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    hjm_shiro

    @hjm_shiro

    ジャンル/CP雑多

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    hjm_shiro

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    凪玲/選ばれたのは俺でした!?
    凪に似たキャラクターを攻略しようと、恋愛シミュレーションゲームに勤しむ玲王の話。

    #凪玲
    #ngro
    #なぎれお
    lookingHoarse

     ほんの出来心だった。ゲームそのものに興味はないし、ましてや恋愛シミュレーションゲームなんてもっと興味がない。ただ強いていえば、たまたま日課にしているSNS投稿を済ませた際、広告として出てきたプロモーションムービーをなんとなくタップしてしまったことだろうか。
     あなたにぴったりの王子様が見つかる――という宣伝文句と共に白髪のキャラクターがこちらに手を差し伸べた。気怠そうに首を押さえる仕草やちょっと眠そうな目、伸びた前髪。なんだか凪にそっくりだと思ったのだ。凪っぽいキャラクターがいるなーと見てたら、なりゆきでゲームをダウンロードしていた。後にも先にもスマホゲームを入れたのはこれが初めてだった。


    「ねぇ、レオ。ここ最近、ずっとスマホばっか見てるよね。何かしてるの?」
    「うおっ!! バカ! 急に声かけんなよ!」
    「さっきから何度も声かけてたよ」

     凪がムッとした表情でベッドに乗り上げてくる。
     ちなみに凪とは同室だ。基本的に練習でも凪と一緒、部屋に帰ってきても凪とは一緒である。だからこそ、普段は凪が寝ているときとか、凪がクリスに呼ばれたときにしかゲームを起動していないのだが、数日前から始まった『どきどき♡秋の学園祭編』イベントを走るために、いまは隙あらばゲームを起動している。さっきもちょうど凪がトイレに行ったからその隙に、と思って立ち上げたのだが、どうやらもう帰ってきてしまったみたいだ。
     慌ててゲームを閉じ、スマホの画面も暗くする。何も見てませんよーと白を切るつもりだったが、「ゲームしてたでしょ」の一言で顔が引き攣った。完全にバレてら。

    「レオがゲームなんて珍しいね」
    「そうか……?」
    「今までやってるの、見たことないんだけど」
    「人並みにするけどな」
    「ふーん。で、なんのゲーム?」

     教えてよ、と凪に詮索される。だけど言いづらかった。そもそも女性向けの恋愛シミュレーションゲームだし、凪に似ているキャラクターがいたからプレイしている、なんて。

    「……ビジネス系ゲーム」
    「ビジネス系……? そんなゲームあるの?」
    「えーっと、そう! ほら、あの、仮想投資できるんだよ! 株の勉強ができるみたいな! なんかそういうゲーム!」
    「えー、なにそれ。面白いの? っていうか、レオなら別に勉強しなくても株の知識あるじゃん。かなり儲けてるって話してなかったっけ?」
    「そうだけど、ゲームになるとまた違うの!」
    「そういうもん?」
    「そういうもの! つーかお前、クリスに呼ばれてなかったか?」
    「あっ、そういえばそうだったかも……」

     適当に話を逸らし、凪の興味を削ぐ。凪もクリスに呼ばれていることの方がまずいと認識したのか、「行ってくるね」と言って部屋を出ていった。ホッと息をつき、またゲームを立ち上げる。

    「あー、よかった。まだ選択する前だったわ……」

     ちょうど選択肢の前で画面は止まったままだった。慌ててゲーム画面を閉じたから選択肢をタップしてしまったような気もして、ちょっとヒヤヒヤしていたのだ。
     俺が現在プレイしている『学園♡プリンス』はその名の通り、学園を舞台にした恋愛シミュレーションゲームである。使用するヒロインを決め、攻略キャラクターを選ぶことができる。そして今、熱心にプレイしている『どきどき♡秋の学園祭編』は、攻略キャラクターの好感度を上げるビッグイベントだった。ポイントに応じて専用スチルがもらえるため、こっちも必死だ。なんとしても告白エンドまでたどり着き、凪とのキスシーンスチルが欲しい。いや、凪に似ているキャラクターであって、凪ではないんだけど。

    「でもコイツ、難しいんだよなー」

     キャラクターである誠(まこと)は、何においてもやる気がなく、無理に学校行事などへ引っ張り出そうとすると好感度が下がる。だけど、甘やかしすぎてもよくないらしく、塩梅が難しかった。
    『学祭の準備面倒くさーい。このまま帰ろうよ』のセリフに対し、▷いいよ、帰ろう! という選択肢と、▷せっかくだから頑張ろうよ。思い出づくりにもなるよ! という選択肢が並んでいる。個人的には頑張る方を選びたい。このまま学校に残る選択肢を選べば、何か特別なイベントが発生するかもしれないし、学校での思い出スチルがゲットできるかも。そう思って、▷せっかくだから頑張ろうよ。思い出づくりにもなるよ! を選択肢した。が、

    「なんでだよ!!」

     タップした瞬間、ハートマークが割れる。正確に言えば、ハートマークが割れるエフェクトが表示されて、好感度は一定のまま。特に上がることも下がることもなく、「……まぁ、玲王が言うなら」とキャラクターから嫌々返答された。
     これにはちょっとぐさりと来る。だって、凪に似たキャラクターからあからさまに嫌な顔をされるのだ。凪のことは自分が一番よく分かっているつもりなのに、架空のキャラであっても否定されると傷付く。凪(もどき)には好かれたいし、なんとしてでも告白エンドまでたどり着きたい。
     こうなったら攻略サイトを探すか……でもそれは最後の手としたい。まだプレイして日も浅いため、できれば自分で試行錯誤しながら進めたい。

    「とはいえ手詰まりなんだよなー。誰かゲームに強いやつ……強いやつ……。あっ」

     ふと、思い当たる人物が頭に浮かぶ。ファンの心を掴むのもプロの仕事だと絵心に言われ、日々の様子をSNSにアップするように言いつけられている中、ひとりだけ熱心にアニメの話をしている奴がいた。アニメが好きだということは、漫画とかゲームとか、そういった類のものも齧っているだろう。そいつに攻略方法とか聞けばいいんじゃないか? と閃く。だけどチームが違い、別棟まで移動するには時間がかかるため、ひとまずDMを送ってみることにした。

    「学園♡プリンスって知ってるか……、と」

     まずはゲームそのものを知っているかを確認する。割と幅広くアニメを見ているらしく、原作の漫画やゲームの話をしているから何か知っているかもしれない。期待しながら待っていると、すぐに返事が来た。

    『急になんですか……。まぁ、知ってますけど』

     マジか! と心の中でガッツポーズする。こりゃ話が早いな、と続きを打とうとしたら、怒涛の勢いでメッセージが飛んできた。

    『学園♡プリンスは元々ポータブルゲームが原作でしたよね』
    『この前、アニメにもなってて、ちょっとだけ見ました』
    『ヒロインのビジュが割といいですよね。あと声優も』
    『ていうか、そんなことを僕に聞いてどうするんです?』

     返信が追いつかない。濁流のように押し寄せてくるメッセージにひとまず、知っていてよかった! と送る。DMの相手である二子のメッセージ攻撃は止まらない。

    『そういえば最近、スマホアプリでもゲーム出てませんでしたっけ?』
    『ヒロインが選択できて、自分好みにカスタムもできるとか』
    『あと、完全オリジナルシナリオだって聞きましたよ』

     ちょうどアプリゲームの話が出てきたので、ここぞとばかりにメッセージを打ち込む。実は興味本位でインストールしたこと、誠という白髪キャラクターの攻略に悩んでいること、ついでに選択肢のスクショを送ったら、またしても倍のメッセージ量が送られてきた。そこまでべらべらと喋るタイプではないと思っていたが、興味があることはよく喋るんだなーと関心する。もしくはネット弁慶的な奴かも。

    『プレイしてるんですか!?』
    『やっぱりビジュがいいですね』
    『で、このスクショはなんです?』
    【あー。それがさ、コイツなかなか攻略が難しくて。どっち選べばいいか分かる?】
    『いきなり誠を選びますか。確か、このキャラは攻略難易度が高いはずですよ。旧作では隠しキャラでしたし』
    『っていうか、誰かに似てるような……?』
    【凪?】
    『それです。ちょっと似てる気がします』
    『だから、攻略したいんですか?』
    【いや、別にそういうわけじゃねぇけど、たまたま選んだのがコイツだっただけ】
    『……まぁ、そういうことにしておきます。で、悩んでいる選択肢がスクショのやつってことですか?』
    【そう】

     少しだけ物語が進み、今度は文化祭準備に勤しむシーンに移っている。さっき、帰るか帰らないかを選んだばかりだが、また帰りたいと言ってきた。それに対してまた▷帰る ▷帰らないの選択肢が出ている。

    【さっき、似たような選択肢で帰らないって選んだら好感度が上がらなかったんだよなー】
    『だったら、帰るでいいんじゃないんですか? たぶん帰る方が正解で、そっちにスチルとかあるんだと思います』
    【なるほど……?】

     言われた通りに、帰る方を選択する。するとハートのエフェクトが画面いっぱいに現れた。どうやら正解みたいだ。

    【サンキュー! 助かった!!】

     よっしゃー! と叫びながらベッドの上に立つ。しかも二子の言う通り、帰宅途中のスチルが現れた。普通、こういうのって二人でいろんなことするのが正解なんじゃねーの!? と思うが、どうやら今回は帰る方で正解だったみたいだ。というより、誠のやる気が常に低空飛行してるから……なのかもしれないが。

    「マジで助かったー!」
    「……何が?」
    「いや、だからこれ……」

     くるりと振り返ってハッとする。凪が帰ってきたようだ。慌ててゲームを閉じて、スマホをシーツの上に放り投げる。なんでもないと言ったが、凪の胡乱げな目からは逃れられなかった。

    「なんか怪しい……」
    「別にやましいことなんかしてねーよ。本当に投資ゲームしてただけ」

     いやー、がっぽり稼げてさー! と笑う。だって、嘘じゃない。好感度をがっつり稼いだ。

    「……まぁ、いいや。レオ〜〜、疲れたからお風呂で頭洗ってー」
    「ったく、仕方ねぇな。凪クンは」
    「お願い」
    「はいはい」

     ベッドに倒れ込んできた凪を起こし、せっせと風呂に行く準備をする。
     現実の凪は割と分かりやすいんだけどなーと笑ったら、やっぱり凪に変な目で見られた。


     ◆

     それからも恋愛シミュレーションゲームでの好感度上げは続いた。だが、

    『なかなか好感度が上がりませんね……』
    【普通はこっちじゃね? って選択肢がことごとくダメなんだよなぁ……】
    『そうなんですよね。じゃあ、たまには正解と思う方とは逆の選択肢を……と思って選ぶと、そっちがハズレだったり』
    【そうそう! マジで意味わかんねー。っていうかコイツ、恋愛する気あんのか?笑】
    『一応、恋愛ゲームなんであるんじゃないんですか?』
    【そうとは思えねぇな】
    『いっそ誠は諦めて、他のキャラに変えます?』
    【それは無理。ここまできたら攻略したい】
    『うーん、じゃあもう本人に聞くしかないのでは?』
    【本人?】
    『このキャラクターに似てる人がいるじゃないですか。案外、思考パターンも同じかも』
    【それだけはぜってーヤダ】

     凪本人に聞くとか拷問でしかない。恋愛シミュレーションゲームをしていることがバレるのも嫌だし、凪に似たキャラクターを攻略していることも知られたくない。

    『分かりました。じゃあ、こうしましょう。恋愛ゲームとしてプレイするんじゃなく、凪誠士郎を攻略する気持ちでやってみましょう』
    【は? どういうこと?】
    『僕たちは恋愛ゲームであることに囚われすぎてるんですよ。恋愛ゲームとしての正解を求めてきましたけど、そうではなく誠を凪誠士郎として置き換えて、彼だったら……という視点で選択していくんです』
    【なるほど……?】

     よく分からない。が、ここまできたら攻略したいので藁にも縋る思いだ。相手が凪だったら。凪だったら、どんな答えが欲しいのかを想像し、何個か選択していく。すると、それがよかったらしく、一気に好感度が上がった。

    『おぉ! 好感度上がったわ! サンキュー』
    【よかったです。この調子で告白エンドまでたどり着けるといいですね】
    『おう! ありがとな!』

     ごろんとベッドの上を転がり、回収したばかりのスチルを眺める。

     少しずつではあるが好感度も、そしてスチルも集まってきた。貯まった好感度とスチルを眺めながら、むふふと思わず笑みが零れる。スチルはどれも綺麗に描かれていて、どのシチュエーションもかなりよかった。放課後の教室で一緒に宿題をしているシーンとか、ヒロインが部屋まで起こしに来るシーンとか、ぶっちゃけかなり良い。っていうか、どれもぜんぶ凪としたなーと思い出す。こうしてみると、いよいよゲームの中のキャラクターが凪に思えてきた。元々、誠に対しては凪に似ているという理由で愛着を持っていたが、だんだんその愛着がどちらに向けられているものなのか自分でも分からなくなってくる。それぐらい、誠のビジュアルは凪に似ていた。どことなく性格も似ている。
     だからだろうか。このまま告白エンドまで行きたいが、少しだけドキドキするような、罪悪感があるような、複雑な気持ちになる。それに、このまま進んでいったら、ご褒美スチルも待っているわけで。自然と左手でふにふにと自分の下唇を引っ張ってしまう。自分がキスするわけでもないのに。

    「レオ」
    「ひッ!」

     急に声をかけられて肩が跳ね上がる。凪専用の特別練習メニューから帰ってきたらしい。急に声かけんなよな! と叫ぶように訴えたが、「レオがスマホに夢中なんじゃん」と逆に怒られた。
     確かに、最近はスマホゲームにすっかり夢中である。極力、凪がいないときにプレイするようにしているが、通知が入るとついついスマホを触ってしまう。

    「っていうか、やってるのはゲームだけじゃないよね?」
    「は?」
    「ほら、画面が光ってるよ」

     通知が入ったのか、画面がチカッと光る。二子からのDMだった。咄嗟にスマホを隠したが、凪にはばっちり通知を見られてしまった。仲が良いんだね、と言われる。

    「仲が良いかは分かんねぇけど……。同じゲームしてるから、いろいろアドバイス貰ったり、共闘したりしてるっていうか……」
    「ふーん、そう」

     凪が完全に黙ってしまう。どことなく不機嫌だ。最近、ゲームに夢中であまり構ってやれなかったからだろうか。凪はそっぽを向くと、珍しく自分の布団に潜り込んだ。大体、眠る直前まではこっちのベッドに来るのに。我が物顔でベッドの上を転がりながらゲームしてるのに。

    「なーぎ。そんな拗ねんなよ」
    「別に拗ねてないよ」

     こんもりと膨れ上がった布団の上から、ツンツンと凪の背中を指でつつく。すると、すぐに凪が顔を出した。

    「暫くはゲーム禁止ね」
    「なんでだよ」
    「俺も我慢する」
    「だからなんでだよ」

     そんなに構ってもらえないのが寂しい? と、からかい半分で尋ねながらけらけらと笑う。
     凪とはずっと一緒に居るから、ブルーロックにいる誰よりも凪のことを理解している自信がある。だけど、時々分からないこともあった。ゲームひとつでむくれる凪のことが分からない。

    「……別にゲームはしていいけど、二子と連絡するのはダメ」
    「は? 別にいいじゃん」
    「だったら、俺がそのゲームやる。で、一緒に攻略しようよ」
    「それは無理。っていうか、株のゲームなんて興味ないだろ」
    「………」

     凪の口がきゅっと窄まる。嫌なことや興味のないことへの拒絶反応が分かりやすい。

    「ほら、もうそろそろ寝ようぜ」
    「うん」
    「電気消すぞー」

     自分のベッドに戻り、枕元のスイッチで部屋の照明を落とす。
     なんだかんだその後も俺は布団に潜って、ちまちまとゲームを進めた。


     ◆

    『すみません。もう僕ではお手伝いできません』
    【突然どうしたんだよ? 今まで一緒に頑張ってくれてたじゃん】
    『僕もここまできたら最後まで手伝いたかったんですけど』
    『なんか、めちゃくちゃ圧強くて』
    『殺されそうな気がしたので』
    『というか、僕の前髪が死にました』
    『おでこも見られました』
    【は? どういうこと??】
    『それは自分で聞いてくださいよ。とにかく、もう僕はお手伝いできませんし、暫く僕から距離をおいてもらえると……』

     これといった予兆もなく、突然二子からの一方的なお断りDMが来たのは、今朝のことだった。
     ここ数日、二子にメッセージを送っても返答がないなーとは思っていたのだが、お互い忙しいこともあり、特に気にしていなかった。本分はサッカー選手になるため、適切なトレーニングと実績を積むことだし。トレーニング終わりやオフのときにちょこちょことゲームを進めているとはいえ、練習時間を削るようなことはあってはならない。それに自分のチームがオフということは、他のチームは練習試合を組まれているということでもある。きっと、二子も忙しいのだろう。そう思っていたのだが、今日の朝になって二子からメッセージが届いた。

    『アレはなんとかならないんですか?』
    『しっかり手綱を握っといてくださいよ』
    『地獄を見ました』
    『怖かったです』
    『そんなわけでもう無理です』
    『すみません。もう僕ではお手伝いできません』

     そうして冒頭のようなやり取りが発生したわけである。正直、突然のことに自分でも何が起こったのかよく分かっていない。かなり怯えているようだが、何かあったのだろうか? 理由や経緯を聞きたいような気もしたが、一方的に会話を切られたため、それはかなわなかった。ひとまず、今まで手伝ってくれたお礼とここから先は自分で進めることを伝える。それに、もうほとんどシナリオは残っていなかった。ひとりで進めていた間にもちまちまと好感度を上げ、ついに『どきどき♡秋の学園祭編』の最後のシナリオまでたどり着いたのだ。好感度は申し分ないし、あとは最後の選択肢さえ間違えなければ告白エンドまでたどり着ける。ご褒美スチルもゲットできる。

    「ここまで来るのに長かった……!」

     今までの苦労を思い出し、思わず心の声が漏れる。珍しく、朝から凪はいなかった。先に練習へ行ったか、はたまたクリスに呼ばれたか。とにかく、いまの俺にとってはラッキーだった。
     この勢いで最後まで攻略したい。好感度がMAXになって、心なしか甘えたになった凪もどきとの学園祭デートを楽しみたい。といってもディスプレイの中で、だけど。

     ――今日は楽しかったね。
     ――うん。
     ――最後にさ、俺、玲王に言いたいことがあるんだけど……

     ついに、ついに告白エンドまで来た……! と小さくガッツポーズする。ベッドの上をころころと転がってから、ひとまず落ち着こうと深呼吸した。よし、と気合を入れてから続きをタップする。

     ――俺、玲王のこと好き。玲王は俺のこと好き?

    「うおおお!!」

     やった! 来た! と声を上げる。これでご褒美スチルもゲットできると喜んだが、続きをタップして一気に絶望の淵まで追いやられた。

    「嘘だろ……。まだ、選択肢があんのかよ……」

     普通、此処はこのまま最後まで進んで行くもんなんじゃねぇの? と思う。だけど、無常にも目の前には二つの選択肢。

     ▷私も好き……! だから、付き合って欲しいな!
     ▷仕方ないから、付き合ってあげる!

     いや、これはどっちだ!? 普通なら上だと思う。というか、此処まで来たら上だろ!? 下の返しとか最悪な気もするんだけど、もしかしたら……。いや、でも上じゃね……? 普通はそう。

    「違うよ、レオ。正解はこっち」

     上の選択肢をタップしようとしたそのとき、横からにゅっと手が伸びてきた。は……? と呆けている俺をよそに、画面にはハートいっぱいのエフェクト。っていうか、なんで凪が此処にいる?

    「おま、なんで……えっ?」

     なんで此処にいる? いつ戻ってきた? っていうか、画面を見たよな? 見た上でさらっと選択したよな?
     聞きたいことがいっぱいあるのに、驚きすぎて口をぱくぱくさせることしかできない。

    「ほらね、やっぱり株のゲームじゃなかった」
    「…………」
    「あと、ぜんぶ二子から聞いたよ」
    「だからアイツ……急にやめるとか言い出したのかよ……。つーか、ぜんぶって、」
    「レオが俺に似たキャラクターを攻略したくて頑張ってるって聞いた。っていうかさ、そんな奴がいいわけ?」

     凪が冷たい視線をキャラクターに送る。じっとキャラクターを見つめた上で、俺の方に視線を向けた。

    「そんな奴より俺にして」
    「は? なに言って、」
    「このゲームのキャラクターに恋するぐらいなら俺にしてよ」

     ぐいぐいと迫られて、逃げていくうちにベッドの端まで追い詰められる。気付いたら、上に伸し掛かられていた。

    「ちょっと、凪、重いって!」

     凪の体を押し返しつつ、視界の隅でちらちらと動くスマホ画面を確認する。いつの間にかオート機能になっていたのか、またしても選択肢が並んでいた。これが本当に最後の選択肢だ。

     ▷自分からキスしてあげる
     ▷キスして欲しいとお願いする

     二つの選択肢が並んでいる。しかも、かなり恥ずかしい類の選択肢が。

    「選ばないの?」
    「こ、こんな状況で選べるわけないだろ……!」
    「そっか。でも教えておくと、答えは下の選択肢ね」
    「なんでお前に分かるんだよ……」
    「なんとなく」
    「なんとなくって……」
    「俺、玲王からの告白は上から目線がいいんだよね。仕方ないから付き合ってやる、俺が居ないと何もできないから、って可愛く言って欲しい。けど、最後はちょっと恥じらいを持って欲しいかな」
    「…………」
    「で、どっち選ぶの?」

     凪からの痛いほどの視線に、もにょもにょと唇を動かす。あんなにご褒美スチルが欲しかったのに、そんなことはもうどうでもよくなった。何か言わなくちゃと思えば思うほど、あ、う、と間抜けな声が出る。

    「れーお。早く選ばないとゲーム終わらないよ?」

     ツンツンと唇を指先で弾かれて、ぎゅうっと目をつぶる。やっとの思いで「キスしてってお願いする……」と言ったら、凪がフッと息を吐き出して笑った、気がした。

    「大正解」
    「……っ」

     ちゅっ、と軽く額に唇を押し当てられて、驚きのあまり目を開ける。そしたら、隙あり、と言わんばかりに唇にもキスされた。

    「なっ……!」
    「ちゃんと正解したご褒美はあげないとね」

     そう凪が言って、勝手にスマホを操作する。画面の向こうでもハッピーエンドを迎えたのか、ハートのエフェクトが飛んでいる。


     どうやら、最終的に攻略対象から選ばれたのは俺の方だったみたいだ。
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    hjm_shiro

    DOODLE凪玲/【最新】nagi_0506.docx
    ⚠監獄内の設定を少しいじってる

    凪に好きなものを与えて、うまくコントロールしているつもりの玲王と、いやいやそうではないでしょ、って思ってる周りの人たちが思わずツッコんじゃう話。
    プロフィール情報は常に最新の状態にしてください。
    「たまにレオってすげぇなって思うわ」

     千切がぽつりと呟く。千切は本場よろしく油でベチャベチャになった魚――ではなく、さっくりと揚がったフィッシュフライをフォークに突き刺すと美味そうに頬張った。玲王としては特に褒められることをしたつもりはないのだが、ひとまず適当に話を合わせて、そう? と軽く相槌を打つ。

     新英雄大戦がはじまってから、選手たちは各国の棟に振り分けられている。それぞれ微妙に文化が異なり、その違いが色濃く出るのが食堂のメニューだった。基本的には毎日三食、徹底管理された食事が出てくるのだが、それとは別に各国の代表料理も選べるようになっていて、それを目当てに選手たちが棟の間を移動しに来ることもあるほどである。今日はフィッシュ&チップスと……あとはなんだったかな、と思い出しつつ、玲王はナイフでステーキを細かく切った。そうして隣にいる凪の口にフォークを突っ込む。もう一切れ、凪にやろうとフォークにステーキを突き刺したときだった。千切の隣に見知った顔ぶれが座った。
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