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    そらの

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    そらの

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    いきなりあぶ空2023

    誰も座らない椅子と君いつもとある格納庫の入口の隅に、使われていないであろうパイプ椅子があった。たまたまかな、と思っていたがたまにしか通らないルースターでもほぼというか毎回見かけるものだから椅子はもうずっとそこに置かれているんだな、と理解した。でも誰かが座っていたことは無い。ただただそこに置かれているのだった。
    誰も座らない事実に何となく寂しさを感じたがそれも仕方ないと納得した。辛うじてその役目は果たせるだろうが、見た目にはとてもおんぼろ、背もたれのカバーは既に剥がれており、全体的に錆ついていて遠目から見ると茶色い何か、としか思われなさそうであった。けれど今日という日はいつもと違って誰かが座っていた。誰だろうと目を丸くして近づくルースターにその人物は声をかけてきた。

    「あ、ルースター」

    「……よう」

    「なんだか久しぶりだね」

    「三日前に会っただろ」

    そうだっけ?と首をかしげてそう言ったその人物はボブだった。何かと顔を合わせることがあるがまさかこんなところで、しかも気になっていたボロ椅子に座っていた。どういうことだろうかとルースターは思った。
    計十日以上はその椅子を見ていたはずなのに一度もボブとは会ったことは無かった。今日はたまたまだったのかもしれないがそれにしたってなんだか不思議に思えた。

    「ボブはいつもここにいるのか?」

    「そうでもないかな。フェニックスと会えなくて一人になった時くらい?」

    そうだボブは大体いつもフェニックスと一緒だった。それは信頼し合えるパートナー、というところが大きいだろうが、それ以外もあるんじゃないかとルースターは思っていた。大概どちらかを探していると、必ずもう一方も一緒にいる、そんな二人だった。もしかしたらボブと一対一で対面するのは初めてかもしれない。

    「……それってどのくらいの頻度?」

    「さぁ?」

    「それくらいないってことなんだな」

    まぁ、二人はどちらも互いを必要とする関係、コックピットに二人揃わないと飛べない二人である。ということは単体で任務に臨む事はほぼないだろうから、それも当たり前なのだろう。そういう関係もいいな、とコックピットでは常に一人でいるルースターはほんの少し二人を羨ましく思った。

    「なんか用だった?」

    「いいや、ただちょっと気になってただけ」

    「何が?」

    「……椅子?」

    椅子、とボブがルースターの言葉を拾って、辺りを見回すがボブには見当たらずどこに?とルースターに問うた。自分の下にあるもの、座っているものを忘れているのか、気づいていないのか。あれ?と呟いてルースターを見上げる。困ったような顔をされても自分だってなんと言えば解らない。

    「あぁ、もしかして君の席だったり、する?」

    「まさか。ただ、ずっとここにあるけど誰も座ってるの見たことなかったから」

    「そう?僕結構ここに座るけど。まぁ他の人はこんな椅子、座らないのかもね」

    暗に自分だけなのだ、少し変わってるだろう、と言いたげなその言葉にルースターは少し顔を顰めた。自分のもつ知識や技術においてはそれこそトップガンを卒業した者の一人としてその才能を自負しているが、それを抜きにした自分全体のことを見るとき、とかく性格のことになるとボブは少し自分を卑下する。トップガンを卒業して先の極秘任務のメンバーに選ばれたのだから少しは威張ったりするのも、ボブにとってはちょうどいいくらいなのに。

    「じゃあ俺も座るよ」

    「そう?今どくから」

    「いいよ、今はボブが座ってるだろ?」

    「え、でも今座るって」

    「ボブがいない時に俺が座る」

    よいしょ、と一声上げて腰をあげようとしたボブを制してルースターは続けた。ボブはなんとなく申し訳なさげな顔をしてもう一度腰を下ろした。ただし先ほどより浅く座りかけた。ルースターへの遠慮の塊なのだろう。またまた、とも思ったが今回は黙認した。

    「そう。その時会えるといいな」

    「そうだな。俺もちょくちょくここ、通るからさ。見かけたら呼んでくれよ」

    「わかったよ。ルースターも僕がいたら声かけて」

    「わかった」

    その後少し会話を交わして、二人は別れた。ボブはまだ時間の許す限りここにいることにしたらしく、ルースターは目的地へと足を向けた。



    ━━━━━━━━━━━━━━



    ルースターにとってあの日から、その椅子を見ることが楽しみなことになっていた。通りがかるときにはもちろん、時間が空いたら、その時もたまに。ボブがいるのではないかと楽しみにするのだ。
    正直、ボブを直接探した方が効率が良いし時間も無駄にしないが、それだと味気ないと思った。それにそういう場合はフェニックスといたり、時にはハングマンもいたりするからそれはなんとなく避けたかった。ハングマンがいる時には特に。二人きりだけで、とまではいかないが二人きりの方が落ち着く。フェニックスもそういう気持ちなのだろうか。気が強く何かと気を張っていそうな彼女が、常にそばにいても穏やかでいるのを見る限りそれは外れてはいないだろう。

    「ボブ?」

    「やぁ。また会えたね」

    「まぁな。また大分時間が空いたようだけど?」

    またあれから幾許か時を過ごして、ただ素通りするだけだったり、立ち止まって眺めてみたり、時間があれば座ってぼけっとしてみたり、といろんなことをしていた。そうして再び椅子の元へと訪れると、久々にボブがいた。久々というよりあの日から数えたらまだ一度目だった。それでも内心弾む心でルースターは声をかけるといつものようにへにゃり、とした笑顔を向けてくる。

    「そうだね。ゆっくりしたい時にしかこないから」

    「……じゃあ俺邪魔じゃないか?」

    「あ、ううん。ルースターとは一緒にいても過ごしやすいから大丈夫だよ」

    「それはよかった」

    迷惑だとか嫌だとか言われたら流石に凹むし傷つく。ボブは性格や見た目に反して嫌な事はちゃんと嫌だと言うだろうからそうじゃないのなら大丈夫だろう。
    ボブはきっと本気で人を嫌いになることなんてないのだろう、となぜかわかったようにルースターは思った。あのハングマンのことさえ、今は上手くいなしてちょうど良いくらいに付き合っている。
    そんなボブに嫌われたら嫌だ、と思ったのはなぜだろうか?他人からの感情など気にしない性質であった自分が、だ。人との付き合いは広く深くしたいタイプだが、来るもの拒まず去るもの追わず、な所もあると自己分析している。嫌いたくもないしできるなら嫌われたくもない。憎しみという感情なんてもっての外。(マーヴェリックとのことは棚に上げておく)率直に言えばボブが自分のことをどう思ってもそれはボブの自由であるからして気にすることはないのに、なぜ?

    「今日はどうしたんだ?」

    「今日も特に理由はないんだ。強いて言えば天気がいいから、かな」

    「へぇ……」

    自分はそんな理由で行動したことがなかったな、とルースターは過去を振り返ってみる。精々天気が良ければ飛びやすいな、悪ければ飛びにくいな、それくらいだ。それは人それぞれであるから言うことも言われることでもないが、ボブのその、全てに寛容な性格はとても好ましく、羨ましいとも思う。

    「ルースターは?」

    「今日は何も」

    「そうなんだ。最近どう?」

    マーヴェリックと。純粋に痛いところをついてくるがそれを嫌とは思えないのもボブだ。これがハングマンだったら誰かに止められるまで言い合いが終わらないだろう。もしかしたらまた掴みかかっていたかもしれないな、などと思った。
    マーヴェリックと最近うまくいっているか、とは自分にはまだよく解らない。解らないと言うか、その前にそもそも会うことがないのだ。あの任務後、後始末もあったろうが、以前よりさらに名を上げたせいでいろんなところからいろんな声がかかるのだろう。あっちへいったりこっちへいったり。いつどこにいるか把握できない。できたとしてもその情報は既に古くなっており、もうその場にはいないのだ。時既に遅し、と言うやつだ。連絡は取り合っているがそれもポツポツ。ほんの少しの隙間の時間で無理にでも返してくれるのだろう、けれど一言で済むことはなかった。返事が遅れたことの謝罪、今の自分のこと、これからの自分のこと、ルースターが最近どうなのかという問いかけ、それだけは必ず組み込まれていた。それらに心配をかけないよう丁寧な返信をするがこちらから無理矢理に連絡を取ることはない。だから関係がどうの、と言うこともない。幸い良くはなったかもしれないが、悪くはなっていない、と思う。

    「今のところ、何にも」

    「なんで?仲直り、したんでしょ?」

    「仲直りってなぁ。そんなもんじゃなくて」

    「うん、わかってるよ。でもまた仲良くなったんだろ?」

    「……そうだけど」

    「話し合う機会、ないの?」

    「マーヴすごく忙しいみたいで」

    「あぁ!そうか、そうだよね。ごめん、無神経だった」

    「気にしてない」

    ボブは素直に物事を口にするタイプなのだろう、ルースターはそれをボブのいいところと捉えているが、面食らう者も快く思わない者もいるのを知っている。けれどそれがボブのボブたる所以であるから注意することはない。それでたまにハングマンを突っついてしまいフェニックスに注意されていることは知っているが。それで何が無神経、だと言うのだろう。自分が気にしていないと言うのに他に何かそういうことがあったろうか。

    「……余計なお世話だって、すごくわかってるけど、君とマーヴェリックを見てると、二人にはもっと笑顔でいて欲しいなって。あの任務の時のこと、思い返すとすごくよく思う。僕は君に酷いことを言ったしね」

    そうだっけ?ルースターはあの頃を思い出すがとにかくミサイルを躱すのに必死だったし、ボブが言っているその時のことは多分マーヴェリックを探すことで手一杯で気にも止めてなかったんだと思う。現に思い出せない、一つも。思い出せたとしてもそれでボブを責めることもないと思うけれど。そしてそれを無神経だと言うつもりもない。自分達は命をかけて戦っていた。あそこは紛れもなく戦場だった。そんな時のそんなことにとやかく言うほど自分は落ちぶれていない。ボブがそれを気に病む必要はないし、もしそうだとしたらもうそんな思いはしなくてもいいのだと言ってやりたかった。

    「それに君、訓練中、マーヴェリックに対してとてもトゲトゲしてたから。マーヴェリックも君をいつも寂しそうな目で見てた。それを見て僕、勝手にはらはらしてて」

    「……そんなに?」

    「僕が勝手に思っただけだけどね」

    「……そっか。なんか気を使わせたな」

    「いいや?ルースターが気にすることじゃない。それに昔は昔、今は違う。だろ?」

    「そうだな。その通りだ」

    やはりボブは察していた。そりゃそうだろうハングマンに煽られて掴みかかったことを思えばまぁ、ボブでなくても察したではあろうが。けれどそこまで酷いものだと思われていたなんて、考えてはいなかった。ボブは性格上、気にしてしまったのだろう。少し心が痛んだ。正直ボブは部外者であるから、ルースターがそこまで気に病む必要などないのだが、なんだか少し、気にしてしまうのだ。そんな折、ボブが僕もマーヴェリックが何してるか、とか知りたいな、と言うので直近のメッセージで送られてきた内容をポロポロと伝える。多分今はもう違うことしてると思うぞ、というとよっぽど忙しいんだね、と目を丸くした。そんな様子が可笑しくてルースターは笑った。



    ━━━━━━━━━━━━━━



    今日はいないな、と思いながらも足を伸ばすのは何故だろう。先ほどフェニックスと二人で笑いながら話をしていたのでいるはずはない。きっと何かしらのつながりが欲しいのかもしれない。たとえいてもいなくても、その場所は二人だけのもので、邪魔も何もない。素直でいられる場所なのだ、とルースターは思うようになっていた。視界に入ったそれにはやはりというか、ボブどころか誰もいなかった。だよなぁ、と呟いて遠慮なくどかり、と着用しているパイロットスーツが汚れることなど構わずにそれに腰掛ける。背もたれにもたれても壊れない程度の強度があるのは既に知っている。今日いないなら明日はいるだろうか。明後日は?来週なら?考えるのはボブと会う時のことだけで、それだけで時間が過ぎていき、日が陰ってきてようやく大分時が過ぎていたことを知る。ルースターはひとつ伸びをしてからのそりと立ち上がり官舎へと戻っていった。

    ボブは今もフェニックスと一緒なのだろうか。一体どんな話をするのだろうか。ボブと自分もそれなりに親しいとは思っているがまだどこかよそよそしい感じがしている。ボブはフェニックスになら、なんでも話すのだろうか。そして自分にはどうだろうか。いつかは二人ともになんでも打ち明けられる関係になりたい。そう思うがそれをどうしてか、などは一切考えることはなかった。育ち切らない、小さな小さな恋心、それだと。明日もあの椅子の元へと足を向けるつもりだ。だからそこに座ってくれているといい。いなかったとしたら、なんか悔しい。だからいてくれ、とルースターはポツリと呟いた。



    ━━━━━━━━━━━━━━



    今日は天気が良かった。だから、もしかしたらまたあの椅子に、ボブが座っているかもしれない。ルースターは勝手にそう思って、あの場所へと足を運んだ。遠目に見てもそこに誰かががいるのは確信できて、それがボブだと言うことも確信した。ボブの感覚は案外わかりやすいのかもしれない。

    「ルースター」

    「やっぱり今日はいたな」

    「わかってたの?」

    「今日は天気が良かったから」

    「そうだね、そうだった」

    「前に言ってたじゃないか」

    「忘れてたよ。いつも気の向くまま、だから」

    ちょっと困った顔でボブは笑った。特別理由をつけてここにいるわけではなかったから忘れてしまっていた。ボブにとって居場所を決めるのは居心地が良いか悪いか、それだけなのだ。人混みでも、たった一人だとしてもそこが良ければ居るし、悪ければ、居ない。他人に流されることはなく自分自身で選ぶのだ。そこに他人が来ようが来まいがそれもどうでもいい。気に入らなければ去るだけだ。

    「じゃあ今日も偶然か」

    「そう、とも言えないかな」

    「なんで?」

    「なんとなく、今日はルースターも来るかなって」

    「へぇ?」

    まさかボブもタイミングを見計らっていたとはルースターは思いもしなかった。ボブの話ぶりだと本当に気分次第という感じだったし、特別自分を気にしているとは思えなかったからだ。少しは気にしてくれていたのかと思うとルースターは少しこそばゆかった。

    「今日は本当に天気がいい」

    「そうだな。それに頗る平和だ」

    「うん、いいことだ」

    些細な会話さえ楽しいと二人は思いつくままであるが話題を振って会話をする。幸いにもこの場所に誰かが来ることもなく、通り抜ける者さえもいなかった。邪魔が入らずに思うがまま、いろんなことを話していた。けれど時は誰にでも平等に、いつも変わらないリズムで過ぎ去っていく。吹き抜ける風が冷んやりとし始め、ルースターは日が暮れかけていると知る。

    「そろそろ戻らないと」

    「……そうだな」

    「ちょっと肌寒くなってきた」

    まだ大丈夫だろうけど風邪ひかないようにね、とボブが言うのを聞きながら、ルースターはこれからのことを思っていた。今日は思いのほか会話が弾んだ。これで終わりかと思えば名残惜しい。このような思いをすることなどあっただろうか。あってもなくても、どちらでもいい。また次の機会があれば。

    「明日は?」

    「明日?」

    「明日も来るのか?」

    「さぁ……明日にならないとわかんない」

    「そっか」

    そうだろうとルースターは解っていたことを聞いた。予定がない日なんか数えるほどだし明日、と聞いたのは自分の予定が空いていたからだ。ボブもそうだと思う方がおかしい。仕方のないことだけどそれがなんだか悔しかった。明日もボブがいたら、嬉しいと思っていた。

    「なんかあった?」

    「いいや。……明日もここで会えたら嬉しい、って思っただけ」

    「そうなの?」

    ボブは目を丸くしてルースターの顔を凝視した。その目で見て、ボブは何を思っているだろうか。迷惑だろうか。嫌だろうか。そう思わせたいわけじゃない。自分勝手な話だ。けれど一度口から出た言葉はなかったことには出来ない。後悔しているわけでもない。結局どっちつかずでボブの次の言葉を待つ他なかった。

    「だったら言ってくれればよかったのに。そうすればもっとここに来た」

    「なんとなく言えなかった。……困らせたいわけじゃないから」

    「別に困りはしないよ」

    大袈裟だな、とボブが笑う。それは建前かもしれないし、たとえ心からのものだとしても、その言葉に甘えることはしたくなかった。でもそれがとても嬉しい、とは思う。けれどそれを素直にいう術を、勇気も度胸もルースターはまだ持ち得なかった。まだ言わなくてもいいと思った。思っているだけでいい。言うにはきっとまだ早い。

    「そっか。よかった」

    そして返せる言葉もまた一つしか持ち得なかった。嬉しいとはまだ言えないが肯定することは大事だ。よかった、その言葉に全てが詰まっている。ただその言葉のおもてだけを、額面通りに受け取ってもらえればそれでいい。

    「じゃあ、これからは時間が空いたらここに来るよ」

    「俺がこないかもしれないぞ」

    「それでもいいよ。待ってるのも楽しいものだよ」

    「でも」

    その申し出はとても魅力的だった。けれどやはり色々と、気になって仕方がない。たとえばそれでフェニックスと疎遠になってしまったり、だとか、休むべき時間を削らせてしまうことになったり、とか色々と浮かんでは消えていく。正直そんなことないとわかってはいる。わかってはいるがそれとこれとは別で、心の中で折り合いがつかないだけだった。続く言葉も見つからない。見つけようがない。だってボブの本音を知ることができないのだから。教えてくれ、と言うわけではないが少し知りたいような、知りたくないような、そんな不思議な気分であった。短い時間の間でルースターが何を考えているかなど微塵も知るはずがないボブが、それを見ぬくことはあるだろうか。少しだけ難しい顔をしているルースターを見てボブはそれを悟ったかのように口を開いた。

    「ルースターは優しいね。そんなこと気にしないから、ルースターもここに来てよ」

    優しいだなんて言われ慣れてない言葉だ。寧ろボブにこそ相応しい言葉であると思う。そう思われていたとしても面と向かって言われたことはない。あるとすればマーヴェリックからだろう。それを言えば非道い態度をとっていた自分に、それでも優しくしてくれたマーヴェリックの方が優しい、と思う。マーヴェリックのそんな優しさと、ボブの気遣うような優しさはとても似ている。直接的に伝わるものではなく、遠くから見ていてくれる、そんな優しさを感じられた。

    「わかった、ならそうするよ」

    ボブから言われたそれを大義名分としてこれからも会いに来るのは許されることだろうか。でもその思いは本物であるからルースターとしてはそれに従うことにする。ボブからのその言葉はとてもありがたがった。そうして、とボブは返事をして柔らかく微笑む。

    ほとんど誰も訪れない、格納庫の片隅で。寂れた古い椅子を中心に、ボブとルースターは時間が許す限り二人の、二人だけの秘密基地のようなこの場所で、仲良く会話に興じるのだった。
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    そらの

    DONEいきなりあぶ空2023展示
    立ち上る紫煙の元を探ってふと、時折匂う、苦味のある香り。それはすれ違った時だったり、隣にいる時だったり、抱き合ったりした時に密かに感じられるものだった。それが何か、解らぬほどボブは子供ではなかった。
    自分にだって覚えはある。一丁前に大人になったと浮き足立った時、つい手を出したものだった。自分には合わずただただ苦しんだだけだったけれど。
    一時だったけれど覚えのあるそれが、時折、ブラッドリーから香るのだ。独特の苦味のある香り───煙草のそれ───が。本人がそれに気づいているのか、それは知らない。言わずにいるだけなのか、言わないつもりでいるのかも、知らない。
    ボブはそれを不思議に思っていた。もう長いと言えるほど生活を共にしているのに、けれどその姿を見た事は一度もない。どこでもだ。ただ感じるのはその匂いだけで、でもその確たる証拠はどこにもなかった。もしかしたら匂い移りしただけかもしれないとも思うが触れるその手からも香るそれがそうとは言わせてくれない。不思議に思うだけで不快に思うことは無いのだから言ってくれればいいのに、とボブは思う。我慢させていたとしたらなんだか申し訳ない。ブラッドリーがボブを自由にさせるように、ボブもブラッドリーの行動を制限したくないのだ。
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