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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    逃避行、開始。

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(6)「樹ちゃん、疲れてはおらんかの?
    ミルズの村で少し休憩しても大丈夫じゃぞ?」

    グラムは実にリラックスした様子でオレに声を掛けてきた。

    城下町から森まで来た時よりも、馬の速度はかなり落ちていた。
    また体調が悪くなってはいけないと、グラムが気を遣ってくれていたのだ。

    座る位置も今度はオレが前…曰く、馬は前側の方が乗り心地が良いのだが
    昨日はオレを弱らせておくという意図もあり敢えて後ろに座らせたらしい。
    その徹底ぶりが恐ろしかったが、オレが話を掘り下げしようとすると
    グラムが目を潤ませ始めるのでもう追及しないことにした。

    「大丈夫です…むしろ、速度を上げなくてもいいのですか?」

    丸一日意識を失っていたので当然の話だが、オレの殺害に関する
    タイムスケジュールは当初の予定より明らかに遅れているはずだ。
    グラムが戻って来ないとなれば、不審に思われることは必至である。

    「ほっほ、それは最もな疑問じゃな。
    しかしな…旅に不測の事態はつきもの。
    何がしかあって必要な日数が増えるなぞ、よくあることじゃ。
    二、三日帰還が遅れたとしても大した問題にはならんじゃろう。」
    「そ、そうなんですか…?」

    気にするな、とカラカラと笑うグラムを見てオレは苦笑した。

    今後のことを考えると、少なくともハイレム王国からは出国しておきたい。

    シンプルに追手が放たれる可能性もあるが…あのロクでもない王様のことだ、
    勇者召喚を軍備強化に利用したのなら近いうちに戦争を起こす可能性もある。
    そうなった際、争いの中心にいることだけは避けたかった。

    「じゃあ、一気にサウズまで向かうぞ?」
    「ええ、お願いします。」
    「ふむ…振り落とされぬよう、しっかり乗っておくんじゃぞ!」

    グラムが返事をすると同時に馬の速度が上がったため、
    放り出されないようにオレはしっかりと踏ん張った。

    その後の道程は実に平和なものだった。
    途中何度か馬車や旅人とすれ違ったくらいで、オレたちは
    かなりスムーズに目的地であるサウズの町へたどり着いた。

    …とはいえ、移動に関してはここで一旦打ち止めである。
    出発が遅かったため陽は既に暮れかけ、気温も下がりつつあったので
    今日はこの町で宿をとり、明日は早朝から旅を再開することになった。

    この世界の村や町は外敵からの侵略を防ぐためか基本壁に囲まれていた。
    住民以外が中へ入る時は出入口となる門の辺りで幾らか金を払う必要が
    あったのだが、その辺の手続きはグラムがさっさと済ませてしまった。
    これに関しては、異世界の現地民さまさまである。

    「さて、済ませておきたいことは多々あるが…
    まずは、今日の寝床を確保しておかねばなるまい。」

    町の中に入り、少し歩いたところでグラムがそう切り出した。

    「昨日は予期せず森で一夜を明かしましたからね…」
    「うむ…体をしっかり休ませるためにも、今日はきちんと宿で休むべきじゃ。」

    グラム曰く町の外周に近い店ほど宿泊代金が安い傾向にあるらしい。
    ただし"安かろう悪かろう"という言い回しはこの世界でも通じるようで、
    安い宿屋は質も悪く、出来れば避けた方が無難であるということだった。

    そのまましばらく宿屋を物色して回った結果、今晩は
    "満月の雫亭"という宿泊施設で素泊まりことになった。

    「樹ちゃん、もう少し歩くことは出来るかの?」
    「ええと…平気です。」
    「ならば、明日以降の備えをしにいかねばならぬ。」

    宿泊代金を支払った後、オレ達は再び町へ繰り出した。
    大通りに開かれた屋台のよく分からない料理を夕食代わりに食べ
    旅装束、食品、防具など様々なジャンルの店を早歩きで見て回った。

    無事装備一式買い揃えた頃には、辺りは完全に夕闇に包まれていた。

    町の中とはいえ夜中に出歩くのはあまり安全ではないということで
    オレ達は大量の荷物を抱えて、今度は満月の雫亭へと戻っていった。

    「あ――――――――っ……つ、疲れた……」

    荷物を部屋の隅に降ろすと、勢いよくベッドに倒れ込んだ。

    暗殺されかけた一日目、装備一式お買い物弾丸ツアーな二日目と
    一日ごとの内容が濃密過ぎたせいでオレは完全に疲れきっていた。

    「お疲れさまじゃったのう、樹ちゃん。」

    隣のベッドに腰を下ろしたグラムが微笑みながらオレを労ってくれた。

    「あの…私もいい歳ですし"ちゃん付け"はちょっと恥ずかしいのですが…。」
    「恥ずかしがる必要はない、何歳になっても孫は孫…樹ちゃんは樹ちゃんじゃ!」

    "何歳になっても…"とグラムはさもオレと親族身内であるがの如く言い放ったが、
    オレ達は出会ってからまだ二日しか経っていない。

    げに恐ろしきは『格納』『時効取得』『換骨奪胎』の極悪コンボの性能なのだろう。

    初めて『格納』の説明を読んだ時はその内容のショボさに衝撃を受けたが
    その実態が「魂を格納するスキル」だったなんて、想像もしていなかった。
    いや、もしかしたら魂以外にも何がしか格納出来たのかもしれないが…
    追放中にのんびり1立方ミリメートル以内の物体を探す余裕はなかった。

    『時効取得』『換骨奪胎』に関しては正直"勇者"というより悪役が
    持ってそうな力だが、結果的に生存へと繋がったので感謝しかない。

    宿の手配や装備の購入もだが、一人で
    これほど手際良くやれたかと問われれば100%無理である。

    多少罪悪感はあるものの、グラムがいてくれて本当に良かった。

    「それに、それを言うなら樹ちゃんだってワシのことを
    "お爺ちゃん"と呼んでくれんじゃろう…おあいこじゃぞ!」

    あの一件以降、ハイレム王国の重臣は完全に"孫バカ"と化していた。
    正直人格が壊れ過ぎていてスキルの効果が切れた時にちゃんと元に
    戻るのかちょっと不安なのだが…一緒に過ごす分には安心出来る。

    「えー…善処します。」

    さすがにグラムを"お爺ちゃん"と呼ぶのは抵抗があったので、オレは言葉を濁した。

    「…ふわぁ」

    …不意に、大きなあくびをしてしまった。

    「樹ちゃん、荷物の準備はお爺ちゃんがしておくから今日はもう寝なさい。」

    オレの大あくびを見たグラムは、にこりと笑ってそう言った。

    本当は寝るまでの時間を使って明日以降の予定などを
    話したかったのだが、どうやら体力が限界を迎えたらしい。

    オレが眠気に負けるまで、時間はそう掛からなかった。
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