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    タオ_

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    タオ_

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    ノボクダです。
    クダリくんが不意にノボリさんに好きって言っちゃったお話。

    ひとしずく 「ノボリ、すき」

     その日最後のマルチトレインでのバトルを終えた直後、クダリは言ったのだ。ノボリに向かってハッキリと、好き、と。挑戦者もかなり手強い二人組で、正直今までで一番白熱したバトルだったとノボリは思う。ジャッジが「勝者、サブウェイマスター ノボリ・クダリ!」と宣言した瞬間二人は同時に顔を見合わせた。

     ところでわたくしノボリは、それはもうクダリのことが可愛くて可愛くて仕方ないんですね。周りからは似ているだとか、見分けがつかないと言われることばかりですが、わたくしからすればどこが似ているのか! と叫んで差し支えないほどなのです。クダリはとても心の優しい子でございまして、その話も挙げだせばキリがないのですが、例えばつい昨日も大量の書類と戦っているわたくしにコーヒーを淹れてくださったのです。今そんなことで? と思った方がいらっしゃったかも知れません。ですがわたくしの状態を見て淹れてくれるコーヒーは甘さや濃さがその時その時で違いまして、これを心遣いと呼ばずして何と呼ぶのでしょうか。幼い頃から花が綻ぶように笑って、鈴が転がるような声でわたくしを呼ぶのです。そしてクダリといえば、わたくしのやることを何でも、すごいと手を叩いて褒めてくださり、カッコイイと褒めてくださり、さすがノボリ! と褒めてくださるのです。そうです、クダリはわたくしのやること成すこと全て褒めて認めてくださるもので、そんな笑顔の可愛いクダリを大好きにならない選択肢などございませんでした。そう、これは運命、デスティニー。
     幼い頃からクダリはわたくしにべったりで、どこへ行くにも「ノボリまって……」と一生懸命に追いかけてくるので、時々意地悪をしてクダリと同じ速さで走っていると、そのうちにクダリが泣き出してしまうのです。母には「クダリをあんまりいじめてはダメよ」とやんわり注意されました。わたくしとしてはいじめているつもりは全くなく、どちらかというと愛でているで間違いなかったのですが、子ども心にもそれを言ったら少し面倒くさいことになると分かっていましたから、ひとまず反省した振りで乗り切ったものです。
     とまぁ語り出したら本当に長く長くなってしまうので、……本当に長いのです、ですからひとまずここまでにしておこうかと思いますが。ここで冒頭に戻る訳です。ノボリ、すき。わたくしもでございます!

     ノボリのよく回る頭が一瞬でそんな事を考えていた時、周りはといえば突然のクダリの言葉で全員が固まっていた。ノボリはもちろん、ジャッジの鉄道員も、挑戦者の二人も、そしてクダリでさえも。
     手に汗握る素晴らしいバトルに、強くて賢いポケモンたち、そしてお互いを補い合ってピッタリと息のあったパートナー。バトルなら、言わなくても伝わり、聞かなくても聞こえてくる。ノボリとクダリが力を合わせて、その辺りのトレーナーには負けるはずもない。しかしもちろん二人はバトル施設のトップとはいえ、挑戦者の実力に応じて戦法も千差万別、ただ勝てばそれでヨシと思っている訳ではない。時にはジムリーダーたちのように、胸を貸すようなバトルだってできるのだ。
     だからクダリは久し振りに実力いっぱいを出し切って、そして言葉までそのままポロッとこぼれてしまったのもわざとではない。だって素晴らしかった。相手のポケモンの落下地点にピッタリ合わせて指示を出すノボリの力強い声。最高のタイミングを図るノボリの横顔。時折こちらへ遣る視線。勝った時、こちらを向いた表情。最高のバトルの余韻で顔を真っ赤にして、息も少し上がっていて、真っ直ぐにクダリだけを見つめるその表情。まるであなたしか見えていないとでも言うような、熱心な表情。好きだなんて言ってしまって、顔には少しだって出さなかったがその実クダリが一番驚いていたし、周りのぽかんとした顔を見てマズイと思った。
     だからクダリは外向けの笑顔を浮かべたまま、ノボリが何か言う前にこう続けたのである。今気付きました、みたいな声で。

     「あっ! あのね、ぼく言葉足らずだった。今日のノボリのバトル、すっごくよかった! すっごく好きだなって」

     クダリのその言葉に、周りの人間は何だそういうことかと肩から力を抜いて笑った。

     「ノボリ、凄かったでしょ? ぼく隣ですっごく感じてた、きみたちが強かったから」

     そのままの流れでクダリが話しかければ、挑戦者たちは何度も頷きここが凄かったあそこは決まったと思ったのにと悔しそうに言い合っている。これにノボリはいつもの表情のまま唖然として、サッと流れていってしまったクダリの好きを、結局掴めなかったのである。間髪入れずに「わたくしもです!」などと言っておけばまだ良かったのかも知れないが、この場では今更後の祭りなのだ。

     電車がホームへと戻り、挑戦者を見送れば先程の話の続きをしようとノボリはクダリを振り返った。クダリは「ちょっと確認したいことあるから、一緒に来てくれる?」なんてジャッジの鉄道員へ話し掛けているところで、ノボリの方をちらりとも見やしない。

     「あのクダリ、先程の……」
     「そんなに時間は取らせないから……、ちょっと待ってね。ノボリなに? 先程? ……ああ、ほんとに凄かったよ。今日も皆、すっごくカッコよかった!」
     「ごめんノボリ。バトルについても振り返りたいんだけど、ちょっと確認することあるから、ぼくもう行くね」

     じゃあ行こう、なんて言って鉄道員を連れクダリはノボリから離れていってしまう。数歩先のクダリの背中へ、ノボリが声を上げた。

     「わたくしも好きです」

     それにクダリは一瞬足を止めたが、顔だけで振り返って、「ぼくのバトルね!」なんて言って去ってしまった。置いて行かれたノボリはと言うと、なぜクダリにバトルのことを好きだと勘違いされたのかなどと本気で不思議そうな顔をしていた。だってあの時の顔は本当だった。クダリから、確かな愛情を感じたのだ。周りの人間は、いつも通りのクダリだったと言うだろう。けれどノボリには分かる。あんな愛しいものを見るような目で、慈しむような声で、クダリはノボリの名前を呼んだのだ。それも好き、の二文字を添えて。
     絶対に絶対に、あれはノボリがグダリへ抱くものと同じ種類の愛情であった。

     しかし、次の日からクダリはノボリを避けるようになった。厳密にはその日の夜からだったが、細かいところは微々たる差だろう。とにかくあの後はもうクダリが捕まらず、帰ってから話せばいいかとノボリが先に帰宅するも結局家に戻ってきたのは夜遅く。ギリギリ日付が変わらないくらいの時間だ。明日も早いからとすぐにお風呂へ飛び込みさっさと自分の部屋へ戻ってしまって、何なら今朝も起きたらなんと先に出勤していたのだ。こうなるとさすがに、これは避けられているとノボリも気付いた。照れ隠しとも思ったのだが、どちらかと言うと避けられているで間違いないだろう。
     さて翌日、遅刻してきた訳ではないが別々に出勤してきたマスター二人に驚いたのは部下である鉄道員たちの方である。今まで基本的には二人一緒のノボリとクダリが……まさか喧嘩でもしたのだろうかと鉄道員たちはハラハラした様子で聞き耳を立てた。

     「おはようございますクダリ。今日も愛らしいあなたの顔を見られて、嬉しいです」

     「おやクダリ、ネクタイが曲がっておりますよ」

     「クダリ! 先程のバトル、素敵でございました!」

     「クダリ、焼き菓子をいただいたので食べましょう」

     クダリ、クダリ、クダリ。ノボリはなぜ避けるのかと詰め寄るどころか、大っぴらにクダリへの好意を言葉にし始めた。クダリも逃げるが双子の不思議パワーなのか、ノボリは必ず見付けてしまう。これを朝から見せられた鉄道員たちは、ああこの人、ようやく本人に言えるようになったんだなぁ……なんて呑気にお茶を啜る。特にシングルトレイン配属の鉄道員たちは事ある毎にクダリが可愛い愛らしいと聞いていたので、ある種の感慨深さまで感じている。というのも、「下の兄弟めちゃくちゃ可愛いっすよね」と、過去話した際にたまたま居合わせた鉄道員の助け舟のせいかおかげか、ノボリは重度のブラコンという立ち位置に収まっていたからである。「黒のマスター、あんな怖そうな顔して白のマスターが大好きすぎる」と、ダブルトレイン配属の鉄道員にもシングルの鉄道員から話は伝わり、今の状況は構い倒したい飼い主と構われたくないネコのようで何なら少し微笑ましさまで感じられているというところ。
     目が会う度にポケモン勝負……ではなく可愛らしい、素敵です、わたくしも好きです、隣にいられて幸せですと、ノボリからのいっそ過剰すぎる愛の言葉を渡されるクダリ。ノボリが真剣な顔で言うものだから、その度にクダリは恥ずかしくなってあたふたしまうのだ。
     数日続くと鉄道員たちもさすがに、あれ、これは家族愛の範疇を超えているのでは? と思う者もいたらしいが、だからといってそんなことを気にする人間はバトルサブウェイにはいなかった。悲しいかなそんなまともな考えが働くならば、このバトルジャンキーの巣窟ではやっていけないのである。つれない対応をしていればそのうち言って来なくなるだろうと、そう思っていたクダリの方が先に音を上げた。だってノボリはとてもカッコよくて、そんなノボリにクダリは毎秒好意を伝えられていたので。
     テーブルを挟んでの夕食後、変わらない様子のノボリに、クダリが口を開いた。

     「ノボリ……その、ぼくのことあんまり好きとか、可愛いとか、……言わないでほしい」
     「おや、なぜです? クダリを好きなのも、クダリが可愛らしいのも事実でございますが」
     「それにあなたもわたくしを好きなんですから、いいじゃありませんか」
     「だから、それはバトルのことだってば……!」

     クダリ、と真面目な顔をしたノボリに見据えられたクダリは、たじろぎごくりと息を飲んだ。

     「嘘はいけません」
     「嘘じゃないよ! 嘘じゃないもんっ……!」
     「違うから!」

     違うから、そうじゃないからとクダリは首を振る。まるで己に言い聞かせるようなクダリの言葉に、ノボリは小さくひとつ息を吐いた。呆れられたか、怒られるのか。クダリは固まった。

     「クダリ、落ち着きなさい」
     「なぜそんなに一生懸命否定するのです。わたくしはね、クダリ。あなたがあの日こぼした言葉を、とてもとても嬉しく思いました」
     「それなのにクダリは、わたくしを好きではないのですか?」

     決して責めるような言い方ではなく、ノボリは優しくクダリへ問いかける。クダリはしばらく黙ったままであったが、問いの答えを待つノボリは急がせるようなことはせず、ただじっと待っていた。時計の音がやけに鮮明に聞こえる。五分は経っただろうか、その間俯きがちに何度も口を開いては閉じるクダリにノボリは立ち上がって、棚の上へ置かれたラジオをつけた。電波に乗る特有の乾いた音が、無音だった部屋に流れ始める。パーソナリティの女性の声と、ゆったり流れる落ち着いた音楽のボリュームを最小限にまで落としてから、ノボリはクダリの元へ戻ってきた。

     「大丈夫ですよ、クダリ」

     向かいの席に座るクダリへ少し腰を浮かせ前のめりに手を伸ばし、ノボリはその頭を撫でてやる。柔らかな髪の毛を梳くようにしながら毛流れを整えた。そうしてクダリにだけ分かる笑顔には、今日は慈しみと愛しさを滲ませている。

     「あなたに嫌われていなければ、わたくしはそれで十分です」

     これにクダリはひゅうと息を呑み眉根の辺りを寄せ、胸の前で握り込んだ利き手を包むように空いた手を重ねた。

     「ちがうなんて言って、ごめん……」

     クダリは泣き出しそうな顔で声を絞り出した。

     「ぼくっ……ノボリのこと、ずっと好きなの。でも、ごめん。ごめんねノボリ。ぼくね、ぼく……ちゅーしたいとか、きみに触れたいとか、そういう好きなの……!」

     クダリはノボリに何と言われるのか怖くて、ギュッと目を瞑った。少しの間沈黙が流れて、うっすらとクダリが目を開けると、真っ直ぐに見つめるノボリと目が合う。

     「……わたくしも、物心ついた時からあなたを心底愛しております。クダリに触れたい、キスしたい。自分のものにして、誰にも触れさせたくない。わたくしの好きも、そういう好き、ですよ」

     まさかクダリは、このカッコイイ片割れが自分のことを心の底から愛しているだなんて夢にも見られないほどで、ノボリの手が頬へ触れた瞬間真っ赤になった。

     「まっ、待って……!」
     「いいえ、待ちません。クダリ、ほかの誰のものにもならないで」
     「他も誰も、好きと言わないで」
     「わたくしだけを、好きでいて」

     真剣に見つめるノボリの顔をよく見ると耳が赤く色づいていたので、ああノボリも緊張しているんだとクダリは気付いて、目の前の片割れが一等愛おしく見えた。そして目を細めて微笑んで、これ以上ないくらい幸せという表情をして、片割れの名を呼んだ。

     「…………ノボリだけが、すきだよ」





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    タオ_

    DONEノボクダです。
    クダリくんが不意にノボリさんに好きって言っちゃったお話。
    ひとしずく 「ノボリ、すき」

     その日最後のマルチトレインでのバトルを終えた直後、クダリは言ったのだ。ノボリに向かってハッキリと、好き、と。挑戦者もかなり手強い二人組で、正直今までで一番白熱したバトルだったとノボリは思う。ジャッジが「勝者、サブウェイマスター ノボリ・クダリ!」と宣言した瞬間二人は同時に顔を見合わせた。

     ところでわたくしノボリは、それはもうクダリのことが可愛くて可愛くて仕方ないんですね。周りからは似ているだとか、見分けがつかないと言われることばかりですが、わたくしからすればどこが似ているのか! と叫んで差し支えないほどなのです。クダリはとても心の優しい子でございまして、その話も挙げだせばキリがないのですが、例えばつい昨日も大量の書類と戦っているわたくしにコーヒーを淹れてくださったのです。今そんなことで? と思った方がいらっしゃったかも知れません。ですがわたくしの状態を見て淹れてくれるコーヒーは甘さや濃さがその時その時で違いまして、これを心遣いと呼ばずして何と呼ぶのでしょうか。幼い頃から花が綻ぶように笑って、鈴が転がるような声でわたくしを呼ぶのです。そしてクダリといえば、わたくしのやることを何でも、すごいと手を叩いて褒めてくださり、カッコイイと褒めてくださり、さすがノボリ! と褒めてくださるのです。そうです、クダリはわたくしのやること成すこと全て褒めて認めてくださるもので、そんな笑顔の可愛いクダリを大好きにならない選択肢などございませんでした。そう、これは運命、デスティニー。
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    タオ_

    DONEクダノボ風味ブロマンス寄り小説

    ※モブが喋ります、ネームドキャラとの会話もあります。捏造が多分に含まれますのでご注意ください。
    ジャックポット・ジャンキー さあ行きますよクダリ! なんてはしゃいでぼくの手を引く兄さんをあの時ちゃんと止めてれば良かった。兄さんの目の前に積まれていくチップの山と、ギャラリーの視線にクダリは頭が痛くなってきて、溜息を吐くとともにこめかみを押さえたのだった。

     いや、最初のうちはよかったのだ。赤か黒か、奇数か偶数か、ハイかローか。これはどうやるんですか? ノボリが慎ましやかに尋ねるものだから、黒服も初心者向けのルーレットの卓を案内してくれて、イチから丁寧にルールを教えてくれた。飲み込みの早いノボリはすぐにルールを理解して、持っていた二〇万円分のチップをあっという間に倍にした。あとから考えれば、まずそれが良くなかったのかも知れない。倍になった辺りでディーラーから声を掛けられて、今やっている一枚一〇〇〇円のチップから、一枚一万円のチップを使う卓に移動した。しかしそこでもノボリは勝ち続けて、あんた強いから向こうでやっておいでと、今は一枚一〇万円のチップを使っている。
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