題名:未定真っ暗で静まり返った部屋で目が覚めた。
寝ぼけた頭のまま起き上がって今日も一人、壁の隅っこにある染みとにらめっこする。
分厚いカーテンで閉めきられた部屋には昼間であろうと光は入ってこない。
寝起きで凝り固まった身体を解そうと伸びをすると、オレの腕に繋がれた鎖はガチャリと重苦しい音を立てた。
◆
「痛っ...。」
鋭い頭の痛みを感じて目を覚ますと、オレは真っ暗で静まり返った部屋のベッドで寝ていた。
状況が掴めないオレは横になったまま目だけを動かして辺りを確認したけど、壁の隅っこに特徴的な染みがある位で、他には小さめのキッチンがあるのと、多分ご飯を食べる為のローテーブルが置いてある事しか分からなかった。
この部屋に見覚えは無くて、どんなに考えても、自分がどうしてここにいるか思い出せない。
目を覚ます前の事を思い出そうとすると、記憶にモヤがかかったように何も見えて来ないし、頭がズキズキと痛くなった。
どうしようもないから、とりあえず考えるのを止めて起き上がろうとすると、手首にヒヤリとした無機質な感触とずしりとした不自然な程の重みを感じた。
「え...、手錠?」
驚いて自分の腕を見ると、両手首には鎖の付いた手錠が嵌められていて、目で辿るとその先は今寝ているベッドの柵に繋がっていた。
なんで??
なんでオレはベッドと鎖で繋がれてるんだろう。
鎖付きの手錠なんて、めちゃくちゃカッコ良くて憧れてたけど、知らない部屋で自分に使われてるってなったら話が変わってくる。
怖い。
オレは悪い人に誘拐されてしまったのかもしれない。 そして、この後酷い目に合わされるのかもしれない。
そう思ったらすごい怖くて震えが止まらなくなった。
兄ちゃんと椋にももう会えないのかな。
夏組やカンパニーの皆ともお別れなのかな。
そんなの嫌だよ。
誰か。誰か助けて。
助けて、莇...!
---ガチャ
怖くなって震えながら泣いていると、さっきまで閉じていたドアが開いてオレがよく知っている顔が出てきた。
「起きたのか。具合はどうだ?」
莇はそう言うと側に膝まずいて、オレの濡れた頬に手を添えながら心配そうな顔で尋ねた。
「...莇!」
不安でしょうがなかったオレは莇が来てくれた事に安堵して、腕が鎖で重くなっている事も忘れて抱きついた。
「俺が来たから、もう大丈夫。」
莇はオレの頭を優しくポンポンと撫でてから泣いているオレを宥めるように言った。
オレの頭を撫でてくれる莇の手は温かくて、それだけですごく安心する。
「危ないから、速くここから出ないと...でもこの手錠どうやって外そう…。」
莇のお陰で落ち着いたオレは必死になりながら訴えた。
速くしないとオレを誘拐した犯人が戻って来てしまう。
オレのせいで、助けに来た莇まで酷い目に合うなんて絶対に嫌だった。
付けられた手錠をどうにかしようとしてガチャガチャ弄っていると、莇は心底不思議だという風に言った。
「ここから出る?そんな必要ないだろ。」
オレは自分の耳を疑った。
...今、莇は何て言った?
オレが驚いて顔を上げると、莇はきょとんとしている。
「俺が守ってやるからお前はずっとここで暮らしたらいいんだ。」
穏やかな笑顔でそう言い放った莇は、オレの知っている莇じゃない。
「どうしてそんな事言うんだよ…。莇、何か変だよ...。」
何で莇がそんな事言うのか分からない。
どうしちゃったんだろう。
「お前は何も気にしなくていい。...大丈夫だから。」
莇はそれだけ言うと立ち上がって、さっき来たドアの方へと戻っていく。
「待って!行かないで、莇!」
オレの制止の声をすり抜けて、無情にもドアは閉じる。
絶望したオレの心はガラガラと音を立てて崩れ落ちた。