ウィル・ナイアー誘拐事件/マグナム視点ウィルパイセンが、誘拐されたって聞いてびっくりした。いつでもにこにこ穏やかに笑っているあの先輩はなんだかんだ危機回避能力が高い。それは人間関係に対してもそうだし、こういう事件に対しても。
ふざけて変なこと言ったときとか、ウィルパイセンの物まねとかパイセンがいない時を狙ってやってたのがいつの間にか伝わっていて怒られると思ってびくびくしていたんだけど結局笑って許してくれて。そんな優しい先輩だから、実は変な人に沢山好かれているのを知ってる。病院にいる時はももみパイセンがいるからあんまり気にしてないんだけど一人で外出てるときとか、仕事中でも、ウィルパイセンに寄ってくる女の人は多くて。
本人にそういう気がなくてもモテる人ってほんとに女の人が寄ってくるんだって少し驚いた。
僕がやったら怒られることでも、ウィルパイセンがやったらきゃあきゃあ言われたりして。でも、ウィルパイセンはそんな女人たちよりぼくら救急隊と一緒にいてくれる。この間なんて病院の中でラジコンカーレースに誘ったらいいですよって笑って乗ってくれたし。
そんな優しい人だから、ももみパイセンほどじゃないけど救急隊のみんながウィルパイセンの事大好きで、大切な仲間だと思ってる。だから、この事件の犯人を絶対許すわけにはいかない。
レースでよく走る山道をただただひたすらに走る。レースのために改造した車だけれどこんな風に活かす機会があるなんて思ってもみなかった。ももみパイセンと鳥野君が追いかけてるであろうGPSの見ながらだから時々ちょっと危ういけど。犯人はピルボックスからももみパイセンたちが牧場やってる場所の近くまで行って、そこでウィルパイセンと治パイセンが撃たれて、そっちには隊長が向かって、途中から多分ももみパイセンと鳥野君に変わった。ぐるっと北所の方を回っていまはまた街の方に戻ってこようとしてる。その直前に、相手が通るであろう場所に車をぶつけられないかって思って。それなりに強化した車だから多分その辺での盗難車くらいには勝てると思う。
高速道路の入り口で、マップの中で動く黄色のマークをじっと睨みつける。
この速度で走ってるならきっとあと数秒でここにたどり着くだろう。車の事故には慣れてる。怪我をするのも、いつもの事。自分の怪我が軽いとは思ってない。思ってないけど、それ以上にウィル先輩が帰ってこないことで悲しむ人がたくさんいる。そして、その悲しむ人たちのほとんどはぼくの大切ない場所である救急隊で、かげまる医局長の時だってみんなずっと必死だったのを、ずっと外から見ていた。
ぱぁん、って明らかに普通の住人ではないスピードで車が走り去っていくのが見えてアクセルを強く踏み込んだ。目線の先にある真っ黒の車は、エンジンが強化されているスーパーカーだ。割れた窓から犯人のモノらしい後頭部と後部座席に乗せられたウィルパイセンの姿が見えた。あれを、捕まえなきゃ。あれを、あれから、ウィルパイセンを取り戻さなきゃ。僕が1番に行って取り返して、連れて帰れたら。少しでも傷ついた人達が悲しむのが減るかもしれない。危ない事するんじゃないって、いくらでも怒られていい。
ただあの優しい声で、僕の名前を呼ぶ人が元気であれば、それだけで。