例えばの話をしよう。
もし、僕が先生の斬首場に居たとしよう。
転がり落ちる先生の首が、大衆の目に晒される前にそのまま持ち帰ったとしたら。
「そうしたら、僕の宝具になったのかな」
足下に倒れている蘭丸君を見下ろしながら、彼が大事に抱えていた信長公の首が入った桐箱に手を伸ばす。
まだ抵抗するのか、桐箱から離れない手を無理矢理剥がした。
気持ちは良く分かるから、これ以上君を傷付ける事はしないさ。
「か、えせ、らんまる、の、たいせつな」
「君も疲れただろうし、もう休みなよ」
首だけは取らないでおこうと思ったけど、こればかりは仕方ない。
刀を振り下ろして、彼の首を斬り落とす。
薄い皮膚から薄い肉、そして血管、気管、骨を切り裂いていく感覚にすっと目を細めた。
先生が斬首された時も、きっとこんな感じだったのだろう。
事切れた蘭丸君を尻目に、信長公の首を抱いて江戸の町を走り抜けた。
「僕も欲しかったな、先生の首」
英霊には、それぞれ死因が起因して弱点として刻まれているらしい。
僕の場合は、新撰組の沖田君とは違って死因が昇華されていた。
「晋作」
「先生は、首をもう少し強化した方がいいと思います。何せ、死因は斬首だったんですから」
首元が心許ない先生の首に、襟巻きを詰めていると先生に止めに入られてしまった。
不服そうに先生を見つめると、深い溜め息を付かれてしまう。
先生、僕は本気で先生が心配なんですよ。
「晋作。どんなに首を強化しても、斬られる時は斬られます」
「そうですね。だから、斬られない様にして下さいよ。松陰先生」
「聞いていますか、晋作」
聞いていますよ、先生。
僕が先生の話を聞かなかった事がありますか、ありましたね。
だから何度も僕に声を掛けるのでしょうが、何度も僕も言ってるじゃないですか。
僕に首を斬られない様にして下さいと。