はじめまして ぎゃあああとまるで肉親が死んだかのように絶叫しながら洗剤と漂白剤を飲もうとするサボにげんこつ入れるとエースが起きた。
起きたけど、また目を閉じて寝てしまった。
今サボが暴れてんのも、エースが現実逃避してるのも全部おれがサボの親を殺しちまったせいなんだけど…殺すつもりなかったのに昔のこと思い出したばっかで動転してた。
サボが暇つぶしに「こいつらエースみたいに花咲いてないね」って言いながら内臓引きずり出して花植えてるところにエースがきちまって。
うでを伸ばそうとして伸びなくて、ビニールテープでぐるぐる巻きにして転がしてもサボはぎゃんぎゃん泣きやまない。
「も"うお"うち帰るぅぅ!!」
「なあサボ聞いてくれって~!おれら別にサボのこと拉致ったわけじゃ」
「殺人犯だろ、ひ、ひでえ!おれがなにしたってんだよお!パパああ」
「パパの顔剥いで遊んでたのサボだろぉ、うう~二日酔いですっげえ頭に響いちまうからでっけえ声は…」
「うわ"あ"あああん!!」
窓ガラスがブチ割れそうな声…もう割れてるけど。
サボだけずっと覚えてたのになんで忘れてんだろう。
「なあサボ、おれの名前わかるか?」
「知らねえけどどうせ赤髪荘の誰かだろ、それしかねえよこんな頭おかしいことすんの…」
「おれルフィ!兄弟だぞよろしくな!」
「よろしくされたかねえんだよおお」
えぐえぐ泣きながらおれから距離とろうとするサボ。
どうすっかなあ、これおれのせいなんだけどどうしようかなんも浮かばねえ、だってここをサボの私有地にして閉鎖して、サボのマンションに越さなきゃならねえのにサボが全部忘れてんじゃあ…
しかたないからサボのポケットをまさぐってスマホをとりあげ、010156と入力してロックを解除した。
「サボの持ってるマンションって鍵オートか?」
「ひぃいっう、う、行ったって金目のもんなんもねえよ」
「金はいらねえんだなあ」
WealthParkを開いて物件情報を漁ると山に近いとこに場違いなマンションがあり、最上のかどっこが空室だった。
おれらを住まわせるって言ってたのはここか?写真見る感じだいぶ広いし、3人それぞれ部屋があたる…地下の階層全部コンピューターと冷却装置なのを除けばふつうに金持ちの避暑地って感じのすてきなマンションだ。
おれはサボを担いで窓から出る。
うしろでエースのあくびする声が聞こえた。
サボのポケットから車の鍵を出してすすり泣くサボを後部座席に詰め込むとエースが玄関から出てきた。
駆け寄って抱きついてキスすると真っ赤な目でゲップした。
「ひゃひゃひゃっ酒くせ~!」
「なんで生きてんだろな」
「おれら全員強えからな!にしぃ~」
「死んじまったほうがいいこんなの…」
「かわいそうになエース、いつもなんにも思い通りになんなくて」
ニカっ!と笑ってふらふらしてるエースの手を引いて助手席に乗せ、座席をフラットに倒しシートベルトをつける。
サボがべりべりガムテープみたいにビニールテープを破いてドアを開けようとしたところで鍵を閉め急発進した。
「っぶねえな!おいおまえ免許は?」
「持ってねえよ、サボと同じだ!」
「はあ?!」
「これから弟ともどもよろしくな、サボ」
「ごめん誰」
「おいおいホラ吹きてめえおれが死なないように毎日最低563回すきって言うって盃交わしたろうが忘れたのか!!」
「知らねー怒ってんじゃねえようわああん!!」
嘘でもないしほんとでもないエースの解釈にこっちがびびる、いいのかそれで…いいか、おれが言うわけじゃないし。
はじめて運転したし車のことはよく知らないけど、めちゃめちゃ低いし足元がびかびか光るしビームみたいな光線もでて300キロだして平気な車は多分持ってちゃいけない。
音楽を鳴らすとものすごい低音がきいてて車内が音に合わせてライトアップされる、マフラーもばっこばこ鳴るしすっげえチャラい、田舎のヤンキーの教科書みてえな改造だ。
「引きこもりなのになんでこんな魔改造ばっかしてんだ?」
「暇すぎて…プラモ作るのもなんか飽きちまって」
「これ自作かよやべ~、どっちが犯罪者だよ」
「ルフィだろ」
エースが自分の首元をがりがり引っかくから腕を伸ばして、伸ばせなくて、手をさまよわせた後おなかをさすった。
「何」
「はじめての運転だからよ、手握っててほしいんだ。両手で。あとでちゅーしてやっからさあ」
そういうとサボのスマホを放り投げ、ぎっちぎちに握っていっぱいキスしたり軽くかじったりなめたりしてきた。
後ろからはめそめそパパママ~と泣くサボの声が聞こえる。
幼稚園の引率の先生ってこんな気持ちかもしれねえ。
全員ゲロまみれ血まみれでひどい臭いだけどスモークフィルムが貼った窓は開けられない。
こんなことは何年続くかわからない、みつかったら終わり、それでもおとなになったエースとサボと過ごせると思うと楽しくなってアクセルを強く踏んだ。