≪綾人蛍≫ハンドクリームの話じゃない話「ハンドクリーム出しすぎちゃった、ちょっと貰ってくれる?」
「またかー? しょうがないなあ」
そんな会話が聞こえて目を向ければ、旅人さんがパイモンさんの手にすりすりとクリームを塗り込んでいるところだった。またか、なんて言いながらも、ふたりで手を握りながらきゃっきゃと笑い合う様子は微笑ましい。
剣を握りながらもすべらかさを忘れない手はああして保たれているようだ。
ふわりと届いた上品な花のような香りは最近の妹と同じもので、なるほど旅人さんからのプレゼントだったと。仲が良いのは良いこと。綾華もこんなことがあってと教えてくれればいいのに、とは思うが。
考え事をしていれば無意識のうちにふたりをじっと見てしまったようで、それに気づいた旅人さんがこちらを見やる。
1918