけよ