空閑汐♂デイリー【Memories】20「アマネの事抱いたから」
酒を飲みながら思い出したようにそう口にしたフェルマーの言葉に、空閑は固まっていた。沈黙に満ちたテーブルの周囲で賑わう人々の喧騒が遠い。その沈黙を打ち破ったのは篠原だった。
「ヴィン! お前なぁ!」
固まったままの空閑を横目に、隣に座るフェルマーの頭を軽く叩き声を荒げた篠原は大きく一つ息を吐く。何を言い出すかと思ったら、あまりにも碌でもない言葉で辟易とする。汐見の考えが解らない訳ではなかったし、汐見がフェルマーに縋ればそうなる予感もしていたが――それを空閑に言うか? 普通。ようやく篠原がオーベルトへの赴任を決め久々に集まろうと顔を合わせたメンバーは篠原と空閑とフェルマーで。高師は先約があるとこの場所には居ない。恐らく告白されたからと適当に付き合っている相手とのデートだろう。高師は高師でどんな心境の変化があったのか、大学卒業後短いスパンで恋人が変わっている。そして、高師が居らず空閑が居る場所でそんな爆弾を落とすフェルマーはきっと確信犯だ。
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