妄想と深海魚の狭間 「妄想と深海魚の狭間」
その水族館には、人気のイルカショーやペンギンのコーナーを抜けた奥に、赤いビロードのカーテンで覆われた部屋がある。
薄暗いそこは、深海魚のコーナーだ。
光の届かない世界に生きる生き物たちの為に、照明は最低限にしてあり、お化け屋敷もびっくりなくらいに暗い。深海魚がいる水槽だけが、怪しい紫色のブラックライトの光でぼんやり光っていた。
そんなグロテスクなうごめく海の底の生き物たちの水槽の前で、杏寿郎は俯いていた。
紫色の光に照らされた横顔は、明らかにいつもと違う。目つきはいつもの勢いがなくて、熱でもあるのか、トロンとしていた。暗くてよくわからないが、多分顔色も赤みが差しているに違いない。
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