一つだけ本当■Scapegoat#1〜#2前提の話をしています
「お前……一体どういうつもりで会いに来ていたんだ?」
「あれ、話したことなかったかな。キミの時間をほんの少しだけもらうために顔を出してたんだ。ボクがいなくなった世界も見ておきたかったしね」
「それは聞いた。ボクが言っているのはそうじゃない。もっと解りやすく言ってやろう、お前はこのボクを揶揄い嘲るためにわざと無知な振りをしていたのか?」
「……エックスさま、ボクが何を言ったって信じないだろ?」
「信じる信じないの話じゃない。質問に答えろ」
「本当に聞きたい?」
「答えろ。早く」
「……いいよ。全部話そう。ボクはキミを騙していた。記憶がないふりをすれば検査も記憶消去も受けずにユグドラシルから出られる可能性が高かったからだ。何の能力もないように振舞えば捕まえて研究する価値さえないと判断されると思ったからだ。事実キミはボクを黙認して、出入り自由に放っておいてくれた。おまけにファントム以外の子どもたちに会わせてくれた。あの頃もうシエルはネオ・アルカディアを出て行ってしまっていたけれど、他の研究者達や技術者達は相変わらずろくでもない研究をやってばかりで前を向こうとすらしないことはよく解った。それからエックスさまの庇護の下、理想郷が繁栄の只中にあることも身に沁みて感じた。どれもエックスを名乗ればできなかったことだ。正しく言えば、キミを通してボクが現実を見るための時間をもらうために隠し通したんだよ」
「そんなことのためにか。ボクが使えないと判断したらその場で消されるかもしれなかったんだぞ。話してくれれば少しは融通を図ってやれたんだけどな」
「あの頃はそんな余裕なかっただろう? 第一エックスが二人いるわけにはいかないんだ。そして常に変わりなくただ一人でなければならない。ボクの失踪すら隠蔽していたんだよ? 入れ替わっただなんて、スクラップにされても公表できるわけがない。それにね、当初はボク自身の記憶として思い出したわけじゃないんだ。……キミを見た瞬間にボクはボクの名前を思い出した。それまで記憶領域の中はごちゃ混ぜになっていたし、事実を想起することはできても自己認識の修復が不十分だった。会いに来てくれたのがキミじゃなければその状態で固着してしまって、本当にただのサイバーエルフのままだったかもしれない。そういう意味でもキミには感謝しているんだ」
「別に、大したことはしていない。それからお前がボク以上に勝手な奴だったってことは十分理解したよ。勝手な奴で良かった。これからも心置きなく恨んでいられるからね」