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    下着と猗窩煉
    ■現代パロディ
    ■芸能人を想定しています。自分のデザインの下着が発売されるひとたちの二人です。

    #猗窩煉

    ベッドの上に朝陽が射している。
     顔の上に落ちる一本の光りの線が眩しくて、カーテンをしっかりと合わせなかった昨夜の自分に向けて頭の中で文句を告げる。目蓋を押し上げるとすっかり明るい室内に、昨夜から点けたままにしている常夜灯がほんのり橙色に色付いているのが目に入った。カーテンの隙間から差し込む一筋の光りが、きらきらと空気中に浮かんだ埃に反射してきらめいている。

     目覚めの良さには自信があった。少なくとも、隣で眠る恋人よりはずっと。恋人は昼夜逆転の生活が長かったせいか、元来の性分か、その寝起きの悪さは心配を越えて笑えてしまう程だった。
     そんな寝穢い恋人の腕の中で、彼よりも少しだけ早く目が覚めた。枕元に転がしたままのスマートフォンを手に取ると、真っ赤なハードカバーを付けた彼のものだった。気にせず画面をタップして時計を確認すると、ロック画面に設定されている自分の写真と目が合う。先週発売したばかりの雑誌の表紙だった。しっかりと着込んで、見た目を整えた自分がそこに居て、一糸も纏わずに寝癖もそのまま、喉の渇きと陽の眩しさで目を覚ます怠惰な自分が見つめ合う。

    「…素山、素山。」
    「……まだ。」
    「昼になる、準備をするので退けてくれ。」
    「……。」
     恋人の名前を呼ぶと、発した声は少しだけ掠れていた。喉の渇きからくる以上に、口を開けている時間が長かったことの代償だろう。腕と足を絡めて、未だ半分以上夢の中に意識を置いてきている恋人へ、なるべく角のないように言葉を選ぶ。昨晩、仕事に響かないように早めに休もうと言い合ったというのに、未だ寝るのが惜しいと強請ったのは彼ではなく自分だったからだ。こうなるのが分かっていたのに、程ほどの、仲睦まじいスキンシップに留める事が出来なかった。少しだけ負い目があるので、惰眠を貪る恋人を無碍にたたき起こすことはしない。
     今日はオフのはずの恋人を無理に起こすのは諦めた。そうなると、休んでいるのを邪魔しないようにナマケモノのような緩慢な動きを心がけ、肩と脹脛に乗せられた彼の体の下から抜け出す。せっかちな自分が息を潜めてナマケモノの真似事をするなんて、学生の頃に母の目を盗んで深夜にアイスを盗み食いした頃の緊張感を思い出す。

    *

     シャワーの音が聞こえる。
     寝入り端、絶対に離すまいと思って抱き締めた恋人の姿がない。二つ並んだ枕に、サイドボードに置かれたままの腕時計、床に脱ぎ捨てたままの寝間着から、抱いて寝たのがただの妄想ではない事を確認する。風呂場から聞こえるのは、恋人がシャワーを使っている水音か。徐々に思考が澄んでいき、同時に昨晩あれほど激しく互いを貪ったというのに、自分よりも早く目覚め、活動している恋人の体力に改めて関心する。
     扉が一枚閉まる音がして、裸足特有のぺたぺたと床に張り付くような足音が近付いてくる。恋人は、風呂上りに室内履きのスリッパを履くのを忘れがちだった。そういえば、顔に当たる日光も鬱陶しい、こういう端々に彼の間抜けさが滲み出ている。どれも、この部屋の中でしか見られない完璧ではない姿だ。

    「もう行くのか。」
    「起こしてしまったか?休んでいてよかったのに。」
     柔らかな生地のバスローブに身を包んだ恋人へ手を伸ばす。応えるようにベッドに腰を下ろした彼の首へ腕を回して抱き寄せる。ひとまとめに結われた髪から、長さの足りない毛束が落ちてしっとりと濡れていた。うなじへ張り付く毛先を撫でると、くすぐったい、と肩を竦める姿が愛おしく手放して見送るのが惜しくなってしまう。
    「君と遊んでいると遅れてしまうな。」
    「欲張りだからだろう。昨日だって、」
    「言ってくれるな!」
     バスローブを留めていたベルトが投げられて、軽口を防がれる。強欲なのはお互い様だが、情欲に関しては煉獄には敵わないと何度か身をもって感じさせられていた。恵まれた躯体に、鍛えられた肉体。底なしの体力は若さからだけくるものではないだろう。それから、そういった方面に好奇心旺盛なのは、若さ以上に本人の性格があるのだろう。

    「…おい。」
     昨晩脱ぎ捨てた服と同様に、着ていたバスローブを脱ぎ落とすのは、もはや指摘することもない程の日常だった。思わず口を付いて出た声は、そんなだらしのなさではなく、彼が身に付けている下着がそうさせたのだった。
     この部屋に来た時に脱ぎ捨てた彼の下着は、今ベッドの上、自分の足元で小さく丸まって皺を作っている。自分の下着はまだ見つからないが、そう遠くまでは行っていないだろう、おおよそベッドの下かシーツに絡まって縮こまっているはずだ。そのどちらの下着でもない、真っ新の下着がお目見えして、思わず寝起きの為か想像していたよりも低い声で呼び止めてしまう。
    「それ…、俺のじゃないか。」
    「君のじゃない。いや、君のかもしれないが。」
    「いや…たしかに俺の物じゃないが。」
    「じゃあ問題ないな!」
    「いや、しかし…それは。…それを穿いていくのか?」
    「駄目か?」
     今、煉獄が唯一身に纏っているものは、自分のイメージデザインが誂えられたボクサーパンツだった。ご丁寧にウエスト部分には名前がブランド名か何かのように記されている。俺の下着ではないが、俺というキャラクターモチーフが全面に描かれている、俺の下着だ。
    「……いいや、好きにしろ。」
    「好きにさせて貰おう!」
     毛先に水分を残したままの恋人が、それはそれは良い返事をして、寝癖の残る俺の頭に口付ける。名残惜しさを感じているのが自分だけかのように、てきぱきと身形を整えていく姿を眺める。スウェット生地のパーカーから頭を出して、長い髪を振る。タイトなデザインのジーンズへ窮屈そうに足を通すと、自分の刺青を模したデザインが散りばめられたパンツが隠される。隠されたところで、ジーンズの下にそれを穿いている事実は変わらない。
     腕時計のベルトを締めて、長い髪をキャップの中にしまうと、少ない手荷物をポケットに収めた恋人が、未だにベッドに沈んだままの自分を見下ろしている。
    「俺のパンツを穿いてる癖に洒落こまして。」
    「君のもんだって名前が書いてるんだ、適当な振る舞いは出来ないだろう。」
    「……、帰ったら覚えていろよ。」
     高らかな笑い声が室内に響いて、軽い足取りの恋人が逃げるように部屋を後にする。
     眠たい頭の中で、事務所から渡された下着の箱が二つあったことを思い出す。もう一つは確か、恋人のネームが入ったデザインだ。

     空になった箱をベッドの上に散らかして、撮影を知らせる間抜けな音が部屋に響く。
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