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    RacoonFrogDX

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    RacoonFrogDX

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    ぬいぐるみダンジョン(ひやかし)

    『異世界に召喚されたけど『適性:孫』ってなんだよ!?』(18)「樹ちゃん、アレがぬいぐるみダンジョンじゃ。」

    件のダンジョンはアラタルを出てしばらく歩いた所にあった。
    のどかな平原の中に小さい古墳の様な見た目の積み岩がぽつんとあり、
    入口と思われる空間から奥の方に向かってなだらかな下り坂が続いていた。
    ダンジョンの側には門番だろうか、簡素な鎧に身を包んだ人物が立っていた。

    「こんにちわ、探索希望の方ですか? 入場する場合は冒険者証をお見せ下さい。」

    …なるほど、こういうシステムか。
    思っていたよりもなんというか…アナログだ。

    「これで良いですか?」
    「…はい、結構です。 どうぞお気をつけて。」

    冒険者証を提示すると、門番はあっさり入場を許してくれた。

    「結構簡単に入れるものなんだね。」
    「モンスターは弱いが貴重な資源が存在したり、過去に事件が起きた
    ダンジョンは設定ランクが低かろうと警備は真っ当に厳重じゃからな。
    門番のあの大きなあくびを見たじゃろう? まあ、そういうことじゃ。」
    「ああ、入場の対応としてはこのダンジョンの方が例外ってことか。
    周辺も平原で見晴らし良いし、確かにヒマそうな感じはあったかも。」

    ぬいぐるみダンジョンは、入口こそ二人並んで入るのが難しい狭さだったが
    奥に向かうにつれ道幅も広くなっていき、すぐに開けた空間へたどりついた。

    「えっ…ここ、外じゃないんだよね?」

    オレは飛び込んできた光景に目を丸くした。
    目の前には、ダンジョン周辺と同じ様な平原が広がっていたのだ。
    丈の短い草花が地面をやわらかく覆い、低木が点々と生えていた。
    光源がないのに中は明るく、見通しまで良いのは変な感覚だった。

    「ダンジョンとはこういうものじゃよ、樹ちゃん。
    混沌から生じたモノに真っ当な理を求めても意味はないのじゃ。」
    「それはそうだけど、なんか調子狂うなあ。」
    「ほっほっほ、樹ちゃんも、ダンジョンにまともに挑むのは今回が初めてじゃからな。
    そのあたりの違和感にも、少しずつ慣れていくじゃろう。」

    オレは改めてダンジョン内の平原を眺めてみた。
    よく見ると、平原には何かカラフルな物体が点在していた。

    「なんか違和感のあるものが目につくんだけど…」
    「うむ、それがこの迷宮のモンスターというワケじゃ。」

    観察していると、こちらに気付いたのか
    カラフルな物体の一つがゆっくりとこちらに近づいて来た。
    その動きは文字通り実にのんびりとしており、どんな姿か
    落ち着いて観察出来るほどだった。

    「うわ、本当にぬいぐるみだ…」

    布で出来た体、パッチワークのように継ぎ接ぎされた布の皮膚、
    首元にはリボンがついており動きはたどたどしい…目に相当するとおぼしき
    ボタンが真っ赤なオーラをまとっていなければ、この手の人形が好きな人は
    今頃歓喜していたことだろう。

    足元まで近づいて来たぬいぐるみモンスターは、その小さな体で
    精一杯振りかぶるとオレの足を柔らかそうな手で殴りつけてきた。
    当然ダメージは一切なく、ぬいぐるみモンスターは殴りつけた
    反動で地面に勢いよくひっくり返ってしまった。

    「ダメージはないけど、殺意剥き出しなのは他の魔物と変わりないんだね。」
    「実にかわいらしい外見じゃが、そこは普通にモンスターじゃからな。
    それでも目を殴られたりするとよろしくないから、あまり顔を近づけ
    すぎないようにするんじゃぞ。」
    「分かった。 …えーっと、とりあえず…『鑑定』!」

    初めて見るモンスターには『鑑定』、ゲームでも定番の作業である。

    「『ぬいぐるみモンスター(マルビット):マルビットの姿を模した魔物』…
    マルビットってウサギみたいなやつだっけ、何日か前に爺ちゃんが狩ってた。」
    「うむ、樹ちゃんの世界で言うところのウサギじゃな。」
    「じゃあ、いちいちぬいぐるみモンスターって言うのも面倒だから、ウサギでいいかな。」
    「『適応』もあるから問題ないじゃろう、会話相手にはマルビットと聞こえているはず。」
    「…というか、よく考えたら何でグラム爺ちゃんウサギのこと知ってるの。」
    「『高齢者講習』の効果でな、樹ちゃんの世界のことも勉強したんじゃよ。」
    「あれ、そんな効果があったのか…」

    『高齢者講習』…"お爺ちゃんは孫と話が合わせられるようになる"ってスキルだったかな。
    "孫"であるオレが異世界出身だから、異世界の知識があるに越したことはないだろうけど
    正直他の普通のスキルと比較すると効果が破格過ぎないだろうか。
    まあ、勇者召喚によって変異したスキルの一種と考えれば問題ないのかもしれないが。

    …ちなみちオレがこうして『高齢者講習』の効果に驚いている間も、
    足元ではウサギのぬいぐるみが足に攻撃を仕掛けては反動で倒れを繰り返していた。
    ここまで害がないと練習台にするのも申しわけない気がするが、もう決めたことだ。
    生き抜くために攻撃し返させてもらうとしよう。

    「『格納』」

    オレがぬいぐるみにスキルを発動すると、
    ぬいぐるみはこてっと倒れて動かなくなった。

    「それで、実験というのは何をするつもりなんじゃ?」
    「うん、魂の出庫に関するものなんだけど…」

    グラムが祖父になった時はオレ自身の意志で魂を直接体に触った状態で『出庫』した。
    キラメキドロンの時は使役が目的だったため中途では出庫せず『返却』で魂を戻した。
    魂というものがどのような性質を持っているのか分からないので、あまり冒険する様な
    使い方をしてこなかったのだが…相手を倒すためにスキルを使うのであれば、話は別だ。

    「例えば…魂を敵の体から離した状態で『出庫』したら、魂は体に戻れるのかって思って。」
    「ふむ、それは興味深い発想じゃのう。」

    意図せずグラムを眷属に変えてしまった際にも考えたことだが
    魂というものは、体から離れてしまうと元の場所に戻るのが難しそうなイメージがあった。
    元の世界では死ぬと体から魂が抜け出るとか、幽体離脱中は魂と体が糸の様なもので繋がれているが
    それが切れると死んでしまう…とか、体から離れた魂が不安定な話はちょくちょく耳にする機会があった。

    「『出庫』」

    オレはモンスターの体を少し離れた場所に設置すると、それと反対の方向を向いて魂を放出した。

    「!? これは…!」

    魂を『出庫』した後、グラムの声を辿るように振り返ると
    モンスターの体は既に細かな粒子状へと変わりつつあった。
    どうやらオレの推測は大当たりだったらしい。

    『格納』するにはある程度近づく必要がある…というデメリットはあるが
    決まりさえすれば、どれだけ格上相手でもこの方法で倒せるかもしれない。

    その後もぬいぐるみモンスターを何体か利用してスキルの練習をしてみたところ、
    相手に極端に近づいた状態でなければこの方法でも魔物を撃破出来ることが判明した。

    「スキルも使いようってことだね、あー…嬉しい!」
    「こんな使い方を思いつくとは、樹ちゃんはやっぱり賢い子じゃのう。」

    自分だけの攻撃方法を見つけたことで少し自信を持つことが出来たオレは、
    次に先日獲得した『改竄』スキルを使ってみることにした。

    どう見ても悪役向けで、恐らく人間が対象として想定されているであろう
    このスキルもモンスター相手なら遠慮なく発動することが出来た。
    グラムは「樹ちゃんになら記憶を書き換えられても大丈夫じゃ!」…と、
    自分が実験台になると意気込んでいたのだが、さすがに一線を越える気はなかった。

    「『改竄』!」

    オレは、ウサギの後に発見したネズミのぬいぐるみモンスターにスキルを発動した。
    モンスターは動きを止め、その体の上方に幾つかウインドウの様なものが出現した。

    ウインドウはそれぞれ、動画を垂れ流しているもの、文章が表示されているもの、
    何も表示されていないものの三種類が存在していた。

    「…この動画は、モンスターの記憶を映像として表示してるっぽいな。
    文字列の方は記憶を文章に書き起こしているとすると…何も表示されてないウインドウは一体何だろう?」
    「ふーむ…完全に推測じゃが、もしかしたら感情や個性、自我といった
    モンスターが有していない要素を表示するためのものではないかのう…?」
    「なるほど、好物とか、性格とか、そういったものかな…とりあえず今は、触れるものをいじってみよう。」

    用途不明なウインドウは置いておくことにして、オレは文章と映像の方を確認した。
    試しに文章のウインドウに触れてみると、触れた部分に点滅する短い縦線が出現した。
    メモ帳アプリなんかで、現在のカーソルの位置を表示するための線とそっくりだった。
    同時にキーボードの様な表示も出現したため、スキルの使い方自体はすぐに把握出来た。

    映像の方は指で触れると一時停止し、巻き戻しやスキップ、カットやペーストといった
    動画編集ソフトっぽい表示がウインドウの下に出現したため、こちらもスキルの
    使用方法をぼんやり推測することが出来た。

    「文章の方はメモ帳、動画の方は動画編集ソフトだと思っておけば良さそうかな。
    動画編集は難しそうだから、とりあえず文章の記憶の方を書き換えてみるか。」

    オレは空中に出現したキーボードを叩いてみた。

    「あれ、三文字しか消せない…?」

    不思議に思い文章ウインドウを観察すると、隅の方に「0/3」という表示があった。

    「もしかして、この文字数の範囲内でしか内容が変更出来ないのか…?」

    たった三文字で何を書き換えろというのか…オレは多少面食らいつつも、
    初期段階で似たような状態だった『格納』のことを思い出し、何度か編集と保存を繰り返した。

    「三文字"しか"編集出来ないじゃなくて、三文字"ずつ"編集出来る形式でよかった。」

    しばらく練習した結果『改竄』はカーソルの場所をずらして少しずつ編集することで
    長い文章を書き換えたり、追加できることが判明した。
    これが本当に"ウインドウ全体で三文字以内"だと使いにくいことこの上なかった筈だ。

    そうしてしばらく時間が経った後、何か変化がないかと
    ステータスを開いてみるとスキルの説明文に変化が見られた。



    『改竄』:対象の記憶の内容を一部書き変える。
         映像記憶(1秒/1オブジェクト/1エフェクト)
         文章記憶(5文字)
         構成要素(1文字)



    下三行の説明が、恐らくそれぞれのウインドウに対応しているのだろう。
    "構成要素"というのが何も映ってないウインドウのことだろうが、やはり詳細は分からなかった。

    文章記憶の文字数が"5"になっていたため、改めてウインドウの隅を確認すると
    文字数制限の表示が「0/5」となっていた。
    どうやら『改竄』も他のスキルと同じく繰り返し使うことで強化されていく様だ。
    オレは時間が許す限り記憶の書き換え→完了→再編集を繰り返してレベルアップを図った。
    映像記憶の方も、下手くそなりに適当に機能をいじることで同じくレベルアップを目指した。
    例によって非常に地味な作業となったが、グラムはその間中オレの横に陣取って

    「集中している樹ちゃんも恰好いいのう…」と、ニヤニヤしながらオレの方を眺めていた。

    …まあ、本人が退屈じゃないなら…別にそれでいいけど…。

    以降、ひたすら地道な反復練習を繰り返していたのだが、

    「樹ちゃん、そろそろ日が暮れそうじゃ。 街に戻らんかね?」

    …と、グラムにそう声を掛けられたためオレ達は地上に戻ることにした。




    『改竄』:対象の記憶の内容を一部書き変える。
         映像記憶(5秒/3オブジェクト/3エフェクト)
         文章記憶(10文字)
         構成要素(1文字)



    訓練の結果、『改竄』スキルは最初の状態よりもかなり制限が緩和された…気がする。
    10文字あれば今後何かのタイミングでスキルを使う機会があっても3文字よりは色々とやれそうだ。
    本当はもう少し試してみたいことがあったのだが、時間は止められない…また明日に回すことにした。

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