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    かみすき

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    綾人蛍
    爪を切りそろえる話

    #綾人蛍
    ayatolumi
    ##綾人蛍

    ≪綾人蛍≫獲物を仕留めるための書類の山を片付ける綾人さんの横で、手に入れたばかりの本を開く。ふと一言二言ぽつりと会話をして、また目の前の文字に向き合う。
    綾人さんと一緒に過ごそうと思ったら、これが一番手っ取り早い。綾人さんが忙しくて時間が合わないなら、仕事の時間をそれに当ててしまえばいい。
    もちろん、恋人らしくないとか冷めてるとか言われることもあるけれど。小鳥の鳴き声と、時おり誰かが廊下を歩く音。そして綾人さんが墨を磨る音を聞きながらぱらりと本を捲る。蛍はそんな時間が好きだった。
    暇があればあちこちに足を伸ばしたくなってじっとしていることの方が少ないけれど、ここで穏やかな空気を味わうのもなかなかいい。

    「そうだ。今晩、お時間はありますか」
    「うん、特に予定はないよ」

    仕事が捗っているのかな。こうして夜の約束を取り付けて、さて何をしようかなんて考えながらその時間を待つのも好きだ。
    そうして読み進めた本はもうあと少し。そろそろ事件の犯人が明かされる頃だろうか、とページを捲ったところで、聞き慣れない音が響く。

    ぱちん、ぱちん。
    顔を上げて出処を探れば、手を陽の光にかざして観察する綾人さん。と思えば、再び鋏を手にとってぱちん、と爪を切る。蛍の視線に気づいて、手元を見つめたまま微笑んだ。

    「すみません、うるさかったですね」
    「ううん、大丈夫。お仕事は終わったの?」
    「ひとまずきりの良いところまで。爪の手入れを失念していまして」

    夜に爪を切るのはよくないと言いますから、今のうちに。そう続ける間にも、ぱちんぱちんと音が響く。ちらちら長さを確かめながら、ちり紙の上に欠片を集める。
    すっかり本を閉じてその様子に見入っていれば、小さなやすりが差し出された。

    「仕上げをお願いしても?」
    「私が? どうしたらいいの?」
    「引っかからないように角だけ落としていただければ」

    蛍より長い指を掬う。節に手を添えて、爪先にやすりを押し当てる。ずいぶん深く切ってるけど、痛くないのかな。ざりざり、と角を削って、皮膚には当てないように。人にやるのって加減がわからない。
    大丈夫かな、と綾人さんの表情を伺えば、ばっちり目が合う。
    ずっと私のこと見てたの? そんなにじっと見られてると緊張しちゃう。思わず手を止めてしまった。

    「丁寧に削ってくださいね。貴方が怪我をしてしまっては困りますので」
    「私が? 怪我?」
    「ええ。貴方に触れる指ですから」

    そう言って、自由な指で爪を支える蛍の手を撫でさする。
    私に、触れる指。ふうん、と適当に返事をしてなんの気なしに再びやすりを動かしたけれど。
    数秒遅れて気づいたその意味に、またしても手が止まる。ばっと顔を上げれば、やっぱりこちらを見つめて、でも今度は愉快そうに微笑む綾人さん。きっと真っ赤であろう蛍の頬に手を当てて、気づきましたか、なんて笑みを深めた。

    「それとも、今日はだめでしたか?」
    「そ、うは言ってない、けど」

    情事を思い出させるように操られる指は耳元を掠めて離れていった。
    こうして手入れした手で、今晩。思わず指を握る手に力が入って、くすりと笑われる。
    いま、蛍は。
    抱きますよ、と宣言されて、こんなに明るいうちから、仕事部屋で、抱かれる準備をしている。自分からせっせと、環境を整えちゃって。

    止まったままの手を催促するように、持ち上げた指がゆらゆら動かされた。平静を装ってやすりをかける。
    綾人さんは頬杖をついて蛍の顔を覗き込んでは、順番待ちの指でちょっかいを出すように蛍の手の甲を撫でる。この様子じゃたぶん、蛍がおかしなことを考えてひとりでどきどきしてるのなんかとっくにばれてるんだ。

    今度は左手の手入れを始めた蛍の唇を、先が丸くなった指でふにふにともてあそぶ。

    「ちょっと、集中できない」
    「ふふ、すみません」

    そうは言いながらも手遊びをやめない。残りの爪はあと3つ、それくらい待ってくれたらいいのに。
    手元に集中してふしだらな考えなど早く吹き飛ばしてしまいたいけど、下唇を引っかけて滑る指のせいでなんだかむずむずしてしまう。
    必死に手元を見つめる蛍の頭の上で、綾人さんはきっといじわるな顔でにこにこしているに違いない。

    「綾人さん。怒るよ」
    「おや」

    唇を尖らせた蛍を見てようやく手が離れた。自分で言い出しておいてちょっとだけ寂しいなと思ってしまったのは内緒だ。邪魔にならないように気をつけているみたいだし、暇そうな小指が甘えるように絡んでくるのは許してあげよう。
    その小指もまあるくなったら蛍の仕事はおしまい。

    「ありがとうございます。またやっていただけますか」
    「ええ……うん、まあ、気が向いたらね」

    そういうことのための準備だと思うといたたまれなさでいっぱいだけど。
    というか、次から綾人さんが爪を切っているところをどんな気持ちで見たらいいんだろう。
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    かみすき

    DONE綾人蛍
    人前でいちゃいちゃが似合うカプNo.1(調査数n=1)
    《綾人蛍》見られて困ることでも? 「ここ、どこだと思ってるの」
    「八重堂の前、ですが」

     それが何かと盛大にとぼけた綾人さんは、逃げ回る蛍を捕まえて指を絡めようとする。もうほら、みんな見てるから。なんとか振り切って階段を駆け上がると、追いかけっこも楽しいと言わんばかりにからりと笑って着いてくる。
     人前であんまりいちゃいちゃするのはやめようねって約束したじゃない。綾人さんだってわかりましたって頷いてくれたでしょう。
     ため息と共に振り返れば、綾人さんは目が合っただけで嬉しいとばかりに破顔する。その瞳にこれでもかと滲む愛に気づかないわけじゃなくて、つい絆されそうになりながらも歩みを進めた。
     そんな蛍の機嫌を取ろうと思案していたはずの綾人さんは、近くの屋台からの新商品だいなんて掛け声を聞いて磁石に吸い寄せられたようにそこに近づいていく。本当に仕方のない人ね。呆れながらその後を追いかけると、当たり前のように腰に手が回された。隙あらばすぐ触るんだから。おいたをする手を軽く叩いたところで綾人さんにはちっとも響かないらしく、むしろ体を撫でさすってはぴくりと震える蛍の反応を楽しんでいるようだった。
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