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    えねこん

    @minatong

    汚泥のスケベテキストメーカー。地獄とスケベを出力する。オタクと言えるほどオタクでもないし腐女子というほど腐女子に詳しくない。ただの変態。

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    えねこん

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    星→月と鈴月が入り交じる話。その1。
    まさかの星谷凛君敗退で書き直した。
    吸血シーンはエッチ。ハッキリ分かんだね。

    #バンオウ
    #星谷×月山
    #盤王
    plateKing
    #年下攻め
    yearUnderAttack

    スティグマの薫1 プロの対局における消耗は、長距離のマラソンに匹敵するという。脳は相手の手番中も、絶えず思考し、己の手番ともなるとそれはまるで積み上げられた本の山から、何冊も同時に読む様な負荷がかかる。
    「は……ぁ…」
     月山元つきやまはじめにとって、対局後の消耗は、文字通り命を削る脳の疲労と体の重さがついて回る物だった。いっそ蝙蝠にでも成れたら、この東京の夜空を飛んで帰れるだろうか、等と詮無いことを思いながら、この日も将棋会館を出た。
    「あ……」
     数歩進んでは、立ち眩みに足が止まる。
     不老長命の吸血鬼が、脳の疲労だけでこんなにもボロボロになるなんて、一体誰が信じるだろう?
     ――血が欲しい。
     忌避していた筈の本能に胸の奥がぞわりとして、月山はふらふらと植え込みに腰掛け、眉間を抑えた。
     視界が赤く靄がかかったように見える。
     木々の匂い、道路を走る車の排気ガス、人間の――。
    「月山さん?」
     喉から手が出るほど欲しい、人間の匂いがした。
    「……したに…先生?」
     黒いスーツに、清潔感の有る黒い短髪。きりりとした印象の目元に、十八歳という年齢。プロ棋士、星谷凛ほしたにりん四段が月山の傍で怪訝な顔をして、その様子を窺っていた。
    「おめでとうございます。今日も勝ったんですね月山さん」
     月山は無意識に星谷から身体を逃がした。
    「大丈夫ですか。顔色が良くない」
    「いや……その」
     人間の匂いがする。
     その皮膚の下に、若い男の血が流れている。
     熱く、赤く、瑞々しい。
     豚やバイソンよりも甘く、喉に染みる。
     老人よりもさらりとして、子供よりも濃厚な。
     食べ頃の人間。
    「ッ――!」
     自らの脳裏に浮かぶ化け物の本能を嫌悪して月山は口を抑え星谷青年から顔を背け、肩を震わせた。
    「こ……来ないで下さい、先生…」
    「え……」
     月山の台詞に困惑した声が響くも、十八歳の青年は引かなかった。
    「歩けますか。病院に行きましょう」
     月山の肩を掴み、最もおそれる事を口にした星谷に吸血鬼は動揺し振り返った。
    「それだけは」
    「……は?」
    「あ……」
     妙な沈黙。
     空が紫から藍色に変わり、外灯が点灯する。
     LEDの白い光が頭上から注ぎ、白銀の髪とサングラスに隠れた、赤い瞳を照らし出した。星谷青年は、眉根を寄せたまま月山の様子をじっと観察して、大きな溜息をついた。
    「そんなに、俺が苦手ですか、月山さん」
    「え? そんなことは」
    「なら……少し休んでいきませんか。この後倒れられでもしたら、俺も寝覚めが悪いです」
     遥かに年下の人間の鋭い瞳が、月山の手足に釘を刺すようだった。
     人間は吸血鬼に比べれば弱く、脆い。しかし、その精神は自分達を凌駕する、と、月山は常々思い知らされる。そして、彼は星谷青年の圧力に押し負けて、共に歩き出した。

    「フリータイム二人。禁煙室で…良かったですか、月山さん」
     星谷が月山を連れてきたのは、カラオケだった。受付をする青年の後ろでボンヤリしていた月山の意識を、星谷が引き戻す。
    「あ…ああ。煙草も酒も要らねえよ」
    「俺もまだ十八だから、飲めません。ドリンクバー付けてください」
     月山にはあまり縁のない場所だったが、個室に入ってしまえば周りの目も無く、ホテルほど高くなく、さらに病院のように身体を検められる事もない。日中でも殆どの部屋は窓がなく、インターネットも自由に使える。とは言っても、結局月山の行くところと言えば、馴染みの和島将棋教室か、出来るなら頼りたくない吸血鬼仲間、隆ノ介の部屋ぐらいなのだが。
    「月山さん」
     受付を済ませた星谷が振り返り声をかけた。
    「本当に大丈夫ですか。駄目だったら、俺が救急車呼ぶんで」
     あっちです、と星谷青年は先に進んで迷路のように個室が並ぶ店内を歩いた。
    「先に飲み物取って良いですか。月山さん、何飲みます」
    「いや、先生、先に金――」
    「後でいいです」
     小脇に部屋番号の印刷されたバインダーを挟んで、星谷は烏龍茶をコップに注いでいた。こうして見ると、スーツ姿の青年は将棋会館の中ですれ違うよりも、幾らか肩の力の抜けた、新社会人の様にも見える。
     中々飲み物を取ろうとしない月山に「とりあえず烏龍茶にしますね」と一言断って、結局、星谷は両手にコップを一つずつ持って、進んでいった。
    「あ、この突き当たりです。開けてもらえますか、俺両手が塞がっているので」
    「すいません、何から何まで」
     月山が星山の示したドアを開くと、室内は靴を脱いで寛げる部屋になっていた。テーブルを挟んで、クッションが並んでおり横になることも出来るだろう。
     星谷は背広を脱いでハンガーに掛けると、月山の方へ歩み寄り首元へ手を伸ばす。
    「具合悪い人が、いつまでもネクタイ締めているのは良くないと思います。はい、背広も下さい、吊るしますから」
    「え、あ…」
     疲労しているのは確かだったが、あまりにも手際よくネクタイと背広を奪われ月山がキョトンとしていると、星谷はやはり険しい表情を浮かべて月山の肩を掴んで、半ば無理やり座らせた。
    「冷た……。兎に角、ここなら少し休めるでしょう。俺、ちょっと腹減ってるし、なにか適当に摘んでます。少し寝ててください、月山さん」
    「あ…ありがとうございます、星谷先生」
    「…先生、ですか」
     星谷は机を挟んで月山と反対側に腰を下ろし、並べたクッションの上に横たわった無名のアマチュア棋士を見た。

    「貴方にそう言われても、悔しくなるのは何でかな」

     青年の口から零れ出た言葉に、月山はガバッと飛び起きた。しかし体を起こした直後、目眩に襲われ、再びクッションの上に崩れ落ちる。長時間の対局で消耗した身体は、本人が思っている以上に疲弊していた。
    「あ……星谷先生」
    「無理しなくて良いですよ、月山さん」
     横になった月山の隣へ、星谷青年が移動して腰を下ろした。
    「勘違いさせたなら、すいません。俺はただ、自分に憤っているだけです」
     青年はカラオケの音量を絞り、流れてくる女性タレントの声を消して壁に背中を預けるように寄り掛かった。
    「どの手もとても堅実で、危う気がない。でも、一手一手貴方が精神を削って選び取った事がわかる……」
     星谷は烏龍茶を口にしながら月山の対局を振り返る。目を細め、その脳裏にはきっと画面越しに見た二人の棋譜が再現されているのだろう。
    「もっと前から貴方の事を知りたかった」
    「……」
     静かな室内に響いた青年の言葉に、月山は横になったまま視線を彷徨わせた。
    「俺は……」
     意識が遠のく。瞼も手足も重く、まるで泥の中に沈められていくかの様だ。
    「……マジで寝ました? …はは、本当に隙だらけだな、この人」
     星谷は部屋のテーブルを少し向こう側へと押し遣り、出来た隙間に身体を割り込ませ、月山と身体を沿う様にして横になる。
    「冷た……」
     身を捻り、腕を年上のアマチュア棋士に回して抱き寄せた。腕の中の痩躯は穏やかな呼吸を繰り返し、眠っている。
     奨励会ではなく、竜王戦という場で初めて会った謎の男は、白い肌に青銀の髪を流し、血色珊瑚の様に赤い瞳をサングラス越しに盤面に向けていた。
     六組に居る他のプロ棋士とは違う。アマチュアとして、これ以上無い程の実績を既に得ているにも関わらず、彼は常に浮つかず、焦らず、しかし余裕も見せる訳でもない。全力だ。常に背後を崖にして立っているかの様な危うい気迫がある。
     そんな彼の身体が冷え切っている。
     星谷は体を寄せ、己の体温を分け与えた。

     月山は温かいものを抱き締めて、縋りながら目を開いた。
     まず視界に飛び込んできたのは黒い髪。整髪料と汗の匂い。そして、健康的な肌に少年の面影がわずかに残る顔立ち。
    「……」
     温かいものは、これだとぼんやり理解した。
     月山は上体を起こし、そのまま青年の肩を抱き寄せてワイシャツから覗く首筋をじっと見下ろした。空調の効いた室内で月山を温めながら眠りに落ちた青年。あどけない寝顔、穏やかな寝息。緩やかに胸は上下し、頭の重さにさらけ出した首に、耳後ろから鎖骨へ繋がる張りの有る筋が浮かび上がる。
     月山が顔を首の付根へと寄せると、青年のにおいが果実のように鼻腔を擽った。
     口の中が渇いている。腹の底が潰れてしまいそうなほど餓えている、脳が乾ききった海綿のようにスカスカで、頭の天辺に痛みを感じる。そして吸血鬼は、恭しく青年の血管の上に口付け、丹念に湿らせた後、一対の牙を食い込ませた。
    「……ん…」
     ぷち…と皮膚が破れ、もう少しだけ深く牙を埋める。ニンゲンはまだ意識を失っている。同時に吸血鬼の特異な能力で、彼に捕食される痛みは無い。もう一度口を開き、ニンゲンの首筋を深く咥えると、あの果実のような香りが一層強く月山の本能を刺激した。
    「は……ぁ」
     いつの間にか吸血鬼はニンゲンの身体に覆い被さり、牙を埋めて血を啜っていた。傷口から牙を抜くと、ニンゲンの鼓動に合わせて血が溢れ出す。注射針よりも太い傷口の深さは然程ではないが。鼻で呼吸しながら、ぢゅうぅっ、と吸い上げると熱い物が口の中に染み渡る。舌の上を広がり、それを上顎の粘膜に擦り付ける。五味のどれとも違うニンゲンの血にしか感じない快楽と喜びが脳を痺れさせる。
     嗚呼、一体何時ぶりだ。
     砂漠でオアシスを見つけた歓びに似ている。
    「あ、ふ……んくっ」
     喉を鳴らし、飲み込むとまるで矢で射抜かれたかのような、大きな音が体の中に響いた。
    「……ッ…あっ」
     ニンゲンが、目を開いた。
    「‼」
    「う……ん………」
    「あ――ほ……星谷…せん…せ…」
     月山の中で、血の気が一瞬で寒気がするほど引いていった。瞼を開いた星谷の黒い瞳が朧気に映す、狼狽える月山の姿。
    「は……」
     すると星谷は、いつもの険しい表情を緩めて笑った。
    「りん…と……呼んでください…月山…さん」
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    えねこん

    PROGRESS「前 鈴木が楽しそうで何よりです」
    月山の一人称視点での話を書いたからには鈴木も書かねばという心。原作二話より捏造。まだスケベはない。
    前 鈴木が楽しそうで何よりです それじゃあ今回のネタはこれで頼む。ああ、今日も高そうなネクタイだって? エルメスだ、そこまで高級でもない。お前はスーツはどこで仕立てている? なんだ、今度俺が贔屓にしている店を教えてやる。身体に吸い付くような背広を仕立てる腕利きのテーラーだ。
     ……うん? 何か良いことが有ったのかだって? そんなに顔に出ていたか。――いや、ありふれた話だ。随分ひさしぶりに、面白い奴と再会したんだよ。笑っていた? 俺が? そうか……そうかもしれないな。なにせ数少ない俺の、そう…同胞なんだ。いい気分になってきたな。奢るから付き合え。こういうのも仕事の内だろう?
     お前は昼と夜どちらが好きだ? 俺は断然夜でな。昼と違ってあの焼け付くような太陽がない。臭くて五月蝿い車の数も減る。夜に高台に登ったことはあるか? 無い? ならば今度行ってみるといい。天気のいい晴れた夜にだ。冬はやや厳しいかもしれんが今ぐらいの季節なら丁度いい。ああ、話がそれたな。そう、俺は夜のほうが仕事をするにしても何にしても都合が良いんだが、偶に受けた仕事の都合で昼間に出掛けることもある。お前に売るネタを掴むよりよっぽど退屈で欠伸が出るような仕事だ。そこで奴を見かけてな、陳腐な言葉だが運命の再会というやつだ。傍で暫く見ていたが、随分と眼の前の試合に集中しているようだった。なんせ奴は俺に気付かなくてな。まったく。完全に無名の初参加者だったようなんだが、なかなか面白かった。俺は盤面のことは解らないが、奴の対戦相手の表情はわかりやすかった。ポーカーじゃああはならないな。なんの競技かって? ああ、将棋だよ。なんでも大きな大会の都の予選だったそうでな。ああ、知ってるのか、なら話は早いな。奴は優勝候補に勝ってしまった。はっ、お前のその面は良い。なんだグラスが空いているじゃないか。何を飲む? マスター、同じものを二つ。
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