黒龍 飲み歩いてふらっと立ち寄った屋台、おすすめはうーろんですと言われてどんな食いもんか想像つかず固まってるとティーチがそれを2つと頼んでしまった。
「ティーチ知ってんのかうーろん」
「らーめんみてえなもんです」
「へえ、うーろん」
「どっかの国でバカ野郎って意味だなぁ。サッチから聞いたんだが、その国じゃこの文字のこっちはカラス、こっちは龍って意味でして」
「カラスと龍でバカか」
「ゼハハハハ、海賊らしくバカの食いもん食いましょうぜ」
赤字ででかでかと「烏龍麺」と書かれたメニュー板を眺めてると横から他の客が割り込んできたからティーチに連れられのれんの外に出た。
屋台脇にある3つの長テーブルとベンチには人がごった返していて、立ちながら食うやつもいればせまいベンチに身を寄せ合い汗だくになりながら湯に入った麺をすするやつ、酒瓶入れをひっくり返してそこに座り食い終わったどんぶりとサイコロで賭け事をしてるやつ、とにかく脂の乗った汗くさい男どもがひしめいてる。
もうすぐ夜が明けるってのにこんだけ繁盛してるならうーろんはおいしい、冷たくてかたい石のベンチも目の前で麺と鼻水を頬張る男から汁が飛んできても楽しみで全然気にならなかった。
「烏龍っていえば、竜爪拳って知ってますかね隊長。指で子突くだけで岩砕くっていう拳法」
「ほぇー知らねえ。突き技か」
「握力だか突きだか知らねえが、とにかく触れるものはみんな砕いちまうとか。隊長、砕かれねえように気ぃつけろよ」
「ロギアも砕かれんの」
「竜なら炎くらい飲み込んじまいそうじゃないですか」
「喰われたら内側からウェルダンに焼いてやるよ、そんな能力者がほんとにいるならな」
「隊長ぉ武術なんで能力者じゃねえ。革命軍のトップの連中が使えるって噂が」
はいおまちどぉ~と、うーろんなるものが運ばれてきた。
確かにらーめんみたいだけど脂が浮いてない、甘くて優しいにおいがする、あったかい。
ティーチから箸を受け取って、目の前やティーチと逆隣の客が食べてるみたいにすすって食べた多分おいしい。
能力者じゃない…ふつうの人間が指で岩砕くとかありえねえだろゴリラか、あれ、前にもゴリラの話聞いた気が…そうだ本、サボが読み聞かせてくれてた本をズタズタにしたゴリラ、そいつも能力者じゃないって。
てことはゴリラは竜でかくめーぐんか、見つかんねえわけだ風呂でオヤジがなんか言ってた気がすっけどなんだよかくめーぐんって、うーろんだのかくめーだの言葉が忙しい気に食わない、ゴリラに革命なんかできるわけねえもんしかしやわらかい、麺があったかくてやわらかい、あったかくてやわらかいってなにがどうなってうまいって感じるんだろう、ケツは冷え切ってんのに腹の中まであったかい。
「隊長頭落ちてきてますぜ」
「んぅ、ああ悪ぃ、また寝ちまう」
「まあどいつが相手でも好き勝手突っ走ってってくれよ隊長」
「どこにでも行ってとっとと死んじまえってことかよ」
「ゼハハハァ家族にそんなこと言わねえ、隊長がどこ行ってもついていきますよってことだ」
ぼんっ!っと全身が燃えてわりばしが焦げた。
すぐに抑えたけど石でできたテーブルとベンチが一気に高温になり、座ってた他の客が全員飛び上がって席から走り去ってくのをティーチは豪快に笑い飛ばした。
「気が利くじゃねえか隊長~!あったけえ~助かるぜぇ、石のベンチはタマが冷えていけねえなあゼハハハハァ」
まだ顔が熱くてうつむくとでっかい手で頭をガシガシ撫でられて歯を食いしばった。
ごめんなさいとあったかいとおいしいが掻き混ざってなんて言ったらいいかわからない、胸がじくじくする、でっかい手、家族?おれが?おまえそんなこと言っていいのかおれに、お、オヤジの子ってのもまだ胸張って言えねえのにどどどどうしよう彫るか?ふくらはぎに名前彫るか?
鼻をすすって目頭を拭いとなりを見るとティーチがいなくて暗闇だった、手と唇が戦慄きジジイの遠ざかる背中がフラッシュバックした、いない、誰もいないおれのそばにはずっとがない。
ぼろっと涙があふれてバカの食いもんに顔突っ込んだ。
全く本当にバカだ、汁に麺と練り物が浮いたもんでこんなおいしい、顔以外夜闇に沈んでるってのに口の中だけあったかい、おいしい、やわらかい、余計寒く暗く感じるからふつうくらいがいいのになんだってこうやわやわふにふにあったかいんだ、あったかい、恋しい、やわらかい。
一気に汁まで飲み干し体からちょっとずつ力が抜けてどんぶりにすっかり顔面がくっつくと、頭があったかくなりティーチの声が聞こえた。
「せっかく箸持ってきたのに顔突っ込んで食ってらあ」
目を開けてられなくなったおれをしょうがねえなあゼハハ~と笑いながら背負いのっそのっそと歩き出す。
少し眠って目を開けるともしゃもしゃの暗闇だった、潮くさいにおい、オヤジの家族のにおい、髪の隙間から弱い光が射していてきっと夜は明けたけど、開けても閉じても闇の中なら恥ずかしくないと思ってあったかくてちょっとくさい背中にしがみついていた。