太陽と月の間で SNSに就寝のメッセージ送信したところでボイスチャットの着信を知らせる音が鳴り始める。誰からだろうと確認すると、そこに表示されていた名前はつい先ほどまで一緒にゲームを楽しんでいた相手―アルバーンのものだった。配信上では言いにくいことでもあったのだろうか。いや、それにしたって事前のお伺いもなしにいきなりかけてくるのは彼にしては珍しい。こちらはいつかけてきても構わないというのに。そんなことを思いながらサニーが通話を繋げると、耳に届いたのは申し訳なさそうな謝罪の言葉からだった。
「あ、あの、ごめんね、いきなりかけて」
緊張している時とよく似た様子に大丈夫だと声をかけると安心したような気配が伝わってくる。どうかしたのかと用件を聞いてもいいが、今はどちらかというとアルバーンから話し出してくれるのを待ちたい気分だ。先を促すのではなく少し待ってみようか。そうして数秒ほど様子を伺っていると、言いにくそうにしながらも再びアルバーンが話始めた。
「…その、ちゃんとサニーに言いたくて」
何を、と聞き返すことはせずに黙ってその先に続く言葉にサニーは耳を澄ませる。すると、聞こえてきたのはどんな感情がこめられているのかが手に取るように分かるような声だった。
「今日は来てくれてありがとう。……すごく楽しかったし、嬉しかった」
「っ…」
なんて可愛らしいことをしてくれるのだろう、ふたりの時に改めて伝えにきてくれるなんて。自分の魅せ方をよく知っている彼だからこそ、分かりやすく喜び感じさせてくれた先ほどまでの時間だけでも愛しさで心が満たされたというのに、それ以上のものを与えてくれるとは。
感極まってサニーが咄嗟に言葉を返せずにいると、数秒の沈黙の後にアルバーンは照れ隠しをする時の口調で通話を切り上げようと早口で喋り始める。
「えっと、それだけ!おやすみサニー、よく寝てね」
この勢いで通話を切らせてはいけない。引き留める為にサニーがしたのは、たった一言名前を呼ぶこと。
「アルバン」
少しばかり戸惑ったようになに?と返事をしたアルバーンに、サニーが伝えたのは胸の中にあるシンプルな言葉だった。
「俺も楽しかったよ、いい一日を」
言い出したらキリがない。この溢れんばかりの想いが全て伝わればいいのにと思わなくもないが、飾りつけた言葉よりも自然と胸の内に在ったものを今は伝えたい。きっとそれが、一番いい。
すると僅かな間を置いて、小さく短い返事だけが返ってきた。
「っ……うん」
記憶の中のはにかんだ顔が声にあわせて控えめに頷く。そしてもう一度だけおやすみの言葉が聞こえたかと思うとすぐに通話は切れてしまったが、サニーはしばらくパソコンの電源も落とせずにいた。
背もたれにだらりと体重を預けてもたれかかり、天を仰いで大きく息を吐く。満ちるどころかこれでは溢れてしまう。
「……俺ちゃんと寝れるかな」
そんな自嘲めいた独り言を零してからのろのろと身体を起こすと、画面に残った彼のアイコンを指先で撫ぜてからパソコンの電源を落とすのだった。