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    u2_wall

    @u2_wall

    小ネタ置き場 麿水ちゃんしかない

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    ・両片思いだけど別にまだくっついてはいない(けど距離は近い)麿水ちゃん
    ・前にTwitterに上げてたものに少しだけ加筆したものです
    ・最後の方に獅子王くんと長義くんが出てきます

    #麿水
    maruWater

    「うわ」

     どこかの時代──秋の終わりと冬の始まりが混ざる、肌寒い季節。
     戦場に、一際強い風が吹き抜ける。その風に羽織った外套を捲られた水心子が、小さく声をあげた。
     戦いが終わった残骸だけが転がる殺風景な場ではあったが、その風に煽られて辺り一面に色とりどりの楓の葉が舞う。その一瞬、風に流れる紅葉の群れが清麿の視界から水心子の姿を隠した。

    「すごい風だね……。水心子、大丈夫?」
    「ああ、大丈夫だ。……あのな、この程度で飛ばされるわけないだろう」

     咄嗟に水心子の手首を掴んだ清麿に、何をしているんだと水心子が笑う。まあ確かに人の身を飛ばすほどの風ではないと分かってはいるのだが、思わず手が出たのは反射的なものだ。あまり離れないでいてほしいという、ただの願望が溢れただけ。自分でも何をしているんだと思うようなものだから、ごめんねと笑って誤魔化した。

    「……星みたいだな」
    「水心子?」
    「紅葉が」

     帽子を押さえながら楓の葉を目で追っていた水心子が思わずと言った様子で呟いた言葉に、清麿もなるほどと同意する。風に舞う小さな葉は、明るい空に流れる星のようだ。夜に眺める空の星とは趣が違うけれど、真昼の広い空に舞うそれも、確かに人が想像する星の雨によく似ていた。

    「……そうだね。ほら、足元も」
    「わー……凄いな」

     水心子が清麿の指差す方を見ると、落ちた葉が地面にも星空のような景色を描いている。それを楽しそうに眺める水心子の姿に、清麿は密かに安堵して小さく息を吐いた。
     この本丸の空気が合っているのか、今の水心子は政府に所属していた頃よりも素直に笑うようになった。新々刀の祖として意図的に凛々しく振る舞う姿も勿論好ましいと思っているが、その奥に隠れている素の顔が垣間見える機会が増えるのも、清麿にとっては嬉しいことだ。

     風に舞って流れる葉を眺めながらそんなことを考えていると、いつの間にか水心子がすぐ近くに寄ってきている。視線だけでどうしたのかと問うと、そのままもう一歩分距離を詰められた。

    「……水心子?」
    「清麿の瞳に似ているかと思ったけど、少し違うなと思って」

     紅く染まった葉を一枚、視線の間に掲げて水心子が呟く。そのまま至近距離から瞳を覗き込んで、清麿の瞳は花の色の方が近いかな、と独り言のように小さな声で零した。
     言葉だけ聞けば口説かれているのかと思わなくもないが、水心子のこれは素でやっているということを清麿はよく知っている。随分と可憐な表現をしてくれるのだなとその視点が微笑ましくはあるのだが、自分の抱えている水心子への想いも視線に乗せている感情も、あまり綺麗なものではないと自覚しているから少しばかりむず痒さもあった。

    「そう、なのかな」

     なんとか出てきた言葉は、違和感なく響いているだろうか。自分の感情を隠すのは得意なはずなのだが、水心子からの不意打ちを食らうとそれが剥がれそうになることもいい加減学んでいるので、こういう時は油断ならない。

    「ああ。どの花が一番近いか、今度見に行こう」
    「……うん、楽しみにしているね」

     清麿が持て余している感情の正体を知らない水心子は、約束だぞと呟いて小さく笑った。その表情を見て、清麿はまた胸に馴染みのあるささやかな痛みを覚える。
     その目に映るものは、できれば綺麗なものだけであってほしい。自分達の使命を考えればそれが不可能なことだとは分かっているし、水心子自身がそれを望むとも思ってはいない。けれど、そう願わずにはいられないほどに、この翠の瞳が映す世界への憧憬があることを自覚している。

     不意に思い立って、風と共に舞い上がる緑色の葉を一枚掴む。そのままもう片方の手を水心子の頬に添えて、その瞳と明るい緑の葉を見比べた。

    「清麿……?」
    「水心子の目とも、少し違うかな」

     近い距離から見比べてみると、手にした葉の方が幾分明るい色合いを映している。水心子の瞳の色はもう少し深い翠緑だけれど、好きなものを目にしている時の星を映したような明るい色彩には近いかもしれない。
     そんなことを考えながら、自分がそういった視点でものを見るようになったことに驚く。これもまた、隣でさまざまなものに興味を示す親友を見守るうちに身についた癖のようなものなのかもしれない。

    「……そ、そうなのか? 自分では分からない、が」
    「探してみようか。この色も」
    「……うん」

     頷く水心子の頬が、先程より紅に染まっているような気がする。少しくらいは意識してほしいという願望が見せたものなのか、それとも本当に何か感じるものがあってのことなのか。
     目の前の相手に対する恋心に溺れている今の清麿には、判断がつかない。ただ、どちらにしてもその表情が自分にだけ見せる普段よりも無防備なものだったから、清麿の方も無意識に水心子にしか見せない少しだけ素の感情が混ざった顔で笑った。







    「あれ、いつもあんな感じなのか?」
    「まあ……そうだね」

     清麿と水心子のやりとりを遠目に眺めながら、部隊長の獅子王が隣の山姥切長義に話を振る。
     特命調査の際に同じ部隊で放棄された時代を駆け回った縁から始まり、なんとなく本丸に配属されてからもあの二振とは共に出陣する機会が多いのだが、相変わらず傍目から見ても驚くほどに距離が近い。日頃からそれなりに接点がある分よく見かける構図だからいい加減慣れたつもりではいたが、やっぱりどう見ても距離が近い。そう思って、同時期に政府に所属していたはずの長義に問いかけると、だいぶ投げやりな温度の返事が返ってきた。

    「政府所属の頃から大体一緒にいたと記憶しているから……うん、まあ見慣れた光景だよ」
    「ほんとに仲良いんだな〜……。いや、近」

     戦闘中に見せる息の合った連携や視線だけで互いの行動を把握する手慣れた立ち回りを見るだけで、あの二振にお互いを親友と呼ぶだけの強い信頼関係があるのはよく分かる。ただ、改めて本丸の一員として接するようになると、親友ってなんだろうなと問い詰めたくなるようなとんでもない距離感で接している姿もよく見かけるのだ。
     今もまさにその状態で、吹き抜ける風から互いを庇うように手を繋いで何かの攻防を繰り広げているその様子は、ここが戦闘直後の凄惨な現場であることを忘れ去りそうなほど微笑ましい光景だった。
     突っ込むのも野暮だと思うので大人しく見守ってはいるのだが、こうしてあの至近距離のやりとりを見ていると、外野としてはいっそ恋仲であると言われた方がよほど納得できる。けれど、彼らは自分達が親友であるという姿勢を崩さずにいるようだから、その内心までは知らずともあれでまだどうにもなってないのか……と不思議な気持ちを抱くのだった。

    「まあ、前よりだいぶ近いような気もするかな……?」

     手を繋いでいただけかと思ったら、今度は水心子が清麿に抱きついているように見える。清麿の方も特に抵抗することもなく受け止めているようだが、一体何をしているのだろうか。無邪気に戯れているだけなのか、それとも何らかの駆け引きが生じているのか。遠くから観察しているだけではそこまでの分析はできないが、そのやりとりを見ている長義としては、とりあえず凄いなと思った。

     政府にいた頃から仲が良いとは思っていたが、改めて眺めていると流石にあそこまで近くはなかったかもしれない。本丸に来てからあの程度の距離は最早見慣れてしまったのだが、当時はもう一歩分くらいは清麿の方に遠慮があったし、水心子もあれほど分かりやすく顔や態度に出てはいなかったような気もする。そもそも、少し前──清麿がこの本丸に配属されるまでの水心子は、あそこまで表情豊かではなかったはずだから、よく笑うようになったなと妙な感慨深さもある。

     清麿がこの本丸に配属されるまでの間、水心子は自身の掲げる理想を体現するのだと息巻いて、任務から鍛錬まで日々精力的に駆け回っていた。元から真面目で勤勉な性格であることは政府での付き合いからそれなりに知っていたつもりだが、ここに来てからは相棒が不在であるという事実から目を逸らすかのように一振で必死な姿ばかり見ていたものだから、清麿と再会して少しずつその表情から険しさが抜けていって、今のように穏やかになった顔を見て安心したのは事実だ。
     だが、それはそれとしてあの距離はどう考えても近すぎる。いっそ恋仲である方がもう少し憚るのではないかと思うほどに。

    「どういう関係なんだろうね、あれ」
    「親友以上〜、何とやらってやつじゃねーの? ま、何であれ楽しそうならそれが一番ってな!」
    「いや、雑だな……?」

     自分から抱きついたかと思えば今度は物凄い勢いで距離を取っている水心子の様子を眺めながら獅子王が笑えば、雑ではあるがまあその通りだなと長義もつられて苦笑する。刀剣男士に年齢の概念はあまり関係ないものだとは承知しているが、それでも縁あって互いにあの二振をそれなりの距離で見守っている身として、妙な親心のようなものが芽生えてしまっている自覚はあった。

     そろそろ任務を終えて帰還する頃合いだが、相変わらずほぼゼロ距離のまま何事かを囁き合っている二振の姿を眺めながら、さてどこで声をかけるのが良いものかと──口には出さずとも同じことを考えていると察して、獅子王と長義は顔を見合わせてまた小さく笑った。
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