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    そらの

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    そらの

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    いきなりあぶ空2023

    誰も座らない椅子で幸せについて話し合おう今日は風が一際強かった。こんな中外にいたら冷える。けれどルースターはいつもの場所へ足を向ける。今日はいないかもしれない、そう思ってもこの行動は止められない。今日、ボブがそこにいるならば伝えたいことが、あった。玉砕する覚悟もできている。それでも伝えないことには始まらない。ルースターは道すがらどう切り出せばいいものか、と思案していた。

    遠目に見て、ボブが居た。そこにいるのはボブだけだと思っているから確信を持っていた。もし外れたらもうそこへは足を向けない。それくらい強い確信と覚悟を持っていた。

    「よう」

    「やぁ、ルースター」

    ルースターの確信は現実のものとなった。今更他人と見間違えるはずもない。それでも一抹の不安があった、などとは言うことはなかったが。

    ボブは風が強く吹いているにもかかわらずそこに居た。少し肌寒いこの中、冷えてはいないだろうか、と心配になる。ルースターはというと寒さなど感じていなかった。少し気分が高揚している。そのせいかもしれない。

    「今日は風が強い」

    「そうだな。寒くないのか?」

    「うん。実はもう厚着してる」

    今の季節は秋の半ば。寒いと言えば寒いが、日が照りつければ少し汗ばむくらいだ。もう厚着をしているということはボブは寒がりなのか、とルースターは思った。ルースターは少し暑がりだ。今のこのくらいがちょうど良かった。

    「早いな」

    「準備しておくことに越したことはないだろ?」

    「確かに」

    二人の間を風がすりぬける。二人にはまだ間がある。それは今の関係性を象徴するかのようでルースターは風が通り抜けた先を睨んだ。始まるのはこれからだ。風に行先を告げられる謂れはない。

    「ボブは冬と夏、どっちが好きなんだ?」

    「んー、どちらかと言うと、夏かな」

    夏。それは確かにボブらしい、と思った。あの時海でドッグファイトフットボールをしたのも今は懐かしい。皆海水に濡れ砂まみれになり駆け回ったあの頃。まだボブに対してなんの感情も抱いていなかったあの頃。今の気持ちを抱いたまま、あの頃に戻ったとすれば自分はなにかアクションを起こしただろうか。それは、考えても仕方の無いことだ。過去は変えられない。マーヴェリックは真実を言っていただけだった。

    「なぁ」

    「うん」

    「ボブは好きな人、居たりすんの?」

    何気ない、ただの日常的な会話の中でぽつりと呟く。そんな素っ頓狂な言葉に、ボブは何を思うだろう。それでも糸口を必死につかみたくて場当たり的な勝負に出た。勝つか負けるか分かりはしない。けれどいつも最後の最後に勝ってきた。今度も必ず勝ってみせる、と思うのは気が早いことであろうか。

    「わからない」

    「恋人が欲しいとは?」

    「うん、出来たらいいなとは思ってる」

    この時点でわかったことはボブには特別想う人がいないということだった。ルースターはそこに入っていなかったことに落胆するが、それも想定のうちであったから気にはしない。恋人は欲しい、と言っているそこへ、入り込めさえすれば、それでいいではないか。そう思うことにして己を先へ急かす。

    「俺に恋人が出来たらどう思う?」

    「それは、幸せを祈る、よ」

    少しだけ空いた、間に、ルースターは期待をする。心無しか少し陰って見える顔は、そうだとしたら嫌だ、と思ってくれているといい。それも期待のうちだ。幸せを祈ってくれると言うならば、自分と共に幸せになるという答えをくれ。

    「俺と幸せになる気、ない?」

    「え?」

    またも二人の間を、先程よりも強い風が吹き抜ける。またも邪魔をするのか。それとも残念だ、とでも言いたいのだろうか。ひゅう、と音を立てていったそれを、今度は気にすることは無かった。それより気にするべきは他にあった。ボブはまだ口を開かない。けれどルースターにはそれを辛抱強く待つだけだった。ボブが返事をくれなければ終わりも始まりもない。欲しい返事は一つだけだ。あと一押しだ、とルースターはそう思った。

    「俺は、ボブを幸せにしたい」

    それこそが、つまるところの、自分の想いだった。一緒になって、それだけでは意味がない。二人揃って、幸せになりたい。それこそがルースターの望みだった。一人では成し得ないことを、ボブと、共に。ボブは何度も口を開きかけて、けれど何も言わなかった。嫌だったろうか。別の自分がそうだろう、とルースターを責める。同じ男から、そう言われて喜ぶ男がいると思うか。まして仲が深まったとはいえ、付き合いは短い。正直書面上のものしか知らない。あとは幾日かここで話して知った、少しのこと。それでそんなことを言うなど随分と自惚れているもんだな、と別のルースターが嘲笑った。けれどそれはボブの答えではない。ボブの答えを聞くまでは、どんな事実も受け入れはしない。だから、答えを。

    「……うん、ルースターとなら、いいかな」

    俯きながらボブが言った。その表情はうまく見えない。けれど、その言葉は本物、なのだろう。ボブは嘘や冗談を言わない。だからこそ信じられる。疑う余地も、なかった。それは、ルースターが欲しかった言葉であった。自分と、これからを、歩んでくれるという意思表示だった。それならもう、続ける言葉は一つしかなかった。

    「じゃあ、俺と、付き合って」

    疑問形ではない。もう分かりきったことに、わざわざ疑問系で問うことはない。先の言葉から、答えももうわかっている。けれどきちんとした言葉で、その想いが聞きたかった。

    「いい、よ」

    僕でよかったら、だけど。ボブは控えめにいうが、ルースターにとってはそれだけでよかった。今更恋なんて、と思った時期もあったが、こうして実感すると、やはりとてもいいものだと思った。もしかしたら想いが通じないかも、という不安もあったが、途中からそんな思いは消え去っていた。というより、もうそうと決めつけていた。当たって砕けるなんて、そんなことは思いもしなかった。それほどに、ボブが欲しかったのだ。そして、それが今、現実となった。

    「よかった」

    ルースターは笑っていった。それは真実の言葉であった。色々飛ばしてここまできた気がするが、今、こういう結果になって言葉通り、よかったと思う。

    「僕も」

    ボブは恥ずかしげにはにかみながら、いった。ルースターはその言葉を、待っていた。ようやっと、この想いは成就した。これからは、より、二人の時間は楽しく幸せなものとなるだろう。それは、今からとても楽しみなことであった。

    「これから、よろしくな」

    ボブを想いを同じくした今、もう、この場所に来る必要はないかもしれない。けれど、二人だけの特別な場所として、これからもこの場所を、思い出の場所として、大切にしていきたい、とルースターは思った。
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    そらの

    DONEいきなりあぶ空2023展示
    立ち上る紫煙の元を探ってふと、時折匂う、苦味のある香り。それはすれ違った時だったり、隣にいる時だったり、抱き合ったりした時に密かに感じられるものだった。それが何か、解らぬほどボブは子供ではなかった。
    自分にだって覚えはある。一丁前に大人になったと浮き足立った時、つい手を出したものだった。自分には合わずただただ苦しんだだけだったけれど。
    一時だったけれど覚えのあるそれが、時折、ブラッドリーから香るのだ。独特の苦味のある香り───煙草のそれ───が。本人がそれに気づいているのか、それは知らない。言わずにいるだけなのか、言わないつもりでいるのかも、知らない。
    ボブはそれを不思議に思っていた。もう長いと言えるほど生活を共にしているのに、けれどその姿を見た事は一度もない。どこでもだ。ただ感じるのはその匂いだけで、でもその確たる証拠はどこにもなかった。もしかしたら匂い移りしただけかもしれないとも思うが触れるその手からも香るそれがそうとは言わせてくれない。不思議に思うだけで不快に思うことは無いのだから言ってくれればいいのに、とボブは思う。我慢させていたとしたらなんだか申し訳ない。ブラッドリーがボブを自由にさせるように、ボブもブラッドリーの行動を制限したくないのだ。
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