ウィル・ナイアー誘拐事件/たえこ視点自分のロッカーから荷物を出そうとして受付に背中を向けていたらガシャンって音がして受付のカウンターから後輩が飛び出していくのが見えた。その顔はどこか泣き出しそうであり、苦しそうであり。そういえばあの子、ウィルちゃんの事大好きだったわねぇなんて考えながら受付の中にある椅子に腰かけた。
受付の中には珍しく女子だけが固まっていたけれど今日も忙しいのかしらなんてため息を吐く。
「やぁねぇ誘拐なんて」
少ない出勤数の中でまた誘拐かとため息を吐く。初めてこの病院に来た日、二人の後輩が出来た日、そして今日。まぁ後輩が出来た日は救急隊の誰かってわけじゃなくてあんずさんで、隊長なんて私とあんずさんを交換しようとしたり、私も屋上から落ちちゃったり散々だったのだけど。
カテジとましろ君が街中に出たダウン通知に対応するために救急車に乗って出ていった。隊長が私が来る日はどうにも騒がしいってぼやいていたから人気者は仕方ないわねぇって笑ったのだけれどほんと、こういう救急隊が巻き込まれるような事件事故はやめてほしいのよねぇ。
マグナムちゃんがきょろきょろとしながら病院から抜け出していったのが見えた。あのこ、大丈夫なのかしら。
なんて外の様子に視線を奪われていたらガシャンって大きな音がして隣に座っていたよつはがいつの間にかバックヤードに駆け込んでいった。顔色が真っ青だったしもしかしたら体調が悪いのかしら?そのままにしておくのも心配でバックヤードに入れば過呼吸を起こしている姿を見つけて慌てて駆け寄った。
「ちょっとアンタ!倒れるならせめて目の届く場所で倒れて頂戴!」
「か、はひゅ、は、はひ、ひゅ」
「と、とりあえず何か袋、」
「おはようござい、え、どうしたんですか!?」
宿直室からあどけない顔をした男の子が出てきてキッチンに置いてあった紙袋を持って来てくれた。ハンカチと一緒にそれを渡して、触れた背中があまりにも冷えていたからキャビネットに置かれていたブランケットを背中にかけてあげた。
うわごとのように治、治、とつぶやくよつはを抱え上げて治療室に運んでいく。
「あ、たえこぱいせん、無線入れといてくださいね」
「あら、ごめんなさいねぇ」
とりあえずみんな、無事で帰ってきてくれたらいいのだけど。なんて、誰に聞かれるでもなく呟いた。