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    小ネタ置き場 麿水ちゃんしかない

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    *清麿くんと則宗さんが水心子くんについてお喋りしている小話
    *特命調査後、水心子くんが先に本丸配属になった後〜清麿くんが本丸に行く前の時系列
    *Pixivに置いてある話と地続きです

    (まだ、咲きそうにないな)

     雪混じりの雨が降る寒い朝。路傍に見える細い木の枝に目を向けた清麿は、枝の先で固く閉じたままの蕾を見て小さく白い息を吐いた。
     それは一見すればただの枯れ木だが、近づいてよく見てみると枝の先に小さな蕾の存在を確認できる。普段なら気にも留めない変化であっても、ここを通るとどうしてもこの木の存在を気にしていた親友のことを思い出して、いつの間にか足を止めてしまう癖がついていた。

    「なんだ、珍しいことをしてるじゃないか」
    「やあ、こんにちは」

     無言で花のない枝を眺めている清麿に声をかけたのは、同じ政府所属の刀である一文字則宗だった。確かに自分がこんなことをしているのは珍しいという自覚はあったので、曖昧に笑って流そうとはしてみたが、まあそれが通用する相手でもない。

    「ああ、成程……誰かさんの面影でも追っていたか?」
    「……水心子が、咲くのを楽しみにしていたと思って」

     案の定、清麿の珍しい行動とやらについてはすぐにその理由を察したらしい。隠そうとしたところで無駄だろうし、問いかける形ではあるがどうせ全て分かった上でのものだろうから否定はしないでおいた。
     この木を見て、冬から春にかけて咲く花だからこの雪が解けた頃には綺麗な花が見られるだろうと言っていた清麿の親友は、ここには居ない。天保江戸での特命調査がある程度完了するとともに政府から本丸へ派遣され、今はそちらの所属となっているからだ。

    「お前さん、相方が居なくても随分と活躍しているそうじゃないか」
    「自分にできることをしているだけだよ」

     天保江戸での調査は未だ終了してはおらず、清麿はその後処理を任された上で政府から回される他の任務もそれなりの頻度で捌いているから、則宗が言っているのはそのことだろう。多分これは気にかけてくれているんだろうなと、その表情と声音から予測ができる。飄々としているようでいて情が深い刀なのだろうといつだったか水心子が言っていたことを思い出す。なるほど、彼の目は確かだったようだ。

    「……僕は、上手くやれているかな」
    「うはは、随分と殊勝なことを言うものだな。お前さんが上手くやれない場面なんてないだろうに」

     則宗の言う通り、任務の後処理だろうと相棒が居ない中での任務だろうと、別に大した手間ではない。一振でも問題なく処理できるし、外から見て侮られるようなことをしているつもりもない。だから、清麿が零した問いは本来なら口に出すつもりはなかったものだ。水心子の言葉を思い出したことで気が緩んだのだろうが、自分の迂闊な発言にもこの刀から思っていた以上に評価されていたことにも驚いてしまった。

    「それなら、良いのだけれど」
    「ま、少し気負いすぎだとは思うがな。片割れが居なくて寂しいか?」

     言ってしまった以上は仕方ないと、清麿は少しばかり動揺した心を上手く隠して普段通りの顔で笑う。それはそれとして、あまりにも直球で食らう質問にはどう答えるべきか悩ましくはあるのだが。

    「そうだね」
    「おや、素直なことだ」
    「……別の場所に居たとしても、水心子の隣に立つに相応しい自分で在りたいから」

     大丈夫そうに見えているのなら良かったと、清麿は普段より少しだけ幼げな顔で笑う。
     たとえ隣に居なくても、水心子はあちらで己に出来ることを全力で頑張っているだろう。それなら、親友である自分もその努力に負けないように進むだけ。そうすることでしかこの渇きを抑えることはできないのだと、自覚している。


    「健気だねえ」
    「さあ、どうなんだろう。これは、そういう呼び方をしていいものなのかな」

     この願いの根底にあるのは純粋な好意というよりも後ろ暗く利己的な感情の方が強いから、清麿自身はあまり誉められたものではないという認識でいた。あの素直で清廉な気質を好ましいと思う気持ちも、その在り方を隣で支えたいという想いも嘘ではないが、それ以上に他の誰よりも水心子の近くにいたいという欲が存在していることを、自分が一番よく知っている。
     だからこそ、こんな感情を健気なんて言葉で表されるのはどうにも落ち着かなかった。

    「いいんじゃないか。……お前さんは自分で思っているよりずっと情の深い刀だよ」
    「……それ、水心子にも言われたことがあるんだ」

     水心子にはこの身に燻る感情の全てを晒したわけではないから、あの純粋な目から見ればそういう風に見えるのも分からなくはない。そう見えるよう振る舞っている部分もあるから、尚更。
     だが、目の前の男にまで同じようなことを言われるとは思わなかった。清麿自身が表に出さない部分まであっさり看破する目を持った男が、随分と甘い評価をするものだ。

    「うはは、ならそれが真実ってことだ」

     驚きを隠せずに思わず穏やかな方の表情を崩しかけた清麿に、あれ以上にお前さんのことを知る刀は居ないだろうよと告げて則宗が笑う。
     それは確かにその通りなのだが、彼らが言う事は清麿にとって不可解なものだ。自分のためにしていることに対して随分と不思議な表現をするものだと、首を傾げたくなる。水心子が居れば解説くらいはしてくれたかもしれないが、居ないものだからそれも叶わない。

    「精々学べよ、若人。ま、無理のない程度にな」
    「……そうだね、善処するよ」

     考え込む清麿に対し、則宗は薄く笑って強めに背中を叩いてくる。その何もかもを見透かすような瞳に少しばかり畏怖の念を覚えるが、それを顔に出しては負けだと思い清麿も出来うる限りの不敵な笑みと共に返す。いい顔をするじゃないかと言われたところで全く誉められた気はしないが、情緒というものを解さない自覚がある清麿にもここ最近の己の振る舞いを心配されているのだということは理解できた。
     それは慰めなのか鼓舞なのか、あるいは両方なのか。どちらであっても、こういうことを自然に出来るのが真に優しいとされる存在なのだろうなと思う。

    「……ありがとう。あまり無茶はしないでおくよ」
    「ああ、そうしろ」

     親友を泣かせるようなことはするなよと、清麿に一番効く言葉を残して則宗はその場を離れていく。言うだけ言って満足したのか、その足取りは軽やかだ。見習いたいものだとは思うが、自分にはなかなか難しそうだなとも思う。

    「……春までには、会えるといいな」

     残された清麿は、未だ固い蕾だけを纏う枝に触れて、小さく呟く。願いを口にするなんてらしくない行動だとは思うが、それを叶えるためにはもう少しだけ片付けるべきことがある。無理ない程度に頑張ろうと、遠い場所で己の理想に向かって邁進しているであろう親友の顔を思い浮かべて穏やかに微笑んだ。
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    MEMO家政夫パロ
    家政夫パロ「朝ごはんは冷蔵庫の一番上に置いてあるからちゃんと温めて食べてね、あとスーツはシワになるからちゃんとかけて」

    水心子正秀。25歳。ブラック企業に務めて早数年。いとこが心配して雇った家政婦に胃袋を掴まれました。

    水心子が彼と出会ったのは悪夢の6連勤が終わった時だった。帰ってきて適当に風呂に入ろうとしたその時ベルがなってそれで、その後の記憶が無い。気づいた時はベッドの上で真横に知らない男。知らない男を連れ込む趣味はないが昨日は疲れていたし、もしかしたらと考えていたら寝ていた相手が目を覚ました。

    「おはよう」

    「…ええと、その君は一体」

    「僕はね、君の従兄弟に雇われた家政夫だよ」

    「家政婦??」

    水心子の記憶違いでなければ家政婦というのは女性がやるものではなかっただろうか。目の前にいる性別不明の人間は胸がないところを見る限りどう見ても自分と同じ男だ。じっと見つめていたら青年はくすくす笑いながら「今はそういうの関係ないんだよ。僕の他にも家政夫やってる人いるから」と答える。どうやら考えていたことが顔に出てしまったらしい。それからお互い自己紹介を済ませ、彼の作った朝食をすませると、自身の名を名乗った彼、源清麿はここに来た経緯を語った。
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