速さとは反比例に風が鋭く体を打つ。言葉のまままるで風を切るようにマーヴェリックはバイクを駆る。そのバックシートでマーヴェリックの背にしがみついているのはフェニックスだ。彼とタンデムする時はいつも必死だ。速度超過なんて言葉ですまないくらいのスピードで彼は行く。さすがに目的地に着く頃になるとそれは収まるがそれでも早い。到着するといつも、少し疲れている。ぷは、と息を吐きながらヘルメットをとるなりフェニックスは言った。
「貴方何に乗ってもスピードを出しますよね」
「そうかな?」
「そうですよ。戦闘機に乗ってもバイクに乗っても」
それと最新鋭機でも。彼がマッハ10に挑んで成功したことを、秘密だと言いながらもルースターが教えてくれた。そしてその後機体が空中分解したことも。それにはさすがにフェニックスも驚いた。よく生還できたものだと。生還していなければ今という時間もなかったことを思えば心底良かったと思った。
そうしてフェニックスはいつも思ってしまうのだ。彼が生き急いでいるのではないか、と。速さを求めて命をかける、その事に。そうしていつかは、
「……まるで生き急いでるみたいです」
「まさかそんな」
マーヴェリックは笑顔で否定するが、その影に闇がありそうに見えてならなかった。自分ではそのスピードについていけない。置いていかれるのではとフェニックスは常々思っていた。
「……私ではあなたに追いつけない」
「……大丈夫。そんなことないさ」
だって隣にいるんだもの。その言葉にフェニックスはぱちり、と瞬きをした。
「私は、あなたの隣にいますか?」
「もちろん。いつでも隣だよ」
「……それならいい、ですけど」
フェニックスはなんだか恥ずかしくなってマーヴェリックに抱きついた。マーヴェリックは何も言わずその体を抱きしめてやる。どれだけ早く駆けても隣には必ずフェニックスがいると、思っている。だからそんな心配は無用だとその耳元で囁いた。