最近、なんだか凪が丸っこくなった気がする。
元々凪は身長が一九〇センチある。痩せ型ではないが、すらっとはしていた。決して貧相でも肥満体型でもない。むしろ、足は長い方なのでスタイルはよく見える。サッカーをする前はほとんど筋肉のない体であったが、サッカーを始めてからはどんどん筋肉がついた。ブルーロックを経てプロのサッカー選手になり、フィジカルトレーニングを受けてさらに筋肉をつけた凪の体は、服を着ていても目を引くボディラインになった。
だけど、ここ最近の凪はどうだろう? すこーしだけ丸くなったような気がする。ほっぺは元々もちもち柔らかい奴だけど、さらにもちっとなったような。
「なに? 俺の顔、そんなじーっと見て」
ソファーの上でだらりと横になっていた凪が、ちらりと俺の方を見る。いや、なんでもねーよ、とローテーブルの上にマグカップを置いた。手作りのホットチョコだ。甘いものが欲しいけど、固形物を摂取するのはちょっと……というときによく作っている。
甘い香りのそれに凪はスンと鼻を鳴らすと、体を起こした。
「ホットチョコ?」
「うん。今さっき作ってきた」
「やった。レオの作るホットチョコ好き」
凪がすかさずマグカップを引き寄せる。
出逢った頃はご飯を食べることすら面倒くさいと零していた癖に、今ではよく食べるようになった。純粋に体を動かせばお腹も空くし、筋肉をつけるためには食べなければならないし、食が太くなるのは当たり前っちゃ当たり前だけど、それでも目に見えてたくさんご飯を食べるようになった。
特に俺と同棲を始めてからは顕著だ。キッチンに立ってご飯を作っていると、必ず凪がすり寄ってくる。後ろからひょこっと顔を出し、フライパンや鍋の中を覗く。そして、これみよがしに味見させろと口を開けるのだ。なんだか餌をねだる雛鳥みたいで可愛くて、ついつい俺も凪の口に唐揚げとか卵焼きを突っ込んでしまう。あまり表情を変えない凪がちょっとだけ笑って、おいしい、と言ってくれるのが嬉しくて。
「あのさ、凪」
「んー?」
「やっぱお前、ちょっと太った?」
それとなく凪に聞いてみる。そうかな? と言って、ホットチョコを飲み干した凪の口はチョコレートで汚れていた。可愛い奴め、と口の端を指で拭ってやる。
凪はちょっとだけ目を細めて笑うと、俺の腕を引っ張った。そのままぽすんと凪の腕の中に収まる。
「それを言うならレオだってちょっとだけ太ったよ」
「は? マジ?」
「うん、大マジ。こうやって抱っこするとすぐ分かる」
ぎゅうっと凪に抱き締められる。こうやって抱っこした時とか、レオが俺の上で頑張ってる時とか分るんだよ、と言われて、たまらず頭にチョップをキメた。
「いたっ」
「変なこと言うなバカ!」
「だって……」
本当に分かるんだもん、と凪が言う。ツンと唇を尖らせて言う凪に、ぷくくと吹き出した。
「なんで笑うの」
「いや、本当にちょっとだけ顔がぷっくりしてきたなーって」
表情が動くとよく分かる。やっぱり凪の頬が少しだけふくよかになった。
「言っとくけど、レオのせいだからね」
「俺?」
「レオと同棲してから太ったんだよ。レオの作るご飯が美味しいから……」
大真面目に言う凪に、なんだよそれ! と吹き出す。凪は終始意見を曲げず、レオのせいだと異議申し立てをした。
「たぶん、幸せ太りってやつだと思う」
「あー、よく言うよな、それ」
「レオだって幸せだから太ってきたんじゃない?」
ニットの上から脇腹を抓まれる。ほとんど余計な肉は付いてないはずなんだけどな、と思いながらも、凪は一生懸命に抓もうとしていた。
「だから全部レオのせいでーす。責任取ってダイエットに付き合ってくださーい」
「はいはい。じゃあ、今からランニングでもするか?」
「うーん、それは却下」
ぽすんと優しくソファーの上に降ろされる。
すぐに凪が覆いかぶさってきた。ぱちぱちと瞬きする俺をよそに、凪の手がニットの中に入ってくる。
「こっちの運動で頑張る」
「バカッ、そんなんじゃ大して減らねぇだろ!」
「でも二人で楽しく痩せられるじゃん」
ジタバタと暴れるも、凪にキスされて文句を言いたい気持ちがしゅるしゅると萎んでいく。
結局、凪に流される形でダイエット(仮)をすることになったけれど、溜まった幸せはそう簡単には減らなかった。
※※※
「もうやめろ、なぎっ…!」
「ダメだよ、体重が減るまで毎日頑張ろうね」