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    あんちょ@supe3kaeshi

    たまに短文

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    スパコミで無料配布した短編です!
    同棲しているひいあいの日常です。

    帰りにプリン買ってきて♡ メッセージアプリの通知音で、おれはソファから起き上がった。床に落ちていたスマホを拾い上げてアプリを開くと、ヒロくんからメッセージが来ていた。
    『いま事務所を出たよ』
     おれは自分でニッと口角を上げて大袈裟な反動をつけて立ち上がる。足取りは軽い。もうすぐヒロくんが帰ってくる。
    『仕事どうだった?』
     おれは洗面所で顔を洗って、少し伸びた髪を後ろで一つにくくる。お揃いで買った、ひよこのアップリケのついたエプロンを身に着けて冷蔵庫を開けた。今日の夕飯はヒロくんの大好きなものを沢山作るつもりで冷蔵庫いっぱいに材料を揃えていた。
    『順調だったよ。ホテルも快適だった』
     ひき肉と玉ねぎを冷蔵庫から出して、まな板と包丁を用意する。玉ねぎのみじん切りは得意じゃないけど、ヒロくんは玉ねぎの食感が感じられるくらいが好きだと言ってくれた。
    『ご馳走いっぱい食べた?』
    『うん。ケータリングも豪華だったよ』
     ヒロくんはドラマの撮影のために数日出かけていた。お互い泊まりの仕事は珍しくないけど、一緒に暮らし始めてからは一人の夜がちょっと寂しくなった。
    『じゃあ今日の夕飯は見劣りしないようにしなきゃ』
     涙目で玉ねぎを炒めて、ボウルの中でひき肉と混ぜ合わせる。繋ぎのパン粉と調味料を加えていくと美味しそうな匂いが立ち上ってきた。
    『藍良が作るものなら、何でも嬉しいよ』
     分かり切っていた言葉でも嬉しいものは嬉しい。おれは普段は手で捏ねる手順のある料理は苦手なんだけど、今日は張り切ってひき肉を捏ねた。
    『撮影は全部終わったの?』
    『うん。天気に恵まれて良かったよ。おかげで予定より早く帰れる』
     混ぜ合わせたひき肉に少量の豆乳を混ぜて全体を滑らかにする。それを四つの塊に分けて、一つずつ丸めていく。丸めた後は少し平たく。真ん中にくぼみを作って。
    『今バスに乗ったよ』
     おれは時計を見る。おれ達が使うバスの時刻表は大体頭に入っている。今バスに乗ったってことは、さてはヒロくん事務所からバス停まで走ったな?
     どうしよう、予定ではヒロくんが帰ってくるのと同じタイミングで夕飯が完成している予定なんだけど。
     おれは卵とケチャップを冷蔵庫から取り出す。調理台に卵を置いた時、ふと思いついたことをヒロくんに送った。
    『コンビニでプリン買ってきてくれない?』
     フライパンの油が温まったのを確認して、その中に四つの塊を丁寧に並べる。ジュウッという美味しそうな音が鳴るのを確認してフライパンにフタをして、おれは次の品にうつる。
    『分かった。でもお土産にお菓子があるよ。いいの?』
    『いいの。お土産は大事に食べるから。プリンはいつものやつね』
    『分かったよ』
     二つ目のフライパンで、炊飯器から出しておいたご飯を炒める。おれはケチャップライスにはスイートコーンを混ぜて少し甘く整えるのが好き。ケチャップの酸っぱい香りが食欲をそそる。まだ完成してないのに、もう最高じゃん。
     さっきのフライパンの塊をひっくり返すと、誰もがハンバーグと認めてくれそうなものが出来ていた。理想通りの色になっていて、またこれも最高。焦がさないよう横目で見張りながら、おれはケチャップライスを大皿の半分に盛った。
    『いつものプリンが一個しか無かったから、新商品ってかいてある「ミルクたっぷり天使のプリン」ってやつでもいいかい?』
    『何それ美味しそう。それにしよ』
     おれは慎重に、とろとろに仕上げた卵焼きを、お皿のケチャップライスにそっと被せた。包むやり方は苦手だから、おれの作り方はいつもこう。
    『マンションの下に着いたよ』
     ハンバーグとオムライスをお皿の上に乗せて、ちぎったレタスとプチトマトを添えて今日のご飯の完成。ちょうど玄関が開く音がした。
    「ただいま藍良」
     おれは洗った手を急いでタオルで拭いて、髪をほどいて、ヒロくんがリビングに入ってくるのを出迎えた。
    「おかえり!」
    おれが何をしたいのかを察して、荷物を置いて手を広げてくれたのが嬉しい。おれはヒロくんに思いっきり抱き着いた。数日ぶりのヒロくんを吸い込む。お仕事を頑張ってきた匂いがした。
    「恋しかったよ藍良。何も無かったかい?」
    「なんにも。平和だったよォ」
     おれはヒロくんの遠征用バッグとお土産の入った紙袋、プリンの入ったコンビニの袋を受け取ってから、ヒロくんを洗面所に追いやった。ヒロくんが手洗いうがいをしている間に、バッグとお土産の袋はリビングに置いて、プリンを冷蔵庫にしまう。そしてたった今完成した、ヒロくんの大好きなものしか乗ってないプレートを二皿、食卓に並べた。作っておいたハンバーグ用のソースと、サラダ用のドレッシング、スプーンとフォークと、あと一応お箸も置く。
    「いい匂い。ハンバーグかな?」
    「当たり。オムライスもあるよォ」
     食卓を見せると、ヒロくんの目が輝いた。もうその顔だけで嬉しい。一所懸命作った甲斐があった。おれはいつもの「あいらぁぶ」を唱えながら、ケチャップでくるくるとオムライスにハートを描く。オムライスの卵が上手く焼けているほうをヒロくんの方へ差し出した。
    「いただきます!」
    「どうぞォ、召し上がれ」
     ヒロくんが早速、オムライスの端っこをスプーンで一口分ほぐして口に入れる。うんうんと頷いて、次はハンバーグを一口食べた。目がきらきらとして、頬が少し赤くなってる。その表情がもう物語っていた。
    「美味しいよ!」
     味には自信があったけれど、本人に褒めてもらえたらほっとした。いや、美味しいのは分かってるんだ。だっておれ、二日前もまったく同じものを一人前作ったし。
     ヒロくんは美味しい美味しいと言いながら、おれが作ったご飯をあっという間に平らげてくれた。二つずつ作ったハンバーグはヒロくんの分を少し大きめにしてあったのに、あまりの食べっぷりにおれは自分のぶんをひとつあげた。
    「ごちそうさま! すごく美味しかったよ。ありがとう藍良」
     真正面から曇り一つない言葉を浴びて、おれはちょっとだけ泣きそうになった。

     食後は二人で手分けをして家事や部屋の片づけをした。あとはもう他にやることは無いし、時間はもうそろそろ寝てもいい時間になっていたけれど、なんとなくもったいない。多分二人ともそんな気持ちだから、ただ呆然とリビングの中途半端な位置で、腰に手を当てて何かを考えるふりをして立っているんだ。座ればいいのに。おれが言うべきか、ヒロくんが言ってくれるのを待つべきか。
    「よし、プリン食べよ」
     ぽんと手を叩いて、おれはキッチンへ。ヒロくんが「そうしよう」と笑って、ソファに座った。
     カフェインは眠れなくなるからハーブティーを淹れた。ヒロくんが買ってきてくれたプリンを食べながら、二人ソファに並んで座る。
     テレビをつけると、何度も再放送されている有名なアニメ映画が流れていた。時間も時間だからもうクライマックスだ。
    「あ、このプリン美味しい」
     ミルクたっぷり天使のプリンという名前から抱いてしまう期待に、しっかり応えてくれる優しい味のプリンだった。
    「うん、美味しい」
     オムライスとハンバーグ三つをあっという間に食べたヒロくんも、スプーンに少しずつプリンを掬ってちまちまと食べている。すぐ食べ終わるのがもったいないくらい美味しいし、嬉しい。
    「ロケ先のご馳走とか、ヒロくんのご飯とか、さっきおれが作ったご飯とかも全部美味しいけど」
     おれは時間をかけてやっと半分になったプリンを見つめる。
    「こうやってヒロくんとコンビニのプリンを食べている時間が、いちばん幸せかも」
    「ふふ、僕もそれを聞いてたった今いちばんになったよ」
     ちらっとヒロくんを見たら目が合う。いつも気が付くと見つめられている。照れ隠しに慌てて目を逸らすのはいつもおれのほう。
    「ええー、ヒロくんはいつもおれの真似するんだからァ」
     ヒロくんがまた笑った。おれもつられて笑う。ヒロくんの肩にもたれて力を抜いた。こんなにゆっくり過ごせる夜は久しぶりだもん。甘えていいよね。
    「夜に食べるプリンが不思議と美味しいことを、教えてくれたのは藍良だよ」
     流れていたはずの映画はいつの間にか終わって、画面には天気予報が映っている。今夜は少し冷えるらしい。
    甘える口実がまたひとつ増えた。


    おわり
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    あんちょ@supe3kaeshi

    DONE【うさぎ⑥】塾一彩とうさぎ藍良のパロディ小説。コンセプトバーで働く藍良と、彼目当てに通っちゃう学生の一彩くんのお話。今回は藍良視点。◆◇◆◇9/10追記
    ◆◇今夜もウサギの夢をみる◆◇ Scene.10Scene10. ウサギの独白 ◆◇◆◇


     おれは、アイドルが好きだ。これまでもずっと好きだった。
     小さいころ、テレビの向こうで歌って踊る彼らを見て虜になった。
     子どものおれは歌番組に登場するアイドルたちを見境なく満遍なくチェックして、ノートにびっしりそれぞれの好きなところ、良いところ、プロフィールや歌詞などを書き溜めていった。
     小学校のクラスメイトは皆、カードゲームやシールを集めて、プリントの裏にモンスターの絵を描いて喜んでいたけれど、同じようにおれは、ノートを自作の「アイドル図鑑」にしていた。
     中学生になると好みやこだわりが出てきて、好きなアイドルグループや推しができるようになった。
     高校生になってアルバイトが出来るようになると、アイドルのグッズやアルバム、ライブの円盤を購入できるようになった。アイドルのことを知るたび、お金で買えるものが増えるたび、実際に彼らをこの目で見たいと思うようになった。ライブの現場に行ってサイリウムを振りたい、そう思うようになった。
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