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    hiko_kougyoku

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    hiko_kougyoku

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    「希望という名の罪」
    https://twitter.com/hiko_kougyoku/status/1650116768495722497?s=46&t=Pyk7xEBqgT4usenMl5YI2w

    「希望という名の罪」メイキングという名のぶちまけ※いつも以上に散らかった文章。
    ※好き勝手書いてる。


     今回も長い長いお話を読んでくださいまして、本当にありがとうございます。

     恒例のメイキング、行かせていただきます。


    ☆話作りについて
     前回メイキングでも書きましたが、「雨緒紀の物語」は三部作です。前回(一つ目)の「顔は感情の舞台と言うけれど」は雨緒紀が素直になれなくて不器用という話。次回(三つ目)のお話は雨緒紀がちょっとだけ前を向けるようになる話(のつもり)。
     さて今回。雨緒紀のクール……もとい冷徹で厳しい一面を書きたくてこうなりました。

     今回の話を書くにあたり最初に考えた展開は……、

    ・長次郎が辛い役割を引き受けることになる。その役割というのは元柳斎や護廷十三隊のために必要なこととは理解しているものの、長次郎の心理としては避けたい出来事。
    ・それをやるよう仕向けるのが雨緒紀。長次郎が完璧な右腕になるために必要だという理由から。
    ・長次郎はその役割のために涙を流す。そうして元柳斎が慰める。
    ・長次郎が泣いたことを知った雨緒紀は我に返り心が揺らぐ。自分が招いた結果だが、雨緒紀も心の奥底では長次郎のことを気にかけているため雨緒紀自身もショックを受けたり葛藤する。
    ・そんな雨緒紀を乃武綱が諭す。

     ……つまりはほぼほぼラストしか考えていませんでした。ここから話を作ります。
     辛い役割ということでまず浮かんだのは仲間の裏切り。信じていた仲間が裏切り、組織を守るためには始末しなければならないけど長次郎としては救いたいみたいな展開。でも裏切るってどういうことだろう~~~仲間ってどんな仲間にしよう~~~って悩みました。
     あともう一つ。裏切りは裏切りでも「長次郎が主導となって動かなければならない裏切り」でなければならないこと。つまりは元柳斎関連のこと。
     そうなると今回の敵は難しいぞ~~~!とうだうだ悩みました。正直「敵役」を考えるのが一番難しいです。
     元柳斎関連でしょ? なら元柳斎の命を狙うとかくらいしかなくね? そうなると例えば誰かの差し金とか依頼で元柳斎を狙うとか? そう考えると元柳斎を良く思わない貴族からの依頼で護廷十三隊に潜入したモブが元柳斎を狙うとか? でも貴族は「己が役目」で出てるからしばらくお休みしたいしな~~~滅却師も「境界」で出てるしこれ以上生き残りはいないだろうし……。
     よし思考回路を変えよう。何らかの要因で元柳斎を恨んでいて、それで命を狙うとか? そうなると仇討とかかな。私、仇討ち好きだし。例えば元柳斎に肉親を奪われたモブが元柳斎を狙うとか?
     ここから話を広げて、最初は「遥か昔に元柳斎と正々堂々果し合いをしてころされたモブ父。その息子が逆恨みをして元柳斎を襲う」という筋書きにしましたが、これだと長次郎が「このモブを始末したくない」という心情にならなそうだなあと思いボツ。「モブ父は悪党でころされるのは仕方がない状況だった」「でもその子であるモブは罪人でもなく、盗みとかもしてはおらず、元柳斎への憎しみ以外は何も悪くなく同情の余地がある」みたいにしたいなあ……。
     ………と考え「モブ父は大悪党で、被害者から依頼を受けた元柳斎が始末をした」「しかし哀れみからモブを生かした」「そのせいで今回の事件が起こった」みたいにしようとしました。
     で、モブ父の「大悪党」要素。どうしようと思いまして、歴史上の犯罪者を参考にしようと思い調べました。……ええ、今回のオリキャラたちにはモデルがいるのです。


    ☆渦楽作兵衛とその父である権兵衛について
     モデルは江戸時代の盗賊です。

    ・鶉(うずら)権兵衛
     江戸を荒らしまわった盗賊団のリーダー。鶉権兵衛は盗みに入る前に放火して役人たちの注意をひきつけ、その間に狙っていた家に押し入って姿をくらませる、という手口で強盗を繰り返していました。これをそのままお借りしました。最初にできたキャラは父からでした。

    ・作兵衛
     メインモブ(?)である作兵衛の名前の方が後に決まりました。作兵衛の名前も鶉権兵衛の周辺からです。
     1683年に役人の手によって捕縛された鶉権兵衛。同時期に別の盗賊であった作兵衛・長兵衛という二人組も同じ役人に捕らえられた、と書いてありました。作兵衛の名前はここからお借りしました。長兵衛だと長次郎とこんがらがるので、作兵衛の方で……。なので史実では権兵衛・作兵衛は親子ではありません。詳しくはネットに出ていますので……ウイキペデアさんとかに……。
     鶉という苗字の読み方同じで漢字を変えて渦楽に。そして作兵衛につけて渦楽作兵衛の誕生。今回のモブ作りはちょっと頑張ったぞ。ドヤア。


    ☆話作りに戻って……。
     さて敵ができて、話の主軸はできあがりました。果たしてどう事件を起こそうか。
     今回の事件の起こし方は史実の鶉権兵衛の手口をそのまま借りました。最初に一番隊からそれなりに離れた場所に放火して、そっちに隊長を含めた死神たちの注意を引き付けている間に元柳斎の暗殺を実行する、という手口です。
     でも元柳斎がやられるわけがない。なので元柳斎の暗殺に失敗した作兵衛が逃げる→長次郎が追う→瀞霊廷の外に追い詰める、まではするするっと決まりました。あとは雨緒紀がどう長次郎に働きかけるかです。

     ここの辺りでふと浮かびました。元柳斎を恨んでいた作兵衛だが、実は本当の仇は雨緒紀だったなら……全て平和に解決する、といったところで雨緒紀が「実は私がおまえの父をころしました~!」って言って作兵衛の情緒を叩き落したら……っていうか殺伐殺戮の初代の十番隊隊長だぞ。光を見せて落とすくらいの残酷なこと平気でやりそうだな……。
     雨緒紀は隊長ということもあって実力があるのは当然なんですが、ただ刀を振るったり敵を倒すだけではなく、頭脳戦や相手を陥れるといっ た知の戦いをするんじゃないかと思います。上げて落とすというか、お前を助けてやるって言って助けないとか。そんな感じのイメージがあるんです。
     で、情緒をめちゃくちゃにされた作兵衛が消し去れなかった憎しみを露わにして本性出してみんなころしてやる! って暴れて、それを見た長次郎がああ、やっぱりこいつは変われないんだ。どう説得してもいつかは元柳斎に牙をむいてしまうんだなって絶望する……そんな流れにしようと思いました。ここらへんはわりとスムーズに作れました。

     ここで事件~作兵衛始末までは大雑把にできました。あとは細かいところを修正。


    ☆初期の構成。(最初はこんな話にするつもりでした)(完成形とは全く違うものだった)

     今回の話は雨緒紀のおけさ笠がちょっとだけキーアイテムになるのでその描写を出したいと思い、最初は「修理した笠を受け取って帰ってきた雨緒紀が、長次郎と作兵衛と会う」というスタートにしました。その際に地の文の描写で笠の修理について説明するのではなくキャラの会話で説明しようと思い弾児郎を出すつもりでした。
     流れは以下の通り。(※初期の構成そのまま引っぱってきたのでわかりにくい&長い)


    雨緒紀が笠を直して帰って来た。雨緒紀と弾児郎。
    弾児郎「笠なんてつけてると戦いにくくないか? しかもそれ、女物だろ? 一体どうして……」
    雨緒紀「顔が隠れるからやりやすい時もあるぞ」

    長次郎が歩いている。その後ろから長次郎先輩と駆け寄る一人の青年。まだ少年らしさが残る
    弾児郎「お、あれが最近噂の新入隊士か。名前は確か……」
    雨緒紀「〝うずら〟だ。渦楽作兵衛」
    弾児郎「そうだった。覚えにくい名前だなあ」
    長次郎は作兵衛にあれやこれやと教えている
    乃武綱が通りかかる
    乃武綱「よお長次郎、すっかり先輩風吹かせてるじゃねえか!」
    長次郎「作兵衛、ああいう堕落した大人にはなってはいけないよ」
    乃武綱「聞こえてるぞ!」

    乃武綱は弾児郎を見つけると「弾児郎、今日俺と倉庫の点検だろ!」と叫ぶ。
    弾児郎「あれえ、そうだっけ?」
    乃武綱「やっぱり忘れてたのかよ! 早くやろうぜ!」
    弾児郎は去る。
    雨緒紀は作兵衛をじっと見つめる。真面目な顔で長次郎の話を聞いている作兵衛。勤勉で素直。雨緒紀はそう受け取る……普段なら。
    そこで背後に気配。元柳斎登場。
    雨緒紀「まさかあいつを長次郎の下に就かせるとはな。いや、それどころか入隊させたこと自体に驚くべきか?」
    元柳斎「霊術院でも問題行動はなかった。成績もいたって普通。入隊させぬ理由がない」
    雨緒紀「あいつがあのことを覚えているならば、護廷への……いや、お前への脅威になるかもしれないぞ?」
    言いかけるとこちらに気付いた長次郎が駆け寄って来る。作兵衛も一緒。
    長次郎「元柳斎殿! 今から作兵衛と流魂街の見回りに行ってまいります」
    元柳斎「どこまでいくつもりじゃ」
    長次郎「北七十五区まで行こうかと」
    元柳斎「……その地区は、確かお主の出身だったな作兵衛」
    作兵衛「はい! 私なぞの経歴を、覚えててくださっていたのですか」
    元柳斎「うむ」
    雨緒紀「そこは盗みや暴力ばかりであまり治安が良くなかったと聞く。大変だったな」
    作兵衛「……確かに良い生活とは言えませんでした。しかし、父が生活のために必死になっているのを見ていると嘆くばかりというわけにはいかず……。今私がこうしていられるのも父のおかげです。父がいたからこそ、私はここにいるのです」
    元柳斎の顔が、他人にはそれと分からない程度にゆがむ。察した雨緒紀。
    長次郎「……その父上は?」
    作兵衛「亡くなりました……いえ、殺されてしまったのです」
    長次郎が息を呑む
    作兵衛「まあ、あまり良い環境ではありませんでしたから。でも、死神を志したのも父の死をきっかけとなっております。幸い自分には霊力がありました。自分にできることは何かを考えたら、この道しかなかったのです」
    雨緒紀「血のにじむような努力をしたのだな」
    雨緒紀「その力、ぜひ尸魂界のために使ってくれ」
    作兵衛の瞳が揺れる。はい、と言う返事。
    長次郎「では行ってきます!」
    雨緒紀「気をつけるのだぞ」
    長次郎と作兵衛が瞬歩で消える
    雨緒紀「山本、もう後戻りはできないぞ」
    元柳斎の溜め息
    雨緒紀「お前の甘さが吉と出るか凶と出るか、近いうちにわかるだろう」



    雨緒紀「今夜、山本の部屋を夜通し見張れ」
    長次郎「何かあるのですか」
    雨緒紀「ああ、必ず」

    元柳斎の部屋
    長次郎「王途川殿の命により、一晩見張ります」
    元柳斎「いらぬ。自分の身くらい自分で守れる」
    長次郎「いえ、見張ります。王途川殿があそこまではっきりと言うのですから、何かあるのやもしれません」
    長次郎「一体何があるのでしょうか?」
    元柳斎「お主は知らずとも良い」
    長次郎「元柳斎殿、何かご存知なのですか?」
    元柳斎「いや……知らぬ」

    少しして
    作兵衛「長次郎先輩、代わります。少し休んでください」
    長次郎「その必要はない。私の任だ、私がやる」
    作兵衛「ですが……今日一睡もしていないではありませんか」
    長次郎「一日くらい寝ずともどうということはない」
    作兵衛、去る

    夜明け
    ふと空を見ると、隊舎の向こうから黒い煙。尋常ではない。
    乃武綱「火が上がったって、一体どういうことだ!」
    乃武綱が敷地を移動しながら叫ぶ
    弾児郎「おれにも分からんよ! とにかく行ってみないと!」
    乃武綱「倉庫だろ? 点検した時は異常なんてなかったはず!」
    弾児郎「だから分からないって!」
    いくつもの人影がそちらへ向かう。自分も行くべきか……元柳斎に声を掛ける
    長次郎「元柳斎殿、隊舎横の倉庫で火が上がったようです」
    元柳斎「お主はそちらの消火へ向かえ!」
    長次郎「はっ!」
    長次郎が庭へ出た時、元柳斎の部屋から強力な霊圧を感じる。臨戦態勢の元柳斎のもの。踵を変えると、元柳斎の部屋から何かが飛び出してくる。吹き飛ばされたという表現そのままに障子戸を破り、庭へ放り出されたそれは、塀を越えて敷地の外へ逃げる
    長次郎「元柳斎殿!」
    すぐさま部屋の中の元柳斎を見る長次郎。元柳斎は無傷
    長次郎「曲者でしょうか?」
    元柳斎「そのようだ」
    長次郎「私が追います」
    元柳斎「行くでない!」
    元柳斎の話も聞かず飛び出す長次郎。薄く闇が立ち込める中駆け出す。


    元柳斎が長次郎を追おうとしたのを止めた声
    雨緒紀「お前はここにいろ。私が行く」
    元柳斎「……どうするつもりじゃ」
    雨緒紀「お前が考えている通りだ」
    雨緒紀「言っただろう……もう後戻りはできないと」
    雨緒紀「心というものはそう簡単には変わらない。人の足を動かすのも、止めるのも情だ。あいつの場合、それが憎悪だったのだ」
    元柳斎「やはり儂が行く。もとは儂が撒いた種じゃ。刈り取るのも……」
    雨緒紀「何を言っている。総大将がほいほいと出歩いてもらっては困る。それに……そのための長次郎ではないか」
    元柳斎「儂は、そういうつもりで長次郎を置いているわけではない!」
    雨緒紀「長次郎の方はそういうつもりかもしれんぞ?」
    雨緒紀「まあとにかく、私に任せておけ。悪いようにはしない」
    自分の部屋に戻る雨緒紀。笠を腰に下げ、その上から羽織に身を包む。腰の辺りが奇妙に膨らむ。仕方がない。
    雨緒紀は進む。
    ほどなくして長次郎の白髪が見えた。もう一人いる。曲者を捕まえたか、と思っていると珍しく声を荒げる長次郎
    長次郎「何故……何故こんなことしたんだ!」
    長次郎「元柳斎殿を害するなど……お前は言っていたじゃないか! 尸魂界のために力を尽くすと! 私のようになって元柳斎殿の役に立ちたいと! あれは嘘だったのか!」
    長次郎「答えろ、作兵衛!」


    刀を向けられた作兵衛は長次郎を睨む。
    作兵衛「あれは嘘だ。私は山本重國を始末するためにここに入った!」
    長次郎「何故……」
    作兵衛「教えてやる。私の父はあの男に殺されたのだ!」
    長次郎「元柳斎殿がそんなこと……」
    作兵衛「あいつが手下とともに俺の家に押し入って、父を斬った。忘れるはずもない、あいつの額の傷がまだ一本だった……!」
    長次郎「元柳斎殿がそんなことをするはずがない!」
    作兵衛「確かにあいつが殺したんだ!」
    雨緒紀が歩み寄る。二人の視線が雨緒紀に向く。雨緒紀の腰が不自然に膨らんでいる。しかしその視線に構わず、雨緒紀は口を開く。
    雨緒紀「お前が言っていた『自分にできること』とは、仇討のことだったのだな」
    作兵衛「そうだ。山本重國の首をこの手で取ることだけをよすがに生きてきた! 必ず成し遂げてやる!」
    雨緒紀「さて長次郎、お前の後輩はこう言っているが、どうする? 作兵衛を逃がすか? だがそうすると再び山本の命を狙うぞ?」
    長次郎「元柳斎殿を狙うなど、許せるはずもありません!」
    雨緒紀「そうか。ならばこの場で始末するしかないな」
    強張るのを感じる長次郎。「それは……」と力ない声が漏れる。
    雨緒紀「自分を慕う後輩に情が湧いたか」
    長次郎「当たり前じゃないですか。そんなに簡単に殺すなど……」
    雨緒紀「だがそうすると山本が危うくなるぞ」
    逡巡する長次郎。その隙を狙って長次郎に襲いかかる作兵衛。雨緒紀が縛道で縛る
    雨緒紀「長次郎、お前はこいつの言うことを信じるのか?」
    長次郎「元柳斎殿が殺したなどとは、考えたくありません。でも、作兵衛が嘘を言っているとも思えない」
    雨緒紀「確かに、渦楽は嘘は行っていない」
    作兵衛を見下ろす雨緒紀。含みのある言い方にどういうことだと自問する長次郎。
    雨緒紀「作兵衛、お前は……火付けの権兵衛のせがれだろう?」
    作兵衛、瞠目。何故それを……
    長次郎「火付けの権兵衛……?」
    雨緒紀「昔、流魂街の北七十五区で盗みを働く男がいた。火付けの権兵衛……火事を起こし、家人や近所の人間の注意がそちらを向いた隙を狙ってあらかじめ決めておいた家に盗みに入る手口からそう呼ばれた。それがこいつの父親だ。今日の隊舎での家事もお前の仕業だろう」
    顔を青くする作兵衛。
    雨緒紀「権兵衛のやり方で有名なのは火付けだったが、時には殺しもやった。時には北七十五区以外の場所でも起こした。ある時、被害にあった他の地区の住人が山本に助けを求めてきたのだ……火付けの権兵衛を始末してくれ、と。その依頼を受け、山本はこいつの家に行ったのだ……」
    作兵衛「何故あんたがそこまで知っている。山本が自分の手柄を吹聴したか!」
    雨緒紀「まさか。あいつはそんな人間じゃない。なぜ私が知っているか……私もお前の家に乗り込んだからだ」
    雨緒紀「当時はまだ護廷ができる前。たまたま一緒にやった仕事がそれだった」
    作兵衛「お前の顔など、覚えてない」
    雨緒紀「まあ山本の顔の方が憶えやすいからな。私が霞むのも仕方がない」
    雨緒紀「……さて、ここまで聞いてどうだ、長次郎。作兵衛をどうするか決められるか?」
    長次郎「作兵衛、考えを改める気はないか? お前が元柳斎殿を狙うと言い続けるのなら、私はお前を打たなければならなくなる。だがお前が考えを改め、尸魂界のために頑張ってくれるというのなら、私はもう一度機会を与えてもいいと思っている」
    雨緒紀「つくづく甘いやつだ、お前は……」
    雨緒紀が吐き捨てる
    雨緒紀「作兵衛、お前の優しい先輩は懺悔の機会を与えてくれるらしいぞ。どうする? もう山本を狙わないと誓うか?」
    作兵衛「誓います。これからは心を入れ替えてがんばります」
    感情のこもっていない声に、長次郎は苦いものが広がった。
    雨緒紀「そうか。ならばこれからが山本のために身命を賭してくれ」
    作兵衛の目に憎しみが宿る。それを見てしまった長次郎は、無意識のうちに斬魄刀を握る手に力が入った。
    雨緒紀「明日をも生きれるかという過酷な生活だったというのは想像できる。父の罪を償えとは言わない。お前は父親ではないからな。だからこそ霊力もあったし、這い上がれるだけの丹力もあるから、こうして死神になって、前を向いて生きていくべきだったと私は思う……」
    雨緒紀「むしろここまで大切に育ててきた憎しみだ。そう簡単には消えないだろう?」
    雨緒紀「山本はな、お前のことを知っていた」
    作兵衛「知っていて入隊させたのか? 自分の右腕を教育係にして……」
    雨緒紀「そうだ。その理由はな、もしかしたらお前が変わるかもしれないと期待していたからだ。長次郎とともに職務に専念し、自分の在り方を見つめれば、憎しみなどに囚われずに生きていけると……」
    作兵衛「綺麗ごとだ。父を殺したのは、あいつ自身だったのに……盗賊でも、悪人でも、俺にとってはたった一人の父親だった。山本重國に何が分かる。他人を慈しむことなんて知らない人間に、何が……」
    作兵衛のすすり泣き。
    長次郎「王途川殿、もうやめましょう。作兵衛は私がよく言い聞かせます」
    雨緒紀「長次郎、一つだけ言っておくことがある。この世界では必要なことの全てが、必ずしも納得できることとは限らない。自分の胸で納得できずとも、道理にかなわずとも、やらねばならぬ時にそれを怠れば組織が腐る。それがどんなに汚い仕事でも。いいか、よく覚えておけ」
    長次郎は返事。雨緒紀、作兵衛を解いてやる
    雨緒紀「渦楽、最後に教えてやろう」
    雨緒紀「お前の父親の命を奪ったのは山本ではない。この私だ」
    作兵衛「……は?」
    雨緒紀「お前がわたしの顔を覚えていなかったのも無理はない。私はその時、笠を被っていたからな」
    雨緒紀は鳥追い笠をだし、被ってみせる。屋根型の笠は顔がすっかり隠れる。
    その笠をじっと見つめていた作兵衛は、やがて半狂乱で叫び出す。刀を抜き、雨緒紀の喉を狙う。
    その切っ先は届かない。作兵衛の胸を刀が貫く。長次郎の斬魄刀だ。長次郎は頭が真っ白になっていた。体が自然に動いていた。刀は作兵衛の右胸を貫き、胸郭を破り、肺に穴をあける。引き抜く。作兵衛は仰向けで倒れる
    雨緒紀「分かっているではないか、長次郎」
    雨緒紀の声が遠いものに聞こえる。
    雨緒紀「裏切り者は生かしておいてはいけない。どんなに懇願されても、何かを捧げられても……残念ながら人はそう簡単には変われない」
    長次郎、震える手を見つめていることしかできない。咳き込む音を聞いて作兵衛に目を落とす。傷ついた肺からの出血のせいか、作兵衛は赤の混じった泡を口から出していた。あえぐような息をしている。その顔が苦痛に歪む。
    長次郎「作兵衛……」
    その顔を見る。自分を見る目に憎しみと悲しみが混じっており、腹に重いものが落ちるのを実感した。
    作兵衛「苦しい……苦しい……!」
    長次郎は斬魄刀を作兵衛の左胸に突き立てる。一気に力を込める。
    自分を見ていた黒目が濁ってゆくのを、ただ眺めていることしかできなかった。


    昼。元柳斎の部屋
    長次郎「渦楽作兵衛は私が始末しました。亡骸はかの者の出身である流魂街北七十五区へと葬りました」
    平伏したまま淡々と報告する長次郎。元柳斎がうむと返事をする
    長次郎「なお、昨夜の火事も渦楽によるものとのこと。五番隊と七番隊により、現在は鎮火。現場となった倉庫は全焼とのこと」
    元柳斎「報告ご苦労。長次郎、ようやった」
    長次郎「はっ」
    長次郎はそのまま平伏する。元柳斎が訝しむ気配
    元柳斎「長次郎、顔を上げよ」
    長次郎は顔を上げようとする。そのとき、目から零れた雫が一つ畳に落ち、小さな染みを作る。そのまま動きを止める。動かない長次郎に声を掛けるが、長次郎は喉が締まる思いがして、答えることもできない
    元柳斎が近付いてくる。隣に座る。肩に手を置き、力を込められる。無理矢理顔を上げさせられる。
    長次郎の頬をいくつもの涙が伝う。見られたくなくて顔を逸らす。しかし元柳斎はその頬を触れるとかさついた手で涙を拭った。ますます涙がこぼれる。顔を歪める
    元柳斎「長次郎、お主には辛い思いをさせてしまった」
    長次郎「いえ、わ、わたしは……げんりゅうさい、どのの……み、みぎうで、ですから……!」
    しゃっくりあげた長次郎、嗚咽を漏らす。元柳斎が抱き寄せる。すると、堰を切ったように泣き出した。


    手に団子の入った包みを持って長次郎のもとへ向かおうとする雨緒紀。すると元柳斎の部屋の中から泣き声が聞こえ、足を止める。長次郎の声。
    ついさっきまで気丈に振る舞っていた長次郎が元柳斎の前で泣いている。何とも言えない気持ちになる雨緒紀
    すると首根っこつかまれ、後ろに引かれる。咄嗟に団子の包みを懐に隠す雨緒紀
    乃武綱「おい、あいつらの邪魔すんなよ」
    雨緒紀「私がそんな人間に見えるか?」
    乃武綱「お前のことだから、長次郎にこんなことで泣くなとか言いに行こうとしたんだろ」
    雨緒紀「まさか。そんなこと」
    乃武綱「どうだかな」吐き捨てる

    乃武綱「大体な、作兵衛のこと、何で俺らに言わなかったんだよ」
    雨緒紀「言ってどうする」
    乃武綱「どうするって、そりゃあ……」
    雨緒紀「多くの人間が知っているからといって、上手く解決するとは限らない」
    乃武綱「とかいうけどさ、結局は俺らを信用していないんだろ。だからいつも一人で勝手にいろいろやるんだろ」
    雨緒紀「してるさ。だがな、信じているから全部を教えなければならないというわけではないと思うぞ」
    乃武綱「けどよ、なんで長次郎に始末させたんだよ。あいつが傷つくなんて目に見えていたことじゃねえか」
    雨緒紀「お前、もし長次郎が裏切り者で、始末しなければならない状況になったらどうする? 卯ノ花や善定寺に手を下してもらいたいか?」
    乃武綱は黙る。
    雨緒紀「山本でなければお前が手を下すだろう。そういうことだ。自分が知らない場所で大事なことが決まることほどむなしいことはない」
    乃武綱「そうは言っても、あんなことさせるなんて……」
    雨緒紀「おい、さっきから聞いていれば私が長次郎に命令してやらせたような言い草だな」怒気
    雨緒紀「お前は長次郎をただの子どもにしたいのか。あいつは自分で考えられる。私の言ったことを一から十まで聞き入れ、唯々諾々と聞くだけの傀儡だと思っているのか。だとしたら考えを改めろ。長次郎は、そんな愚か者ではない」
    乃武綱「お前珍しく……」
    雨緒紀「よく喋ると言いたいのか。そりゃあ言い返したくもなる。執行は甘い。いつのまに腑抜けになったのだ」
    乃武綱「いや、俺は……お前が珍しく熱くなっているって言おうとしたんだ」
    雨緒紀「私が……?」
    乃武綱「昔のお前ならそもそも他人に干渉なんてしなかったじゃねえか」
    雨緒紀「そうだったか?」
    何を言っているのだあいつは。わたしは他人に深入りなど……いや、しているな。どういうことだ?長次郎を育てることは将来の護廷十三隊を作るのに必要だ。だから職務を全うしているのみ。
    乃武綱「山本もさ、昔なら泣くなって怒ってたぞ? それが今は長次郎が泣いてもそれを受け入れてるんだもんな。人って変わるんだな」
    変わるもの、変わらないもの。その境目はどこにあるのだろうか。
    雨緒紀「……ああ、そうだな」
    乃武綱「長次郎もそう。あいつにとって山本は、自分の弱い部分をさらけ出せる存在になったってことだろ? いいことじゃねえか」どこかさびしげ
    作兵衛ももし変われれば、別の未来があった。
    乃武綱「長次郎はいつか、俺たちみてえになっちまうのかな」
    雨緒紀「お前のようになってもらっては困る」
    乃武綱「お前みてえになんでもかんでも斜に構える人間になって欲しくはねえなあ」
    雨緒紀「そうだな」
    びっくり乃武綱
    乃武綱「わかんねぇやつ。お前の腹が見えねえところ、気に入らねえ」
    吐き捨てて去る乃武綱。言わせておけと思う雨緒紀。
    元柳斎が抱いた希望と、長次郎が信じた希望。その罪は永遠に二人の中にある。


    ……というように、最初の構成は少しシンプルでした。ラストシーンもマイルドでしたし。
     しかし事件が起きるのが唐突だよな~……もう少し、こう……長次郎と作兵衛のことを掘り下げたいなあ、コメディシーンが少ないなあ……と思い以下のシーンを追加。


    ☆序盤で乃武綱を活躍させる
     困った時は乃武綱を入れるようにしています。理由は簡単です。勝手に動いてくれるからです。そのおかげでどんどん物語が進むのです。今回も案の定乃武綱おじさんに救われました。乃武綱の出番を増やしたところするすると入ってくれておまけに七番隊舎見学ツアーも企画してくれて助かりました。ついでに「確かにカッコイイ俺に憧れてるなんて言ったら~」と調子に乗ってくれました。長次郎ともお馴染みのじゃれ合いをしてくれましたし。ありがとう乃武綱おじさん。乃武綱おじさんのおかげでコメディシーンを入れることができたよ!
     乃武綱、最初はほぼラストのみの活躍予定でしたがコメディシーンを担ってくれ、追加で事件発生時に雨緒紀と険悪になってくれるという活躍っぷりで、気付けばたくさん出ることになりました。乃武綱おじさんはレギュラーキャラだから仕方ないよね!!!


    ☆北流魂街七十五区
     長次郎と作兵衛のシーン、ということで最初の構成にあった「流魂街の見回り」の要素を掘り下げ、二人で作兵衛の故郷に行くというシーンにしました。ここは最後まで入れるのを悩みました。蛇足になるような気がして……。


    ☆十二番隊舎破壊
     最初は十二番隊舎は壊さない予定でした。普通に七番隊舎倉庫に火をつけるだけにしようかと……でもそれだけじゃあまりにもあっけないですし、もうひとひねりと思いまして。ついでに乃武綱と雨緒紀にばちばちにやり合って欲しかったですし。なので十二番隊舎も壊してもらい、雨緒紀と乃武綱はおびきだされてもらいました。
     ちなみに卯の花さんすら出てきたこの騒動。逆骨さんは出てきませんでしたね。寝てたのかな?


    ☆雑木林~作兵衛始末まで
     『長次郎がどういう心理状況で作兵衛を始末するか』というのは結構悩みました。最初の構成のように体が勝手に動いた、みたいな方向だと「境界」で四葉を倒したときの、「無意識的に理性を超える」と被ってしまうかな、と……仇討ちという点も似てますし。だからこの部分で差別化したくて雑木林のシーンと拘禁牢のシーン、そして北流魂街七十五区のシーンに分けました。
     雑木林のシーンで表面上の解決に向かうと見せかけて拘禁牢のシーンでブラック雨緒紀発動→作兵衛の本性炸裂→長次郎の情緒ぐちゃぐちゃ→闇落ち、みたいにしてみました。上手く表現できてるかな……?
     長次郎は、人を騙すとか陥れるということはできると思うんです。まがりなりにも護廷十三隊ですから。でも騙したり陥れる中にも優しさを持っていて……例えば今回ならば作兵衛にわざわざご飯を持って行ってあげたり、「お前は大変だった。でも他の生き方もできると思う」と、作兵衛に寄り添うような声掛けをしてあげたり……そんな柔の部分があると思います。
     で、そんな長次郎が考え出した「作兵衛の本心を見極める」方法が、牢屋の鍵開けちゃうことです。人は誰もが魔が差すことがある。それに打ち勝つことができるか、あるいは魔が持ち合わせていた憎しみと同化して後戻りできない場所に行ってしまうか……。もしあそこで作兵衛が逃げ出さなければ長次郎は元柳斎に「作兵衛は改心した」と助命嘆願していたし、元柳斎も大目に見ていたのかもしれない。
     そもそも裏切者を生かしておくこと自体がアウトで、元柳斎に襲い掛かった時点で作兵衛の立場と言うのは危ういわけで、その上牢からの逃亡はもう許すわけにはいかなくなるのです。もうどんな弁明も意味を為さない。元柳斎を害するおそれのある人間を見過ごすわけにはいかない長次郎に残された選択肢は、作兵衛の始末……。
     いくら腹を括ったといえど、長次郎が何も感じないわけではなく。作兵衛を葬って、呆然としていたところに忠誠を誓う主がやってきて、そこで反動がきたというか……抑えていた気持ちを溢れさせて、そしてぼろぼろと泣くという、そういう心情を描きたかったんです……。文章って難しい。長次郎くんは元柳斎殿の前で子どものように泣いて欲しい。


    ☆隊首会議と雨緒紀
     今回の雨緒紀は基本一人ぼっちでした。会議のシーンでも他のメンバーとは違う立場でしたし、卯ノ花さんとか乃武綱から冷たい目を向けられましたし。
     卯ノ花さんと雨緒紀のシーン、最初は入れるつもりはありませんでした。でも乃武綱以外にも誰か雨緒紀を止める人間が欲しいな……有嬪は次回でちょっと出てもらうから他の人間で……と考えて真っ先に浮かんだのは卯ノ花さん。
     卯ノ花さんは戦い大好き! フリーダム! というイメージでいるのですが、一方で冷静に他人を観察しているイメージもあるんです。「この人は本当はこう考えてる」とか、「この態度は演技だな」とか。で、それを滑らかな声ではっきりと口にする。そんな感じ。
     雨緒紀と卯ノ花という美形同士が無表情で淡々と言い争ってたら、怖いだろうなぁ。しかも片方抜刀済み。そこだけ空気が氷河期だよなあ。なんて思いながら書いていました。
     ……そんな殺伐☆な状況の仲裁は誰ができるだろうか……と考え、最初に浮かんだのは知霧くん。でもこの状況に知霧くん放り込むのは酷だよなあ……。次に浮かんだのは弾児郎。弾児郎は喧嘩の仲裁とか上手そう。しかし弾児郎は次で喧嘩の仲裁する(予定)だしなあ。千日と有嬪は不在だし……と考えて最終的に出したのは金勒さん。かっこいい金勒さんを見たかったんだよ……私が!!! 金勒さんならびしっと喧嘩を止めてくれると思う。カッコイイ金勒さんをもっと!!!見たいでござる!!!!


    ☆ラストの雨緒紀と乃武綱
     このシーン! 書いてる時めっちゃ楽しかった!!! 乃武綱をぶちぎれさせた瞬間FOOOOO! って一人で盛り上がってました。
     怒りの描写。〝今回の〟雨緒紀は声を荒げることなく淡々と怒って……というかイラついていました。一方で乃武綱は大噴火したように怒りました。この二人は怒り方も対照的だと思います。

     ちなみに雨緒紀の「お前は長次郎をただの子どもにしたいのか。あいつは必要なことを自分で選び取れる。私の言ったことを一から十まで聞き入れ、唯々諾々と聞くだけの傀儡だと思っているのか。だとしたら考えを改めろ。長次郎はそんな愚か者ではない」というセリフ。最初は「顔は感情の~」にいれる予定でした。でも入れられなかったのでこちらにいれることとなりました。乃武綱おじさんが上手く怒ってくれて良かったです。

     余談ですが、乃武綱の二人称は……、
    普段→お前
    怒った時→お前
    ぶち切れた時→てめえ
    と変化すると私が嬉しいです。感情が高ぶった時に口調とか一人称とかが変わるの好きなんよ……。
     こんなふうに雨緒紀に切れた乃武綱ですが、嫌いではなく気に入らないだけだと思います。なんでこいつはこんなに素直じゃねえんだ、って。そこらへんをラストシーンで書いた……つもり……です。

     この話を最後まで読んだ人が「雨緒紀ぃぃぃ……お前……っ!」とか「乃武綱ああああ……お前ってやつは……!」と思ってくださったならば私はガッツポーズします。


    【キャラ考察】
    ☆雨緒紀
     雨緒紀はお話の中でもいろんな人に言われてますが「素直じゃない」「本心を偽ってる」「自分の裡の声から目を背けている」「破滅にひた走っている」……みたいな感じです。雨緒紀は冷徹だけど、その冷徹のせいで後悔することも多くありそう。某ボカロ曲の歌詞の「罪に気付くのはいつも全て終わったあと」みたいな感じ。有嬪くんとかはそこらへん見抜いていそう。次回の話で雨緒紀が少しだけ前を向けるように……素直になれるようにしたいです。頑張ります。


    ☆長次郎
     長次郎くんは見た目通りの未熟な若者として書きたくなります。多分実際はもっと冷静で大人しいと思います。でも泣いたり、叫んだり、乃武綱に悪態ついたり、元柳斎殿と鳴いたり、走り回ったり、乃武綱に拳骨落とされたり……そんな風に書きたくなります。
     今回の長次郎くんは後輩ができたということでキリッとしたり、後輩を気にかけてあげたり、走り回ったり、そして後輩を陥れて結果的に始末したりとかなり忙しく、悲しい役回りでした。でも長次郎くんは雨緒紀を恨んだり、避けたりはしないんだろうな……これも自分に必要なことだからって受け入れて、前を向いて歩いて行くんだろうな……。
     でもいつかかっこいい長次郎くんも書いてみたいな。多分すぐに乃武綱に悪態吐いてるクソガキになるだろうけど。


    ☆元柳斎
     元柳斎殿は以前は戦いに明け暮れた化け物だったけど全く人の心がなかったわけではなく、例えば泣いている子供を助けるとか、そういう一面があったんじゃないかな……で、今回のお話は作兵衛を生かしたがゆえに起きてしまったと。
     歴史でのちの禍根になるから一族を粛清するという場面があるのはそのためです。雨緒紀もそれを危惧していたわけです。
     でも長次郎と出会って心を溶かしていった元柳斎殿は、それでも作兵衛が変わるって希望を持って、作兵衛を長次郎の下に付かせたんだよなあ。
     原作の元柳斎の厳しい部分は若い頃のままで、柔らかい部分は長次郎くんと出会って変わった部分なんじゃないかと妄想してます。
     あの厳つくていかにも雷親父な風貌な元柳斎殿が泣いている長次郎くんを抱きしめて慰める……今回最大のやまささ要素だと思います。映像で見たい!!!


    ☆卯ノ花
     卯ノ花さんはさっきも書いたように人に興味ないように見えて実は他人を見ている人間。で、見抜いたことをばっさりと口にする感じ。今回なら「可哀想」の台詞。美人に冷たい声で「可哀想」って言われたら正直ゾクゾクします。知霧くんとかはちびりそうですが。
     卯ノ花さん、いいなあ……。


    ☆金勒
     カッコイイ金勒さんを見たいです。
     話とは全然関係ないのですが、ぶち切れ金勒さんを見たいです。金勒さんって護廷十三隊の人間(主に乃武綱)には切れるイメージがあるのですが、敵(虚とか悪者)に怒るイメージって浮かばないんですよね。この人、外の人間にはどんな風に怒るんだろ。そこらへん掘り下げていきたい(課題)


    ☆乃武綱
     この人は~~~! もう何も言わない。この人はさ~~~~この人はさ~~~~としか言えない!
     前回(「顔は感情の舞台と言うけれど」)において金勒さんが頑張って作った重要書類で芋を焼いたせいで今回は七番隊舎の倉庫を焼かれました。因果はめぐるのです。
     今回最初の方で調子に乗ってくれましたが、乃武綱は騙されやすいしすぐ調子に乗るイメージがあります。


     いきなりの学園パロで申し訳ないのですが……。

     二月十四日。学ランを気崩してぺったんこのかばんをぶら下げた乃武綱が登校して下駄箱を見ると、上履きの上に綺麗にラッピングされた包みと手紙が置かれていた。
     それを見て「おっ!」と目を輝かせる乃武綱。周りをきょろきょろと見回して、そうして包みを取り出してよく見る。それは紛れもなくチョコレートで、しかも人気店のもの。これは本命だ! 相手は誰だろうと胸を弾ませながら一緒に置かれていた手紙を見る。
     丸っこい字で「執行くんへ」と書かれた封筒を開いて中を読んでみる。

    「執行くんへ
     ずっと前から見ていました。
     これは日ごろの気持ちです。
     受け取ってください。
     ちか」

     そうか、ちかちゃんって子がくれたのか……ん? ちか? ちか……チカ……千日……?
     慌てて下駄箱の向こうを見ると、影から白い毛が見える。千日だ。千日はニヤリと怪しい笑みを浮かべるとさっと身を翻し、廊下を駆け抜けていく。
     そう、これは本命チョコなどではなく、千日が企画した盛大なドッキリ……。
     慌てた乃武綱は急いで千日を追う。
    乃武綱「お前待てよ!」
    千日「やだね! クラスのみんなに言わなきゃ!」
    乃武綱「ふざけんな!!!」
     しかし隠密の千日の方が足が速い。教室に飛び込んだ千日は嬉々とした顔で叫ぶ。
    千日「みんな! 執行が引っかかったぜ!!!」
     クラスから歓声。追いついた乃武綱の顔が青ざめる。
    乃武綱「もしかしてお前らもグルかよ!」
    不老不死「当たり前だろ」
    抜雲斎「チョコレートは私が選びました」
    千日「手紙は俺が書いた」
    雨緒紀「まさかこんなにあっさり引っかかるとは」
    金勒「あいつの今後が心配になる」
    乃武綱「何も今日やることはねえだろ! 畜生!」
    逆骨「普通は引っかからんよ」
     そこで伝説の山本先輩の登場。
    元柳斎「こりゃあ、乃武綱! 廊下を走るな!」
    煙鉄「山本のくせに言ってることがまとも」
    有嬪「っていうかおめえも生徒側かよ」
    弾児郎「あの見た目で生徒はないよなあ」
    長次郎「誰ですか元柳斎殿の悪口を言うのは!」
    乃武綱「ぶほっ! お前、その恰好……」
    卯ノ花「あなたは何故セーラー服なのですか」
    長次郎「これもドッキリです」
    知霧「誰が企画したんだよ」
    長次郎「齋藤殿が……」
    不老不死「ぎくっ」
    千日「お前……! 誰が得するんだよ!」
    不老不死「いいじゃねえか減るもんじゃねえし」
    弾児郎「長次郎も素直に着るなよ」
    有嬪「長次郎にチョコ渡させれば良かったな」
    不老不死「……ハッ!」
    抜雲斎「来年はその方針でいきましょう」
    乃武綱「そう何度も引っかからねえよ!」
     でも乃武綱は翌年も手の込んだドッキリに引っかかる。そしてまた泣きを見る。そういう男なんです(妄想が長い)


    【イメソン】
     そういえば初代とか、話を書いている時のイメソンがいくつかあるので書いておきます。

    ☆長次郎
     Refulgence(少女病)
     この曲は某ジャンルの某話のEDで、その話のメインキャラをイメージした曲なんでしょうけど、長次郎くんのイメージがあってよく聞いてます。
    「いつか声を殺した 凍えるように眠れぬ夜 加速していく閃光 研ぎ澄まされ鋭く」
    「いつか空を失くした 誇りだけを地に残して それは気高い残光 輝きは揺るがず」
     鋭い、とか研ぎ澄ます、輝き、閃光、という歌詞が長次郎くんにぴったりだなと思いまして……。

    ☆乃武綱
     Poisoner(ALI PROJECT)
     タイトルからして乃武綱。
    「さあ心に毒を飼おう苦しくとも この時代を狂わせよう息絶えぬように」
    が何となく乃武綱!って感じがします。ちなみにこの曲が入ってるアルバムの名前も「Poison」……アルバム全体が毒々しくて好きです。

    ☆雨緒紀
     空虚の渦の中心で(片霧烈火)
     この曲は朝もやの中、森にひっそりとたたずむ凪いだ湖のように静かな曲です。
    「脆弱で不確実な 透き通る空虚の渦 自分さえ判らないまま 消えそうな中で」
    「大切なものを二度と 手放したりしないよう バラバラになりかけてた この魂震わせ叫ぶの」
    あたりの歌詞がイメージにぴったりで……よく聞いています。

    ☆長次郎と初代
     語り継ぐこと(元ちとせ)
     某アニメのEDです。長次郎くんは初代の意思とか思いを受け取って、一つ一つ成長して現在(原作軸)の雀部副隊長になったと勝手に妄想しています。
    「消さないであなたの中の ともしびは連なりいつしか 輝くから」
    「語り継ぐことや伝えてゆくこと 時代のうねりを渡って行く舟」
    「指に額に髪に あなたの向こう垣間見える面影 もしも時の流れを さかのぼれたらその人に出逢える」
     あたりの歌詞が、長次郎くんの中にはいつまでも初代との日々があって、雀部副隊長になったあとも彼を形成している……みたいな妄想がはかどります。

    ☆初代
     Amnesia(志方あきこ)
     この曲も静かな曲です。どちらかと言うと、初代の最期はこうがいい! のイメージの曲です。
    「舞い降りてくる光の雨に 全て赦され溶けてゆきたい」
    「はりつめてゆく私の罪を 悼むように響くこもりうた」
    「かすれてく記憶を揺り起こす優しい歌 あたたかな面影に胸の奥ざわめいた」
     初代(元柳斎と卯ノ花以外)は自身が納得した最期を迎えて欲しいという反面、誰かに憎まれたり恨まれたりした末に惨たらしく散って欲しい気持ちもあります。そんな今わの際に、目の前にキラキラと光が降ってきて、何もかもを赦されてあたたかな気持ちになり、白に溶けていくように眠って欲しい……な、感じです(わかりづらいわ)


    ☆「己が役目」
     愛と誠(ALI PROJECT)
     これは完全に某笑顔動画の影響です。笑顔動画での、某怪盗三世のアニメの剣士を主人公にしたOVAのMADがあって……それを見ました。ぶっちゃけ、細身の剣士と大男が戦うという話もここから着想を得ました。五右衛門さんかっこいいね(名前出しちゃった)。いつか絶対DVD買う。

    ☆「希望という名の罪」(今回)
     鎌倉殿の13人メインテーマ
     構成練る時にずーっと聞いていました! 策略! 裏切り! 粛清! と言ったらこの曲しかないですよね! 長次郎くんは義時ポジでいて欲しいという思いもあります。振り回される系主人公!


    【今回苦労した部分】
     全部。すっごく頭使いました。いかに雨緒紀を冷徹に見せるか。そして登場人物の情緒をぐちゃぐちゃにするか……なにより、長い話を矛盾なくかくのってすごく難しい! どっかに穴があるんじゃないかって毎回ひやひやしています。
     余談ですが、今回のお話の執筆期間は構成を除くと3月17日~4月20日までの約一か月。大体6万文字……なっが……。次はもっと短くしたい。

     あと今回「泣く」という描写が、
    ①雑木林で作兵衛が恐怖のあまり絶叫する
    ②拘禁牢で作兵衛が自らを省みる
    ③作兵衛を始末した後長次郎が子どものように泣く
    ④長次郎の顔を見た雨緒紀が感情を取り戻す
    の4回ありました。この「泣く」の描写、結構感情を込めたい場面なだけに難しかったです。「涙」という言葉を使うだけでも「涙を流す」「涙が頬を伝う」「涙が溢れる」……などなどたくさんの表現がありますし、「涙」という言葉を使わないとなると「視界がぼやける(滲む)」「目頭が熱くなる」「こみ上げるものがある」……などこれまた多くの表現がある。それにプラスして「鼻水をすする」とか「声が掠れる」「喉が締まる」「しゃっくりあげる」といったオプション、もとい緻密な表現もあるのでこの場面ではどの表現が一番適切かな~~~なんて迷いました。これは今後の課題です。


     ちなみに今回は一つ「ここ通じるかな~」と心配していた部分がありまして……それは長次郎が作兵衛を嵌めるために牢屋の鍵を開けたシーンです。ここちょっと自信がなくて、もしかしたら「長次郎くんは作兵衛を助けるためにどこかに逃がそうとした」みたいに伝わってしまうかな……と心配していました。ちゃんと嵌めたと伝わったようで良かったです……!


    【「境界」と今回】
     感想を頂く中で、前に上げた長い話「境界」で乃武綱が、長次郎に心の在り方を話すシーンのことを思い出してくださった方がいて「覚えててくださったんだ……!」と嬉しく思いました。今回の話はちょこっとだけ「境界」を踏まえて書きました。
     「境界」で乃武綱は長次郎に、
    「いつでも斜に構えて、何でもかんでも最短距離で答えを見つけて、淡々と物事を片付けられればいいってもんじゃねえ。心というものは常にお前とともにある」
    「そして心の一番奥にある……感情という、人の中で最も大事なものを手放すのだけはやめてくれ。お前が苦しいと思うこと、悲しいと思うこと、嬉しいと思うこと。それら全てに意味があるんだ。だから、そこから目を背けるような人間になるな」
    「それに俺はな、笑わないし、泣かないし、悲しまないお前なんか見たくないんだよ」
    と言っておりまして、これが本心です。
     一方で雨緒紀は乃武綱に対して、
    「どうなりたいか、だけではない。右腕としてどうあらねばならないか、も必要だ。あいつは聡いから、いずれそれを正しく選び取ることができるだろう……」
    「私たちにどう磨かれるかで、長次郎の心の在り方が変わる。逆に言えば、私たちが長次郎を形作らなければならないのだよ。今みたいに感情をすぐに出すような子どもではなく、清も濁も呑み込み、それを顔に出すことがない冷静さを備え、山本の隣で泰然自若と構えられるような一人の死神として」
    と話しています。
     今回はこの辺の会話を雨緒紀と乃武綱、二人の行動のベースとしています。対称的な二人の言動。でも二人とも長次郎のことを思っているんです……そこらへんを次に書ければ……。


    【余談】
     ラストシーン
    雨緒紀「私の情けない姿を笑いに来たのか? そうだな。普段お前は私のことを疎んでいるから、弱った姿などさぞ貶め甲斐があるだろう」
    乃武綱「何でそうなるんだよ。俺はお前みたいにひねくれちゃいねえ。さっきはああ言ったけどな、お前がお前なりに長次郎のことを考えているのは分かってるつもりだぜ?」

    >>俺はお前みたいにひねくれちゃいねえ。

    >>俺はお前みたいにひねくれちゃいねえ。

    …………
    ………
    ……

    千日「いや、執行が一番ひねくれてるだろ」
    抜雲斎「ですよね。私もそう思いました」
    煙鉄「乃武綱がひねくれていないなら世の中の人間全てが真人間だ」
    乃武綱「お前ら好き勝手言いやがって! 雨緒紀のひねくれ方のほうが酷いだろ!」
    雨緒紀「私と比べるな」
    千日「なんていうか、王途川のひねくれは思春期の男子みたいなこじれたひねくれ方なんだよなあ」
    雨緒紀「思春期……」
    乃武綱「ぶはっw ガキってことじゃんかw」
    千日「で、執行のひねくれ方は汚いというかずる賢いというか世の嫌な部分を煮詰めた感じと言うか……」
    乃武綱「…………」
    雨緒紀「良かった、思春期で」
    乃武綱「……俺、今回頑張ったのによ……」
    弾児郎「乃武綱、気にすることないぞ! 汚くてずる賢いなんてまさに初代護廷十三隊にぴったりじゃないか!」
    長次郎「そうですよ! それに執行殿には元々綺麗なイメージなんてないのですからいいじゃないですか!」
    金勒「むしろ綺麗な執行なんて放送できんだろ」
    有嬪「モザイクかけるか?」
    知霧「綺麗なのにw」
    不老不死「綺麗が逆に倫理規定に反するとかw」
    乃武綱「おまえら後で覚えてろ!!!」


    【次回予告】
     次で雨緒紀の物語は一区切りです。
     雨緒紀を救えたらいいな……上手く書けるかな……書けるかな……。
     乃武綱出演は確定です。

     ちなみに雨緒紀の物語の後は長次郎くんと初代の任務話に戻ります。コメディシーンも入れたいな!
     次回も頑張るぞ!






    【本音】
     風呂敷広げ過ぎた感が否めねえええええ!
     今回こんなに重くて厚い話を書いて……次どうするんだよ!!!

     え、ここから入れる保険があるんですか???
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    Replies from the creator

    hiko_kougyoku

    DONE若やまささ+千日、逆骨
    「世のため人のため飯のため」④
    ※やまささと言い張る。
    ※捏造あり。かなり自由に書きました。
    ※名前付きのモブあり。
    世のため人のため飯のため④  4

     逆骨の霊圧を辿ろうと意識を集中させるも、それらしき気配を捕まえることは叶わなかった。そういう時に考えられるのは、何らかの理由で相手が戦闘不能になった場合――そこには死亡も含まれる――だが、老齢とはいえ、隊長格である逆骨が一般人相手に敗北するなどまずあり得ない。となると、残るは本人が意識的に霊圧を抑えている可能性か……。何故わざわざ自分を見つけにくくするようなことを、と懐疑半分、不満半分のぼやきを内心で吐きながら、長次郎は屋敷をあてもなく進む。
     なるべく使用人の目に触れないよう、人が少なそうな箇所を選んで探索するも、いかんせん数が多いのか、何度か使用人たちと鉢合わせるはめになってしまった。そのたびに長次郎は心臓を縮ませながらも人の良い笑みを浮かべ、「清顕殿を探しております」とその場しのぎの口上でやり過ごしているうちに元いた部屋から離れてゆき、広大な庭が目の前に現れた。どうやら表である門の方ではなく、敷地の裏手へと出たようだ。
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