《白蛍》めいっぱいのちゅ! 重たい足を引きずってようやく璃月にたどり着いたのは、日も落ちて冷たい潮風が町を包み、人々が寝支度を始める頃だった。見上げた目的地は既に灯りもなく闇に沈んでいるのを見つけ、蛍は肩を落とした。
間に合わなかった。これでも急いで来たつもりだったけれど、と青ざめたところで時間が戻るわけでもなく。一縷の望みをかけて近くまで来てみたものの、やはり不卜廬に人の気配はなさそうだった。疲れた体に落胆も加われば長い階段を上がる元気もなく、なんとか手配ができたケーキを抱えて、つんと鼻の奥が痛くなるのを誤魔化すように踵を返した、のだけれど。
「蛍さん」
大好きな声に呼ばれた気がして振り返る。しかし小さく声を上げた蛍の周りには相変わらず誰もいなくて、悔しさのあまりに水のせせらぎがそう聞こえてしまったのかもしれなかった。
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