≪綾人蛍≫獲物を仕留めるための書類の山を片付ける綾人さんの横で、手に入れたばかりの本を開く。ふと一言二言ぽつりと会話をして、また目の前の文字に向き合う。
綾人さんと一緒に過ごそうと思ったら、これが一番手っ取り早い。綾人さんが忙しくて時間が合わないなら、仕事の時間をそれに当ててしまえばいい。
もちろん、恋人らしくないとか冷めてるとか言われることもあるけれど。小鳥の鳴き声と、時おり誰かが廊下を歩く音。そして綾人さんが墨を磨る音を聞きながらぱらりと本を捲る。蛍はそんな時間が好きだった。
暇があればあちこちに足を伸ばしたくなってじっとしていることの方が少ないけれど、ここで穏やかな空気を味わうのもなかなかいい。
「そうだ。今晩、お時間はありますか」
2007