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    かみすき

    @kamisuki0_0

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    かみすき

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    文字を書く癖をつけたくてちまちま書いたもののまとめその3です
    シリーズ最終回

    ##お料理

    蛍ちゃんとお料理 Day21 to 31Day21 松茸のアワビもどき

    献立に迷った蛍が希望を聞いたっていつもおいしいもの! としか答えないパイモンが、珍しく松茸のアワビもどきを食べたがっている。久々のリクエストとくれば蛍も腕が鳴るというもの。

    お気に入りはニンジンとお肉のハニーソテーだと思っていたけど、今日はこっちの気分なのね。
    どうせなら採れたての松茸で作ろう、と意気揚々と野外に探しに来たのはいいものの、そんなときに限ってなかなか見つからない。集まったのは不吉な仮面や歴戦の矢先ばかり。辺り一帯の安全が確保されて終わった。

    「ヒルチャールたちを倒せたのはいいことかもしれないけど、ちょっとショックだぞ……」
    「まあまあ、在庫がないわけじゃないから」
    「採れたてのいい香り! はないんだよな……」

    買おうか? と聞いても、だいじょぶだ……としょもしょも返される。やけに落ち込む様子を見ていると、ちょっと申し訳なくなっちゃうな。気休めになるかはわからないけど、とにかくいっぱい作るからね。

    洞天に戻ってからも食卓にへな、と寝そべって落ち込むパイモンにうさぎ型に切ったリンゴを差し出して。
    備蓄しておいた松茸を薄く切って、じっくり火を通す。
    一気に加熱してしまえばせっかくの香りが飛んでしまうし、しっかり火を通さなければアワビのような柔らかさが出ない。ここが腕の見せ所なのだが、言笑に食べさせてもらった料理には未だに勝てない。もっと磨かなくては。
    伏せたままいつの間にか眠っていたパイモンは、鼻をすんすん動かしてはいい匂いだな、と寝言をぼそり。あ、今度は口がもぐもぐ動いてる。おいしい?

    鍋でソースを煮詰めれば、匂いにつられて夢からお目覚めだ。

    「はっ! オイラ寝てたぞ」
    「おはよう。よだれ拭いてね」
    「待て、も、もしかして、もう一回食べられるのか!?」

    夢の中でたくさん食べて、起きてからもたくさん食べて、それは幸せだね。元気になったようで何より。
    焦げ茶に色づいた松茸をソースと絡めて盛り付ける。はい、パイモンより大きなお皿を引っ張り出してきたから好きなだけ食べてね。
    いただきます! と張り切って頬張ったパイモンはくふくふと笑う。本当においしそうに食べるね。

    「オイラのことばっかり見るなよ! 食べづらいぞ!」
    「ごめんごめん、つい」
    「なんだ? そんなにオイラが可愛いか?」
    「うん、そうだね」
    「ええっ、いざそう言われると照れるな」




    Day22 ナツメヤシキャンディ

    頭を使うと甘いものが食べたくなる。動いたあとだって甘いものが食べたくなる。だからギミックを解いちゃったりなんかしたらもう、たまらない。
    だから、そんなときにさっと軽くつまめるものが冒険には欠かせない。けれど息抜きにもちょうどよくて、パイモンとふたりついパクパクと食べてしまうから鞄の中は空っぽだった。補充しなければ。

    「次のおやつは何を作るんだ?」
    「ナツメヤシキャンディだよ」
    「おお! オイラも食べてみたかったんだ!」
    「私も本物を食べたことがあるわけじゃないから、なんちゃってだけどね」

    砂糖水とバターを煮詰めてシロップを作ったら、そこにデーツやらなにやらを混ぜて固めるだけ。何を入れてもいいよ、と教えてもらったけど、さてどうしようか。

    「スメールローズは定番みたいだね」
    「夕暮れの実はどうだ?」
    「オーブンで焼いてドライフルーツにしたらいいかも」
    「いいな! ザイトゥン桃もやろうぜ!」

    じゃあまずはドライフルーツから。夕暮れの実とザイトゥン桃を薄くスライスして、ほんのり砂糖をまぶす。ドライフルーツはそのまま食べてもおいしいし、いっぱい作ってしまおうか。天板に並べて、ごく低温のオーブンでじっくり水分を飛ばす。
    結構時間がかかるから、たくさん切ってそのまま余ったフルーツを食べながらのんびりタイム。紅茶でも入れる?

    「おっきな型でいっぱい作ろうな」
    「フルーツ入りはあんまり持たないからたくさんは作れないよ」
    「だめになる前にオイラが全部食べるぞ」
    「お砂糖多いからだめ」
    「ちぇー。けちー」

    茶葉とぐらぐらに沸いたお湯とをポットに入れる。だんだんと香りが立ってくるのをしわしわになっていくフルーツを眺めながら楽しんで、しっかり蒸らしたらカップに注ぎ入れる。はい、パイモンの分はお砂糖入り。みずみずしいフルーツと紅茶の相性はばっちりだね。
    ところで。

    「フルーツも甘いのに紅茶も甘くて、くどくないの?」
    「全然! おいしいぞ」
    「ええ……パイモンがいいならいいけどさ」
    「お前も飲んでみるか?」

    うーん。試してはみたけれど、そうだね、これは今回きりで。

    オーブンのフルーツを裏返して、さらに乾燥させる。そろそろシロップを煮詰めはじめてもいいかな。甘ったるい匂いが空間に広がって、さっきの甘い味が蘇る。やっぱり甘すぎるよ。
    出来上がったドライフルーツを小さくちぎって、シロップと合わせたら型に流し入れる。固まったら一口大にカットしようね。
    え、つまみ食い? まだ甘いもの食べるの……?




    Day23 冒険者エッグバーガー

    「お、おい! オイラあれが食べたい!」

    パイモンが指差す先を見れば、バルコニーで食事をしている人たち。モンドの街は柔らかな風が流れているから、よく晴れた日に外で食べるご飯はとってもおいしい。
    邪魔になるから、と咎めるより早く、食事をしていた人たちが声をかけてくれた。
    それに甘えてお皿を覗けば、パンの上にハムとぷるふわの卵、とろりとしたソースがかかっている。朝食の定番、冒険者エッグバーガー。おいしそう! これはパイモンが食べたいと騒ぐのも納得だ。蛍の周りをくるくる飛んではなあなあ、とアピールするパイモンは、すっかりその気だろう。
    レシピまで教えてくれた彼らに礼を伝えて、さっそく買い出しに向かう。レモン汁とお酢を手に入れないと。ソースはマヨネーズでもいいが、丁寧に作ればよりおいしいのだとか。

    「複雑そうなレシピだな」
    「うん。教えてくれた人、料理上手だって噂だよね。あの人みたいにうまく出来るかな」
    「お前なら大丈夫だ!」

    卵を茹でて、パンを焼く間にソースを作る。作業自体は簡単そうだけど。邸宅は模様替えして、厨房を広くしたばかり。手の込んだ料理も作りやすくなったはずだから、やってみよう。何事も挑戦だ。
    まずは卵から。沸騰したお湯に酢を加えて、ぐるぐるとかき回して渦を作る。その真ん中にそっと割った卵を落として……。

    「おお! 白身に包まれたぞ!」
    「このまま固まるまで2分くらい茹でるよ」
    「おもしろいな〜。あと何個やるんだ?」
    「何個食べるの?」
    「3個!」

    じゃあその分作らなくちゃね。出来上がったら冷水にとって、次を茹でる。くるっと丸くなるたびにパイモンの歓声が上がるから、楽しくなってどんどん作っちゃうね。1個余計にできちゃったよ。
    あとはハムとパンを焼きながら、卵黄とレモン汁をひたすらかき混ぜる。これを温めながらとろみをつけるのが本来の作り方らしいけど、とっても難しいからマヨネーズを使ってかたさを調節。乳化したらバターと合わせてソースは完成!
    カリッと焼いたパンにハムと卵をのせて、ソースはお好みでたくさんかけてね。

    「お待たせ。どうぞ召し上がれ」
    「待ってたぞ! いただきます!」
    「わ、卵いい感じ」
    「割った瞬間黄身がとろーっと、最高だな!」

    パンにソースや卵を絡めてぱくり。こんな優雅な朝食なんてさぞ幸せだろう。今はすっかりお昼だけど、今度時間のある朝に作って、卵が丸くなるところを一緒に見守ろうね。




    Day24 お好み焼き

    ざくざく、無心でキャベツを千切りにする。まな板の上にふかふかのキャベツが広がったら、ボウルに小麦粉とお水。卵を割り入れて、パイモンが下ろしてくれた長芋としっかり混ぜ合わせる。
    そこに大量のキャベツも入れたら、こぼさないようにゆっくり混ぜて。もうひとつ大きなボウルにした方がよかったかなと、む、と真剣な顔で生地を作るパイモンを見て思う。

    借りてきた大きな鉄板を熱して、そこにできあがった生地をまあるく広げて、揚げ玉とお肉をのせる。片面が焼けるまでじっと待ったら。

    「今日こそは綺麗にひっくり返してやるからな!」
    「一気に返すんだよ」
    「おう!」

    ヘラを構えてお好み焼きを睨むパイモンは、これまで何度か失敗していた。悔しい! と訴えるのに付き合いお好み焼きを食べ続けて一週間。またパイモンの挑戦の時間がやってきた。今日こそは、と大量に生地を作ったから、あと4枚は焼けるだろう。

    ヘラが生地の下に差し入れられる。焼き加減はいい感じ。あとは割れる前に、ひと思いにひっくり返すだけ。はじめは蛍も一緒にハラハラしながら見守っていたけれど、もうちょっと飽きてきた。パイモンの謎の情熱は大切にしたいけれど、そろそろ違うメニューが食べたいな、と思うのはここだけの秘密だ。

    「いくぞ! っほわあ! ……あれ」
    「生地はまだまだあるよ」
    「なんでだよ〜!」

    端の方から崩れて丸まってしまった。難しいね。蛍が形を整える間にも、次の生地を広げる。え、これまだ焼き終わってないのに?
    ふんす、と鼻息を荒くしてお好み焼きに対峙してはしょも……と落ち込んで、また次に挑む。崩れたものを引き継いで完成させる蛍には目もくれず、本人なりに真剣に向き合っていた。

    「こ、これで最後だぞ……」
    「ちょっとずつ上手になってるから、自信持って」
    「あばば手が震えてきた」

    そもそもパイモンの小さな手ではその大きさを返すのは難しいと思うんだけど、と言ったのはだっていっぱい食べたいだろ! と一蹴されてしまった。
    大きいのを食べるロマンがあるんだよ! と最後の一枚に取りかかる。
    ソースを塗る手を止めて見守るが、タイミングをはかってはふう、と力を抜いてなかなか進まない。もう、明日も付き合うから。
    やっと返したお好み焼きは、ぼて、と今度こそ綺麗に着地した。

    「お、おいおい蛍! 見てくれ!」
    「見てたよ。おめでとうパイモン」
    「できた! めちゃくちゃ綺麗じゃないか!?」

    いい焼き色で、見事な円形。これは大成功だね。うひゃ〜と持ったままのヘラをぶんぶん振るものだから、くっついていたキャベツの欠片が飛び散ってるよ。
    これはオイラの分〜とうきうきでソースを広げる相棒を見ながら、欠片を拾い集めるのだった。




    Day25 香味ミートロール

    「な、なんだこれ……?」

    砂漠地域を探索しているとき、見知らぬ生物を見つけた。大きなコブラのような何か。蛍の姿を認めるとしゅるしゅると近づいてくるものだから、反射的に剣を払ってしまったのだけれど。
    その生物はピンクというか紫というか、何とも不思議な色の肉を落とした。
    ええ? これ大丈夫なやつ……? パイモンとふたり立ち尽くしていれば、また別のところから生物が現れる。やっぱり飛びかかってくるからさっと斬れば、同じように謎の肉を落としていく。

    「とりあえず拾っとくか?」
    「これを? ……うん、まあ持って帰ってみようか」

    幸いシティに戻れば学者は大量にいる。誰か詳しい人がいるだろうし、だめなら研究の素材として提供すればいい。
    素手で触れていいものかはわからないけれど。

    そうして紙に包んで持ち帰った謎の肉の答えは、あっさり見つかった。見つかったと言っていいのかはわからないが。

    「それは謎の肉だな」

    そのまんま、謎の肉。それでいいのか。
    こんな見た目で、しかも詳しいことはわかっていない肉ながらも、食べられるものらしいとランバドが教えてくれた。

    「なかなか入らないんでメニューにはないが、それを預けてくれれば今作ってやるぞ」
    「うまいのか!? 食べる食べる!」

    こら。すぐ食べ物に釣られるんだから。
    でもまあ、蛍もちょっとだけ興味がある。肉を渡せば、すぐに調理を始めてくれた。
    謎の肉をミートミンサーに通して、玉ねぎと炒める。うん、香りは普通の肉だな。砕いた小麦で作った皮で包んで揚げれば、ころりとした香味ミートロールの完成だ。

    パリッとした皮を割れば、綺麗な断面が現れる。おいしそう!

    「いただきます」
    「わあ、これがあの謎の肉なのか? うまいな!」
    「うん、確かに。おいしいお肉だ」

    あの刺激的な色からは想像できないほどの上品な味。これはクセになるかもしれない。作り方も難しくはなさそうだし、また手に入ったら作ってみよう。

    「それにしても、お前ってなんでも作れるんだな」
    「そりゃ俺の手にかかれば朝飯前よ!」

    ハハハ、と豪快に笑ったランバドは、頼んでいないランバドフィッシュロールを差し出してきた。なんだか上機嫌に、これくらいならまだ食べられるだろ! とパイモンに勧める。遠慮するフリをしていたパイモンも、香りに惹かれて結局飛びついた。
    うーん、予算オーバーだ。しばらく外食は控えようね。




    Day26 うどん

    生麺の香りや品質を維持したまま保存する技術の研究をしているから、ぜひ味の感想を聞かせてくれとうどん麺を貰った。
    うどんを食べるにはお店に行くか自分で粉から仕込むしか方法がなくてハードルが高いのだけれど、その技術とやらが完成したらもっと簡単に食べられるようになるかも。
    でもそうして貰った麺も結局それほど長くは持たないようだから、早いうちに食べないと。長持ちさせることも、今後の研究の課題なんだとか。

    うどんにはおいしいおあげとつゆが必要だろう。
    沸かしたお湯で油揚げを軽く茹でてからしっかり水分を絞る。鰹節を煮出した出汁に砂糖と醤油を加えて、油を抜いたおあげをふっくら炊き上げる。ほんのり甘い匂いが広がって、うちの食いしん坊がつられてやってきた。

    「今日は何を作ってるんだ?」
    「うどんに乗せるおあげだよ」
    「ふんふん……この枚数あるなら、つまみ食いしても大丈夫だな!」
    「こら」

    しかし、いつからパイモンのつまみ食いを見越して多めに作るようになったんだったか。一応、形だけ、注意はするようにはしているんだけど、結局おいしそうにものを食べる表情には勝てなくて。
    落し蓋をちら、と持ち上げては様子を伺うパイモンは、ばっちり小皿を持っている。おあげは一旦冷めてからの方がおいしいよ。

    「オイラ、ねぎものせたいぞ」
    「うん、あとはわかめと、かまぼこもあるよ」
    「おお! かまぼこはあのねじねじか?」
    「飾り切りのこと? うどん用に薄めに切っちゃったな……やってみるけど」

    鍋の前でうずうずしているパイモンに、その端のおあげ食べてもいいよと声をかければ、わはあ! と取り出して頬張る。

    「味染みてる? どう?」
    「はふ、んまいぞ!」

    じゃあ、あとは火から下ろして冷ますだけ。おあげをたくさん作っておけば、いつでもあの甘い幸せの味が楽しめる。

    「おあげを作ったなら、神子も呼ぶのか?」
    「え! そうだったね……」
    「まさか、用意してないのか? あいつ拗ねるぞ!」
    「すっかり忘れてた! どうしよう、うどん2玉しかないし」
    「お前が食べるの我慢するか?」

    いや食べたいよ。
    今から追加で麺を打つには時間がかかりすぎる。3人でちょっとずつ分けてトッピングを増やしたらいいかな。
    あっこら、足りないって話してるのにつまみ食いしない!




    Day27 かにみそ豆腐

    今日は贅沢がしたい。疲れているのに頑張った自分を労りたい。これからを乗り切る元気が欲しい。
    蛍が知っている贅沢といえば、高級食材を食べること。高級食材といえば、カニ!

    まあそのカニも自分で捕まえてきたものだから、高級食材として扱っていいのかはわからないけど。

    かにみそを取り出し、炒めてじゅわりと滲んだ油と、豆腐を合わせるだけ。シンプルで簡単に作れるけれど、とってもおいしくて大好きなメニューだ。余った身はほぐしてカニ炒飯にでもしよう。いいね、贅沢メニューだ。

    「おっ、カニか!? オイラカニしゃぶが食べたい!」
    「カニしゃぶ! もう加熱してあるし、そもそもこんな小さいカニじゃ難しいな」
    「あとは〜カニパスタと、カニクリームコロッケと、カニ雑炊と〜」
    「多いね」
    「いややっぱりカニしゃぶは外せないよな」
    「聞いてる?」

    次々と挙げられるカニ料理。蛍もなんだかその気分にさせられてしまう。カニしゃぶ。食べたいけれど、お店に売っている立派なものじゃないとちょっと厳しいな。
    パイモンはすっかりそのつもりでいるみたいだけど、今日の蛍にはもう買い物に行く気力がない。どうしても、というなら、パイモンに行ってもらうしかないのだけど、ひとりで買い物に行くのは寂しいから嫌だ! といつも拒まれてしまうのだ。どうしたものか。
    浮かれたパイモンにそう伝えると、珍しいことを言い出した。

    「オイラ、買いに行くぞ!」
    「え!? どうしたの突然」
    「だってカニしゃぶ食べたいだろ」

    食べ物ってすごい。雑貨のおつかいには絶対に行ってくれないのに。
    パイモンがその気のうちにモラを預けて見送る。ぱた、と閉まった扉に、蛍の方が少しだけ寂しい気持ちになった。
    よし、頑張ってくれているパイモンのためにも、おいしいものを作らなくちゃ。
    カニの甲羅を剥がして、味噌を集める。これはあとで豆腐と一緒に。残った身を取り出して、カニパスタの分、クリームコロッケはあとで仕込んで明日作る、あとはカニ雑炊。それで全部だったっけ。
    こっちのフライパンではかにみそを炒めて、こっちではにんにくと玉ねぎ、カニのほぐし身。冷やご飯と出汁は鍋に入れておいて、すぐ作れるように。ああ、パスタも茹でないと。他にもいろいろあるから、麺は1人分を分けて食べようね。

    わたわた準備をしていれば、扉が開く音と、いい匂いだな! なんて声。
    おかえり。そのカニを準備したら、もうすぐ食べられるよ。




    Day28 サモサ

    夕ご飯の献立を決めたのはいいけど、これじゃちょっと足りないな。ぺらぺら、集めたレシピを眺めていれば、まだ作ったことがないものが出てきた。

    サモサ。薄い皮に餡を詰めて揚げたもの。一般的なのは肉餡も野菜餡。
    どっちもおいしそうだな。
    きっとパイモンはどちらも食べると言うだろうし、蛍も練習もかねて両方作ってみたい。

    ところで、この三角形の形はどうやって作るんだろうか。添えられたイラストは綺麗な三角錐をしている。
    これは包み方にコツが要りそうだな。

    小麦粉と塩、ほんのりの香辛料を混ぜて、少しずつ水を加えながらこねる。ちょっとかたいかなと思うくらいの固さまで。ちょっとかたいかなってどれくらいだ。
    こねた生地を丸めて少し休ませる間に、餡を作る。玉ねぎやじゃがいもを炒めたものと、ひき肉を炒めたもの。お肉大好きな誰かさんのために、ちょっとだけ多めに作っておこうね。
    香辛料の香りが立ってくれば、その誰かさんもひょっこり現れる。

    「今日はなんだ?」
    「サモサ、ってやつを作ってみようと思って」
    「お肉だ!」
    「パイモンも一緒に包んでみる?」

    小さい体をめいっぱい使って、寝かせた生地を薄く伸ばす。
    どれくらい薄く? もうちょっと。
    あ、ここが分厚いよ。 ええ〜いいだろ別に。

    広げたら、端に水をつけてくるりと巻く。漏斗みたいに円錐にするんだよ。できた?

    「できないぞ! どうやってやるんだよ!?」

    こう。違う違う、こう。蛍も説明がうまいわけじゃないから、どうもふわふわした教え方になってしまう。
    やっと小さな器ができたところに肉餡を詰める。蛍は野菜餡を。
    そうして、口を閉じたら半分に畳んで合わせる。……半分に畳む? 手順のイラストを見てもいまいちピンとこない。パイモンとふたりでうんうん唸りながら、どうにかそれらしく口を閉じた。フォークの先を押し当ててしっかりくっつけたら、あとは油で揚げるだけ。
    以前揚げ物をしていたときに脚にはねた油が相当トラウマなのか、油でいっぱいの鍋を見た途端に光の速さで壁際まで後ずさるパイモン。
    いつもなら蛍がくすくす笑うと怒るのに、とっても小さい声でなんだよ、と睨むだけ。なんでそんなに静かなのかはわからないけど、小さい声でも跳ねるときは跳ねるよ。

    温まった油にサモサを落として転がしながらゆっくり揚げれば、どんどん膨らみ始める。

    「見てパイモン、膨らんできたよ」
    「み、見たいんだけど、ちょっとな」

    蛍の後ろに隠れてどうにか首を伸ばそうとするパイモンだけど、やっぱり出来上がってから見る! とまた壁際まで戻ってしまった。
    今日のはそんなに跳ねないのに。




    Day29 夕暮れの鯛焼き

    「なあ蛍、なんだかいい匂いがしないか?」
    「うーん……どんな匂い?」
    「甘い匂い! ん〜こっちだ!」

    ずんずんと進んでいくパイモンを追いかければ、小さな屋台にたどり着いた。確かに、甘い匂いがしている。パイモン、鼻がいいね。

    「きやいた……? 何の店だ?」
    「たいやき、だよ。昔は右から左に読んでたから、その名残りって言われてるけど」
    「反対から読むのか! 新しい食べ物かと思ったぞ」

    魚型の鉄板をひっくり返したおじちゃんが、屋台の中から手招きする。ふわふわと吸い込まれていくパイモンに、鯛焼きの作り方を教えてくれた。
    型に生地を少しだけ流して、たっぷり餡を乗せる。もう一回生地を被せたら、型を閉じて火にかける。
    ここでさっき裏返していた鉄板を下ろして、ぱかり。

    「わっは〜! うまそうだな!」
    「食うか?」
    「ほたるほたる!」
    「はいはい。ふたつください」

    あつあつの鯛焼きを齧れば、夕暮れの実で作ったあんこがとろりと溢れる。あぶないあぶない。優しい甘さと、ほんのりと酸味が通り抜ける。おいしい。

    「パイモンは頭から食べるんだね」
    「お前は? おい、お腹から食べるのか?」
    「あんこたっぷりでおいしいよ」

    通りすがりの子どもは、自分はしっぽから食べるのだと教えてくれた。屋台のおじちゃんは一口でまるごと。それ火傷しない?

    おいしそうに頬張るパイモンが羨ましくなったのか、いつの間にか屋台にずらりと行列ができていた。
    わかるよ。パイモンの食べる姿はみんなを幸せにする。

    「なあなあ、オイラもう一個食べたい!」
    「夕飯食べられなくなっちゃうよ」
    「オイラが食べられなかったことあるか?」
    「ないね」

    ないけど、それはそんなに誇ることなのだろうか。
    まあ仕方ない、ゆっくり列に並ぶとしよう。行列の先で、くるくると魚型がひっくり返される。まるで泳いでいるよう。
    次々飛び出てくるたくさんの鯛焼きに、またうきうきした気持ちが湧き上がる。一度食べたのに、やっぱり甘いものはずるいな。
    あの鉄板を買ったら、蛍も鯛焼きを作れるようになるだろうか。そうしたらいつでも、このわくわくを体験できる。
    でもパイモンが食べるペースを考えたら、型ひとつでは間に合わないかも。おじちゃんみたいに10個20個必要かな。きっとぺろりと平らげてしまうだろう。
    自分で作るなら、中の餡も変えてみたい。ジャムは合うかな。合うだろうな。甘くない鯛焼き、というのもあるらしい。他には何がいいだろう。
    待ちきれない、とそわそわするパイモンに聞いてみれば、何かいいアイデアがあるかもな。




    Day30 串焼き三種

    今日はバレンタインデー。街に出ればたくさんのチョコが飛び交っていたし、蛍も例に漏れずたくさん受け取った。もちろんその場で返す分は用意していたけど、普段特にお世話になっている友人には別のものを渡すのだ。
    このあとは何人かが洞天まで取りに来ることになっている。さて、そのお返しを準備しなければ。

    チョコレートを用意するんじゃ芸が無いな、と、あえてしょっぱいメニューを渡すことにした。実際甘いものだらけじゃ一度に食べきれないし。

    厨房に向かう蛍から甘いもののおこぼれを狙って着いてきたパイモンは、手の中の食材を見て首を傾げている。

    「肉に卵に小麦粉? 何作るんだよ」
    「串焼きだよ」
    「ええっお菓子じゃないのかよ!?」

    大変ショックを受けたらしいパイモンは、すごすごと帰っていった。あれ、今日はつまみ食いいらないんだ。
    珍しいこともあるもんだ、と獣肉に塩を振る。甘いものが好きなのは知っているけど、そんなに落ち込むほどだったとは。バレンタインだからと期待していたんだろうし、ちょっと申し訳ないことをしたかも。

    しっかり手を洗ってから卵を割って溶きほぐす。卵は甘めに焼くから、許してくれないかな。
    薄く広げた卵をくるくる巻いて、また次を流し入れて。蛍もだいぶ綺麗に焼けるようになったんじゃないか、と自負している。破らずに巻けるようになったし、焼き上がってから形を整えるのもコツを覚えてきた。キッチンペーパーに包んでなじませて、一口大に切る。

    さあ具も揃ったところで串を打とうか、と思えば、そろりとパイモンが現れた。

    「卵焼きの匂いがする」
    「あれ、戻ってきたの」
    「ここにおいしいものがあるって、オイラの鼻が言ってたからな」

    さっきまでのしょんぼりとした様子はもう見られない。結局おいしいものには抗えないのだ。いつものパイモンらしくて安心する。
    卵焼きの端っこの、ちょっとだけ緩いところを渡せば、んまいんまいとにっこり。
    かわいい笑顔を見ながら、食材に串を刺す。甘いもののお供にする用だから、軽く食べられるサイズのものをたくさん。きっとパイモンの小さな口でも食べやすいね。

    お店のような本格的な串焼き器はないから、フライパンで少しずつ焼く。お肉が焼けるいい匂い!
    この串焼きと一緒なら、後ろの棚に積んだチョコレートもあっという間に食べきってしまいそう。
    甘いものとしょっぱいものの組み合わせって、本当にずるいよね。




    Day31 ニンジンとお肉のハニーソテー

    最近は砂漠地域の探索を進めていて走り回ってばかり。今日もあちこちに移動してはパイモンを振り回してしまった。
    だから今日は、へとへとのパイモンへの付き合ってくれてありがとうの気持ちを込めて。

    「もしかして」
    「わかった?」
    「ニンジンとお肉のハニーソテー!」

    材料を見るだけで料理を当ててしまうくらいには大好きなお料理で、元気になってもらおうじゃないか。
    おにくぅおにくぅとうきうきな歌を聞きながら、ニンジンの皮をむく。
    ニンジンがぐらぐらと茹でられるのを見ながらパイモン作曲のかわいい歌を一緒に歌えば、蛍もどんどん楽しくなってきた。

    塩コショウをふった大きな塊肉とニンジンを、オイルを温めたフライパンにどん! ぱちぱちじゅわあという音に、パイモンのテンションも一気に弾ける。油が跳ねるからと離れたところから、拍手が聞こえてきた。こっちもぱちぱち。
    お肉に焼き色がついたら、アルミホイルに包んでオーブンへ。じっくり火を通してやわらかく。
    ニンジンもしっかり焼いたら、フライパンに残った油に赤ワインとバルサミコ酢、そしてたーっぷりのはちみつ!
    この赤ワインは絶対にお料理だけに使うと約束してディルックさんから貰ったもの。私これでもお酒飲めるんだけどな。

    「はちみつ多めでな!」
    「はいはい」
    「もっといこうぜ!」
    「入れ過ぎじゃない?」

    さっと煮詰めたらソースも完成。あとはお肉が焼けるのを待つだけ。ふたりでオーブンの前に座り込んで見守る。といってもアルミホイルに包んであるから、見た目の変化はないけれど。
    厨房に広がる匂いを楽しみながら、ゆっくり紅茶を飲む。

    「なあまだか〜?」
    「あと10分だって」
    「もっと温度上げたら一瞬で焼けるんじゃないか?」

    だめだめ、そんな荒業お料理でやったら。こうして待っている間も楽しいでしょう?
    しょうがない、クッキーを3枚だけ出そう。ご飯の前だからちょっとで我慢すること。

    ピーと焼き終わりの音に、パイモンがクッキーの欠片をぽろぽろ落としながら駆け寄る。ああ、あとで掃除しないと。
    アルミホイルをはがして包丁を入れる。どきどき。

    「おお! 綺麗なピンク色!」
    「いい感じだね」
    「ようし! 早く盛り付けて食べようぜ!」

    大きなお皿を持って目を輝かせる。
    その白いお皿のふちにニンジンを敷いて、切ったお肉をのせる。軽く温め直したソースをとろりとかけたら出来上がり。

    「早く座ろう! 待ちきれないぞ!」
    「フライパンだけ洗わせて」
    「い〜そ〜げ〜!」
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